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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくの強者プレイ
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意に沿わない性的な接触をされても、それが『エロエロしい』の性質だから、高ランクだから仕方ないと、アリーは言い切った。
「こうなる事が分かっていて一人で出歩いたんじゃないですか。なら、本当は嫌だった、なんて言っても通じませんよ。」
「ぼくの兄も……。エイベル兄さんも、高ランクだが……。」
「そんな。『麗しい』の人は、そんな事は無いでしょう? アレクセイ王子とは……『エロエロしい』とは違います。」
会話をしているのに話が通じない、とはこの事だな。
普段は自分が、顔面偏差値が極めて低い事で蔑みの視線を向けられているだろうアリーも、今この瞬間は。
『エロエロしい』タイプに対する偏見から、その高ランクであるアレック王子を蔑んで見ている。
いや、蔑んでいるという感覚は、アリー当人には無いだろう。
無意識……これが普通だと思っているんだ。
普段のアレック王子がアリーに対してどのような態度を取っているかは分からないが、彼は今、取り立てて普段の仕返しをしているわけでも無さそうだ。
アリーの表情を見るに、アレック王子の嬲られる姿に溜飲を下げているような様子も無い。
アレック王子を襲った二人が、自分を見て嫌そうに顔を歪めたのに対しては、居たたまれないように俯いたりもしている。
その二人も、ぼく達に見られたのに、兵士の類を呼ばれる事を恐れる気配も無かった。
ただ単に邪魔だと思っていそうな様子。……なるほど。
まさかオルビー先生の言っていた『エロエロしい』に対する偏見が、王城に出入りする人間達の周りで蔓延していたなんて、ね。
恐らくこの男二人は、ぼくも、同じ偏見を抱いていると信じているんだろう。
彼らの行為をぼくが非難する理由がないから、邪魔ものであるぼくに攻撃をして来ない、というわけだ。
王城の中ではそれが常識だと言うなら……仕方ないかな。
アリーも同じように感じるようになったとしても。
アリーは学校に通わないまま、十九歳にもなってしまっている。
容姿も……敢えてこう言うが……醜い為、王城から出た事が無いとまでは言い切れないが、確実に交友関係はぼく並に狭いだろうから。
だから、こんな風な『エロエロしい』への偏見に基づく対応が、ぼくの前でも出来るんだ。
それが決して褒められた行為じゃないとは、アリーは思っていないから。
「アリー。顔面タイプとその傾向について、勉強するのは結構な事だが……。それが全てに当て嵌まると思い込むのは、少々危険だと思うよ。」
「え……はい?」
急に学校の教師のような事を言い出したぼくに、アリーは小首を傾げる。
「自分が持っている知識や常識と、実際に目にした事に違いが無いか。それぐらいは、しっかりと自分の目と頭とで考えるのがいい。……ぼくの目には、彼は、キミの言う『エロエロしい』とは違うように見える。」
実はぼくも分かっていない。
自分が何故、こんな事を言い出すのか。
「もう案内はいいよ、アリー。アレクセイ王子を見付けたから。」
「でも……っ。」
「彼はぼくが連れて行くから。アリーはもう、戻って。」
アリーをこの場から離して、ぼくはアレック王子を押さえ付けている二人に向き直った。
「さて……。そこの二人。話は聞いていただろう? 手を離して立ち去りなさい。ぼくは王子を連れて行く。」
「はぁ? 急に出て来て何を……。……っ?」
反論しようとした男の台詞を最後まで言わせず、ぼくは自分の顔を覆うマスクを地面に捨てる。
ぼくの素顔を見た男二人が、ぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。
……母さん、ごめんね。面倒な事になるかも。
「こっ……高ラン、ク……? いや……。」
「えっ、そんなまさか……。」
驚愕する男二人。
「分かったなら、さっさと手を離せ。お前たちが軽々しく『ご奉仕』出来るような相手じゃない。」
二人はお互いに顔を見合わせ、ひそひそ声で相談を始めようとする。
何の罪悪感も代償も払わずに『エロエロしい』の高ランクといやらしい事が出来るチャンスを、不意にするのは流石に惜しいようだ。
それからぼくに向かって、アレック王子がどれだけ身体が疼いて淫らな状態になっているかを、口々に説明する。
いかにアレック王子が自分達を誘ってきて、それに応えねばなるまいと善意を抱いたか。
目線がどうだの、唇の開け方がどうだの、吐く息がどうだの。
まぁよくもそこまで……という程の、現代日本の中学生も顔負けな妄想レベルの、殆ど言い掛かりに近い。
……無駄な悪足掻きを。
「ぎりぎりの中ランク風情が……二度言わせるな。……去れっ!」
ぼくの声で弾かれたように逃げ出す男二人。
その後姿を少しだけ見送り、ぼくはアレック王子に目を向けた。
アレック王子は、慌てて衣服の乱れを直してぼくを見上げる。
その仕草が、『エロエロしい』でもあり、可愛くもある。
ぼくは、善を為したつもりは無い。
「初めまして、アレクセイ王子。ぼくは、アドル・カーネフォード。……ねぇ、アレックって呼んでいい?」
これは、ぼくの獲物だ。
「こうなる事が分かっていて一人で出歩いたんじゃないですか。なら、本当は嫌だった、なんて言っても通じませんよ。」
「ぼくの兄も……。エイベル兄さんも、高ランクだが……。」
「そんな。『麗しい』の人は、そんな事は無いでしょう? アレクセイ王子とは……『エロエロしい』とは違います。」
会話をしているのに話が通じない、とはこの事だな。
普段は自分が、顔面偏差値が極めて低い事で蔑みの視線を向けられているだろうアリーも、今この瞬間は。
『エロエロしい』タイプに対する偏見から、その高ランクであるアレック王子を蔑んで見ている。
いや、蔑んでいるという感覚は、アリー当人には無いだろう。
無意識……これが普通だと思っているんだ。
普段のアレック王子がアリーに対してどのような態度を取っているかは分からないが、彼は今、取り立てて普段の仕返しをしているわけでも無さそうだ。
アリーの表情を見るに、アレック王子の嬲られる姿に溜飲を下げているような様子も無い。
アレック王子を襲った二人が、自分を見て嫌そうに顔を歪めたのに対しては、居たたまれないように俯いたりもしている。
その二人も、ぼく達に見られたのに、兵士の類を呼ばれる事を恐れる気配も無かった。
ただ単に邪魔だと思っていそうな様子。……なるほど。
まさかオルビー先生の言っていた『エロエロしい』に対する偏見が、王城に出入りする人間達の周りで蔓延していたなんて、ね。
恐らくこの男二人は、ぼくも、同じ偏見を抱いていると信じているんだろう。
彼らの行為をぼくが非難する理由がないから、邪魔ものであるぼくに攻撃をして来ない、というわけだ。
王城の中ではそれが常識だと言うなら……仕方ないかな。
アリーも同じように感じるようになったとしても。
アリーは学校に通わないまま、十九歳にもなってしまっている。
容姿も……敢えてこう言うが……醜い為、王城から出た事が無いとまでは言い切れないが、確実に交友関係はぼく並に狭いだろうから。
だから、こんな風な『エロエロしい』への偏見に基づく対応が、ぼくの前でも出来るんだ。
それが決して褒められた行為じゃないとは、アリーは思っていないから。
「アリー。顔面タイプとその傾向について、勉強するのは結構な事だが……。それが全てに当て嵌まると思い込むのは、少々危険だと思うよ。」
「え……はい?」
急に学校の教師のような事を言い出したぼくに、アリーは小首を傾げる。
「自分が持っている知識や常識と、実際に目にした事に違いが無いか。それぐらいは、しっかりと自分の目と頭とで考えるのがいい。……ぼくの目には、彼は、キミの言う『エロエロしい』とは違うように見える。」
実はぼくも分かっていない。
自分が何故、こんな事を言い出すのか。
「もう案内はいいよ、アリー。アレクセイ王子を見付けたから。」
「でも……っ。」
「彼はぼくが連れて行くから。アリーはもう、戻って。」
アリーをこの場から離して、ぼくはアレック王子を押さえ付けている二人に向き直った。
「さて……。そこの二人。話は聞いていただろう? 手を離して立ち去りなさい。ぼくは王子を連れて行く。」
「はぁ? 急に出て来て何を……。……っ?」
反論しようとした男の台詞を最後まで言わせず、ぼくは自分の顔を覆うマスクを地面に捨てる。
ぼくの素顔を見た男二人が、ぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。
……母さん、ごめんね。面倒な事になるかも。
「こっ……高ラン、ク……? いや……。」
「えっ、そんなまさか……。」
驚愕する男二人。
「分かったなら、さっさと手を離せ。お前たちが軽々しく『ご奉仕』出来るような相手じゃない。」
二人はお互いに顔を見合わせ、ひそひそ声で相談を始めようとする。
何の罪悪感も代償も払わずに『エロエロしい』の高ランクといやらしい事が出来るチャンスを、不意にするのは流石に惜しいようだ。
それからぼくに向かって、アレック王子がどれだけ身体が疼いて淫らな状態になっているかを、口々に説明する。
いかにアレック王子が自分達を誘ってきて、それに応えねばなるまいと善意を抱いたか。
目線がどうだの、唇の開け方がどうだの、吐く息がどうだの。
まぁよくもそこまで……という程の、現代日本の中学生も顔負けな妄想レベルの、殆ど言い掛かりに近い。
……無駄な悪足掻きを。
「ぎりぎりの中ランク風情が……二度言わせるな。……去れっ!」
ぼくの声で弾かれたように逃げ出す男二人。
その後姿を少しだけ見送り、ぼくはアレック王子に目を向けた。
アレック王子は、慌てて衣服の乱れを直してぼくを見上げる。
その仕草が、『エロエロしい』でもあり、可愛くもある。
ぼくは、善を為したつもりは無い。
「初めまして、アレクセイ王子。ぼくは、アドル・カーネフォード。……ねぇ、アレックって呼んでいい?」
これは、ぼくの獲物だ。
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