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しおりを挟む生まれ変わり、という言葉を信じるだろうか。人間は必ず死ぬ。そして次の生を得る。その過程で前世の記憶は消える。だが、神はたまにミスを犯すらしい。ごく稀に、前世の記憶が消されぬまま、次の生を得てしまった人間が生まれてしまうんだ。
「……あいつマジで最悪」
それが俺。
前世、俺は王室直属の騎士だった。主は、血花の妖精と謳われた王子だ。見た目は華奢で中性的な容姿をしているくせに、一人で一千騎討伐は容易く、剣術は飛び抜けているとか、そういう次元じゃなかった。あれは化け物だ。共に戦場に向かったときは味方で良かったと心底思った。狂ったように灰色の瞳孔を開き、笑い、血肉を浴びて戦場を舞う様は妖精というよりも、本能のまま暴れる猛獣のようだった。
王子と出逢ったのは、俺が田舎の平民学校で剣術を習っていたときだ。ある日、俺の住んでいた村になんの前触れもなく王子がやって来た。あのときの村人たちの困惑っぷりはすごかった。というのも、この村は王都から遠く遠く離れた山奥にある。わざわざ王族がやって来るような名所ではない。土にキスをする勢いで地面にひれ伏せる村長を遠くに見ながら、剣術の訓練に向かっていたときだ。王子は村人を掻き分け、こちらに一直線に進んできた。そして、やたらと熱い眼差しで俺を見つめて言ったんだ。
『………見つけた』
そのまま流されるがまま、俺は王室直属の騎士に任命された。主な任務は王子の護衛。戦闘狂の王子に護衛なんて不要だろって感じだが王命とあらば従うしかなかった。だから渋々だが四六時中王子の傍に引っ付いていた。城の使用人には“金魚の糞”だの“腰巾着”だの言われてたが、聞こえないフリをしていた。そういう奴らって不思議なことに近いうちに城から姿を消してたから特段気にする必要がなかった。
そんなある日、王子は隣国の姫君たちと縁談を始めた。好みに偏りがないのか、様々なタイプの姫君を集めては『リョウ、どう?』と質問された。どうもこうも俺が選ぶものじゃないだろうと呆れていたが、その中に、それはそれは美しい姫君がいた。ブロンドの長い髪に、緑色の瞳。陶器のような白い肌。まさに天使だった。
俺は一目惚れした。その姫君に。
淡い恋だ。どうせ成就なんかしない。だから密かに思い、見つめていた。目が合うことなんて殆どなかったが、前世の俺は夢を見てしまったんだ。あの綺麗な姫君と少しだけ会話がしたい。挨拶だけでもいいんだ。言葉を交わしたい。いつからか俺は欲を出してしまった。
『………ぉ……お慕い申しております』
騎士が、主以外の人間に跪くなんてありえない。だが俺はどうしても言いたかった。この想いを伝えたい。…あわよくば、俺を意識して欲しい。
勿論、俺の想いはあっさりと破れた。でも清々しかった。自分の気持ちに素直になり行動したことなんて初めてだったから、心は達成感で満たされていた。
王子の元に帰るときだった。
『…………………………ああいうのが、好きなんだね』
前世の記憶はここまでだ。
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