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あたしの乳揉役に任じるわ
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焚き火を前に、ふたりならんで夕食をとる。
「アイラ、作戦なんだけど」
「誘引して撃滅する。いつもどおりにね」
「彼女、ずいぶん賢そうだよ。今日だって、おそらく此方に気づいていた」
「そこでこれよ」
ふたつに割った塊根を示す。
「巨大化するほど食べるんだから、大好物に違いないね」
「搾り汁をまいて匂いで誘き寄せようと思うの。後のことを考えると水場の近くがいいわね」
「罠は無しでいこう。凝ったものを作るには時間も資材も足りない」
「そうね。なまなかな仕掛けが通じるとは思えないわ」
「でかさってのは、それ自体が武器だからね」
マリクはアイラの薄い胸を盗み見る。
アイラは座ったまま裏拳を放つ。
マリクは額で受ける。
「殴るわよ」
「殴ってから言わないでよ」
アイラはイクトゥス芋の皮を削ぎはじめる。
「ここからは実験の時間よ」
「僕が手伝うことはある?」
「まだないわ」
切り分けた可食部を擦りおろす。
どろどろとした土色の懸濁液を片手鍋にあける。
「これを精製して育乳薬にするんだけど、まだ製法は教えてもらってないの。でも、直接食べても効果があるんだって」
「えーっ、ちょっと、危なくないの?」
「おーほっほっ、あたくし、王立魔術学院の学生として錬金術の発展に我が身を捧げることを厭わなくってよ」
「しらじらしいなあ」
アイラは匙ですくって口に運ぶ。
ごくんと飲みくだす。
「土の味がするけど、食べられなくはないわ」
二匙、三匙と口に運ぶ。
「大丈夫かい?」
「大丈夫よ。ファリ姐に用量は教わったから」
「ファリ先輩がボインなのってもしかして……」
「あれは自前だって聞いたわ」
アイラは匙を置いて口をぬぐう。
鍋に残った汁を手で絞りながら瓶に詰めていく。
「こんなところかな。マリク、絶対飲んじゃだめだからね」
「飲まないよ!」
「男性機能に障害が出るかもしれないわ」
「ひぃ!」
◇◇◇
低い月に背を向けて、マリクは夜の森を眺めていた。
歩哨に立ち、魔力視を修練している。
意を決して、アイラはその背に声をかける。
「マリク」
「ん、どうしたんだい、アイラ。交代はまだだよね」
「あのね、胸がむずむずするの」
「なんだって!? あんなの飲むからだよ!」
マリクは振りむいて叱りつける。
目を潤ませて立つアイラを認め、語気を落ちつけて訊く。
「大丈夫? 腹痛とか吐き気とかはない?」
「うん、それはないんだけど、なんだか変な気分になっちゃって」
アイラの一世一代の演技であった。
イクトゥスに即効性の催淫作用はない。
それでも目元は緩み、頬が紅潮する。
期待と不安に胸を高鳴らせながら、真剣に心配してくれるマリクに申し訳ないとも思う。
「今からでも、吐き出したほうが良いんじゃないかな」
「いいの、大丈夫だから。それより、胸をさすってくれないかしら」
「え!?」
「お願い、マリク、あんたにしか頼めないの」
必殺の上目遣いで懇願する。
マリクはごくり、覚悟と唾を嚥下する。
「わかった」
おずおずと伸ばされた手が、ブラウスの裾から潜りこむ。
肌着の上から乳房を撫でさすられる。
「どうかな、楽になった?」
「うん。でも、直接さわってほしいかも……」
マリクはアイラの手を取り、テントに導く。
アイラは足を崩して座り、うしろから抱きしめられて熱い吐息をもらす。
ブラウスのなかで肌着がめくりあげられる。
熱い掌が乳房を撫ぜる。
「んっ、あ……っ」
声がもれてしまう。
マリクが耳元に問うてくる。
「ごめん、痛かった?」
ふるふると首を振って否定する。
「ちがうの。あのね、きもちいいの、莫迦マリク」
乳房の付け根をやさしく撫でられる。
ふもとから這いのぼった指先が、頂上に触れないで帰っていく。
もどかしくてせつなくて身をよじる。
アイラは頬をふくらませる。
「なんか上手で、むかつく……ふぁっ、さわりかた、えっちぃよぅ」
「指南書で勉強したんだ」
「なによ、それぇ。こらぁ、くるくるするなぁ……ふぇっ、はぅっ、にゃっ、にゃーっ」
乳輪をくるくるとなぞられる。
ときどき爪で掻いてくる。
そのたび身体がぴくりと反応する。
首をめぐらし、蕩けた瞳でマリクをねめあげる。
「マリクぅ、さきっちょ、さわってくれないの?」
「さわるよ」
低い声の宣言にときめいてしまう。
指と指で乳首を軽くつままれる。
上下で挟んだかと思えば、次は角度を変えてくる。
待ちかねていた刺激に嬌声をあげる。
「ふぁっ……あっ、あっ……だめだめ、それだめぇ」
「すごくかわいいよ、アイラ」
耳元でささやかれて、背筋をぞくぞくが駆けのぼる。
内腿をもじもじすりあわせる。
乳首をつまんだまま、指先で撫でられるとたまらなくなる。
「なんで、そんなにぃ……んふぅっ。もぉ、ばかぁ……あたしのちくびであそぶなぁ」
撫でるだけでなく、くりくり捻られたり、とんとん叩かれたり、かりかり掻かれたりする。
腰をくねらせる。
目を開けていられない。
「んあっ。あひっ。ひぅん……あたし、だめになるぅ」
「アイラ、こっち向いて」
霞みがかった視界のなか、アイラはマリクを見かえり、唇を突きだす。
口づけされる。
舌をのばして、マリクの唇をなめる。
舌と舌が絡み合う。
「んーっ、んーっ、んんっ」
接吻しているあいだも乳首をいじられて、唇がふさがれているから喘げなくて、快感を逃せなくて、ぴんと脚をのばしてしまう。
身体が跳ねて、唇が離れる。
「もう、だめ……っ、だめだからぁ……やめてぇ」
マリクは手を止めてくれない。
もう我慢できない。
息をとめて、足の指をそらせて達する。
「んっ、んぅうっ……。ばかばかぁ。いけずぅ。おたんちん」
脱力した身体をマリクにあずける。
まくれあがった肌着を戻され、あたためるようにおなかを掌で押さえられる。
「おちついた?」
「うん。ちょっと、その、むらむらしてたみたい」
「ちょっとかなあ。心配したんだよ」
「ごめん、あと、ありがとう」
「王都に帰ってファリ先輩に精製してもらうまで飲んじゃだめだからね」
「えっ、飲むわよ。あんたがいるんだから大丈夫でしょ。そうだわ、マリク、あたしの乳揉役に任じるわ。自分で揉むより、男のひとに揉まれたほうがおおきくなるっていうし」
俗説である。
反証もある。
アイラの両親はいまも仲睦まじいが、母親の乳房はアイラとそれほど変わらない。
平たい胸族なのである。
「ちょっと待って。僕、アイラのおっぱい揉んでないよ」
「なによ、あんなに情熱的にさわったくせに……あれ!? ほんとうね、揉まれてないわ」
「ふんわりやさしく触れるべし、乱暴に揉んではならぬ、って指南書に書いてあったから」
「やさしく揉めばいいでしょうに。とにかく、あんたは毎日あたしの胸を揉むの! これは魔法薬研究部の部活動だから拒否するはないわよ」
「拝承」
◇◇◇
野外演習二日め、白みはじめた空の下、昏い森をふたりは行軍する。
浅層には、まがりなりにも林道が整備されている。
どんづまりに荷車を留め、川を目指して獣道を往く。
ほどなくして清流を見つける。
渓流を遡行し、イクトゥス葛の群生地に辿りつく。
大木に蔓が絡みついている。
「理想的だわ。ここに誘引しましょう」
「見て、ここ。鼻で掘りかえした跡があるよ」
「おあつらえむきね」
マリクは塊根を掘りだし、円匙で叩き割って餌とする。
アイラが搾り汁をまいてまわる。
川を挟んで、対岸の岩場に待機場所を求める。
「誘引地点から五十間くらいかしら?」
「そんなもんだね」
「あたし芋掘りしてるわね」
マリクは大岩のうえに坐り、監視をはじめる。
かたわらに置いた魔導銃には丸玉と黒色火薬が装填されている。
火縄銃と共用の対人弾に、黄金魔猪を倒す威力は求めるべくもない。
腰の弾帯を撫でながら、ひとりごちる。
「アイラの期待にはこたえるさ」
弾丸と胴薬を包んだ紙筒を早合と称する。
頭部を尖らせた竜牙弾は『回転』の術式が組みこまれた魔道具である。
処女の陰毛を混ぜこんだ胴薬は、ある意味で魔法薬である。
腰に備えているのは必殺の強装弾であった。
アイラはイクトゥスの根を掘り起こしては、マリクを仰ぎ見る。
岩上に趺坐する姿は彫像とみまごうばかりに静謐である。
欲目かもしれないが、精悍な顔つきといって過言でない。
にもかかわらず、競争率は低い。
それどころか女子の友人はアイラだけである。
おっぱい魔人の異名が女避けになっている。
収穫した芋をひとところに集める。
流れる水で手を洗い、岩をよじのぼる。
マリクと背中合わせに座る。
言葉はなく、ただ待ちつづける。
ときおり水袋に口をつける。
陽が高くなったころ、マリクが銃をとる。
アイラはすっくと立ち、誘引地点を見つめる。
巨躯の魔猪であった。
体長は一丈を優に超え、体高も一間ほどある。
全身を覆う剛毛は陽光を反射して金色に輝き、発達した犬歯は騎兵刀のように鋭い。
「まずはひとあて」
気負いのない声でマリクが告げる。
魔導回路に魔力を流し、胴薬に着火する。
狙いあやまたず、黄金魔猪に着弾する。
アイラは風魔術で煙を散らす。
「目標健在。物理障壁、対魔障壁、ともに超甲級と認む。毛のひとすじも傷ついていないわよ」
「想定通りさ」
黄金魔猪が咆哮し、猛り狂い、突進を開始する。
マリクは強装弾の装填をはじめている。
アイラは岩を飛びおりて、左に弧を描くように走る。
「おごるわよ。『炎槍』」
矢継ぎ早に火魔術を速射して撹乱する。
黄金魔猪に痛痒はないが、苛立って進路を変える。
マリクの射撃準備はすでに完成していた。
趺坐のまま、魔導銃を肩付けに構えている。
「銃術奥義『禅銃』」
轟音。
白煙。
物の理をねじまげて竜牙弾が飛翔する。
音速そのものを『加速』して燃焼を制御する。
弾丸それ自体が『回転』して真直に直進する。
前装式滑腔銃で、向こう側の対物ライフルに匹敵する威力を発揮するがゆえに奥義なのである。
高速回転する真鋼の弾頭が黄金魔猪の障壁魔法を切り裂く。
こめかみから飛びこみ、頭蓋を破裂させる。
地響きを立てて、巨獣がくずおれた。
「アイラ、作戦なんだけど」
「誘引して撃滅する。いつもどおりにね」
「彼女、ずいぶん賢そうだよ。今日だって、おそらく此方に気づいていた」
「そこでこれよ」
ふたつに割った塊根を示す。
「巨大化するほど食べるんだから、大好物に違いないね」
「搾り汁をまいて匂いで誘き寄せようと思うの。後のことを考えると水場の近くがいいわね」
「罠は無しでいこう。凝ったものを作るには時間も資材も足りない」
「そうね。なまなかな仕掛けが通じるとは思えないわ」
「でかさってのは、それ自体が武器だからね」
マリクはアイラの薄い胸を盗み見る。
アイラは座ったまま裏拳を放つ。
マリクは額で受ける。
「殴るわよ」
「殴ってから言わないでよ」
アイラはイクトゥス芋の皮を削ぎはじめる。
「ここからは実験の時間よ」
「僕が手伝うことはある?」
「まだないわ」
切り分けた可食部を擦りおろす。
どろどろとした土色の懸濁液を片手鍋にあける。
「これを精製して育乳薬にするんだけど、まだ製法は教えてもらってないの。でも、直接食べても効果があるんだって」
「えーっ、ちょっと、危なくないの?」
「おーほっほっ、あたくし、王立魔術学院の学生として錬金術の発展に我が身を捧げることを厭わなくってよ」
「しらじらしいなあ」
アイラは匙ですくって口に運ぶ。
ごくんと飲みくだす。
「土の味がするけど、食べられなくはないわ」
二匙、三匙と口に運ぶ。
「大丈夫かい?」
「大丈夫よ。ファリ姐に用量は教わったから」
「ファリ先輩がボインなのってもしかして……」
「あれは自前だって聞いたわ」
アイラは匙を置いて口をぬぐう。
鍋に残った汁を手で絞りながら瓶に詰めていく。
「こんなところかな。マリク、絶対飲んじゃだめだからね」
「飲まないよ!」
「男性機能に障害が出るかもしれないわ」
「ひぃ!」
◇◇◇
低い月に背を向けて、マリクは夜の森を眺めていた。
歩哨に立ち、魔力視を修練している。
意を決して、アイラはその背に声をかける。
「マリク」
「ん、どうしたんだい、アイラ。交代はまだだよね」
「あのね、胸がむずむずするの」
「なんだって!? あんなの飲むからだよ!」
マリクは振りむいて叱りつける。
目を潤ませて立つアイラを認め、語気を落ちつけて訊く。
「大丈夫? 腹痛とか吐き気とかはない?」
「うん、それはないんだけど、なんだか変な気分になっちゃって」
アイラの一世一代の演技であった。
イクトゥスに即効性の催淫作用はない。
それでも目元は緩み、頬が紅潮する。
期待と不安に胸を高鳴らせながら、真剣に心配してくれるマリクに申し訳ないとも思う。
「今からでも、吐き出したほうが良いんじゃないかな」
「いいの、大丈夫だから。それより、胸をさすってくれないかしら」
「え!?」
「お願い、マリク、あんたにしか頼めないの」
必殺の上目遣いで懇願する。
マリクはごくり、覚悟と唾を嚥下する。
「わかった」
おずおずと伸ばされた手が、ブラウスの裾から潜りこむ。
肌着の上から乳房を撫でさすられる。
「どうかな、楽になった?」
「うん。でも、直接さわってほしいかも……」
マリクはアイラの手を取り、テントに導く。
アイラは足を崩して座り、うしろから抱きしめられて熱い吐息をもらす。
ブラウスのなかで肌着がめくりあげられる。
熱い掌が乳房を撫ぜる。
「んっ、あ……っ」
声がもれてしまう。
マリクが耳元に問うてくる。
「ごめん、痛かった?」
ふるふると首を振って否定する。
「ちがうの。あのね、きもちいいの、莫迦マリク」
乳房の付け根をやさしく撫でられる。
ふもとから這いのぼった指先が、頂上に触れないで帰っていく。
もどかしくてせつなくて身をよじる。
アイラは頬をふくらませる。
「なんか上手で、むかつく……ふぁっ、さわりかた、えっちぃよぅ」
「指南書で勉強したんだ」
「なによ、それぇ。こらぁ、くるくるするなぁ……ふぇっ、はぅっ、にゃっ、にゃーっ」
乳輪をくるくるとなぞられる。
ときどき爪で掻いてくる。
そのたび身体がぴくりと反応する。
首をめぐらし、蕩けた瞳でマリクをねめあげる。
「マリクぅ、さきっちょ、さわってくれないの?」
「さわるよ」
低い声の宣言にときめいてしまう。
指と指で乳首を軽くつままれる。
上下で挟んだかと思えば、次は角度を変えてくる。
待ちかねていた刺激に嬌声をあげる。
「ふぁっ……あっ、あっ……だめだめ、それだめぇ」
「すごくかわいいよ、アイラ」
耳元でささやかれて、背筋をぞくぞくが駆けのぼる。
内腿をもじもじすりあわせる。
乳首をつまんだまま、指先で撫でられるとたまらなくなる。
「なんで、そんなにぃ……んふぅっ。もぉ、ばかぁ……あたしのちくびであそぶなぁ」
撫でるだけでなく、くりくり捻られたり、とんとん叩かれたり、かりかり掻かれたりする。
腰をくねらせる。
目を開けていられない。
「んあっ。あひっ。ひぅん……あたし、だめになるぅ」
「アイラ、こっち向いて」
霞みがかった視界のなか、アイラはマリクを見かえり、唇を突きだす。
口づけされる。
舌をのばして、マリクの唇をなめる。
舌と舌が絡み合う。
「んーっ、んーっ、んんっ」
接吻しているあいだも乳首をいじられて、唇がふさがれているから喘げなくて、快感を逃せなくて、ぴんと脚をのばしてしまう。
身体が跳ねて、唇が離れる。
「もう、だめ……っ、だめだからぁ……やめてぇ」
マリクは手を止めてくれない。
もう我慢できない。
息をとめて、足の指をそらせて達する。
「んっ、んぅうっ……。ばかばかぁ。いけずぅ。おたんちん」
脱力した身体をマリクにあずける。
まくれあがった肌着を戻され、あたためるようにおなかを掌で押さえられる。
「おちついた?」
「うん。ちょっと、その、むらむらしてたみたい」
「ちょっとかなあ。心配したんだよ」
「ごめん、あと、ありがとう」
「王都に帰ってファリ先輩に精製してもらうまで飲んじゃだめだからね」
「えっ、飲むわよ。あんたがいるんだから大丈夫でしょ。そうだわ、マリク、あたしの乳揉役に任じるわ。自分で揉むより、男のひとに揉まれたほうがおおきくなるっていうし」
俗説である。
反証もある。
アイラの両親はいまも仲睦まじいが、母親の乳房はアイラとそれほど変わらない。
平たい胸族なのである。
「ちょっと待って。僕、アイラのおっぱい揉んでないよ」
「なによ、あんなに情熱的にさわったくせに……あれ!? ほんとうね、揉まれてないわ」
「ふんわりやさしく触れるべし、乱暴に揉んではならぬ、って指南書に書いてあったから」
「やさしく揉めばいいでしょうに。とにかく、あんたは毎日あたしの胸を揉むの! これは魔法薬研究部の部活動だから拒否するはないわよ」
「拝承」
◇◇◇
野外演習二日め、白みはじめた空の下、昏い森をふたりは行軍する。
浅層には、まがりなりにも林道が整備されている。
どんづまりに荷車を留め、川を目指して獣道を往く。
ほどなくして清流を見つける。
渓流を遡行し、イクトゥス葛の群生地に辿りつく。
大木に蔓が絡みついている。
「理想的だわ。ここに誘引しましょう」
「見て、ここ。鼻で掘りかえした跡があるよ」
「おあつらえむきね」
マリクは塊根を掘りだし、円匙で叩き割って餌とする。
アイラが搾り汁をまいてまわる。
川を挟んで、対岸の岩場に待機場所を求める。
「誘引地点から五十間くらいかしら?」
「そんなもんだね」
「あたし芋掘りしてるわね」
マリクは大岩のうえに坐り、監視をはじめる。
かたわらに置いた魔導銃には丸玉と黒色火薬が装填されている。
火縄銃と共用の対人弾に、黄金魔猪を倒す威力は求めるべくもない。
腰の弾帯を撫でながら、ひとりごちる。
「アイラの期待にはこたえるさ」
弾丸と胴薬を包んだ紙筒を早合と称する。
頭部を尖らせた竜牙弾は『回転』の術式が組みこまれた魔道具である。
処女の陰毛を混ぜこんだ胴薬は、ある意味で魔法薬である。
腰に備えているのは必殺の強装弾であった。
アイラはイクトゥスの根を掘り起こしては、マリクを仰ぎ見る。
岩上に趺坐する姿は彫像とみまごうばかりに静謐である。
欲目かもしれないが、精悍な顔つきといって過言でない。
にもかかわらず、競争率は低い。
それどころか女子の友人はアイラだけである。
おっぱい魔人の異名が女避けになっている。
収穫した芋をひとところに集める。
流れる水で手を洗い、岩をよじのぼる。
マリクと背中合わせに座る。
言葉はなく、ただ待ちつづける。
ときおり水袋に口をつける。
陽が高くなったころ、マリクが銃をとる。
アイラはすっくと立ち、誘引地点を見つめる。
巨躯の魔猪であった。
体長は一丈を優に超え、体高も一間ほどある。
全身を覆う剛毛は陽光を反射して金色に輝き、発達した犬歯は騎兵刀のように鋭い。
「まずはひとあて」
気負いのない声でマリクが告げる。
魔導回路に魔力を流し、胴薬に着火する。
狙いあやまたず、黄金魔猪に着弾する。
アイラは風魔術で煙を散らす。
「目標健在。物理障壁、対魔障壁、ともに超甲級と認む。毛のひとすじも傷ついていないわよ」
「想定通りさ」
黄金魔猪が咆哮し、猛り狂い、突進を開始する。
マリクは強装弾の装填をはじめている。
アイラは岩を飛びおりて、左に弧を描くように走る。
「おごるわよ。『炎槍』」
矢継ぎ早に火魔術を速射して撹乱する。
黄金魔猪に痛痒はないが、苛立って進路を変える。
マリクの射撃準備はすでに完成していた。
趺坐のまま、魔導銃を肩付けに構えている。
「銃術奥義『禅銃』」
轟音。
白煙。
物の理をねじまげて竜牙弾が飛翔する。
音速そのものを『加速』して燃焼を制御する。
弾丸それ自体が『回転』して真直に直進する。
前装式滑腔銃で、向こう側の対物ライフルに匹敵する威力を発揮するがゆえに奥義なのである。
高速回転する真鋼の弾頭が黄金魔猪の障壁魔法を切り裂く。
こめかみから飛びこみ、頭蓋を破裂させる。
地響きを立てて、巨獣がくずおれた。
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