上 下
39 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

性犯罪という概念はぼくにしか無いらしい

しおりを挟む
王城内にある広い庭の片隅、人が来そうな気配のあまり無い茂みの陰で、ぼくとアレックは休憩している。
二人とも地面に腰を落ち着けた姿勢のまま、お互いに顔を向け合った状態で。
ぼくがアレックを見ているのは当然、それが目の保養になるからだ。

アレックがぼくを見ている理由は見惚れているというよりも、目を逸らせなくなっている……の方が正解かも知れないね。
恐らく、ぼくと話している途中までは、ぼくの顔面は見えていたものの、じっくり眺めて理解出来る程の精神的な余裕が無かったんだ。
だから比較的気安いと言うか、ぼくの事を「お前」と呼んだりも出来ていたじゃないか。
それが落ち着いてみると、ぼくが『格好良い』の高ランクでは収まらない顔面偏差値だろうという事に気が付いたに違いない。
ぼくがアレックをじっと見ているのに、アレックが顔を逸らすなんて良くない事だから。



「何を話そうか……?」

独り言を呟きながら思案する素振りで、ぼくはアレックから目線を外し、茂みの緑色へと移した。
そのままずっとアレックの顔を堪能していても良かったんだが、もしアレックが緊張しているんなら、それはどうにかしなくちゃいけない。
ぼくが違う所へ目をやると案の定、隣で膝を抱えたアレックから、ホッとした気配を感じる。

「あ、あぁ……えぇと…」
「ぼくは、アドル・カーネフォード。ぼくの事は、アドル、と呼んで欲しいな。」

口を開いたアレックの躊躇うような様子に、そう言えば名乗っていなかった事を思い出した。
教えたばかりのぼくの名前を、アレックが小さく反芻する。
心なしか、彼の表情が嬉しそうにも見えるのは、ぼくの願望による修正だろうか。


さて、お喋りするにしても、その話題だが……。


お茶会の時にも同じような気持ちになったんだが、ぼくの話題は乏しい。
その乏しいストックとも言うべき話は、さっきガーデンハウスで話してしまったからな。
同じ話題というのも、それはそれで、ぼくが飽きてしまう。
だとすれば、ぼくが話題を提供すると言うよりも、アレックの事を聞こうじゃないか。



「ねぇ、アレック? どうしてこんな所に? 側妃様と一緒に、ガーデンハウスの入り口までは来ていたんだろう?」
「あ。……いや、あの……。」
「念の為に一応言っておくが。別にぼくに、畏まった口調にならなくて良いからね。」

せっかく普通に話せそうな相手だから、それをキープしておきたい。
アリーは、お互いに距離を近くして話そうという事になっても、やっぱりまだ敬語が抜けないからね。
ぼくがアルフォンソさんに対して敬語になっちゃうのと似たようなものか。
……こういうのは、追い追い慣れて行くしかないんだろうな。


「それで、どうして? 側妃様はとても心配していたよ。」

側妃様の事を出すと、アレックが少し申し訳なさそうな表情になった。

ぼくは自分が考えなくて済む話題を逃さない。
しかも、アレックが表情を変える姿が見られるというなら、尚更だ。


「母上には申し訳ないと思ってる。」

どうしても聞き出す気だと察したのか、アレックはぽつぽつと話し出す。


「一人でいる所を見られれば、大抵……ああいう事をされるから。さぞや心配を掛けただろうな。」
「いつもされているのか?」

適当な相槌だけで聞いていようと思っていたのに、つい口出ししてしまった。
俯いたアレックの仕草が、それを肯定している。


「全ての人がそうじゃないけど……『エロエロしい』には何をしてもいいと、考えてる者が多くてな。」

……その考えが王子相手にも適用されるなんて、空恐ろしい考えだね。


「正直、とても不愉快な事が多い。だけど……暴力を振るわれるわけでも無いし、犯罪でも無いから、誰にも助けては貰えないんだ。」
「アレック、待ってくれ。……暴力と言うのは……。確かにアレックを殴ったり、傷を付けようとする行為は無かったが……。」

もう口出しをしてしまった以上、一言も二言も同じだ。


今のアレックの台詞に、ぼくは少々引っ掛かるものを感じた。

もしかすると、ぼくには皆と決定的な意識の違いというか、ぼくの大きな誤解があるかも知れない。
これは確認しておかなくてはならない。


「腕を押さえ付けられていたり……身体を弄られていたじゃないか。あれは暴力……では?」
「痛くなかったし、怪我もしてない。それに、あれは……愛撫をしてるつもりなんだから、別に暴力じゃないだろう。」

アレックは不本意そうに、少しだけ膨れながら言う。

「そんな事を言い出したら、セックスは暴力行為になってしまうだろ。罪人の収容所が幾らあっても足りなくなるぞ?」




なるほど。

この世界には性犯罪、性暴力という概念が無いらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

処理中です...