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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは明日以降から頑張るつもり
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「そ、そういうお前は、どうなんだよ?」
「……え? ぼく?」
頬をぺちぺちと軽くたたかれて、ぼくは意識を現実に引き戻す。
間近にある『麗しい』が、ぼくを正面から見ていた。
彼の中では、ぼくは世野悟(ヨノサトル)なのかな。
「あぁ、ぼくは両方、かな。」
「え、そういうのアリかよ。」
これ、『奇跡』の集合を見た時に聞いたフレーズだな。
そんな風に思い出しちゃったもんだから。
あの時の、最高に『麗しい』な里村の表情が、今、目の前にある少し驚いた顔に重なって見える。
軽く曲げた指の背で『麗しい』の頬から顎へと、ゆっくり輪郭をなぞってやると、彼はくすぐったそうに目を更に細めた。
「有りかどうかは知らないが……ぼくの目には、里村の顔はとっても、魅力的だよ?」
……里村にとって、ぼくの顔が魅力的に見えなくても、ね。
「おっ……おい、世野っ。」
「この上なく、『麗しい』に見えるよ。……里村の顔は、ぼくだって見慣れているはずなのに、おかしいね。」
「か……っ、揶揄うなよ……。」
揶揄ったりなんかしない。
この世界できみが『麗しい』なのは事実だから。
自分の姿が『麗しい』という事を知らないはずは無いと思うんだが。
顔に触れているぼくの手を、彼は今度こそ、そっと掴んで引き離した。
本当にぼくが冗談で言っていると思ったのか、唇も尖らせて。
世野悟が、浮付いた軟派な台詞を気軽に言ったのが、少々お気に召さないのかも知れない。
里村の知っている世野悟は、こんな事を言う男ではないんだな。
……少なくとも、里村には。
だが、気を悪くしていると言うには、彼の表情は。
「でも、里村……? なんだか少し、嬉しそうに見えるよ?」
「そっ……それは…。褒め、られれば……そりゃあ。……お前だってそ~だろ。」
お互いの顔に触れあうぐらい、距離は近いのだが。
ぼくが彼を里村と呼ぶように。
彼は今ぼくではなく、世野悟が話す言葉を聞いている。
褒められて嬉しいのは、ぼくが世野悟だからかな。
もしかして里村は……。
それならば。
同じ顔のぼくに、チャンスは……ある?
「あ、あのさ、里村……っ。」
「あのさ。それ、なんだけどよ……!」
強引に自分の気持ちを浮上させ、つっかえ気味に言い掛けたぼくを彼の声が遮った。
たぶん、名前を教えて貰って、二人で話し出してからだと一番大きな声だも知れない。
ぐっと詰め寄るように近付いていたぼくの身体を、意外と強い力で肩を押して遠ざけながら。
「俺のこと、里村って呼ぶの、やめない? 俺も、世野って言うのやめるから。」
「え……?」
「今、他にヒトいないから大丈夫だけどさ。知らない人が見たら、サトムラとか、ヨノとか……誰だそりゃ、って感じだろ。」
「あぁ……まぁ、そうだろうね。」
確かに彼の言う通りなのは分かっていた。
日本と同様にこちらの世界でも、生まれ変わりだの前世の記憶だのは、常識で言えば「胡散臭い詐欺紛い」に違い無いから。
だが二人だけの時ならいいじゃないか。
ぼくのその気持ちは、声に出して言う前に態度で表れていたようだ。
彼はぼくの顔を覗き込んで、視線で否定する。
「俺さ、里村の記憶とか色々あるけど。あくまでも俺自身は、この世界で生まれた、リウイなんだって。……なんか、期待させちゃったみたいで、悪いんだけど。」
何だかとても申し訳ない事を懺悔するような表情で、それでもきっぱりとした口調だった。
見ようによっては、言いたくて言い出せなかった事を、ようやく言えてすっきりしたようにも見える。
あ~……。そう、だったんだ。
ぼくと同じ、なんだね。
前世の感覚と記憶があるだけで、自分の中身は……ベースは、この世界に生まれた方のまま。
時折、気持ちの盛り上がり等の影響で、前世の方が強まる場合もあるものの。
「だから……里村って、ずっと言われるのって。なんか、変な感じする。」
ぼくが今の自分を世野悟だと思わなかったように。
彼も、今の自分を里村だと思ってはいなかったんだ。
「ちゃんと、お前の友達の里村じゃなくて、ゴメンな?」
何も知らずにぼくが「里村」って呼び続けている間、さぞや微妙な気分だったろうね。
自分から前世の事を言い出した手前、訂正するタイミングが掴めなかったのかな。
「いいよ、謝らなくて。」
きみが里村じゃないと知って、ぼくは、勝手にがっかりしただけだから。
そしてぼくも、たぶん、きみをがっかりさせる。
「ぼくも同じだから。ぼくも、世野悟の記憶があるだけで。」
出来るだけさり気なく、ぼくはソファから立ち上がる。
見下ろしたリウイの顔は相変わらず『麗しい』だが、今は表情がよく読めなかった。
「ぼくも、中身はこの世界に生まれたアドルだよ。」
「……そ、そっか。」
「ぼくも、がっかりさせたなら御免ね。」
「そんなこと、無いって。」
何処か気が抜けた様子のリウイ。
ぼくはそれこそ、身体から力が抜けそうだが。
リウイの前に、わざとらしい仕草で片手を差し出すぼく。
「ではリウイ……。改めてよろしく。」
「……え? ぼく?」
頬をぺちぺちと軽くたたかれて、ぼくは意識を現実に引き戻す。
間近にある『麗しい』が、ぼくを正面から見ていた。
彼の中では、ぼくは世野悟(ヨノサトル)なのかな。
「あぁ、ぼくは両方、かな。」
「え、そういうのアリかよ。」
これ、『奇跡』の集合を見た時に聞いたフレーズだな。
そんな風に思い出しちゃったもんだから。
あの時の、最高に『麗しい』な里村の表情が、今、目の前にある少し驚いた顔に重なって見える。
軽く曲げた指の背で『麗しい』の頬から顎へと、ゆっくり輪郭をなぞってやると、彼はくすぐったそうに目を更に細めた。
「有りかどうかは知らないが……ぼくの目には、里村の顔はとっても、魅力的だよ?」
……里村にとって、ぼくの顔が魅力的に見えなくても、ね。
「おっ……おい、世野っ。」
「この上なく、『麗しい』に見えるよ。……里村の顔は、ぼくだって見慣れているはずなのに、おかしいね。」
「か……っ、揶揄うなよ……。」
揶揄ったりなんかしない。
この世界できみが『麗しい』なのは事実だから。
自分の姿が『麗しい』という事を知らないはずは無いと思うんだが。
顔に触れているぼくの手を、彼は今度こそ、そっと掴んで引き離した。
本当にぼくが冗談で言っていると思ったのか、唇も尖らせて。
世野悟が、浮付いた軟派な台詞を気軽に言ったのが、少々お気に召さないのかも知れない。
里村の知っている世野悟は、こんな事を言う男ではないんだな。
……少なくとも、里村には。
だが、気を悪くしていると言うには、彼の表情は。
「でも、里村……? なんだか少し、嬉しそうに見えるよ?」
「そっ……それは…。褒め、られれば……そりゃあ。……お前だってそ~だろ。」
お互いの顔に触れあうぐらい、距離は近いのだが。
ぼくが彼を里村と呼ぶように。
彼は今ぼくではなく、世野悟が話す言葉を聞いている。
褒められて嬉しいのは、ぼくが世野悟だからかな。
もしかして里村は……。
それならば。
同じ顔のぼくに、チャンスは……ある?
「あ、あのさ、里村……っ。」
「あのさ。それ、なんだけどよ……!」
強引に自分の気持ちを浮上させ、つっかえ気味に言い掛けたぼくを彼の声が遮った。
たぶん、名前を教えて貰って、二人で話し出してからだと一番大きな声だも知れない。
ぐっと詰め寄るように近付いていたぼくの身体を、意外と強い力で肩を押して遠ざけながら。
「俺のこと、里村って呼ぶの、やめない? 俺も、世野って言うのやめるから。」
「え……?」
「今、他にヒトいないから大丈夫だけどさ。知らない人が見たら、サトムラとか、ヨノとか……誰だそりゃ、って感じだろ。」
「あぁ……まぁ、そうだろうね。」
確かに彼の言う通りなのは分かっていた。
日本と同様にこちらの世界でも、生まれ変わりだの前世の記憶だのは、常識で言えば「胡散臭い詐欺紛い」に違い無いから。
だが二人だけの時ならいいじゃないか。
ぼくのその気持ちは、声に出して言う前に態度で表れていたようだ。
彼はぼくの顔を覗き込んで、視線で否定する。
「俺さ、里村の記憶とか色々あるけど。あくまでも俺自身は、この世界で生まれた、リウイなんだって。……なんか、期待させちゃったみたいで、悪いんだけど。」
何だかとても申し訳ない事を懺悔するような表情で、それでもきっぱりとした口調だった。
見ようによっては、言いたくて言い出せなかった事を、ようやく言えてすっきりしたようにも見える。
あ~……。そう、だったんだ。
ぼくと同じ、なんだね。
前世の感覚と記憶があるだけで、自分の中身は……ベースは、この世界に生まれた方のまま。
時折、気持ちの盛り上がり等の影響で、前世の方が強まる場合もあるものの。
「だから……里村って、ずっと言われるのって。なんか、変な感じする。」
ぼくが今の自分を世野悟だと思わなかったように。
彼も、今の自分を里村だと思ってはいなかったんだ。
「ちゃんと、お前の友達の里村じゃなくて、ゴメンな?」
何も知らずにぼくが「里村」って呼び続けている間、さぞや微妙な気分だったろうね。
自分から前世の事を言い出した手前、訂正するタイミングが掴めなかったのかな。
「いいよ、謝らなくて。」
きみが里村じゃないと知って、ぼくは、勝手にがっかりしただけだから。
そしてぼくも、たぶん、きみをがっかりさせる。
「ぼくも同じだから。ぼくも、世野悟の記憶があるだけで。」
出来るだけさり気なく、ぼくはソファから立ち上がる。
見下ろしたリウイの顔は相変わらず『麗しい』だが、今は表情がよく読めなかった。
「ぼくも、中身はこの世界に生まれたアドルだよ。」
「……そ、そっか。」
「ぼくも、がっかりさせたなら御免ね。」
「そんなこと、無いって。」
何処か気が抜けた様子のリウイ。
ぼくはそれこそ、身体から力が抜けそうだが。
リウイの前に、わざとらしい仕草で片手を差し出すぼく。
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