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本編●主人公、獲物を物色する
性犯罪という概念はぼくにしか無いらしい
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王城内にある広い庭の片隅、人が来そうな気配のあまり無い茂みの陰で、ぼくとアレックは休憩している。
二人とも地面に腰を落ち着けた姿勢のまま、お互いに顔を向け合った状態で。
ぼくがアレックを見ているのは当然、それが目の保養になるからだ。
アレックがぼくを見ている理由は見惚れているというよりも、目を逸らせなくなっている……の方が正解かも知れないね。
恐らく、ぼくと話している途中までは、ぼくの顔面は見えていたものの、じっくり眺めて理解出来る程の精神的な余裕が無かったんだ。
だから比較的気安いと言うか、ぼくの事を「お前」と呼んだりも出来ていたじゃないか。
それが落ち着いてみると、ぼくが『格好良い』の高ランクでは収まらない顔面偏差値だろうという事に気が付いたに違いない。
ぼくがアレックをじっと見ているのに、アレックが顔を逸らすなんて良くない事だから。
「何を話そうか……?」
独り言を呟きながら思案する素振りで、ぼくはアレックから目線を外し、茂みの緑色へと移した。
そのままずっとアレックの顔を堪能していても良かったんだが、もしアレックが緊張しているんなら、それはどうにかしなくちゃいけない。
ぼくが違う所へ目をやると案の定、隣で膝を抱えたアレックから、ホッとした気配を感じる。
「あ、あぁ……えぇと…」
「ぼくは、アドル・カーネフォード。ぼくの事は、アドル、と呼んで欲しいな。」
口を開いたアレックの躊躇うような様子に、そう言えば名乗っていなかった事を思い出した。
教えたばかりのぼくの名前を、アレックが小さく反芻する。
心なしか、彼の表情が嬉しそうにも見えるのは、ぼくの願望による修正だろうか。
さて、お喋りするにしても、その話題だが……。
お茶会の時にも同じような気持ちになったんだが、ぼくの話題は乏しい。
その乏しいストックとも言うべき話は、さっきガーデンハウスで話してしまったからな。
同じ話題というのも、それはそれで、ぼくが飽きてしまう。
だとすれば、ぼくが話題を提供すると言うよりも、アレックの事を聞こうじゃないか。
「ねぇ、アレック? どうしてこんな所に? 側妃様と一緒に、ガーデンハウスの入り口までは来ていたんだろう?」
「あ。……いや、あの……。」
「念の為に一応言っておくが。別にぼくに、畏まった口調にならなくて良いからね。」
せっかく普通に話せそうな相手だから、それをキープしておきたい。
アリーは、お互いに距離を近くして話そうという事になっても、やっぱりまだ敬語が抜けないからね。
ぼくがアルフォンソさんに対して敬語になっちゃうのと似たようなものか。
……こういうのは、追い追い慣れて行くしかないんだろうな。
「それで、どうして? 側妃様はとても心配していたよ。」
側妃様の事を出すと、アレックが少し申し訳なさそうな表情になった。
ぼくは自分が考えなくて済む話題を逃さない。
しかも、アレックが表情を変える姿が見られるというなら、尚更だ。
「母上には申し訳ないと思ってる。」
どうしても聞き出す気だと察したのか、アレックはぽつぽつと話し出す。
「一人でいる所を見られれば、大抵……ああいう事をされるから。さぞや心配を掛けただろうな。」
「いつもされているのか?」
適当な相槌だけで聞いていようと思っていたのに、つい口出ししてしまった。
俯いたアレックの仕草が、それを肯定している。
「全ての人がそうじゃないけど……『エロエロしい』には何をしてもいいと、考えてる者が多くてな。」
……その考えが王子相手にも適用されるなんて、空恐ろしい考えだね。
「正直、とても不愉快な事が多い。だけど……暴力を振るわれるわけでも無いし、犯罪でも無いから、誰にも助けては貰えないんだ。」
「アレック、待ってくれ。……暴力と言うのは……。確かにアレックを殴ったり、傷を付けようとする行為は無かったが……。」
もう口出しをしてしまった以上、一言も二言も同じだ。
今のアレックの台詞に、ぼくは少々引っ掛かるものを感じた。
もしかすると、ぼくには皆と決定的な意識の違いというか、ぼくの大きな誤解があるかも知れない。
これは確認しておかなくてはならない。
「腕を押さえ付けられていたり……身体を弄られていたじゃないか。あれは暴力……では?」
「痛くなかったし、怪我もしてない。それに、あれは……愛撫をしてるつもりなんだから、別に暴力じゃないだろう。」
アレックは不本意そうに、少しだけ膨れながら言う。
「そんな事を言い出したら、セックスは暴力行為になってしまうだろ。罪人の収容所が幾らあっても足りなくなるぞ?」
なるほど。
この世界には性犯罪、性暴力という概念が無いらしい。
二人とも地面に腰を落ち着けた姿勢のまま、お互いに顔を向け合った状態で。
ぼくがアレックを見ているのは当然、それが目の保養になるからだ。
アレックがぼくを見ている理由は見惚れているというよりも、目を逸らせなくなっている……の方が正解かも知れないね。
恐らく、ぼくと話している途中までは、ぼくの顔面は見えていたものの、じっくり眺めて理解出来る程の精神的な余裕が無かったんだ。
だから比較的気安いと言うか、ぼくの事を「お前」と呼んだりも出来ていたじゃないか。
それが落ち着いてみると、ぼくが『格好良い』の高ランクでは収まらない顔面偏差値だろうという事に気が付いたに違いない。
ぼくがアレックをじっと見ているのに、アレックが顔を逸らすなんて良くない事だから。
「何を話そうか……?」
独り言を呟きながら思案する素振りで、ぼくはアレックから目線を外し、茂みの緑色へと移した。
そのままずっとアレックの顔を堪能していても良かったんだが、もしアレックが緊張しているんなら、それはどうにかしなくちゃいけない。
ぼくが違う所へ目をやると案の定、隣で膝を抱えたアレックから、ホッとした気配を感じる。
「あ、あぁ……えぇと…」
「ぼくは、アドル・カーネフォード。ぼくの事は、アドル、と呼んで欲しいな。」
口を開いたアレックの躊躇うような様子に、そう言えば名乗っていなかった事を思い出した。
教えたばかりのぼくの名前を、アレックが小さく反芻する。
心なしか、彼の表情が嬉しそうにも見えるのは、ぼくの願望による修正だろうか。
さて、お喋りするにしても、その話題だが……。
お茶会の時にも同じような気持ちになったんだが、ぼくの話題は乏しい。
その乏しいストックとも言うべき話は、さっきガーデンハウスで話してしまったからな。
同じ話題というのも、それはそれで、ぼくが飽きてしまう。
だとすれば、ぼくが話題を提供すると言うよりも、アレックの事を聞こうじゃないか。
「ねぇ、アレック? どうしてこんな所に? 側妃様と一緒に、ガーデンハウスの入り口までは来ていたんだろう?」
「あ。……いや、あの……。」
「念の為に一応言っておくが。別にぼくに、畏まった口調にならなくて良いからね。」
せっかく普通に話せそうな相手だから、それをキープしておきたい。
アリーは、お互いに距離を近くして話そうという事になっても、やっぱりまだ敬語が抜けないからね。
ぼくがアルフォンソさんに対して敬語になっちゃうのと似たようなものか。
……こういうのは、追い追い慣れて行くしかないんだろうな。
「それで、どうして? 側妃様はとても心配していたよ。」
側妃様の事を出すと、アレックが少し申し訳なさそうな表情になった。
ぼくは自分が考えなくて済む話題を逃さない。
しかも、アレックが表情を変える姿が見られるというなら、尚更だ。
「母上には申し訳ないと思ってる。」
どうしても聞き出す気だと察したのか、アレックはぽつぽつと話し出す。
「一人でいる所を見られれば、大抵……ああいう事をされるから。さぞや心配を掛けただろうな。」
「いつもされているのか?」
適当な相槌だけで聞いていようと思っていたのに、つい口出ししてしまった。
俯いたアレックの仕草が、それを肯定している。
「全ての人がそうじゃないけど……『エロエロしい』には何をしてもいいと、考えてる者が多くてな。」
……その考えが王子相手にも適用されるなんて、空恐ろしい考えだね。
「正直、とても不愉快な事が多い。だけど……暴力を振るわれるわけでも無いし、犯罪でも無いから、誰にも助けては貰えないんだ。」
「アレック、待ってくれ。……暴力と言うのは……。確かにアレックを殴ったり、傷を付けようとする行為は無かったが……。」
もう口出しをしてしまった以上、一言も二言も同じだ。
今のアレックの台詞に、ぼくは少々引っ掛かるものを感じた。
もしかすると、ぼくには皆と決定的な意識の違いというか、ぼくの大きな誤解があるかも知れない。
これは確認しておかなくてはならない。
「腕を押さえ付けられていたり……身体を弄られていたじゃないか。あれは暴力……では?」
「痛くなかったし、怪我もしてない。それに、あれは……愛撫をしてるつもりなんだから、別に暴力じゃないだろう。」
アレックは不本意そうに、少しだけ膨れながら言う。
「そんな事を言い出したら、セックスは暴力行為になってしまうだろ。罪人の収容所が幾らあっても足りなくなるぞ?」
なるほど。
この世界には性犯罪、性暴力という概念が無いらしい。
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