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今の幸せをこの先も、来世も、ずっと

第三十五話

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 数年後――。
「おんぎゃあああっ! ふぎゃっ、ふぎゃああっ!!」
「うーん、これはどっちだ? おしめ……はさっき取り替えたし、ご飯?」
 光留は我が子の元気な泣き声を聞きながら首を傾げる。
「それ、ご飯か月夜様の抱っこだと思いますよ」
 花月がのんびりした様子で入ってくる。
「とりあえずご飯にしてみる? 月夜はまだ帰ってこないだろうし……」
「ですね。ていうか、この子本当に月夜様大好きですよねぇ……ちょっと妬けちゃいます」
「花月の子だから?」
「いや、光留君の子でもありますからね?」
「まあ、そうだけど。なんか、産んだ俺より花月の方が分かるって言うのも不思議な気がする」
「まあ、産まれた環境が特殊ですから。それに、この方がみんなで子育てしてる感じがしませんか?」
「確かに」
 あれから年単位で時間をかけて、ようやく光留の腹に子宮が定着したのが2年前。その後もいろいろあって光留の妊娠が発覚し、3人でわたわたしている間に時間が過ぎて、つい半年ほど前に出産を終えたばかりだ。
「光留君、今日は体調大丈夫ですか?」
「うん。今日はいつもよりいいよ。この子を産んでから前より霊力の暴走も減ったし」
花月留かづとが光留君の霊力を少し持っていってくれたお陰ですね」
「うん、ほんと無事に産まれてくれて良かったよ」
 女性は、妊娠したり出産したりすると霊力が減るという。光留が妊娠した時にもそれが適応されたのだろう。
 お陰で過剰な霊力の余分な分は子どもに引き継がれ、光留の体調は安定するようになっていった。
「花月留の霊力も安定してますし、あとは月夜様が帰って来てくれたらこの子ご機嫌なんですけどねぇ」
 未だに泣き止まない娘を、光留が抱き上げる。
「月夜の半身じゃダメか……」
「半分なのが花月留的にはお気に召さないみたいです」
「そんなこと言われても……もうもとに戻れないし……」
「戻られても困りますが、月夜様にべったりというのも困っちゃいますねぇ……」
「ふぎゃああ、ぅんぎゃあああ、ああああっ!!」
 月夜が花月留のオムツやミルクを買いに出かけたのは数十分前。それまで月夜に抱っこされて甘やかされていたから余計に寂しいのかもしれない。
「うーん、あいつ本当、モテるよな」
「光留君もモテる方ですよね?」
「いや、月夜に間違われることはよくあったけど、俺自身がモテるのとはちょっと違うだろ?」
「確かに」
「それに、花月だってモテるだろ。この間病院行った時に、看護師さんに、囲まれてたし……」
「んふふ、光留君、嫉妬ですか?」
「そうだよ。花月は俺達の旦那様なのにって」
 光留が甘えるように花月をギュッと抱きしめると、花月の胸はきゅんとする。
「僕は光留君が可愛すぎて辛い……」
「何だそれ」
 光留がくすくす笑う。
「ただいま」
 花月留の泣き声が響く中、月夜が帰ってくる。
「おかえり」「お帰りなさい、月夜様」
「ああ、しかし、花月留はよく泣くな……」
 光留から花月留を受け取り、抱き直す。
「ふぇ……ふっ、ぅ?」
 抱き方が変わったことに気付いた花月留が、月夜を見て不思議そうな顔をしたあと、きゃっきゃと笑った。
「おー、流石だな、月夜」
「ですねぇ。さっきまであんなに泣いてたのに……」
「水子の時はあんなに俺にべったり甘えてくれたのに、ちょっと悲しい」
 光留が花月留の頬を撫でる。
「? 花月留はお前達がいなくても泣くぞ?」
「そうか?」
「わりと月夜様がいない時に泣いてる気が……」
 花月が花月留を見ながらパチパチと目を瞬かせる。
「どうかした?」
「もしかして、花月留は僕達3人がいないと泣くんでしょうか。さっき僕は光留君に、半分なのがお気に召さないと言いましたけど、物理的な半分ではなく、お2人が揃っていないと嫌なのかも」
 月夜と光留は顔を見合わせる。
「なら、なおさら3人じゃないと花月留的には嫌なのかもな」
「ああ、この間花月が仕事に行って、俺と光留だけだった時もよく泣いた」
「うん。泣き疲れるか花月が帰って来るまでずっとぐずってたし」
 それを聞いた花月はとくりと胸が温かなもので満たされるような感じがした。
「でも、そうだよな。花月留が一番最初に俺達を認めてくれたんだ。俺達のところに来たいって選んでくれた」
 水子の時から3人を見守ってくれていた我が子に、光留は愛おしさが増す。
「あの時、手放さなくて良かった……」
 光留の目の奥が熱くて、鼻がツンと痛む。
 月夜と花月と可愛い我が子である花月留。4人で家族になった。
 幸せ過ぎて、夢じゃないかと思うくらいに。
「光留君は案外泣き虫さんですね。花月留はそういうところが似ちゃったんでしょうか」
「泣きながら説教するのは花月じゃない?」
「僕、そこまで怒りませんよ? あと、愛情深いのは月夜様似ですね。ふふ、ちゃんと僕達それぞれに似てます」
「女の子とわかった時はどうなるかと思ったがな」
 花月は「ふふん」と自慢げに胸をそらす。
「そこは僕にお任せください。それこそ前の僕の記憶が役立ちます!」
「頼りにしてる」
 初めてのことでわからないことばかりだけど、この子に恥じない親でありたい。
 花月留が産まれた時に、3人でそんな話をした。
 きっとこの子にはいろいろ苦労させる。
 だけど他ならない、この子が望んでくれた事だから、3人なら、きっと大丈夫。
 そう、思えた――。
 
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