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序章
ぼくは『奇跡』に直面する (前編)
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ぼくは、少しでも頭の中を整理しようと、必死に考えていた。
日本人? 勝ち組? イケメン? ゲイ?
ぼくが考えている事なのに、自分でも理解出来ない単語だ。
それに、この世界に男しかいないのは、ずっと昔から当たり前なのに。
女という性別が世界にいたのは遥か大昔だ。
『大帝国時代』に乱獲により絶滅したと、古い伝承の本で読んだ。
ぼくが考え込んでいても、身体のボクは支障が無いらしい。
白い煙の向こうから声が宣言する。
「……次に生まれる世界では、お前を『麗しい』にしよう。」
「あぁ~、……まいっか、うん。」
どうやら『麗しい』の里村は、ボクに上手く言いくるめられたようだ。
彼は次に生まれる世界で『麗しい』になる事が決定していた。
……うん、普通に「当然だね」と、言わせて貰おうか。
里村は『麗しい』の『奇跡』ランクだからね。
ボクが親しそうに話しているのが羨ましいと感じるぐらいに。
決めるべき願いを決め終えたボクと里村は、居場所を少し横に移動させ、残りの人達が転生時の願いを決定するまで見守る事にしたようだ。
一体何に座っているのか分からないが、二人で並び、何かに腰を落ち着けた。
すぐ隣に『麗しい』の『奇跡』がいる事に、ぼくは少し落ち着かない気分。
里村の、糸のような目。
その目線の先にぼくが入っている事が、まるで奇跡だよ。
さっき先頭に並んでいた時には、振り返ってもすぐ後ろの里村しか見えなかった。
だが、辺りに立ち込めている白い煙が、ボク達がいる付近だけ徐々に薄くなっているようだ。
ボクを含めて数えて、三人目となる彼の姿が見えて来ると。
ぼくは再び、衝撃を受けた。
あぁ……彼が、この世に生まれて来て良かった……!
本当に、なんという『愛くるしい』だろう!
頬の肉が、きゅっと抉れるように細くなっている輪郭。
目元は、彼の自信をそのまま表すように、完璧な角度で吊り上がっている。
濃い色の瞳孔が、ギリギリまでの小ささで、ツンと上を向いて。
薄い眉は、毛の殆どが眉頭部分に集中しているので、実にすっきりとしている。
膨らみを抑えた薄い色の唇に、穴だけが開いているような鼻。
抜けるような肌の白さが際立っている。
これだよ、これが本当の『愛くるしい』なんだ。
子供っぽいのを『愛くるしい』だと言う者達は、一度、彼を。
この『奇跡』を見たらいい。
――― 愛くるしいなんて初めて思った。……でも、そう……かも。
「おれ、は……。かっ……可愛い、と。……言われたい。」
「山井(ヤマイ)がいいなら、いいんだろうが……。」
「まっ、いぃんでない? 俺だって『麗しい』だし。」
『愛くるしい』奇跡ランクの山井よ。
貴方は、可愛いなんてレベルには収まらないぐらいの『愛くるしい』だ。
姿の見えない声が山井を、次に生まれる世界での『愛くるしい』に決めた。
それを聞いて嬉しそうに微笑んだ山井に、ぼくは正直、興奮を禁じ得ない。
見ているだけでも、愛したい気持ちが生まれてきそうだ。
こんな姿を目の当たりにしながら、ボクの方は、どうして興奮せずにいられるんだろう。
ボクの中でぼくは一人、胸を熱くしていた。
そんなぼくが、三度目の『奇跡』を目の当たりにする。
「田宮(タミヤ)は、どうする~?」
「ん? 自分は別に。」
ボクに問い掛けられた彼は、ごく短く答える。
岩のような重低音で、頭の中が痺れそうだ。
「せっかくだから何か言おうよ。」
「なら自分は、厳つい(いかつい)男がいい。」
「それでは今と変わらないようだが、果たしていいのか?」
煙の先から声だけ届けて来る存在が、不要な確認をする。
それで彼の気が変わってしまったらどうするんだ。
余計な念押しは止めて欲しいとぼくは思う。
四人目の彼は『厳つい』の顔面偏差値が『奇跡』ランクなのに。
太くて濃い眉が、角ばって群生している。
眉間に刻まれた力強い皺に、爛々とぎらつく瞳がおあつらえ。
鼻のパーツは、鼻筋も含めて大きく、横幅の広がり具合も申し分ない。
唇の厚さは、それに見合った口の大きさによって、欠点とはなっていない。
大きく四角い輪郭が、全ての顔パーツを過不足なく抱き込んでいる。
ここまで来ると普通は、掘りの深い顔立ちになりそうなものなのに、顔全体としては平たい印象も与えるという絶妙さ。
男らしさを具現化したような顔に、ぼくは震えてしまいそうだ。
「自分にとって『厳つい』は誉め言葉だ。将来的に強面(コワモテ)の刑事、と呼ばれるつもりだからな。」
煙の先からの余計な一言に、田宮はさらりと返した。
にやりと口端を上げる笑い方が、彼の『厳つい』を更に引き立てる。
――― あぁこれ……ほんっと、男らしいなぁ。
……本当に、な。
流石は『厳つい』の『奇跡』ランク、分かっているね。
もちろん当たり前だが、田宮は次に生まれる世界での『厳つい』になった。
もう、頭の中を整理するどころじゃないよ……。
日本人? 勝ち組? イケメン? ゲイ?
ぼくが考えている事なのに、自分でも理解出来ない単語だ。
それに、この世界に男しかいないのは、ずっと昔から当たり前なのに。
女という性別が世界にいたのは遥か大昔だ。
『大帝国時代』に乱獲により絶滅したと、古い伝承の本で読んだ。
ぼくが考え込んでいても、身体のボクは支障が無いらしい。
白い煙の向こうから声が宣言する。
「……次に生まれる世界では、お前を『麗しい』にしよう。」
「あぁ~、……まいっか、うん。」
どうやら『麗しい』の里村は、ボクに上手く言いくるめられたようだ。
彼は次に生まれる世界で『麗しい』になる事が決定していた。
……うん、普通に「当然だね」と、言わせて貰おうか。
里村は『麗しい』の『奇跡』ランクだからね。
ボクが親しそうに話しているのが羨ましいと感じるぐらいに。
決めるべき願いを決め終えたボクと里村は、居場所を少し横に移動させ、残りの人達が転生時の願いを決定するまで見守る事にしたようだ。
一体何に座っているのか分からないが、二人で並び、何かに腰を落ち着けた。
すぐ隣に『麗しい』の『奇跡』がいる事に、ぼくは少し落ち着かない気分。
里村の、糸のような目。
その目線の先にぼくが入っている事が、まるで奇跡だよ。
さっき先頭に並んでいた時には、振り返ってもすぐ後ろの里村しか見えなかった。
だが、辺りに立ち込めている白い煙が、ボク達がいる付近だけ徐々に薄くなっているようだ。
ボクを含めて数えて、三人目となる彼の姿が見えて来ると。
ぼくは再び、衝撃を受けた。
あぁ……彼が、この世に生まれて来て良かった……!
本当に、なんという『愛くるしい』だろう!
頬の肉が、きゅっと抉れるように細くなっている輪郭。
目元は、彼の自信をそのまま表すように、完璧な角度で吊り上がっている。
濃い色の瞳孔が、ギリギリまでの小ささで、ツンと上を向いて。
薄い眉は、毛の殆どが眉頭部分に集中しているので、実にすっきりとしている。
膨らみを抑えた薄い色の唇に、穴だけが開いているような鼻。
抜けるような肌の白さが際立っている。
これだよ、これが本当の『愛くるしい』なんだ。
子供っぽいのを『愛くるしい』だと言う者達は、一度、彼を。
この『奇跡』を見たらいい。
――― 愛くるしいなんて初めて思った。……でも、そう……かも。
「おれ、は……。かっ……可愛い、と。……言われたい。」
「山井(ヤマイ)がいいなら、いいんだろうが……。」
「まっ、いぃんでない? 俺だって『麗しい』だし。」
『愛くるしい』奇跡ランクの山井よ。
貴方は、可愛いなんてレベルには収まらないぐらいの『愛くるしい』だ。
姿の見えない声が山井を、次に生まれる世界での『愛くるしい』に決めた。
それを聞いて嬉しそうに微笑んだ山井に、ぼくは正直、興奮を禁じ得ない。
見ているだけでも、愛したい気持ちが生まれてきそうだ。
こんな姿を目の当たりにしながら、ボクの方は、どうして興奮せずにいられるんだろう。
ボクの中でぼくは一人、胸を熱くしていた。
そんなぼくが、三度目の『奇跡』を目の当たりにする。
「田宮(タミヤ)は、どうする~?」
「ん? 自分は別に。」
ボクに問い掛けられた彼は、ごく短く答える。
岩のような重低音で、頭の中が痺れそうだ。
「せっかくだから何か言おうよ。」
「なら自分は、厳つい(いかつい)男がいい。」
「それでは今と変わらないようだが、果たしていいのか?」
煙の先から声だけ届けて来る存在が、不要な確認をする。
それで彼の気が変わってしまったらどうするんだ。
余計な念押しは止めて欲しいとぼくは思う。
四人目の彼は『厳つい』の顔面偏差値が『奇跡』ランクなのに。
太くて濃い眉が、角ばって群生している。
眉間に刻まれた力強い皺に、爛々とぎらつく瞳がおあつらえ。
鼻のパーツは、鼻筋も含めて大きく、横幅の広がり具合も申し分ない。
唇の厚さは、それに見合った口の大きさによって、欠点とはなっていない。
大きく四角い輪郭が、全ての顔パーツを過不足なく抱き込んでいる。
ここまで来ると普通は、掘りの深い顔立ちになりそうなものなのに、顔全体としては平たい印象も与えるという絶妙さ。
男らしさを具現化したような顔に、ぼくは震えてしまいそうだ。
「自分にとって『厳つい』は誉め言葉だ。将来的に強面(コワモテ)の刑事、と呼ばれるつもりだからな。」
煙の先からの余計な一言に、田宮はさらりと返した。
にやりと口端を上げる笑い方が、彼の『厳つい』を更に引き立てる。
――― あぁこれ……ほんっと、男らしいなぁ。
……本当に、な。
流石は『厳つい』の『奇跡』ランク、分かっているね。
もちろん当たり前だが、田宮は次に生まれる世界での『厳つい』になった。
もう、頭の中を整理するどころじゃないよ……。
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