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秘伝の言葉
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昔、私たちの先祖はあのお天道様の遥か向こうにある「ウチュウ」という所へ行ってしまわれた。私たちは先祖から伝わる文化や言葉を伝え継ぐ事でその事を忘れずに生きてきたのだ。
僕のお婆ちゃんがいつも寝る前に話してくれた寝物語。僕らのご先祖さまは高度な文明を持っていて、空飛ぶ家に乗って遥か遠くまで飛び立ったのだと言う。「ウチュウ」に行ってしまった人たちは皆「ウチュウジン」になってしまうそうだ。そして、この話はいつも同じように締め括られる。
伝えて頂いた文字の中に1つだけ、意味と読み方を残して貰えなかった言葉があるんじゃ。
そう言うと近くの紙に「დ」と書き僕に見せた。
誰も読み方を知らん。意味も知らん。ただ、大切な言葉だという事だけは知っておる。わしも小さい頃から教わってきた。わしのお婆様から教えて貰うた。わしのお婆様は大婆様から、その大婆様は更に大大婆様から。これは我々一族に伝えられし秘伝の言葉なんじゃ。お前もいつか孫に教える日が来る。
お婆様は読み方すら知らない文字を書いた紙をクシャクシャに丸め、煙草の火を押し付けて燃やした。灰皿の上で燃えていく紙を残して、お婆ちゃんは部屋を出て行く。この焔を見てから寝ると不思議と穏やかな気持ちで寝付く事が出来た。もしかしたら、リラックスの効果でもある言葉なのかも知れない。
それから何年も経った。
僕はいつの間にか父親になり、そして子どもが巣立ち、暫くすると祖父になっていた。今では僕が孫にあの文字を伝えている。今ではあの時のお婆ちゃんよりも歳を取っている。これは秘伝の言葉。大切に語り継ぐものなのだ。
あの言葉を静かに焔が灰にしていく中、孫におやすみを伝えて部屋を出た。するとリビングには奇妙な服を着た男が立っていた。話を聞くとウチュウに旅立ったというご先祖様だという。古い文献ではご先祖様は数千年も前に旅立たれたと伝えられているが、ウチュウでは馬や流れ星よりも早く移動していた為、地球よりも時間の流れがゆっくりだったのだという。言っている意味がわからなかったが、1つだけどうしても聞きたい事があった。
「დ」はどういう意味なのか。僕は近くにある紙に秘伝の言葉を書き、相手に見せた。これは代々語り継がれているが、読み方すら分からない。どういう時に使うか教えてほしい、と。
するとウチュウから来たという男は大変驚き、「こんな言葉がまだちゃんと伝えられて残っているのか!数千年という歴史の中で消えない言葉だったとは何とも興味深いものだ!」と興奮して騒ぎ立てていた。
それで結局、これは一体どういう意味なのでしょうか。僕が尋ねると相手は首を横に振りながら、「いやぁ、あの言葉ってどういう意味だったかなぁ?なんか読み方も良くわかんねぇや」と答えた。
僕は代々語り継いできた神聖な言葉を軽んじられた様に感じ、何とか思い出してくれ、とウチュウから来た男に詰め寄った。すると男は首を振りながら答えた。
「だから、დはそういう意味だって。いやぁ、なんかよく分かんない言葉だなぁ、読み方も良く分かんない、って時に使う言葉だ。」
私は膝から崩れ落ちた。
皮肉にも、私たちの一族は正しい意味で「დ」を使い続けてきたのだった。
おしまい。
僕のお婆ちゃんがいつも寝る前に話してくれた寝物語。僕らのご先祖さまは高度な文明を持っていて、空飛ぶ家に乗って遥か遠くまで飛び立ったのだと言う。「ウチュウ」に行ってしまった人たちは皆「ウチュウジン」になってしまうそうだ。そして、この話はいつも同じように締め括られる。
伝えて頂いた文字の中に1つだけ、意味と読み方を残して貰えなかった言葉があるんじゃ。
そう言うと近くの紙に「დ」と書き僕に見せた。
誰も読み方を知らん。意味も知らん。ただ、大切な言葉だという事だけは知っておる。わしも小さい頃から教わってきた。わしのお婆様から教えて貰うた。わしのお婆様は大婆様から、その大婆様は更に大大婆様から。これは我々一族に伝えられし秘伝の言葉なんじゃ。お前もいつか孫に教える日が来る。
お婆様は読み方すら知らない文字を書いた紙をクシャクシャに丸め、煙草の火を押し付けて燃やした。灰皿の上で燃えていく紙を残して、お婆ちゃんは部屋を出て行く。この焔を見てから寝ると不思議と穏やかな気持ちで寝付く事が出来た。もしかしたら、リラックスの効果でもある言葉なのかも知れない。
それから何年も経った。
僕はいつの間にか父親になり、そして子どもが巣立ち、暫くすると祖父になっていた。今では僕が孫にあの文字を伝えている。今ではあの時のお婆ちゃんよりも歳を取っている。これは秘伝の言葉。大切に語り継ぐものなのだ。
あの言葉を静かに焔が灰にしていく中、孫におやすみを伝えて部屋を出た。するとリビングには奇妙な服を着た男が立っていた。話を聞くとウチュウに旅立ったというご先祖様だという。古い文献ではご先祖様は数千年も前に旅立たれたと伝えられているが、ウチュウでは馬や流れ星よりも早く移動していた為、地球よりも時間の流れがゆっくりだったのだという。言っている意味がわからなかったが、1つだけどうしても聞きたい事があった。
「დ」はどういう意味なのか。僕は近くにある紙に秘伝の言葉を書き、相手に見せた。これは代々語り継がれているが、読み方すら分からない。どういう時に使うか教えてほしい、と。
するとウチュウから来たという男は大変驚き、「こんな言葉がまだちゃんと伝えられて残っているのか!数千年という歴史の中で消えない言葉だったとは何とも興味深いものだ!」と興奮して騒ぎ立てていた。
それで結局、これは一体どういう意味なのでしょうか。僕が尋ねると相手は首を横に振りながら、「いやぁ、あの言葉ってどういう意味だったかなぁ?なんか読み方も良くわかんねぇや」と答えた。
僕は代々語り継いできた神聖な言葉を軽んじられた様に感じ、何とか思い出してくれ、とウチュウから来た男に詰め寄った。すると男は首を振りながら答えた。
「だから、დはそういう意味だって。いやぁ、なんかよく分かんない言葉だなぁ、読み方も良く分かんない、って時に使う言葉だ。」
私は膝から崩れ落ちた。
皮肉にも、私たちの一族は正しい意味で「დ」を使い続けてきたのだった。
おしまい。
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