35 / 38
今の幸せをこの先も、来世も、ずっと
第三十五話
しおりを挟む
数年後――。
「おんぎゃあああっ! ふぎゃっ、ふぎゃああっ!!」
「うーん、これはどっちだ? おしめ……はさっき取り替えたし、ご飯?」
光留は我が子の元気な泣き声を聞きながら首を傾げる。
「それ、ご飯か月夜様の抱っこだと思いますよ」
花月がのんびりした様子で入ってくる。
「とりあえずご飯にしてみる? 月夜はまだ帰ってこないだろうし……」
「ですね。ていうか、この子本当に月夜様大好きですよねぇ……ちょっと妬けちゃいます」
「花月の子だから?」
「いや、光留君の子でもありますからね?」
「まあ、そうだけど。なんか、産んだ俺より花月の方が分かるって言うのも不思議な気がする」
「まあ、産まれた環境が特殊ですから。それに、この方がみんなで子育てしてる感じがしませんか?」
「確かに」
あれから年単位で時間をかけて、ようやく光留の腹に子宮が定着したのが2年前。その後もいろいろあって光留の妊娠が発覚し、3人でわたわたしている間に時間が過ぎて、つい半年ほど前に出産を終えたばかりだ。
「光留君、今日は体調大丈夫ですか?」
「うん。今日はいつもよりいいよ。この子を産んでから前より霊力の暴走も減ったし」
「花月留が光留君の霊力を少し持っていってくれたお陰ですね」
「うん、ほんと無事に産まれてくれて良かったよ」
女性は、妊娠したり出産したりすると霊力が減るという。光留が妊娠した時にもそれが適応されたのだろう。
お陰で過剰な霊力の余分な分は子どもに引き継がれ、光留の体調は安定するようになっていった。
「花月留の霊力も安定してますし、あとは月夜様が帰って来てくれたらこの子ご機嫌なんですけどねぇ」
未だに泣き止まない娘を、光留が抱き上げる。
「月夜の半身じゃダメか……」
「半分なのが花月留的にはお気に召さないみたいです」
「そんなこと言われても……もうもとに戻れないし……」
「戻られても困りますが、月夜様にべったりというのも困っちゃいますねぇ……」
「ふぎゃああ、ぅんぎゃあああ、ああああっ!!」
月夜が花月留のオムツやミルクを買いに出かけたのは数十分前。それまで月夜に抱っこされて甘やかされていたから余計に寂しいのかもしれない。
「うーん、あいつ本当、モテるよな」
「光留君もモテる方ですよね?」
「いや、月夜に間違われることはよくあったけど、俺自身がモテるのとはちょっと違うだろ?」
「確かに」
「それに、花月だってモテるだろ。この間病院行った時に、看護師さんに、囲まれてたし……」
「んふふ、光留君、嫉妬ですか?」
「そうだよ。花月は俺達の旦那様なのにって」
光留が甘えるように花月をギュッと抱きしめると、花月の胸はきゅんとする。
「僕は光留君が可愛すぎて辛い……」
「何だそれ」
光留がくすくす笑う。
「ただいま」
花月留の泣き声が響く中、月夜が帰ってくる。
「おかえり」「お帰りなさい、月夜様」
「ああ、しかし、花月留はよく泣くな……」
光留から花月留を受け取り、抱き直す。
「ふぇ……ふっ、ぅ?」
抱き方が変わったことに気付いた花月留が、月夜を見て不思議そうな顔をしたあと、きゃっきゃと笑った。
「おー、流石だな、月夜」
「ですねぇ。さっきまであんなに泣いてたのに……」
「水子の時はあんなに俺にべったり甘えてくれたのに、ちょっと悲しい」
光留が花月留の頬を撫でる。
「? 花月留はお前達がいなくても泣くぞ?」
「そうか?」
「わりと月夜様がいない時に泣いてる気が……」
花月が花月留を見ながらパチパチと目を瞬かせる。
「どうかした?」
「もしかして、花月留は僕達3人がいないと泣くんでしょうか。さっき僕は光留君に、半分なのがお気に召さないと言いましたけど、物理的な半分ではなく、お2人が揃っていないと嫌なのかも」
月夜と光留は顔を見合わせる。
「なら、なおさら3人じゃないと花月留的には嫌なのかもな」
「ああ、この間花月が仕事に行って、俺と光留だけだった時もよく泣いた」
「うん。泣き疲れるか花月が帰って来るまでずっとぐずってたし」
それを聞いた花月はとくりと胸が温かなもので満たされるような感じがした。
「でも、そうだよな。花月留が一番最初に俺達を認めてくれたんだ。俺達のところに来たいって選んでくれた」
水子の時から3人を見守ってくれていた我が子に、光留は愛おしさが増す。
「あの時、手放さなくて良かった……」
光留の目の奥が熱くて、鼻がツンと痛む。
月夜と花月と可愛い我が子である花月留。4人で家族になった。
幸せ過ぎて、夢じゃないかと思うくらいに。
「光留君は案外泣き虫さんですね。花月留はそういうところが似ちゃったんでしょうか」
「泣きながら説教するのは花月じゃない?」
「僕、そこまで怒りませんよ? あと、愛情深いのは月夜様似ですね。ふふ、ちゃんと僕達それぞれに似てます」
「女の子とわかった時はどうなるかと思ったがな」
花月は「ふふん」と自慢げに胸をそらす。
「そこは僕にお任せください。それこそ前の僕の記憶が役立ちます!」
「頼りにしてる」
初めてのことでわからないことばかりだけど、この子に恥じない親でありたい。
花月留が産まれた時に、3人でそんな話をした。
きっとこの子にはいろいろ苦労させる。
だけど他ならない、この子が望んでくれた事だから、3人なら、きっと大丈夫。
そう、思えた――。
「おんぎゃあああっ! ふぎゃっ、ふぎゃああっ!!」
「うーん、これはどっちだ? おしめ……はさっき取り替えたし、ご飯?」
光留は我が子の元気な泣き声を聞きながら首を傾げる。
「それ、ご飯か月夜様の抱っこだと思いますよ」
花月がのんびりした様子で入ってくる。
「とりあえずご飯にしてみる? 月夜はまだ帰ってこないだろうし……」
「ですね。ていうか、この子本当に月夜様大好きですよねぇ……ちょっと妬けちゃいます」
「花月の子だから?」
「いや、光留君の子でもありますからね?」
「まあ、そうだけど。なんか、産んだ俺より花月の方が分かるって言うのも不思議な気がする」
「まあ、産まれた環境が特殊ですから。それに、この方がみんなで子育てしてる感じがしませんか?」
「確かに」
あれから年単位で時間をかけて、ようやく光留の腹に子宮が定着したのが2年前。その後もいろいろあって光留の妊娠が発覚し、3人でわたわたしている間に時間が過ぎて、つい半年ほど前に出産を終えたばかりだ。
「光留君、今日は体調大丈夫ですか?」
「うん。今日はいつもよりいいよ。この子を産んでから前より霊力の暴走も減ったし」
「花月留が光留君の霊力を少し持っていってくれたお陰ですね」
「うん、ほんと無事に産まれてくれて良かったよ」
女性は、妊娠したり出産したりすると霊力が減るという。光留が妊娠した時にもそれが適応されたのだろう。
お陰で過剰な霊力の余分な分は子どもに引き継がれ、光留の体調は安定するようになっていった。
「花月留の霊力も安定してますし、あとは月夜様が帰って来てくれたらこの子ご機嫌なんですけどねぇ」
未だに泣き止まない娘を、光留が抱き上げる。
「月夜の半身じゃダメか……」
「半分なのが花月留的にはお気に召さないみたいです」
「そんなこと言われても……もうもとに戻れないし……」
「戻られても困りますが、月夜様にべったりというのも困っちゃいますねぇ……」
「ふぎゃああ、ぅんぎゃあああ、ああああっ!!」
月夜が花月留のオムツやミルクを買いに出かけたのは数十分前。それまで月夜に抱っこされて甘やかされていたから余計に寂しいのかもしれない。
「うーん、あいつ本当、モテるよな」
「光留君もモテる方ですよね?」
「いや、月夜に間違われることはよくあったけど、俺自身がモテるのとはちょっと違うだろ?」
「確かに」
「それに、花月だってモテるだろ。この間病院行った時に、看護師さんに、囲まれてたし……」
「んふふ、光留君、嫉妬ですか?」
「そうだよ。花月は俺達の旦那様なのにって」
光留が甘えるように花月をギュッと抱きしめると、花月の胸はきゅんとする。
「僕は光留君が可愛すぎて辛い……」
「何だそれ」
光留がくすくす笑う。
「ただいま」
花月留の泣き声が響く中、月夜が帰ってくる。
「おかえり」「お帰りなさい、月夜様」
「ああ、しかし、花月留はよく泣くな……」
光留から花月留を受け取り、抱き直す。
「ふぇ……ふっ、ぅ?」
抱き方が変わったことに気付いた花月留が、月夜を見て不思議そうな顔をしたあと、きゃっきゃと笑った。
「おー、流石だな、月夜」
「ですねぇ。さっきまであんなに泣いてたのに……」
「水子の時はあんなに俺にべったり甘えてくれたのに、ちょっと悲しい」
光留が花月留の頬を撫でる。
「? 花月留はお前達がいなくても泣くぞ?」
「そうか?」
「わりと月夜様がいない時に泣いてる気が……」
花月が花月留を見ながらパチパチと目を瞬かせる。
「どうかした?」
「もしかして、花月留は僕達3人がいないと泣くんでしょうか。さっき僕は光留君に、半分なのがお気に召さないと言いましたけど、物理的な半分ではなく、お2人が揃っていないと嫌なのかも」
月夜と光留は顔を見合わせる。
「なら、なおさら3人じゃないと花月留的には嫌なのかもな」
「ああ、この間花月が仕事に行って、俺と光留だけだった時もよく泣いた」
「うん。泣き疲れるか花月が帰って来るまでずっとぐずってたし」
それを聞いた花月はとくりと胸が温かなもので満たされるような感じがした。
「でも、そうだよな。花月留が一番最初に俺達を認めてくれたんだ。俺達のところに来たいって選んでくれた」
水子の時から3人を見守ってくれていた我が子に、光留は愛おしさが増す。
「あの時、手放さなくて良かった……」
光留の目の奥が熱くて、鼻がツンと痛む。
月夜と花月と可愛い我が子である花月留。4人で家族になった。
幸せ過ぎて、夢じゃないかと思うくらいに。
「光留君は案外泣き虫さんですね。花月留はそういうところが似ちゃったんでしょうか」
「泣きながら説教するのは花月じゃない?」
「僕、そこまで怒りませんよ? あと、愛情深いのは月夜様似ですね。ふふ、ちゃんと僕達それぞれに似てます」
「女の子とわかった時はどうなるかと思ったがな」
花月は「ふふん」と自慢げに胸をそらす。
「そこは僕にお任せください。それこそ前の僕の記憶が役立ちます!」
「頼りにしてる」
初めてのことでわからないことばかりだけど、この子に恥じない親でありたい。
花月留が産まれた時に、3人でそんな話をした。
きっとこの子にはいろいろ苦労させる。
だけど他ならない、この子が望んでくれた事だから、3人なら、きっと大丈夫。
そう、思えた――。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
独占欲強い系の同居人
狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。
その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。
同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる