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今の幸せをこの先も、来世も、ずっと
第二十九話
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光留は届いたメールを見ながら、腕を組んで頭を悩ませる。
(BLか……)
担当編集から、今度会社で新しく立ち上げる小説投稿サイトに載せる短編が欲しいと依頼があり、提示されたテーマが「ボーイズラブ」だった。
書くことに抵抗があるわけではない。
男女の恋愛を同性に置き換えて、同性同士ならではの悩みや葛藤を交ぜる。ハマりそうなネタは幾つかあるから、それをプロットに落とし込めばいいのだが、光留の筆が進まないのは別の理由だ。
(結局、俺達ってなんなんだろうな……)
物語の世界では、紆余曲折ありながらも恋人になってハッピーエンドで終わり。娯楽としてはそれで十分なのだろう。
だけど、現実にはそうはいかない。
(子供か……)
光留が参考用に手にしているのは、男性でも妊娠出来る世界観の作品。
夫夫になって、子供が産まれてその成長を見守りながら愛を育んでいく。そんな王道な物語。
現実にも同性婚を認めている条例がある地域も存在するが、光留達は結婚出来ない。
自身の薬指に嵌まる指輪をそっと撫でる。
花月が20歳の誕生日の日に3人で買った結婚指輪。形だけだが、3人を繋ぐ大切なものだ。
自分達は気持ちの上では夫夫だが、本当の意味で恋愛感情とは言いにくい。
特に月夜と光留は双子だ。物語のように実は血縁一切なかった、ということもない。
そして、光留自身、月夜への感情を未だに持て余している。
好きだが、それは兄として、半身として。愛しているし、身体も許せる。子供を産んでもいいと思えるくらいには情があるが、やっぱり恋とは少し違う。
逆に花月と一生にいる時は、楽しくてドキドキして、甘い感情がある。
複雑な感情が絶妙に絡んでいて、それでいてほんの少しの違いでバランスが崩れる。
(このままずっと、ずっと3人で……)
今が幸せだから、来世なんて多くを望まない。
月夜がいて、花月がいて、3人で愛し合って、寿命で別れる。
望むのはそれだけだ。
子供が産まれて、家族となることが必ずしも幸せとは限らない。月夜と光留は前世でそれを学んでいる。
だから、月夜の葛藤もわかるのだ。
逆に花月は欲しいのだろう。前世では自ら腹を痛めて産んだ子を、ひと目見ることもなく引き離されている。彼女が我が子に会えたのは、産んだ子供の転生体だった。自分で育てることも看取ることも出来なかった最愛の人の忘れ形見への思いは、母になったからこその感情だろう。
今度こそ、あるべき姿の家族として、望んでしまう。
光留は、どちらも尊重したいが、まだ答えは出ない。
たた“羽宮光留”としては、男である自分が産むのはやっぱり違和感があるし、未知の体験に恐怖を感じる。
以前、ひと昔前の中絶する様子を映像でみたことがあるのが若干トラウマになっているせいかもしれない。
(でも、俺にしか出来ないことだから……)
月夜はいまだ悩んでいるようだし、花月にも月夜の気持ちは伝えているとはいえ、花月が望んでいる以上月夜は花月を優先しようとするだろう。
光留は自分の腹を撫でる。
先日の霊力制御の訓練でも下半身の女体化は成功したが、月夜がそれを無効にするように調整したから、翌日には元に戻ってしまった。
どんなに中出しされても命が宿ることのない腹。
「知らなければ良かった……」
知らないままなら、もっと話はシンプルだったはずだ。
「あー、くそっ! 仕事にならねぇ……」
光留は出かける準備をすると、2人にしばらく家を開けると連絡した。
(BLか……)
担当編集から、今度会社で新しく立ち上げる小説投稿サイトに載せる短編が欲しいと依頼があり、提示されたテーマが「ボーイズラブ」だった。
書くことに抵抗があるわけではない。
男女の恋愛を同性に置き換えて、同性同士ならではの悩みや葛藤を交ぜる。ハマりそうなネタは幾つかあるから、それをプロットに落とし込めばいいのだが、光留の筆が進まないのは別の理由だ。
(結局、俺達ってなんなんだろうな……)
物語の世界では、紆余曲折ありながらも恋人になってハッピーエンドで終わり。娯楽としてはそれで十分なのだろう。
だけど、現実にはそうはいかない。
(子供か……)
光留が参考用に手にしているのは、男性でも妊娠出来る世界観の作品。
夫夫になって、子供が産まれてその成長を見守りながら愛を育んでいく。そんな王道な物語。
現実にも同性婚を認めている条例がある地域も存在するが、光留達は結婚出来ない。
自身の薬指に嵌まる指輪をそっと撫でる。
花月が20歳の誕生日の日に3人で買った結婚指輪。形だけだが、3人を繋ぐ大切なものだ。
自分達は気持ちの上では夫夫だが、本当の意味で恋愛感情とは言いにくい。
特に月夜と光留は双子だ。物語のように実は血縁一切なかった、ということもない。
そして、光留自身、月夜への感情を未だに持て余している。
好きだが、それは兄として、半身として。愛しているし、身体も許せる。子供を産んでもいいと思えるくらいには情があるが、やっぱり恋とは少し違う。
逆に花月と一生にいる時は、楽しくてドキドキして、甘い感情がある。
複雑な感情が絶妙に絡んでいて、それでいてほんの少しの違いでバランスが崩れる。
(このままずっと、ずっと3人で……)
今が幸せだから、来世なんて多くを望まない。
月夜がいて、花月がいて、3人で愛し合って、寿命で別れる。
望むのはそれだけだ。
子供が産まれて、家族となることが必ずしも幸せとは限らない。月夜と光留は前世でそれを学んでいる。
だから、月夜の葛藤もわかるのだ。
逆に花月は欲しいのだろう。前世では自ら腹を痛めて産んだ子を、ひと目見ることもなく引き離されている。彼女が我が子に会えたのは、産んだ子供の転生体だった。自分で育てることも看取ることも出来なかった最愛の人の忘れ形見への思いは、母になったからこその感情だろう。
今度こそ、あるべき姿の家族として、望んでしまう。
光留は、どちらも尊重したいが、まだ答えは出ない。
たた“羽宮光留”としては、男である自分が産むのはやっぱり違和感があるし、未知の体験に恐怖を感じる。
以前、ひと昔前の中絶する様子を映像でみたことがあるのが若干トラウマになっているせいかもしれない。
(でも、俺にしか出来ないことだから……)
月夜はいまだ悩んでいるようだし、花月にも月夜の気持ちは伝えているとはいえ、花月が望んでいる以上月夜は花月を優先しようとするだろう。
光留は自分の腹を撫でる。
先日の霊力制御の訓練でも下半身の女体化は成功したが、月夜がそれを無効にするように調整したから、翌日には元に戻ってしまった。
どんなに中出しされても命が宿ることのない腹。
「知らなければ良かった……」
知らないままなら、もっと話はシンプルだったはずだ。
「あー、くそっ! 仕事にならねぇ……」
光留は出かける準備をすると、2人にしばらく家を開けると連絡した。
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