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ついつい白熱
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「え!クリスティーナ、彼氏できたの⁉」
「Si!前に授業を担当していた生徒さんからアプローチを受けて、OKしマシタ!」
「うわー、うわー、先生と生徒の禁断の恋だぁ。写真ないの、写真?」
「ありマス。アスペッタ…これデス!」
「え!外国の人なの⁉」
「ノー、イタリア人と日本人のハーフデス。仕事でイタリア語が必要になったけど、ご両親も日本育ちでイタリア語話せなくてウチの学校に来マシタ」
「ほえ~、そんな出会い方もあるんだね」
「《彼、とてもハンサムなのよね。私の事も可愛いって褒めてくれるのよ》」
「《僕なんか、最初メスだと思われてたんだよ!でも、家に来るたびにおやつをくれるから大好きなんだ!》」
「《ふ~ん。良かったね》」
興奮気味のご主人様と、嬉しそうなクリスティーナ。その二人に負けず劣らず、騒がしくクリスティーナの彼氏を自慢するモカとラテ。
女の人って、何でこう恋愛の話になるとこんなに盛り上がるんだろう。ラテはちょっと特殊だけど、オス同士でこういう話をする事ってないからおいらにはこの光景が不思議でしょうがない。あと退屈だ。
「ミナミはカチョーとどうなんデス?」
「え、わ、私?」
「この間、二人でお得意先に行くって言ってましたよネ?終わってからチェーナには行かなかったんデスカ?」
「チェーナ?」
「あー、ディナーの事デス」
「むむむ無理だよ!だって、仕事で行ったんだよ⁉」
「Oh!ミナミから誘えば良かったのに」
「そんな事できないよ!」
ご主人様の言う通り、ザ・日本人なご主人様が自分から好きな人にアプローチなんて新しい契約を十件取ってくるより難しいと思う。先輩や友達に課長の話をする時は、課長のこんなところがカッコいいとかあんな事言われたら悶え死ぬとか騒いでるくせに、肝心の課長の前では緊張して事務的な会話しかできないってよく嘆いている。いや、それだけならまだいい。緊張のし過ぎで、いつも以上のミスをしては課長の手を煩わせてしまうのがご主人様だ。
実は、ついこないだも課長から直接言われていた仕事を緊張のあまり内容を勘違いしていたらしく、トラブルになる寸前で課長が気づいて防いでくれたそうだ。その日は、地面にめり込むんじゃないかってくらい落ち込んで帰ってきた。さすがのおいらも、何て言ってあげればいいかわからなかった。そもそも声をかける事はできないんだけど。
「楽しそうね、お二人さん」
そう言って料理のお皿をテーブルに置いた人をご主人様が見上げる。
「みっちゃんさん!」
ご主人様達の後においら達にもご飯の入ったお皿を置いてから、みっちゃんさんはニコリと笑った。
そう、ここはみっちゃんさんのカフェ。無事にオープンしたここに、ご主人様は雨やどりをさせてもらった時の約束通りクリスティーナや石川の奥さん達を連れて何回かランチに来ていた。今日もこうしてクリスティーナ達を誘ってお邪魔している。ちなみに、大金の奥さんにはまだ声をかけられていない。噂によれば、旦那さんの長期出張についていって今はフランスでバカンスを楽しんでいるらしい。もちろん、マロンも一緒だ。
─お土産をたくさん買って帰るから楽しみにしていてね!
出発前、会う犬全てにそう言ってたらしいけど、マロンの場合一番のお土産は物じゃなくて自慢話だろうから楽しみにはしていない。
「《わーい、ソーセージだ!》」
「《コロコロステーキって、名前の響きが可愛いわよね!》」
ラテはここに来て以来、すっかりソーセージの虜らしい。モカはモカで、ご飯のオシャレな見た目にはしゃいでいる。ついに”映え”というものを知ってしまったようだ。
え、おいら?おいらはお野菜たっぷり丼だ。そんな目で見ないでよ。ご主人様が勝手に頼んだんだから。これだって十分美味しいんだぞ。
「あ、すいません。うるさかったですか?」
「大丈夫よ。今はあんまりお客さんもいないから」
話は全部聞こえてたけどね、とウインクされてご主人様の顔が赤くなる。
「す、すいません…」
「あら、いいじゃない。その噂の課長さん、よっぽどいい男なのね」
「そうなんです!もうイケメンで優しくて仕事もできて怒った後のフォローも完璧で顔・性格・地位・人望全てを兼ね備えているんです」
「恋は盲目って言うけど、ここまですごいのは初めて見たわ」
「ミナミはチョトツモーシンですカラ」
課長の魅力を熱く語るご主人様に対して、みっちゃんさんとクリスティーナはとても冷静だ。これが相手がいる人間とそうじゃない人間の違いか。ご主人様もこれくらい余裕を持てたら…無理だな。
「そういえば、みっちゃんさんの旦那さんってどんな方なんですか?」
「Oh!聞きたいデース!どこで出会いマシタか?」
キラキラと目を輝かせる二人に、みっちゃんさんは苦笑いでほっぺに手を当てる。
「そんな大層なエピソードはないわよ?私がまだ学生の時にバイトしてたペットショップで、お客さんとしてきたのが今の旦那さんってだけ」
「十分素敵なお話じゃないですか!どうやってお付き合いまでいったんですか?」
「最初はワンちゃんを飼うのに必要な物とか、飼育方法の相談に乗ってたの。何回か話す内に意気投合して、私も犬を飼ってたから一緒に遊びに行ったりするようになったのよ。そうしてる間にお互い何となく、ね」
「その”何となく”の詳細を知りたいんですよ!リア充はみんな言うんです、”何となく”とか”自然な流れで”って!自然に何が流れたらカップルが成立するんですか!」
何やらみっちゃんさんの言葉がご主人様の地雷を踏み抜いたらしい。私だって流れたい!とか言いながら、テーブルを叩いている。
「ヴァッチピアーノ、ミナミ。まずはプライベートな話題で仲良くなればいいと思いマス」
「そうねぇ。同じ会社の人なら、お昼を一緒に食べるとか駅まで一緒に帰ってみるとか」
「昼休みは大体仕事が追いつかなくてゆっくりご飯は食べられる状況じゃないですし、終業後は課長が私のフォローで残業になる事がほとんどなので…私の責任だから私も残りますって言っても、一人でやった方が早いって帰されちゃって…」
((ああ…))
ご主人様の自虐的な笑いと台詞に、無言で何かを察する二人。ご主人様も頑張ってるんだけど、それだけで解決できるならとっくにご主人様はバリバリのキャリアウーマンになってると思うんだ。
「ま、まあ一生懸命お仕事を頑張る姿に惹かれる人もいるから、美奈海ちゃんはそのままでいいんじゃないかしら?」
「日本にはドジっ子というジャンルもありマスし、カチョーがマニアックな趣味だという可能性もなきにしもあらずデス!」
みっちゃんさんはともかく、クリスティーナの発言は問題だ。何も悪くない筈の課長が、えげつない巻き込み事故に遭ってるよ。
「《とむ、さっきから全然食べてないけどどうしたの?》」
「《いらないなら、僕が貰ってもいい⁉まだ食べ足りないんだ!》」
モカとラテが不思議そうにこっちを見ている。あぁ、そういえばいたなお前ら。
おいらのお皿を狙って鼻を近づけるラテのおでこを前足で押さえて牽制する。ご主人様達のおしゃべりを聞きながら、おいらは残りのご飯を堪能する事にした。
ついつい白熱、女子の恋バナ。
「Si!前に授業を担当していた生徒さんからアプローチを受けて、OKしマシタ!」
「うわー、うわー、先生と生徒の禁断の恋だぁ。写真ないの、写真?」
「ありマス。アスペッタ…これデス!」
「え!外国の人なの⁉」
「ノー、イタリア人と日本人のハーフデス。仕事でイタリア語が必要になったけど、ご両親も日本育ちでイタリア語話せなくてウチの学校に来マシタ」
「ほえ~、そんな出会い方もあるんだね」
「《彼、とてもハンサムなのよね。私の事も可愛いって褒めてくれるのよ》」
「《僕なんか、最初メスだと思われてたんだよ!でも、家に来るたびにおやつをくれるから大好きなんだ!》」
「《ふ~ん。良かったね》」
興奮気味のご主人様と、嬉しそうなクリスティーナ。その二人に負けず劣らず、騒がしくクリスティーナの彼氏を自慢するモカとラテ。
女の人って、何でこう恋愛の話になるとこんなに盛り上がるんだろう。ラテはちょっと特殊だけど、オス同士でこういう話をする事ってないからおいらにはこの光景が不思議でしょうがない。あと退屈だ。
「ミナミはカチョーとどうなんデス?」
「え、わ、私?」
「この間、二人でお得意先に行くって言ってましたよネ?終わってからチェーナには行かなかったんデスカ?」
「チェーナ?」
「あー、ディナーの事デス」
「むむむ無理だよ!だって、仕事で行ったんだよ⁉」
「Oh!ミナミから誘えば良かったのに」
「そんな事できないよ!」
ご主人様の言う通り、ザ・日本人なご主人様が自分から好きな人にアプローチなんて新しい契約を十件取ってくるより難しいと思う。先輩や友達に課長の話をする時は、課長のこんなところがカッコいいとかあんな事言われたら悶え死ぬとか騒いでるくせに、肝心の課長の前では緊張して事務的な会話しかできないってよく嘆いている。いや、それだけならまだいい。緊張のし過ぎで、いつも以上のミスをしては課長の手を煩わせてしまうのがご主人様だ。
実は、ついこないだも課長から直接言われていた仕事を緊張のあまり内容を勘違いしていたらしく、トラブルになる寸前で課長が気づいて防いでくれたそうだ。その日は、地面にめり込むんじゃないかってくらい落ち込んで帰ってきた。さすがのおいらも、何て言ってあげればいいかわからなかった。そもそも声をかける事はできないんだけど。
「楽しそうね、お二人さん」
そう言って料理のお皿をテーブルに置いた人をご主人様が見上げる。
「みっちゃんさん!」
ご主人様達の後においら達にもご飯の入ったお皿を置いてから、みっちゃんさんはニコリと笑った。
そう、ここはみっちゃんさんのカフェ。無事にオープンしたここに、ご主人様は雨やどりをさせてもらった時の約束通りクリスティーナや石川の奥さん達を連れて何回かランチに来ていた。今日もこうしてクリスティーナ達を誘ってお邪魔している。ちなみに、大金の奥さんにはまだ声をかけられていない。噂によれば、旦那さんの長期出張についていって今はフランスでバカンスを楽しんでいるらしい。もちろん、マロンも一緒だ。
─お土産をたくさん買って帰るから楽しみにしていてね!
出発前、会う犬全てにそう言ってたらしいけど、マロンの場合一番のお土産は物じゃなくて自慢話だろうから楽しみにはしていない。
「《わーい、ソーセージだ!》」
「《コロコロステーキって、名前の響きが可愛いわよね!》」
ラテはここに来て以来、すっかりソーセージの虜らしい。モカはモカで、ご飯のオシャレな見た目にはしゃいでいる。ついに”映え”というものを知ってしまったようだ。
え、おいら?おいらはお野菜たっぷり丼だ。そんな目で見ないでよ。ご主人様が勝手に頼んだんだから。これだって十分美味しいんだぞ。
「あ、すいません。うるさかったですか?」
「大丈夫よ。今はあんまりお客さんもいないから」
話は全部聞こえてたけどね、とウインクされてご主人様の顔が赤くなる。
「す、すいません…」
「あら、いいじゃない。その噂の課長さん、よっぽどいい男なのね」
「そうなんです!もうイケメンで優しくて仕事もできて怒った後のフォローも完璧で顔・性格・地位・人望全てを兼ね備えているんです」
「恋は盲目って言うけど、ここまですごいのは初めて見たわ」
「ミナミはチョトツモーシンですカラ」
課長の魅力を熱く語るご主人様に対して、みっちゃんさんとクリスティーナはとても冷静だ。これが相手がいる人間とそうじゃない人間の違いか。ご主人様もこれくらい余裕を持てたら…無理だな。
「そういえば、みっちゃんさんの旦那さんってどんな方なんですか?」
「Oh!聞きたいデース!どこで出会いマシタか?」
キラキラと目を輝かせる二人に、みっちゃんさんは苦笑いでほっぺに手を当てる。
「そんな大層なエピソードはないわよ?私がまだ学生の時にバイトしてたペットショップで、お客さんとしてきたのが今の旦那さんってだけ」
「十分素敵なお話じゃないですか!どうやってお付き合いまでいったんですか?」
「最初はワンちゃんを飼うのに必要な物とか、飼育方法の相談に乗ってたの。何回か話す内に意気投合して、私も犬を飼ってたから一緒に遊びに行ったりするようになったのよ。そうしてる間にお互い何となく、ね」
「その”何となく”の詳細を知りたいんですよ!リア充はみんな言うんです、”何となく”とか”自然な流れで”って!自然に何が流れたらカップルが成立するんですか!」
何やらみっちゃんさんの言葉がご主人様の地雷を踏み抜いたらしい。私だって流れたい!とか言いながら、テーブルを叩いている。
「ヴァッチピアーノ、ミナミ。まずはプライベートな話題で仲良くなればいいと思いマス」
「そうねぇ。同じ会社の人なら、お昼を一緒に食べるとか駅まで一緒に帰ってみるとか」
「昼休みは大体仕事が追いつかなくてゆっくりご飯は食べられる状況じゃないですし、終業後は課長が私のフォローで残業になる事がほとんどなので…私の責任だから私も残りますって言っても、一人でやった方が早いって帰されちゃって…」
((ああ…))
ご主人様の自虐的な笑いと台詞に、無言で何かを察する二人。ご主人様も頑張ってるんだけど、それだけで解決できるならとっくにご主人様はバリバリのキャリアウーマンになってると思うんだ。
「ま、まあ一生懸命お仕事を頑張る姿に惹かれる人もいるから、美奈海ちゃんはそのままでいいんじゃないかしら?」
「日本にはドジっ子というジャンルもありマスし、カチョーがマニアックな趣味だという可能性もなきにしもあらずデス!」
みっちゃんさんはともかく、クリスティーナの発言は問題だ。何も悪くない筈の課長が、えげつない巻き込み事故に遭ってるよ。
「《とむ、さっきから全然食べてないけどどうしたの?》」
「《いらないなら、僕が貰ってもいい⁉まだ食べ足りないんだ!》」
モカとラテが不思議そうにこっちを見ている。あぁ、そういえばいたなお前ら。
おいらのお皿を狙って鼻を近づけるラテのおでこを前足で押さえて牽制する。ご主人様達のおしゃべりを聞きながら、おいらは残りのご飯を堪能する事にした。
ついつい白熱、女子の恋バナ。
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