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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは大いに興奮する
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ぼくの『格好良い』は『奇跡』のランク。
その情報を得ているのは、顔面偏差値を計測した際に同席していた母と、この神殿の神殿長を含む、数人の高位司祭達だけだ。
あぁ、それともう一人。
大礼拝堂でぼくの顔を見た、リウイもだ。
奇跡ランクな事実は、まだ神殿内でも秘密にされているらしい。
ぼくの奇跡を事実として承認するのに、今ちょうど母と、上位の神殿関係者が話をしている所だろう。
その為、ぼくが部屋で待っている間、ぼくに付いててくれるのはリウイ一人だ。
他には誰もいない。
例えヴェールで隠していても、何かの拍子でぼくの顔が見えてしまうかも知れないから。
「別に、そんな……面白い顔じゃ、ないぞ……?」
ぼくを案内してくれた大礼拝堂では、あんなにきびきびとした声を出していたリウイが、ぼくをそっと伺うような声で念を押して来る。
「面白さを期待しているわけじゃないから。それは別にいいよ。」
「その……か、顔が見えないと……。そんな……相手が、同じ部屋だと……不安、か?」
「いや、それも別に構わない。……ただ、ぼくがリウイを知りたいだけ。」
変な建前は要らない。
リウイに部屋を出て行って欲しくない。
ぼくは正直に口説いた。
じっと見つめているぼくの前で、リウイは自分の後頭部へと手を回した。
マスクの留め具を外す音がやけに耳に響く。
落とさないように両手を沿え、リウイはゆっくりとマスクを離した。
「……ふぅ。」
多少は息苦しさもあったんだろう。
マスクを外したリウイが息を吐く姿を、ぼくは身動き取れずに見ていた。
……ぼくは。夢を見ているんじゃ、ないよね……?
彼の……、リウイの、姿は……!
「全然、騒がないんだな。ちょっと安心した。」
リウイの呟きはぼくの耳を通り抜けて行く。
視線を落とす切れ長の、殆ど瞳孔が窺えない、細い曲線のような目。
涼し気な瞳の上には、始まりから終わりまで殆ど変わらない細さを誇る眉が。
顔立ちの平たい印象を少しも損なわない、控えめで清楚な鼻。
そっと吐息を零した、横一直線の薄い唇。
エイベル兄さんと同じ『麗しい』タイプだが……。
再現度が神掛かっているっ!
大礼拝堂で見た『麗しい』の神、リュージィ。
神をそのまま少し若くしたような姿が、今、ぼくの眼前にいた。
リウイ! リウイ、きみは!
……さ……。
――― 里村だろ、これ。少年時代の里村だ~。
「さとっ! ぶっ……げふん、げふんっ。」
里村、と言い掛けた自分の心を、ぼくは殴り付けた。
落ち着け、落ち着くんだ、ぼく……いや、ボク?
どちらでも良いから、とにかくここは落ち着こう、深呼吸だ。
リウイが幾ら『麗しい』の奇跡ランクでも、少し若いが里村にそっくりでも。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクだぞ。
『格好良い』はここで、みっともなく狼狽えてはいけない。
ぼくは微笑を浮かべたままリウイを見詰める。
完全に表情が固まってしまっただけだ。
リウイも、黙ってぼくを見ていた。
彼の唇が誘うように、僅かに震えているように思うのは、ぼくが動揺している所為か。
あぁ……駄目だ。
彼を見て、とても平静でなんかいられない。
ぼくの中心が元気になるのも仕方ないよね、男だもん。
今日の服装……母がぼくの『格好良い』を少しでも隠す為に選んだ物だったんだが。
ゆったりしたローブを上着代わりにしていて、本当に良かったと心から思うよ。
初対面でフル勃起だなんて、印象最悪だもんね。
あんまりじっと見ない方が良いだろうか。
いや、でも、これだけの『麗しい』ならこういう視線の千や二千、浴び慣れ……待てよ。
それが嫌で顔を隠していた、という事だろうか。
だとしたら、リウイの奇跡を知っている人間は数少ないに違いない。
その、数少ない中に、ぼくが、入っている……。
希望を言えるなら、出来れば違う所にも、入りたい……。
こらこら、いきなり下衆な想像をしちゃ駄目だよ、ぼく……又は、ボク。
自分で戒めながらも脳内では、目の前にある『麗しい』が艶めかしい表情で大胆なポーズを取っている姿が、いとも容易く再生されてしまう。
これには自分でもドン引きだが。
この脳内再生力は、世野悟(ヨノサトル)の……妄想半分、自分の体験も半分で出来ている。
社会人となり二十代後半まで生きたサトルは、決して格好良いと言われるタイプじゃなかったが、『都合の良い男』として男女問わず、それなりに性交渉の相手はいたから。
残念ながらアドルは童貞である以前に、顔面偏差値の低い人を怖がる引き篭もりだったから、細かな想像力は乏しいんだ。
しばらくの沈黙の後。
「お前、今……サト、ムラって……。」
「あ、何でもない。……えっ?」
リウイがぼくを訝しんでいるように感じたから、誤魔化す返事をしたんだが。
……ぼくは。サト、までしか声に出していなかったはずだ。
「アドル……。」
リウイが、探るような視線をぼくに向けている。
彼の唇からどんな言葉が続くのか、ぼくはそれを待った。
「まさか……。よ……ヨノ、か?」
その情報を得ているのは、顔面偏差値を計測した際に同席していた母と、この神殿の神殿長を含む、数人の高位司祭達だけだ。
あぁ、それともう一人。
大礼拝堂でぼくの顔を見た、リウイもだ。
奇跡ランクな事実は、まだ神殿内でも秘密にされているらしい。
ぼくの奇跡を事実として承認するのに、今ちょうど母と、上位の神殿関係者が話をしている所だろう。
その為、ぼくが部屋で待っている間、ぼくに付いててくれるのはリウイ一人だ。
他には誰もいない。
例えヴェールで隠していても、何かの拍子でぼくの顔が見えてしまうかも知れないから。
「別に、そんな……面白い顔じゃ、ないぞ……?」
ぼくを案内してくれた大礼拝堂では、あんなにきびきびとした声を出していたリウイが、ぼくをそっと伺うような声で念を押して来る。
「面白さを期待しているわけじゃないから。それは別にいいよ。」
「その……か、顔が見えないと……。そんな……相手が、同じ部屋だと……不安、か?」
「いや、それも別に構わない。……ただ、ぼくがリウイを知りたいだけ。」
変な建前は要らない。
リウイに部屋を出て行って欲しくない。
ぼくは正直に口説いた。
じっと見つめているぼくの前で、リウイは自分の後頭部へと手を回した。
マスクの留め具を外す音がやけに耳に響く。
落とさないように両手を沿え、リウイはゆっくりとマスクを離した。
「……ふぅ。」
多少は息苦しさもあったんだろう。
マスクを外したリウイが息を吐く姿を、ぼくは身動き取れずに見ていた。
……ぼくは。夢を見ているんじゃ、ないよね……?
彼の……、リウイの、姿は……!
「全然、騒がないんだな。ちょっと安心した。」
リウイの呟きはぼくの耳を通り抜けて行く。
視線を落とす切れ長の、殆ど瞳孔が窺えない、細い曲線のような目。
涼し気な瞳の上には、始まりから終わりまで殆ど変わらない細さを誇る眉が。
顔立ちの平たい印象を少しも損なわない、控えめで清楚な鼻。
そっと吐息を零した、横一直線の薄い唇。
エイベル兄さんと同じ『麗しい』タイプだが……。
再現度が神掛かっているっ!
大礼拝堂で見た『麗しい』の神、リュージィ。
神をそのまま少し若くしたような姿が、今、ぼくの眼前にいた。
リウイ! リウイ、きみは!
……さ……。
――― 里村だろ、これ。少年時代の里村だ~。
「さとっ! ぶっ……げふん、げふんっ。」
里村、と言い掛けた自分の心を、ぼくは殴り付けた。
落ち着け、落ち着くんだ、ぼく……いや、ボク?
どちらでも良いから、とにかくここは落ち着こう、深呼吸だ。
リウイが幾ら『麗しい』の奇跡ランクでも、少し若いが里村にそっくりでも。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクだぞ。
『格好良い』はここで、みっともなく狼狽えてはいけない。
ぼくは微笑を浮かべたままリウイを見詰める。
完全に表情が固まってしまっただけだ。
リウイも、黙ってぼくを見ていた。
彼の唇が誘うように、僅かに震えているように思うのは、ぼくが動揺している所為か。
あぁ……駄目だ。
彼を見て、とても平静でなんかいられない。
ぼくの中心が元気になるのも仕方ないよね、男だもん。
今日の服装……母がぼくの『格好良い』を少しでも隠す為に選んだ物だったんだが。
ゆったりしたローブを上着代わりにしていて、本当に良かったと心から思うよ。
初対面でフル勃起だなんて、印象最悪だもんね。
あんまりじっと見ない方が良いだろうか。
いや、でも、これだけの『麗しい』ならこういう視線の千や二千、浴び慣れ……待てよ。
それが嫌で顔を隠していた、という事だろうか。
だとしたら、リウイの奇跡を知っている人間は数少ないに違いない。
その、数少ない中に、ぼくが、入っている……。
希望を言えるなら、出来れば違う所にも、入りたい……。
こらこら、いきなり下衆な想像をしちゃ駄目だよ、ぼく……又は、ボク。
自分で戒めながらも脳内では、目の前にある『麗しい』が艶めかしい表情で大胆なポーズを取っている姿が、いとも容易く再生されてしまう。
これには自分でもドン引きだが。
この脳内再生力は、世野悟(ヨノサトル)の……妄想半分、自分の体験も半分で出来ている。
社会人となり二十代後半まで生きたサトルは、決して格好良いと言われるタイプじゃなかったが、『都合の良い男』として男女問わず、それなりに性交渉の相手はいたから。
残念ながらアドルは童貞である以前に、顔面偏差値の低い人を怖がる引き篭もりだったから、細かな想像力は乏しいんだ。
しばらくの沈黙の後。
「お前、今……サト、ムラって……。」
「あ、何でもない。……えっ?」
リウイがぼくを訝しんでいるように感じたから、誤魔化す返事をしたんだが。
……ぼくは。サト、までしか声に出していなかったはずだ。
「アドル……。」
リウイが、探るような視線をぼくに向けている。
彼の唇からどんな言葉が続くのか、ぼくはそれを待った。
「まさか……。よ……ヨノ、か?」
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