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共同生活、ハラハラっす

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 新たに二人を加え、計六人での生活がスタートしてからわずか三日。ゴロが心配していた事態は早くも訪れた。
「くく、お前いい加減にしろや」
「え~?何がですか?」
「メシ食ってる時はメシに集中せぇや。ずっとスマホいじりやがって」
 夕飯での出来事である。今日はぽってぃーが仕事で遅くなるので、五人で食事をしていたのだが、突然どってぃーがドンとテーブルを叩いてくくに物申したのだ。
 というのも、くくは四六時中スマホを手放さず常に何か作業しているのだ。それは食事の時も同じで、ゴロも気にはなっていた。声をかけた方がいいだろうかと悩んでいたところに冒頭のどってぃーの台詞、完全に出遅れ事態が悪い方向へ向かってしまったのは明らかだった。
「え~、でも、これがくぅのお仕事っていうか、溜まってる動画の編集とかSNSの更新とかDMのお返事とか早くせなアカンし~、食べてる時間も惜しいんです~、く♡」
「メシの時間はメシの時間や。食う事に専念しろや。メシに失礼やろ」
「え~、いくらどってぃー先輩でもくぅのお仕事に口出しされるのは違うっていうか~、ご飯はちゃんと美味しく頂いてますよ~?く♡」
「そういう問題ちゃうねん。メシを食うっていうのは、大事な事なんやぞ」
「どってぃー先輩って自由やと思ってたけど、意外とちゃんとしてはるんやね~。さすが、天下の"きよつき"さんやわぁ。再生回数もくぅより多くなってきてるし、くぅ尊敬します~、く♡」
「ああん?」
 まずい。
 どってぃーの表情に焦りを覚えたゴロは、わたわたと二人の間に入る。
「お、お二人とも落ち着いてくださいっす」
「は?まい冷静やし。要するに、こいつまいに負けそうやから焦っとるだけやろ」
 どってぃーの言葉を聞いて、それまで終始笑顔だったくくの頬がピクッと引きる。
「え~?嫌やわぁ。そんな事ないですよ~。どってぃー先輩にはいつもいい刺激を頂いてます~、く♡」
「そんな事あるやろ。言っとくけど、まいメシをちゃんと食わん奴に負けるつもりないからな」
「それを言うならくぅにはくぅのやり方があるんで、そこは譲られへんってだけなんで~、く♡」
「大体、その"く♡"って何やねん。いちいちぶりっ子しやがって、お前男やろ。なよなよすんなや」
「くぅは~、男のなんです~。それに、今の世の中男とか女とかないと思いますけど~、く♡ほな、ごちそうさまでした~」
 両手を頬に当ててリビングを後にしたくく。残されたゴロは、恐る恐るどってぃーに声をかける。
「あ、あの、どってぃー先輩。くくさんはまだここに来て日が浅いですし、おいにはわからないっすが動画の編集というのはとても大変な作業だとお聞きしたっす。それを全部お一人でしてるのだとしたら、きっと少しのお時間も惜しいんじゃないかと…」
「何やねん、ゴロお前、あいつの味方するんか」
「す、そ、そういうわけではないっす。おいも、できる事ならお食事中にスマホを触るのはやめてほしいっす」
「ほんならもっと注意しろや。お前先輩やろ」
「す、すみませんっす」
 どってぃーの言う事はもっともだ。先輩たるもの、ダメな事はきちんと指摘しなければならない。礼儀やマナーを欠いて困る事になるのはくく自身なのだ。
 けれど、彼には彼の言い分があるわけで、今までやってきたやり方をいきなり変えろというのも酷な話だと思ってしまう自分は甘いのだろうか。
「る、る…」
「るっぴーさん、すみませんっす。空気を悪くしてしまったっすね」
 ピリピリとした空気に委縮いしゅくしてしまったるっぴーにも申し訳ない。シロは安定のマイペースというか、全く意に介する様子はないのだが。
 よりによってグループの中でも主張の強い二人がぶつかってしまった事態に、ゴロはどうしたものかと眉を下げた。
「───そうか。それはすまんかったな」
 その日の夜遅く。帰宅したぽってぃーに事の経緯を相談すると、彼はポリポリと頭を掻いた。
「どってぃーはメシの事になるととりわけうるさいからな。自分のやり方が一番やと思ってる節があるし、くくにはくくの事情があるっていうのも理解してもらわんとアカンのやけど、まあすぐには難しいやろな」
「す、それにどってぃー先輩の言う事には一理あるっす。おいも、お食事中のスマホについては気になっていたっすから」
「せやなぁ。これから先、グループとして上手くやっていくにもそういう事はしっかり解決せんと、外でそういうトラブルが起こるのは避けたいしな。ゴロも、余計な苦労かけさせてしもてすまんな」
「す、おいもメンバーの一人っすから。こういう事はみんなで話し合う事が大事だと思うっす」
「その通りやわ。とりあえず、あの二人の事はわいが何とか説得してみるし、ゴロはるっぴーの方も気にかけたってくれるか?」
「っす」



 わかってはいたが、どってぃーとくくの両方の意見を尊重しつつちょうどいい落としどころを探るというのは想像以上に困難を極めた。
「ゴロ先輩、今日のお夕飯は外で食べてきます~、く♡」
「す、わかりましたっす。何時頃に帰ってこられるっすか?」
「え~、何時やろ。今人気の映えスポットを巡ってくるんで、遅なるかもしれません~、く♡」
「そうっすか」
 玄関まで見送りに行くと、ちょうどどってぃーが幼稚園から帰ってきた。
「あ、どってぃー先輩おかえりなさ~い、く♡」
「どこ行くねん」
「え~?もうゴロ先輩には言うたから、あとで聞いてください~。くぅ、忙しいんで~、く♡」
「はあ?お前何やねん、その言い方…」
「いってきま~す」
 バタンとドアが閉まる音が無情に響く。
「~~~っ、何っっっやねんあいつ!」
 ダンダンと地団駄じだんだを踏むどってぃーに、ゴロはオロオロと声をかける。
「ど、どってぃー先輩。くくさんはお仕事で出かけられたんすよ。そんなに怒らないでくださいっす。同じグループの仲間なんすから」
「仲間やったら余計にちゃう事はちゃうって言わなアカンやろ!あんな奴と一緒にパフォーマンスなんかできひんからな!ステージ舐めとんのか!」
「す、きょ、今日は焼肉をしようと思ってるっす!いっぱいお肉を焼くので、機嫌を直してくださいっす!」
「焼肉!早よ言えや!でもその前におやつ!」
「は、はいっす!」
 どうにか関心をらす事ができた事に安堵するが、ゴロはいつまでこんな日々が続くのだろうとため息をついた。



 その夜、眠りについていたゴロは誰かの足音で目が覚めた。
「す…?」
 目をショボショボさせながら時計を見ると、真夜中の二時を過ぎている。
「誰かトイレっすかね」
 そう思ったが、何となく気になり廊下を見てみる。すると、自分の斜め向かいの部屋のドアが少しだけ開いているのが見えた。
(あそこはくくさんの…)
 遅くなるとは言っていたが、まさか今帰ってきたのだろうか。
─もっと注意しろや。お前先輩やろ
 どってぃーに言われた事が頭によぎる。いくら動画のネタのためとはいえ、こんな深夜まで出歩くのはさすがに見逃せない。
(び、ビシッと言うべき、っすかね)
 きちんと話せば、きっとわかってくれる筈だ。
 ドキドキしながらそっとドアの隙間から中の様子を窺う。くくらしいフリルでいっぱいのベッドの上に、何かの影が一つ。近づいてみると、くくが小さな寝息を立てて眠っていた。わざわざ起こしてまで話す必要はないだろう。風邪をひかないようにとブランケットをかけてやり、静かに部屋を出ようとしたゴロの目にあるものが留まった。
「これは…」
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