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序章
ぼくは転生していた
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自室のベッドで目が覚めたぼくは、すっかり熱が下がっていた。
測っていなくても分かる。
ぼくが、熱が出るぐらい混乱する事はもう無いだろう。
何となくだが、事情は分かった。
ボクの中にいる時間が、ある程度それなりに経過したからかも知れない。
あれは……あの時のボクは。
アドル・カーネフォードである、ぼくの前世だ。
前世のボク……世野悟(ヨノサトル)は、日本で暮らす平凡な容姿の男で。
学校を卒業して、地元で公務員になって。
友人達と一緒に、食事をして酒も飲んで。
事故に遭って。
たまたま運良く転生させて貰える事になったんだった。
この世界のぼくは、転生した後のボクだ。
あの瞬間から、次の人生では『格好良い』となる事が決まっている……ボクがなりたかった、ぼくだ。
こうして記憶が蘇るだけでなく、あの場で、ボクの友人達という『奇跡』を見る事が出来たぼくは幸運だな。
ただ惜しむらくは、もう少しの間、自由にじっくりと見ていたかった。
ベッドから起き上がったぼくは、使用人を呼ぶ為のベルに手を伸ばした所で、その手を止めた。
顔面偏差値が低ランク以下の人を怖がるぼくの為に、ぼくの部屋に来る使用人は、ぎりぎりでも中ランクの者が宛がわれている。
しかし、あんなにも『奇跡』ランクが揃っている場面を見てしまったぼくが、今ぼくがいる世界で、普通な人々を見た時にどうなるか。
それが少し気掛かりで、ぼくは人を呼ぶ事を逡巡した。
いつまでもこうしていても仕方ないし、この先ずっと誰にも会わずに過ごせるわけでもない。
そう思いながらも、なかなか動けずにいると。
ドアが控えめにノックされた。
「アドル……起きているか?」
エイベル兄さんの声だ。
「起きているよ、兄さん。……ちょっと待って。」
エイベル兄さんなら、『麗しい』の高ランクだから大丈夫だろう。
ぼくは返事をして、ベッドから下りようと布団を捲る。
ベッドにいるままの姿ではだらしがないし、まだ具合が悪いのかと、兄さんに心配を掛けると思ったからだ。
なのに兄さんは、ぼくがベッドから下りる前に、ドアを開けてしまった。
「駄目じゃないか、アドル。まだ寝ていなくちゃ。」
片足だけベッドから下ろしたぼくは、兄さんによってまたベッドに逆戻り。
なんとか頼んで、完全に横になるのは免れたものの、ふかふかのクッションで斜めに上体を起こして、しっかりと布団を掛けられた。
「気分はどう? 何処か苦しい所は無いかい?」
「大丈夫だよ、兄さん。もう、熱くもないし。」
「どれどれ……。あぁそうだね、熱も下がったようで良かった。」
ぼくの額に手をやった兄さんが、ホッとしたように、藁のような麗しい目を更に細める。
その様子を見て、別な意味でぼくもホッとした。
良かった……。
ぼくはエイベル兄さんを、ちゃんと『麗しい』だと思えている。
「でも一応、お医者さんがいいって言うまでは、安静にしていろよ?」
「はいはい、分かったよ。」
微笑む兄さんは本当に、里村に似ているなぁ……。
起き抜けから『麗しい』で満たされたぼくは、そんな事を考えながら、兄さんに頷いた。
じっくりと見過ぎて、実はこっそり興奮し掛けたという事は、兄さんには内緒だよ。
医者が来るのを待ちながら、ぼくは、使用人が用意してくれた果実水を飲む。
大きめのコップで目線を隠して、部屋から下がる使用人の姿を盗み見た。
やや上がり気味の目元に、量が少なくて薄い眉毛。
唇の色合いも薄くて……『愛くるしい』の中ランク。
ぼくが怯えずに受け答え出来る、数少ない使用人だが。
……特に変化は、無いな。これまでと同じように見える。
ぼくがこれまで感じていた『麗しい』や『愛くるしい』の感覚は、前世の事を知った後でもあまり変わっていないようだ。
「アルフォンソも……アドルの事、心配していたんだ。」
言おうか言うまいか迷ったようだが、兄さんはアルフォンソさんの名を口に出した。
顔面偏差値の皆無な人の事を、病み上がりのぼくに聞かせるのを躊躇ったんだ。
それぐらい、ぼくが怖がりだったと言うか、顔面偏差値に拘っていたという事だが……。
我ながら情けない。
「それは申し訳ない事をしちゃった。次は、元気な姿を見せるよ。」
「また、家に……呼んでもいいかい?」
「もちろん。」
少し不安そうに、瞳を翳らせる兄さん。
安心させようと、ぼくは敢えてはっきりと、短い言葉で肯定した。
ぼくも、アルフォンソさんにはもう一度会いたいと思っているから。
「良かった……! じゃあ、また近い内に寄って貰うよ。」
嬉しそうな兄さんから『麗しい』のオーラが溢れ出る。
そのタイミングで医者が来たらしく、その話はこれでお終いだ。
診察時には母も来るだろうから、ちょうど良い。
ぼくの体調に問題が無いという診断結果が出たら、ぼくは言うつもりだ。
外出したい……行きたい所がある、と。
測っていなくても分かる。
ぼくが、熱が出るぐらい混乱する事はもう無いだろう。
何となくだが、事情は分かった。
ボクの中にいる時間が、ある程度それなりに経過したからかも知れない。
あれは……あの時のボクは。
アドル・カーネフォードである、ぼくの前世だ。
前世のボク……世野悟(ヨノサトル)は、日本で暮らす平凡な容姿の男で。
学校を卒業して、地元で公務員になって。
友人達と一緒に、食事をして酒も飲んで。
事故に遭って。
たまたま運良く転生させて貰える事になったんだった。
この世界のぼくは、転生した後のボクだ。
あの瞬間から、次の人生では『格好良い』となる事が決まっている……ボクがなりたかった、ぼくだ。
こうして記憶が蘇るだけでなく、あの場で、ボクの友人達という『奇跡』を見る事が出来たぼくは幸運だな。
ただ惜しむらくは、もう少しの間、自由にじっくりと見ていたかった。
ベッドから起き上がったぼくは、使用人を呼ぶ為のベルに手を伸ばした所で、その手を止めた。
顔面偏差値が低ランク以下の人を怖がるぼくの為に、ぼくの部屋に来る使用人は、ぎりぎりでも中ランクの者が宛がわれている。
しかし、あんなにも『奇跡』ランクが揃っている場面を見てしまったぼくが、今ぼくがいる世界で、普通な人々を見た時にどうなるか。
それが少し気掛かりで、ぼくは人を呼ぶ事を逡巡した。
いつまでもこうしていても仕方ないし、この先ずっと誰にも会わずに過ごせるわけでもない。
そう思いながらも、なかなか動けずにいると。
ドアが控えめにノックされた。
「アドル……起きているか?」
エイベル兄さんの声だ。
「起きているよ、兄さん。……ちょっと待って。」
エイベル兄さんなら、『麗しい』の高ランクだから大丈夫だろう。
ぼくは返事をして、ベッドから下りようと布団を捲る。
ベッドにいるままの姿ではだらしがないし、まだ具合が悪いのかと、兄さんに心配を掛けると思ったからだ。
なのに兄さんは、ぼくがベッドから下りる前に、ドアを開けてしまった。
「駄目じゃないか、アドル。まだ寝ていなくちゃ。」
片足だけベッドから下ろしたぼくは、兄さんによってまたベッドに逆戻り。
なんとか頼んで、完全に横になるのは免れたものの、ふかふかのクッションで斜めに上体を起こして、しっかりと布団を掛けられた。
「気分はどう? 何処か苦しい所は無いかい?」
「大丈夫だよ、兄さん。もう、熱くもないし。」
「どれどれ……。あぁそうだね、熱も下がったようで良かった。」
ぼくの額に手をやった兄さんが、ホッとしたように、藁のような麗しい目を更に細める。
その様子を見て、別な意味でぼくもホッとした。
良かった……。
ぼくはエイベル兄さんを、ちゃんと『麗しい』だと思えている。
「でも一応、お医者さんがいいって言うまでは、安静にしていろよ?」
「はいはい、分かったよ。」
微笑む兄さんは本当に、里村に似ているなぁ……。
起き抜けから『麗しい』で満たされたぼくは、そんな事を考えながら、兄さんに頷いた。
じっくりと見過ぎて、実はこっそり興奮し掛けたという事は、兄さんには内緒だよ。
医者が来るのを待ちながら、ぼくは、使用人が用意してくれた果実水を飲む。
大きめのコップで目線を隠して、部屋から下がる使用人の姿を盗み見た。
やや上がり気味の目元に、量が少なくて薄い眉毛。
唇の色合いも薄くて……『愛くるしい』の中ランク。
ぼくが怯えずに受け答え出来る、数少ない使用人だが。
……特に変化は、無いな。これまでと同じように見える。
ぼくがこれまで感じていた『麗しい』や『愛くるしい』の感覚は、前世の事を知った後でもあまり変わっていないようだ。
「アルフォンソも……アドルの事、心配していたんだ。」
言おうか言うまいか迷ったようだが、兄さんはアルフォンソさんの名を口に出した。
顔面偏差値の皆無な人の事を、病み上がりのぼくに聞かせるのを躊躇ったんだ。
それぐらい、ぼくが怖がりだったと言うか、顔面偏差値に拘っていたという事だが……。
我ながら情けない。
「それは申し訳ない事をしちゃった。次は、元気な姿を見せるよ。」
「また、家に……呼んでもいいかい?」
「もちろん。」
少し不安そうに、瞳を翳らせる兄さん。
安心させようと、ぼくは敢えてはっきりと、短い言葉で肯定した。
ぼくも、アルフォンソさんにはもう一度会いたいと思っているから。
「良かった……! じゃあ、また近い内に寄って貰うよ。」
嬉しそうな兄さんから『麗しい』のオーラが溢れ出る。
そのタイミングで医者が来たらしく、その話はこれでお終いだ。
診察時には母も来るだろうから、ちょうど良い。
ぼくの体調に問題が無いという診断結果が出たら、ぼくは言うつもりだ。
外出したい……行きたい所がある、と。
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