7 / 8
7
しおりを挟む翌朝、俺の目覚めは快調だった。隣にはすぅすぅ気持ちよさそうに小さく寝息をたてる憂吾が眠ってる。白い肌にさらさらの金髪が流れる。どうして寝顔もこんなに爽やかなんだ。腹が立って枕を投げた。
「憂吾、起きろ」
部屋中に散らばるのは、無数のゴムとティッシュ。生々しい匂いがまだ充満してるような気がして、窓を少し開けた。
昨日、俺たちはセックスをした。これが初めてじゃない。これまで何度もしたことがある。友達同士でセックスするなんて普通ありえないだろう。
「ん~、りょぉ………ちゅぅして……」
「いやだ」
「けち……」
ありえないなんて百も承知だ。でもこいつと居ると妙にムラムラするというか…。自分でもよく分からないんだ。性的にこいつを意識したことないのに下半身が熱くなって反応してしまう。
「……前は目覚めのキスをしてくれていたのに」
「前?」
「やっぱり王命くらい強制力のある世界のほうが良いな……」
「何言ってんだ?」
片眉を上げる。すると、ふに、と唇に温もりが触れる。
「ふふっ、何でもない。遼おはよ」
「……おはよ」
げんなりと返事をした。そうすれば唇を舐められる。ちろりと覗く赤い舌が妙に色っぽい。ふわりと漂うのは花の香りだ。こういうのは俺みたいな男にするんじゃなくて、お前に見合う可愛い女子にしてやれよ…と心の中で呟いた。
「てかさ、昨日のアレなんだよ」
「アレ?」
「『何百年何千年想い続けた』とか何とか言ってたろ」
「ああ、聞こえてたんだ」
「聞こえてたわ」と投げやりに言って部屋着を脱ぐ。
「……」
「憂吾?」
返事がないので怪訝に思い、振り返る。上半身裸になったところで、ぐいっと距離が縮まった。朝だというのに浮腫み知らずの顔面国宝が俺をじっと見つめる。目を逸らそうとすれば、形の良い唇は艶かしく動いた。
「気になる?」
「……え」
キョトンと目を丸くすれば憂吾は嬉しそうに笑った。
「僕はね、遼と結ばれるために何回も死んだんだよ」
「は……?」
「僕、前世の記憶があるんだ」
「え!?」
めちゃくちゃ大きい声を出してしまった。ハッとして口を手でおさえる。
…まさか……まさかまさか……
ごくりと唾を飲んだ。
「…まじ?」
「うん。まじ」
驚いた。
憂吾の瞳は緑色だ。眼窩に宝石を埋め込んだような美しい瞳だ。前世、俺が恋に落ちた姫と同じ色。そして髪の色もあの姫と同じ、月のような金色だ。
ずっと思ってたんだ。憂吾はあの姫そっくりだ、と。少し…期待した。憂吾はあの姫の生まれ変わりなのかもしれない。あの世界で結ばれなかったから、時空を超えて、再び出逢えたのかもしれない。そんな期待を持って、もごもごと口を開いた。
「じ、実はさ……俺も…あるんだ。前世の記憶」
「……へえ」
「…断片的なんだけどさ……」
結構衝撃的な告白をしたつもりだ。しかし憂吾は特段驚いた様子もなく頷く。
「…思ってたことがあるんだ」
「なに?」
「お前の…顔……似ててさ……俺が……好きだった人に…」
『好きだった』と発した瞬間だった。憂吾の瞳が暗く染まった気がした。不穏な空気を察して口を閉ざす。
「顔?ああ……僕この顔嫌いなんだ。…なんでかって?―………人の大切なものを盗りそうな顔じゃない?」
「…っ……」
冷たい言い方だった。心底憎い相手を思い起こすように、憂吾は綺麗な顔を歪めた。
「…まあでも良かった。遼はやっぱりこの顔が好きなんだね。安心したよ。吐き気を我慢して女を集めた甲斐があった。ああ、別に怒ってないよ。……でも…いつも受け身の遼が自分から告白したのは気に入らなかったかな」
「な…なに言って……」
「僕の顔が好きなら――」
その目は徐々に迫り、美しい少年は俺の腕を掴み覆い被さる。
「この世界では…よそ見しないでね?」
緑色の瞳が灰色に濁ったような気がした。そのまま唇が重なる。様々な角度から、舌が絡まる。ようやく離れたと思えば、俺たちを繋ぐように銀色の糸が垂れる。青褪める俺に対して、憂吾はうっとりと微笑んだ。
「約束」
暗い表情で微笑む憂吾。唇の端がぴくりと動く。怒りを必死に抑えようとするような、そんな表情だった。すると、ぎゅっと抱き寄せられ、「もし」と憂吾は続ける。
「…また………僕たちを邪魔するような奴が現れたら……四肢を切断するし……次は内臓を引き摺り出して……排除するから…」
「な、なんだよそれ………………」
物騒だな…。あまりに小さな声で真剣に言うからぞわっと鳥肌が立つ。怖い。あの姫君はこういう事を言うような人じゃなかった。
「……憂吾は……前世“誰”だったんだ?」
恐る恐る訊いてみた。
10
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
俺が勝手に好きな幼なじみに好きって十回言うゲームやらされて抱えてたクソでか感情が暴発した挙げ句、十一回目の好きが不発したクソな件。
かたらぎヨシノリ
BL
幼なじみにクソでか感情を抱く三人のアオハル劇場。
────────────────
────────────────
幼なじみ、美形×平凡、年上×年下、兄の親友×弟←兄、近親相姦、創作BL、オリジナルBL、複数攻3P、三角関係、愛撫
※以上の要素と軽度の性描写があります。
受
門脇かのん。もうすぐ16歳。高校生。黒髪平凡顔。ちびなのが気になる。短気で口悪い。最近情緒が乱高下気味ですぐ泣く。兄の親友の三好礼二に激重感情拗らせ10年。
攻
三好礼二。17歳。高校生。かのん弄りたのしい俺様王様三好様。顔がいい。目が死んでる。幼なじみ、しのぶの親友。
門脇しのぶ。17歳。高校生。かのん兄。チャラいイケメン。ブラコン。三好の親友。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【BL】攻めの将来の為に身を引こうとしたら更に執着されてハメられました
めめもっち
BL
名前無し。執着ハイスペ×地味な苦学生。身分格差。友達から始めた二人だったが、あまりにも仲良くしすぎて一線を越えてしまっていた。なすがまま流された受けはこのままでいいのだろうかと悩んでいた中、攻めの結婚を聞かされ、決断をする。
2023年9月16日付
BLランキング最高11位&女性向け小説96位 感謝!
お気に入り、エール再生ありがとうございます!
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
転生して勇者を倒すために育てられた俺が、いつの間にか勇者の恋人になっている話
ぶんぐ
BL
俺は、平凡なサラリーマンだったはずだ…しかしある日突然、自分が前世プレイしていたゲームの世界の悪役に転生していることに気が付いた!
勇者を裏切り倒される悪役のカイ…俺は、そんな最期は嫌だった。
俺はシナリオを変えるべく、勇者を助けることを決意するが──勇者のアランがなぜか俺に話しかけてくるんだが……
溺愛美形勇者×ツンデレ裏切り者剣士(元平凡リーマン)
※現時点でR-18シーンの予定はありませんが、今後追加する可能性があります。
※拙い文章ですが、お付き合い頂ければ幸いです。
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる