おしごとおおごとゴロのこと そのさん

皐月 翠珠

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新メンバー、ようこそっす(後編)

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 ぽってぃーから紹介されたくくは、自分からどってぃーに近づいてスマホを取り出す。
「"きよつき"のどってぃーさんと同じグループで活動できるなんて、嬉しいわぁ。お写真撮ってもええですか~?はい、くっく♡」
「何やねんお前、馴れ馴れしいな」
 口ではそう言いながらも、バッチリ決めポーズで写るどってぃーはさすがだとゴロは感心する。
 何枚かツーショットを撮ると、くくはその場でスイスイと写真の加工を始めた。
「ご縁があってどってぃーさんとお会いしました~ってぬいスタに上げてもいいですか~?あ、もちろんグループの事はちゃんと伏せますから安心してください~。お部屋の感じもわからんように加工しますから~、く♡それから、今度コラボ企画しませんか~?くぅ、色々考えてきたんです~、く♡」
「別にええけど、まいくま子の進行やないとやる気ないからな」
「やぁ~、ラブラブですや~ん。くぅ、全部一人でやってるから羨ましいわぁ、く♡」
 ところで、と垂れ気味の目がこちらに向き、ゴロはドキッとする。
「ゴロさんて~、ぽってぃーさんやどってぃーさんの事"先輩"て呼んではるんやてねぇ?」
「す、そうっす。おい、田舎育ちなので先輩とか後輩とかいなくてずっと憧れてたんす」
「え~、何かめっちゃいい~。田舎って距離感なくて、みんな仲よろしいんやねぇ」
「っす!…す?」
 故郷を褒めてもらえた事が嬉しくて大きく頷いたゴロだが、何か言葉尻に引っかかるものを感じ首を傾げる。
(何すかね、この感覚?)
「良かったら~、くぅもぽってぃーさん達の事"先輩"って呼ばしてもろてもいいですか~?く♡」
「ん?おお、別に構わんで」
「好きにしろや」
「さー」
「やったぁ!ほなこれからよろしゅうお願いします、ぽってぃー先輩、どってぃー先輩、シロ先輩、ゴロ先輩、るっぴー先輩♡」
「すっ?お、おいもっすか?」
「え~、アカンかった~?」
 不意打ちの"先輩"呼びに驚くと、くくがこちらに近づいて上目遣いで尋ねる。
「す、そんな事ないっす。とても嬉しいっす。よろしくお願いしますっす、くくさん」
「はぁい、く♡」
 動画で見ていた通りかなり個性が強いが、先輩と言われて悪い気はしない。ゴロは呼び名に相応しい存在であろうと、ふんすと荒い鼻息を吐いた。
「あー、その辺でええか?くくばっかり仲を深めても何やからな。るっぴーからも挨拶させたってくれ」
 ぽってぃーの言葉で、一同の視線が一気にるっぴーへ向く。気配を消すように立っていたるっぴーは、急に注目を浴びた事で目をグルグル回しながらフードを取った。
 透明感のある淡いブルーの毛色がツヤツヤと輝いている。華やかなくくとは対照的だが、どちらも顔面偏差値が高い。
「る、る、えと、あの、ほ、ほっぷ・るっぴーです。よよ、よろ、よろし…よろしくお願いひまふ!」
 相当緊張していたのだろう。大事なところで盛大に噛んだ。るっぴーは頭を下げていたが、背の関係でゴロからは真っ赤になった頬が見えた。
「ケラケラケラケラ!お願いひまふ、やて!変な奴!」
「アハハ、るっぴー先輩って楽しいぬいぐるみなんやね~。さすが一般公募で選ばれただけあるわ~、く♡」
「る…す、すみません…」
 爆笑するどってぃーとくくに対し、蚊の鳴くような声で謝るるっぴーを不憫に思い、ゴロは助け舟を出す。
「どってぃー先輩、くくさん。るっぴーさんは緊張してるんすよ。おいも初めてぽってぃー先輩に会った時は、ドキドキで気が気じゃなかったっす」
「ふーん、でもそんなんでこれからやっていけんのか?」
 急に核心をついてくるのが彼の怖いところだ。真顔で尋ねるその様子は、数秒前との高低差がすごい。これにはゴロも思わず口を閉じる。
「わかってんのか?まいらプロやぞ?そんなきょどーふしん挙動不審で見てる奴ら楽しませる事できるんか?」
「る…る…その…みいは…」
「どってぃー、そこまでや。心配いらん。るっぴーはちゃんとええもん持っとる。わいが選んだんや、間違いない」
 うつむいたままのるっぴーに代わりぽってぃーが答えると、どってぃーは一言「あっそ」とだけ言いプリンのおかわりを取りにキッチンへ行った。
「る…」
「るっぴーさん、どってぃー先輩は最初はあんな感じっすが一度心を開くと仲良くしてくれるっす。その内普通にお喋りしてくれると思うので、あまり気に病まないでくださいっす」
 しょんぼりとしているるっぴーにそう声をかけると、小さな頷きが返ってきた。
「とりあえず、二人には家の事一通り説明しよか。ゴロ、部屋に案内したってくれるか?」
「わかりましたっす」
 ぽってぃーに頼まれ、ゴロはこちらっすと階段へ向かった。



「───と、大体生活についてはこんな感じっす。何かご質問はあるっすか?」
「る、る、だ、大丈夫です」
「はぁい、く♡」
 各々の部屋に荷物を置いてもらい、家の中を案内して回ったゴロ。るっぴーとくくは、片や熱心にメモを取り、片やスマホで動画を撮りながらとそれぞれのやり方で理解している(ただ、くくについては終始自撮りだったのでちゃんと見られているか不安は残った)。
 ゴロがエプロンのポケットに入っていたスマホで時間を確認すると、正午を少し過ぎていた。
「じゃあ説明はこれくらいにして、お昼にするっす。お二人とも何がお好みかわからなかったので無難にカレーをお作りしているんすが、お嫌いじゃなかったっすか?」
「る、る」
「わぁ、カレーですか~?くぅ、めっちゃ好きです~、く♡」
 わかりやすくはしゃぐくくはともかく、コクコクと頷いているるっぴーもテンションが上がっているようだ。何だか弟達を思い出したゴロは、微笑ましく思いながら下へ下りる。
「ゴロ~、メシ~!カレーやろ、早よ食いたい!」
「今準備するっす」
 大きな寸胴鍋を覗き込んでいるどってぃーを引き止め、前足を洗ってカレーを温める。その間に棚から人数分の皿を出し、炊飯器に入った炊き立てのご飯を軽く混ぜる。
「あ、あの…!」
「す?」
 声をかけられ振り返ると、るっぴーがカウンターの陰から顔を覗かせている。
「どうかしたっすか?」
「る、あの、その………ますか?」
「す?」
 何か言ったようだが、声が小さく聞き取れなかったので近づいて耳を傾ける。
「あの…何かお手伝いできる事はありますか?」
 思ってもみない申し出に、ゴロはパチパチと目をまたたきるっぴーが言った言葉を脳内で咀嚼そしゃくする。そしてその意味を理解すると、パタパタと前足を振って言った。
「い、いえ、大丈夫っすよ。これはハウスキーパーであるおいの仕事っすから」
「る…す、すみません。出過ぎた事を言ってしまいました…」
 申し訳なさそうにうつむくるっぴーにゴロは少し考え、じゃあと冷蔵庫を指差す。
「お言葉に甘えて、この中に入ってるサラダのお皿を出してテーブルへ持っていってもらえるっすか?」
「!は、はい!」
 心なしか嬉しそうにしながら言われた事をやる姿を見て、そっと微笑む。恐らくるっぴーは自分とタイプが似ているのだと思う。慣れるまでは何かやる事がある方が気が紛れるだろうし、彼には今後もお手伝いをお願いしようと思った。
「どってぃー先輩、一緒に食べてるところ動画撮っていいですか~?く♡」
「はむはむはむ、もぐ、もごご(何やねん、邪魔すんなや)」
 くくはくくで、どってぃーにグイグイ絡んでいる。今のところ大丈夫そうだが、食事を妨げられたどってぃーが怒らないかは気になるところだ。
「るっぴーさんもたくさん食べてくださいっす」
「る、ありがとうございます」
 自分の隣で丁寧に手を合わせるるっぴー。同じように手を合わせ、賑やかになった食卓を見ながらゴロはこれからどんな新生活が待っているのだろうとワクワクしながらスプーンを握った。
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