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月夜と花月
最終話
しおりを挟む結婚式の夜、月夜と花月は披露宴が行われたホテルの一室に泊まっていた。
「お疲れ様、花月」
「はい、月夜さんもお疲れさまです」
月夜のことを“お兄ちゃん”ではなく、“月夜さん”と呼び始めて数年。
いまだに慣れないこともあるけれど、その名前を口にするとドキドキして、甘い気持ちになる。
抱き締められるとそのぬくもりに安心する。
とてもいい結婚式だった。
誰もがそう言ってくれる素晴らしい式にしてくれた月夜をはじめとするたくさんの人には感謝してもしきれない。
「やはり、花月とこうしている時が一番落ち着くな」
月夜が花月を抱き締めながら指に髪を絡めて滑らかな手触りを堪能する。
「わたしも、です……」
月夜と目が合うと唇が重なる。
幸せすぎて、胸が苦しい。思わず涙が零れる。
――もっと早く、こうしていたかった。
胸の内側から誰かがそう囁く。
この人を失うのが怖い。もう二度とあんな思いをしたくない。
(あんな思い?)
花月は首を傾げる。
月夜と出会ったのは、花月が二歳の時だ。
花月が覚えている限り、月夜は死にそうなほど大きな怪我はしていない。なのに、不意に彼がいなくなってしまいそうな気がして、この幸せな時間が夢のような気がして、怖くなる。
「花月?」
花月が震えていることに気付いた月夜が、花月の顔を覗き込む。
一瞬だけ、花月の瞳が金色に光った気がした。
(ああ、この娘はまだ、過去に囚われているのか……)
記憶がなくても、花月は月夜が愛した彼女そのものだ。
今度こそ手放さないと決めた。どんな姿だろうと、例え男だったとしても、月夜が一目惚れした魂だ。無垢で、綺麗な真っ白な魂。
やっと自分のものだと誰に憚ることなくいえるこの日を、誰よりも待ち望んでいた。
「花月、愛している。誰でもない、お前だけを愛している」
「月夜さん?」
月夜の切実な響きを持つ声に、花月も強く抱き締め返す。
「お前を失うくらいなら、俺は……」
きっと世界を呪うだろう。来世まで、地の底まででも追いかけて、今度こそ手放さない。
生まれ変わる時に、自分でそう決めた。
「わたしも同じ気持ちです。もし“また”あなたを失うことがあれば、わたしはきっと壊れてしまう……」
その言葉はきっと、無意識だったのだろう。
「愛してます、月夜様。ずっと、ずっとあなただけを」
花月の瞳から、涙が零れる。
「ああ。死が二人を分かつまでではなく、死後も、来世も必ずお前を探し出すと誓おう。俺の愛しい人」
二人の唇が重なる。
お互いが不安にならないように、いつか離れる時が来ても、もう一度出会えるように、その願いは誓いとなって二人の魂に刻まれる――。
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