上 下
50 / 54
第三章 ~第三の砦~

第十一話 激しい戦い

しおりを挟む
 俺は通路を右に曲がり、奥にある低い窓から外に出る。
 そして、物陰を抜けると……。
 たくさんの勇者が、俺と同じ制服を着た学校の人達を襲っていた。
 それに不都合があるのか、魔王様と数名(化け物みたいな奴もいる)が、勇者と戦っていた。

「おーい! 魔王様ー! 壮一来たよー」

 魔王様は狂気のオーラを放ち、何かを放ったかと思うと、数名の敵を血に染める。
 そして、狂気じみた横顔をいってんさせ、こちらを振り向くときは笑顔になっていた。

「お……! 来たか! とりあえず……。ここの雑魚は俺様達が薙ぎ払う! 話はそれからだ!」

 話って……勝手に進めてんじゃねぇよ。
 みるみる相手の勇者は倒れていく。だとしたら、何故、序盤の時はあそこまで劣勢だったのにな。
 俺が見た限りでは、明らかに魔王軍が攻められていた。その理由は何だ……?

「……!」

 そうか。今は胡桃がここにいないんだ。
 でも、それだけでって……。胡桃はどんだけ強いんだよ。
 魔王が一通り相手を倒した時。風向きが一転した。

「ふふっ。ふはははははは!! 僕の手下を殺しやがって!」

 突如、空中に姿を現した胡桃は髪を乱し、頭を抱えてそう叫ぶ。

「出たぞ! あいつかぁ? 強そうじゃねぇなぁ?」

 緑色の鱗を纏い、曲線を描く大剣を手に持っている竜人が剣を振り回し、挑発する。

「舐めてると、死……はぁ。これだから馬鹿は……」

 と、サキュパスのようなエロい装備を見に付けた、お姉さん系美少女が「やれやれ」と、手を横に出し、頭を振る。
 それより、あの竜人はどこだ……?
 何だか、あの女の人は呆れているけど、俺には竜人がどこに行ったかは全く分からない。
 グルグルと周りを見渡すも、近くに竜人は見つからない。そして、遠い所に目を当てる。

 ……あれか?

 遠くから見ているので、よくわからないが竜人がぐったりとしていて、壁によれかかっているのは分かる。

 つ、つまり、一瞬のうちに竜人は倒されたってことか……?! しかも、ノーモーション。素振りも無しにか?
 周りの人間が呆然として、見つめる中。魔王が大きな声を出す。

「こいつは俺様がなんとか食い止める! おまえらは勇者共をぶっ倒せ!」

 不安からなのか、しばらくの沈黙の後、各所で「はい!」等の声が聞こえる。
 そして、魔王様は豹変するように厳つい顔をし、胡桃に向かって大声で叫ぶ。

「仕返しだ!!」

 二階の窓付近で浮いている胡桃に対して、魔王様が拳を向けて、突っ込んでいく。
 魔王様は何度も何度も胡桃を殴るが、吹き飛ぶことはない。
 全ての攻撃を手で受け止めている。

「くたばれ!」

 胡桃は魔王の腕をがっしり掴むと、かなりの高さから思いっきり字面に投げつける。
 地面からは大量の砂が舞い、辺りが見えにくくなる。

「大丈夫か!? 魔王様!」

 俺はそんな在り来りなセリフを叫ぶ。というか、そんな言葉しか出てこないくらいに対処のしようが無かった。
 何と言っても、遠距離であれだけの力を見せられたんだからな。

「うるさい。お前は黙ってろ」
「……!」

 口……だけではなく、全身が何かに縛られたように動かなくなる。金縛りと同じような感覚だ。
 俺が無理にでも動こうと抵抗していると、砂嵐が晴れる。
 すると、かなり深くできた穴から魔王が地面に手をかけ、ぐったりとして出てくる。
 周りの景色を見せるため、もしくは見せつけるためか首から上(口以外)が自由に動かせるようになる。
 何かをするという暗示なのだろうか。

「ふふっ! そうこなくっちゃ!」

 ニヤと不敵な笑みを浮かべ、一度、目を閉じたかと思うと一気に見開く。
 すると、胡桃は一気に笑いだし……。
 目に止まらぬスピードで魔王に突っ込んでいった。
 幹部の中で、その戦いを見てきたものは「魔王様!」と、叫び手を伸ばすも手遅れ。
 物凄い爆発音と共に、砂が噴火を起こした山の火山灰のように吹き上がる。
 これには周りも驚き、戦闘をやめるや、口をポカーンと開いていた。
 だ、大丈夫かよ。風圧だけでもかなり凄かったぞ。
 でも、俺の意識があるってことは魔王が死んでないってことだな。
 すると、砂煙から本当の噴火に似たような赤い色の光が放たれ、周り全体が照らされる。

「舐めてんじゃねぇぞ!! クソ勇者が!」
「あーあ。お怒りモードに入っちゃったかー」

 近くにいたリミルが寄ってきて、俺に声をかける。
 正直な話、この声がもう恐怖でしかない。

「お怒りモード……?」
「うん。もう暴走が止められないかもねー。まぁ……。こうなった時に魔王様から頼まれていたことがあるんだけど……」
「頼まれていたこと……?」
「そう。君に任務があるらしい。この状況を打開……?」

 こいつの声はイラつくが仕方ないので聞くことにしよう。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

月夜の理科部

嶌田あき
青春
 優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。  そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。  理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。  競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。  5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。  皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

処理中です...