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 翌朝、俺の目覚めは快調だった。隣にはすぅすぅ気持ちよさそうに小さく寝息をたてる憂吾が眠ってる。白い肌にさらさらの金髪が流れる。どうして寝顔もこんなに爽やかなんだ。腹が立って枕を投げた。

「憂吾、起きろ」

 部屋中に散らばるのは、無数のゴムとティッシュ。生々しい匂いがまだ充満してるような気がして、窓を少し開けた。

 昨日、俺たちはセックスをした。これが初めてじゃない。これまで何度もしたことがある。友達同士でセックスするなんて普通ありえないだろう。

「ん~、りょぉ………ちゅぅして……」
「いやだ」
「けち……」
 
 ありえないなんて百も承知だ。でもこいつと居ると妙にムラムラするというか…。自分でもよく分からないんだ。性的にこいつを意識したことないのに下半身が熱くなって反応してしまう。

「……前は目覚めのキスをしてくれていたのに」
「前?」
「やっぱり王命くらい強制力のある世界のほうが良いな……」
「何言ってんだ?」

 片眉を上げる。すると、ふに、と唇に温もりが触れる。

「ふふっ、何でもない。遼おはよ」
「……おはよ」

 げんなりと返事をした。そうすれば唇を舐められる。ちろりと覗く赤い舌が妙に色っぽい。ふわりと漂うのは花の香りだ。こういうのは俺みたいな男にするんじゃなくて、お前に見合う可愛い女子にしてやれよ…と心の中で呟いた。

「てかさ、昨日のアレなんだよ」
「アレ?」
「『何百年何千年想い続けた』とか何とか言ってたろ」
「ああ、聞こえてたんだ」

 「聞こえてたわ」と投げやりに言って部屋着を脱ぐ。

「……」
「憂吾?」

 返事がないので怪訝に思い、振り返る。上半身裸になったところで、ぐいっと距離が縮まった。朝だというのに浮腫み知らずの顔面国宝が俺をじっと見つめる。目を逸らそうとすれば、形の良い唇は艶かしく動いた。

「気になる?」
「……え」

 キョトンと目を丸くすれば憂吾は嬉しそうに笑った。

「僕はね、遼と結ばれるために何回も死んだんだよ」
「は……?」
「僕、前世の記憶があるんだ」
「え!?」

 めちゃくちゃ大きい声を出してしまった。ハッとして口を手でおさえる。

 …まさか……まさかまさか……

 ごくりと唾を飲んだ。

「…まじ?」
「うん。まじ」

 驚いた。

 憂吾の瞳は緑色だ。眼窩に宝石を埋め込んだような美しい瞳だ。前世、俺が恋に落ちた姫と同じ色。そして髪の色もあの姫と同じ、月のような金色だ。

 ずっと思ってたんだ。憂吾はあの姫そっくりだ、と。少し…期待した。憂吾はあの姫の生まれ変わりなのかもしれない。あの世界で結ばれなかったから、時空を超えて、再び出逢えたのかもしれない。そんな期待を持って、もごもごと口を開いた。

「じ、実はさ……俺も…あるんだ。前世の記憶」
「……へえ」
「…断片的なんだけどさ……」

 結構衝撃的な告白をしたつもりだ。しかし憂吾は特段驚いた様子もなく頷く。

「…思ってたことがあるんだ」
「なに?」
「お前の…顔……似ててさ……俺が……好きだった人に…」

 『好きだった』と発した瞬間だった。憂吾の瞳が暗く染まった気がした。不穏な空気を察して口を閉ざす。

「顔?ああ……僕この顔嫌いなんだ。…なんでかって?―………人の大切なものをりそうな顔じゃない?」
「…っ……」

 冷たい言い方だった。心底憎い相手を思い起こすように、憂吾は綺麗な顔を歪めた。

「…まあでも良かった。遼はやっぱりこの顔が好きなんだね。安心したよ。吐き気を我慢してあれを集めた甲斐があった。ああ、別に怒ってないよ。……でも…いつも受け身の遼が自分から告白したのは気に入らなかったかな」
「な…なに言って……」
「僕の顔が好きなら――」

 その目は徐々に迫り、美しい少年は俺の腕を掴み覆い被さる。

では…よそ見しないでね?」

 緑色の瞳が灰色に濁ったような気がした。そのまま唇が重なる。様々な角度から、舌が絡まる。ようやく離れたと思えば、俺たちを繋ぐように銀色の糸が垂れる。青褪める俺に対して、憂吾はうっとりと微笑んだ。

「約束」

 暗い表情で微笑む憂吾。唇の端がぴくりと動く。怒りを必死に抑えようとするような、そんな表情だった。すると、ぎゅっと抱き寄せられ、「もし」と憂吾は続ける。

「…また………僕たちを邪魔するような奴が現れたら……四肢を切断するし……次は内臓を引き摺り出して……排除するから…」
「な、なんだよそれ………………」

 物騒だな…。あまりに小さな声で真剣に言うからぞわっと鳥肌が立つ。怖い。あの姫君はこういう事を言うような人じゃなかった。

「……憂吾は……前世“誰”だったんだ?」

 恐る恐る訊いてみた。
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