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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくの母の『麗しい』が大放出
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階段を上りきり、また少し廊下を行くと、普通の部屋のものとは少し違った扉の前に着く。
壁から突き出ている、何の飾り気も無いレバーを、ウェラン司祭が引いた。
やや少しの間。
扉が開くと、その先は小部屋になっていた。
てっきり目当ての部屋に着いたのだと思っていたから、ぼくは拍子抜けだ。
ウェラン司祭、これは……殺風景どころの話じゃないよ?
絨毯と手すりと鏡、あとは照明器具しか無いじゃないか。
アドル的には、こんなに狭い部屋の用途なんて、全く見当も付かない。
サトル的には、もしかしたらエレベーターかな……なんて予想を立ててみたり。
「……司祭。これは……?」
母としても意外だったんだろう。
不思議そうに問い掛ける。
やや小首を傾げたような仕草が、我が母ながら『麗しい』の暴力だ。
「浮遊板を利用した、浮遊昇降機ですよ。……今の所は上下にしか動かないので、設置出来る場所に限りがありますがね。」
「……! こ、これが……!」
サトルが正解。やっぱりエレベーターだった。
魔術装置の研究の最先端だろう。
それを目の当たりにして、母も、そしてぼくも息を呑んだ。
まさか、この……中に……入るのか?
「さぁ、行きましょうか。……あ、足元には気を付けてくださいね。隙間がありますからな。」
恭しく手を重ねたままの母を連れて、司祭が浮遊昇降機の中に入って行く。
ぼくも慌てて二人の後を追った。
小部屋の中に入って後ろを振り返ると、扉が音も無く閉じて行く。
ぼくはエレベーターの事を知っているから平気だが、母には不安な材料となったようだ。
心許なげに、縋るように、司祭の手を握り締めている。
司祭がニヤついた顔になっているのが、何だか面白くないぞ。
ぼくだって……『麗しい』の里村に縋られてみたかった。
「少々、揺れますからな。しっかりと、お掴まりください。……ご子息も。」
司祭の説明に、黙って頷く母。
乗り込んだはいいものの、かなり弱気になっているみたいだな。
ぼくは、さっさと手すりを掴んだ。
普通のエレベーターなら何処を掴む必要も無いが、この浮遊昇降機とやらが、どれだけ乱暴な動きをするかは分からないから。
「それと……。この箱全体が浮くので、初めての方は気分が悪くなる事もあるようでしてね。それを防ぐには、まず、口をしっかりと閉じて……。」
「ん……? ぅ、うむ。」
素直に従う母は『麗しい』な唇を、きゅっと引き結んだ。
さっきから『麗しい』の無駄遣い……いや、出血大サービスが過ぎる。
ウェラン司祭、これ……絶対わざとだろう。
「それから、お腹に力を入れて……。あぁ、そんなに沢山じゃなくて大丈夫。力を入れ続けられる程度に、少しだけで結構ですぞ?」
「んっ……。」
お腹に、と言いながら、司祭は母の、その部位に手をやった。
びくっと肩を震わせた母だが、少し恨めしそうに司祭を見ただけで文句は言わなかった。
気分が悪くなると脅されたから、それを回避する為だと自分を納得させたんだろう。
ウェラン司祭……。卑怯、いや……見事な手腕だな。
ぼくが心の中で舌を巻いている間に、小部屋は動き出し、僅か十数秒後には目的の場所へ到着した。
動き始めには浮遊感があったが、移動中は細かく左右に揺れる振動があるだけだった。
逆に、止まる時に感じた違和感の方が強かったと思う。
短い時間だが、母が気分を悪くするのには充分だったようだ。
「さぁ、着きましたぞ。……お疲れ様。」
「あ……あぁ。」
また司祭が、どさくさに紛れて母の身体に触れる。
労わるように背を撫でられた母は、司祭を見る余裕も無さそうだ。
司祭に支えられてようやく、と言った感じで浮遊昇降機から降りて行く。
きっと心臓がばくばく言っているに違いない。
その儚げな様子。
この人がもし母でなければ、ぼくのぼくが完全に覚醒する所だった。
危ない、危ない。
「ご子息は……初めての浮遊昇降機でしょうに、堂々としたものだ。」
母をエスコートしている司祭が、急にぼくを振り返った。
その視線が心なしか、ぼくを褒めてくれているように感じる。
「流石は、滅多に現れないと言われる『格好良い』タイプ、ですなぁ。」
予想よりも良かったよ。
と、思いながら、ぼくは『格好良い』らしく頷いた。
扉が開いたのは、何処か広めな部屋の片隅、という感じだった。
恐らく、ある程度は身分のある人達、あるいは金持ちが利用する為の部屋なんだろう。
絨毯が明らかに立派な物になった。
室内がとても明るいような気がして周囲を見渡すと、部屋の奥側は、壁の上半分がガラス窓だ。
部屋の中央近くに、豪華なテーブルと、そこで食事をするのに丁度良い高さの椅子が四脚。
それよりもガラス窓に近い場所には、ゆったり座れそうなソファが、落ち着いた色合いのテーブルを挟んで設置されていた。
「どうやら我々の方が先に到着したようだ。待っている間……ソファで少し、休みましょう。」
「あぁ……申し訳、ない……。」
ソファの方へと連れて行かれる母は、いつの間にか、司祭の腕にしっかりと掴まっていた。
司祭の手を借りながらソファへと、身体を斜めに預ける母。
切なげに漏らす吐息が、『麗しい』な上に色気もある。
顔色が芳しくないのは可哀そうだと思うのに。
ウェラン司祭、グッジョブ。
……とも考えてしまう、親不孝なぼくだった。
壁から突き出ている、何の飾り気も無いレバーを、ウェラン司祭が引いた。
やや少しの間。
扉が開くと、その先は小部屋になっていた。
てっきり目当ての部屋に着いたのだと思っていたから、ぼくは拍子抜けだ。
ウェラン司祭、これは……殺風景どころの話じゃないよ?
絨毯と手すりと鏡、あとは照明器具しか無いじゃないか。
アドル的には、こんなに狭い部屋の用途なんて、全く見当も付かない。
サトル的には、もしかしたらエレベーターかな……なんて予想を立ててみたり。
「……司祭。これは……?」
母としても意外だったんだろう。
不思議そうに問い掛ける。
やや小首を傾げたような仕草が、我が母ながら『麗しい』の暴力だ。
「浮遊板を利用した、浮遊昇降機ですよ。……今の所は上下にしか動かないので、設置出来る場所に限りがありますがね。」
「……! こ、これが……!」
サトルが正解。やっぱりエレベーターだった。
魔術装置の研究の最先端だろう。
それを目の当たりにして、母も、そしてぼくも息を呑んだ。
まさか、この……中に……入るのか?
「さぁ、行きましょうか。……あ、足元には気を付けてくださいね。隙間がありますからな。」
恭しく手を重ねたままの母を連れて、司祭が浮遊昇降機の中に入って行く。
ぼくも慌てて二人の後を追った。
小部屋の中に入って後ろを振り返ると、扉が音も無く閉じて行く。
ぼくはエレベーターの事を知っているから平気だが、母には不安な材料となったようだ。
心許なげに、縋るように、司祭の手を握り締めている。
司祭がニヤついた顔になっているのが、何だか面白くないぞ。
ぼくだって……『麗しい』の里村に縋られてみたかった。
「少々、揺れますからな。しっかりと、お掴まりください。……ご子息も。」
司祭の説明に、黙って頷く母。
乗り込んだはいいものの、かなり弱気になっているみたいだな。
ぼくは、さっさと手すりを掴んだ。
普通のエレベーターなら何処を掴む必要も無いが、この浮遊昇降機とやらが、どれだけ乱暴な動きをするかは分からないから。
「それと……。この箱全体が浮くので、初めての方は気分が悪くなる事もあるようでしてね。それを防ぐには、まず、口をしっかりと閉じて……。」
「ん……? ぅ、うむ。」
素直に従う母は『麗しい』な唇を、きゅっと引き結んだ。
さっきから『麗しい』の無駄遣い……いや、出血大サービスが過ぎる。
ウェラン司祭、これ……絶対わざとだろう。
「それから、お腹に力を入れて……。あぁ、そんなに沢山じゃなくて大丈夫。力を入れ続けられる程度に、少しだけで結構ですぞ?」
「んっ……。」
お腹に、と言いながら、司祭は母の、その部位に手をやった。
びくっと肩を震わせた母だが、少し恨めしそうに司祭を見ただけで文句は言わなかった。
気分が悪くなると脅されたから、それを回避する為だと自分を納得させたんだろう。
ウェラン司祭……。卑怯、いや……見事な手腕だな。
ぼくが心の中で舌を巻いている間に、小部屋は動き出し、僅か十数秒後には目的の場所へ到着した。
動き始めには浮遊感があったが、移動中は細かく左右に揺れる振動があるだけだった。
逆に、止まる時に感じた違和感の方が強かったと思う。
短い時間だが、母が気分を悪くするのには充分だったようだ。
「さぁ、着きましたぞ。……お疲れ様。」
「あ……あぁ。」
また司祭が、どさくさに紛れて母の身体に触れる。
労わるように背を撫でられた母は、司祭を見る余裕も無さそうだ。
司祭に支えられてようやく、と言った感じで浮遊昇降機から降りて行く。
きっと心臓がばくばく言っているに違いない。
その儚げな様子。
この人がもし母でなければ、ぼくのぼくが完全に覚醒する所だった。
危ない、危ない。
「ご子息は……初めての浮遊昇降機でしょうに、堂々としたものだ。」
母をエスコートしている司祭が、急にぼくを振り返った。
その視線が心なしか、ぼくを褒めてくれているように感じる。
「流石は、滅多に現れないと言われる『格好良い』タイプ、ですなぁ。」
予想よりも良かったよ。
と、思いながら、ぼくは『格好良い』らしく頷いた。
扉が開いたのは、何処か広めな部屋の片隅、という感じだった。
恐らく、ある程度は身分のある人達、あるいは金持ちが利用する為の部屋なんだろう。
絨毯が明らかに立派な物になった。
室内がとても明るいような気がして周囲を見渡すと、部屋の奥側は、壁の上半分がガラス窓だ。
部屋の中央近くに、豪華なテーブルと、そこで食事をするのに丁度良い高さの椅子が四脚。
それよりもガラス窓に近い場所には、ゆったり座れそうなソファが、落ち着いた色合いのテーブルを挟んで設置されていた。
「どうやら我々の方が先に到着したようだ。待っている間……ソファで少し、休みましょう。」
「あぁ……申し訳、ない……。」
ソファの方へと連れて行かれる母は、いつの間にか、司祭の腕にしっかりと掴まっていた。
司祭の手を借りながらソファへと、身体を斜めに預ける母。
切なげに漏らす吐息が、『麗しい』な上に色気もある。
顔色が芳しくないのは可哀そうだと思うのに。
ウェラン司祭、グッジョブ。
……とも考えてしまう、親不孝なぼくだった。
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