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1.幼少期。

31.俺は、強者なんかじゃない。 Side ヴォルフ

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俺の名前はヴォルフ・ライアン。現在、16歳だ。俺には、兄弟が多くいる。しかし、辺境伯でありながら父は、子供をたくさん作りやがる。おかげで、うちは財政難に陥っている。それ故に、貴族位を剥奪されかねない事になっている。俺は、兄弟の為、身を粉にして、働いてきた。



俺には、ディーノという同期入門した奴と仲が良かった。あいつは、魔法が使えず騎士隊に所属していたが、あいつとは、部隊こそ違えど、仲間意識が強かった。



だから、1年前、ディーノが死んだと聞いた時、愕然とした。



あいつが、死んだ・・・?



俺は、死の森デッドリーフォリーに行ってそれで、亡くなったと聞いた。始めは嘘だろ。そう、思った。あいつが、妹を置き去りにして死にに行くようなところに行く訳がない。何か、裏があると思った。裏があると思いながらも、死の森デッドリーフォリーを探し回った。


せめて、あいつの持っていた品でも持っていけたら。なんて、希望的観測かもしれねーって思った。でも、あいつの妹、エレナには何か、何か、してやらねーと!!


そう、思っていたのに。



俺が、死の森デッドリーフォリーで探しているうちに、奴らはエレナを奴隷にさせたと聞いて、俺は物凄い怒りを感じた。でも、エレナを取り戻す金がねぇ。俺は学園に通いながら、さらに魔法騎士隊の仕事に励んだ。そして、情報収集に務めた。


そうして、約一年。やっと、エレナを見つけた。酷い顔をしていた。それに、両腕がなかった。俺は、とてつもない黒い感情に、飲み込まれていった。


あぁ、エレナをこんな目に遭わせたのはどこのどいつだ。全て、俺が、潰してやる。



俺は、躍起になった。そして、ディーノの同僚が、あいつを死の森デッドリーフォリーに誘い込んだんだ。そして、見殺しにした。あいつには、武器を持たせず、死の森デッドリーフォリーに置いてけぼりにしやがった。


あぁ、こんなにも恨みを募らせた事はねー。俺は、ちょっとだけ職権乱用して、ディーノの同僚を検挙した。



それでも、俺の気が済む事は、なかった。最後に、エレナに一言言いに行こう。そう、思った。でも、そこにはもう、エレナの姿はなかったんだ。


遅かったか・・・。


俺は、とてつもない喪失感に襲われる事になった。でも、きっちりと仕事はこなしているし、学園にもちゃんと通っている。この気持ち、どうしたらいいのか。






そんな想いをガラリと変えたのは、たった今起きている出来事・・・。俺の目の前には、黒髪の眼鏡をかけた若い少年はバッサリと言い切る。


「この際、はっきりと『黒狼』に言っておく。俺が、エレナを買った。」
「あぁ!?俺を、『黒狼』って呼ぶな!!それに、エレナを買っただと?」
「あぁ、あの子は従順だな。俺を、慕ってくれているんだから。」


正直、ムカついた。エレナは良い子である。奴隷になっちまったら、言う事はおとなしく聞くだろう。それを、むざむざと言われて正直、ムカついた。


「あぁ!?てめぇ、エレナをいいようにこき使いやがって!!ふざけんなよ!!」


目の前の少年は口角を上げて、口元を歪める。


「でも、そういうところ・・・スゲーそそられる。」


少年は一枚の写真を取り出し、俺に向かって投げて一言。


「・・・お前もいつまでも死者の面影を追ってんじゃねーよ。」


写真を見ると、そこには、驚く光景が写っていた。ディーノとエレナが笑って過ごしている写真だ。しかも、怪我が治っている。


「これ・・・!」


少年は大きな大剣を俺に投げてきやがる。


「これは、魔剣・レーヴァテイン。炎属性の大剣。お前には好都合な剣だろ。これで、メイディス王子を、この国の国王にしてくれよ。あいつには、それだけの素質があるんだから。」


そして、煙のように去っていく。俺ですら、みすみす逃してしまった。あいつは、一体・・・?疑問に思いながらも、俺は、喪失感から脱していた。
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