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第85話 切り札
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「アタシは聞いた。ボルドが捕らえられていた天幕前で、女たちの話を」
ソニアは体に色濃く残る痛みと疲労を懸命に堪えて、自分が見たこと聞いたことを聴衆に訴えた。
リネットが分家の女たちと言い争う声。
まだ誰もボルドと交わっていないという会話。
バーサの命令変更で今すぐにボルドと交わるように告げるリネット。
「そこでアタシは天幕の中に押し入って、ボルドの上に乗ろうとしていた女を蹴り飛ばしてやったんだ」
そしてボルドは救出された。
そこまで話すとソニアは疲れた顔で大きく息をつく。
そんな彼女にブリジットとベラが歩み寄り、彼女に肩を貸した。
「もういい。ソニア。まったく無茶をする」
「本当だぜ。デカいおまえを抱えるこっちの身になれってんだ」
左右の肩を支えられながらソニアは少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「もう寝てるのに飽きたんだよ」
2人がソニアを椅子に座らせるのを見届けると、ユーフェミアが挙手をする。
「ソニアの証言は一定の信頼は置けるが裏付けはあるのか気になるところだ。皆も知っての通り、ベラとソニアはブリジットとは幼少の頃からの友だ。ソニアがボルドに有利な発言をする可能性は……」
「いい加減にしろよアンタ! じゃあ誰の証言なら信じるってんだよ! アタシらはあの現場で実際にその場面を見てきたんだ。アタシら以外に証言できる奴がいるってのかよ!」
とうとう我慢できずにユーフェミアの言葉を遮り、ベラが立ち上がって叫ぶ。
ブリジットはそんなベラの肩に手を置いて宥めた。
「よせベラ」
議長がすかさずベラを叱責する。
「ベラ。裁判の流儀を守れ。挙手なき者の発言は許されぬ。それと口を慎め。ここは裁きの場だ。戦場ではない」
それを受けたベラは悔しそうに歯を食いしばり、拳を震わせながら座った。
そんな彼女の肩をポンと叩きブリジットは覚悟を決めた。
切り札を使う。
ソニアの無理を押しての発言を無駄にするわけにはいかない。
ブリジットは議長に顔を向け、手を挙げる。
「議長。ソニアの発言を裏付けるための証人を今ここに呼びたい。許可を」
突然の話に議長は驚いたが、首を縦に振る。
ユーフェミアを初めとする十刃会の面々は眉を潜め、表情を曇らせた。
「入ってこい」
ブリジットが入口に向かってそう声をかけると、議場の扉が開き、ナタリーとナタリアの双子が1人の人物を連れて入ってきた。
双子の間に挟まれたその人物は両手を背後で縄に縛られ、顔には麻袋が被せられていた。
捕虜だ。
突然の闖入者に議場がさわつく。
双子はブリジットへその捕虜を預け、一礼して近くの椅子に腰を下ろす。
「こいつが証人だ」
そう言うとブリジットはその人物の顔に被せられた麻袋を脱がせた。
現れたのは華隊の女だ。
ソニアに蹴られて折れ曲がった鼻は治療が施され、包帯が巻かれている。
「手を挙げて名を名乗れ」
ブリジットにそう促され、女は震える手を挙げると緊張の面持ちで名乗った。
「タビサと申します。分家の……は、華隊に所属しておりました」
周囲が敵だらけの針の筵のような状況にタビサは怯えていたが、ブリジットから裁判での証言と引き換えに命の保証を受けている。
今はそれに縋って必死に証言するしかない。
タビサは自分がバーサから受けた命令でボルドとは交わらなかったことを話した。
そして急な命令変更でボルドと交わろうとしたところをソニアに蹴られて気を失ったところまでを話すと、議場は静かなざわめきに包まれる。
十刃会の面々は戸惑いの表情を浮かべつつ、証言に聞き入っていた。
タビサが事前にブリジットから指示されていた証言を終えると、ブリジットは手を挙げて言う。
「以上が真実だ。これでソニアの証言も裏が取れるな」
ブリジットの言葉に少しずつ議場から拍手が湧き起こり始めた。
だが、それを鎮めるようにユーフェミアが挙手をする。
「なるほど。よく分かりました。タビサとやらにいくつか聞きたいことがありますが、よろしいですか?」
その言葉にベラとソニアは顔をしかめるが、ブリジットは冷静に頷いた。
あらかじめブリジットはどのようなことを聞かれても自分の知っている事実をそのまま話す様にタビサに伝えてある。
下手に嘘をつかせても鋭いユーフェミアは見抜いてあの手この手で追及をしてくるだろう。
怯えて憔悴し切った状態のタビサにそれをかわせるはずもない。
ボロが出るくらいなら知っていることをそのまま話させたほうがマシだ、というブリジットの判断だったが、それは賭けでもあった。
ボルドの印象を悪くすることになるのが濃厚だからだ。
ブリジットの懸念をすでに読み取っているようで、ユーフェミアは涼しい顔で立ち上がると、タビサに質問をぶつけていった。
ソニアは体に色濃く残る痛みと疲労を懸命に堪えて、自分が見たこと聞いたことを聴衆に訴えた。
リネットが分家の女たちと言い争う声。
まだ誰もボルドと交わっていないという会話。
バーサの命令変更で今すぐにボルドと交わるように告げるリネット。
「そこでアタシは天幕の中に押し入って、ボルドの上に乗ろうとしていた女を蹴り飛ばしてやったんだ」
そしてボルドは救出された。
そこまで話すとソニアは疲れた顔で大きく息をつく。
そんな彼女にブリジットとベラが歩み寄り、彼女に肩を貸した。
「もういい。ソニア。まったく無茶をする」
「本当だぜ。デカいおまえを抱えるこっちの身になれってんだ」
左右の肩を支えられながらソニアは少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「もう寝てるのに飽きたんだよ」
2人がソニアを椅子に座らせるのを見届けると、ユーフェミアが挙手をする。
「ソニアの証言は一定の信頼は置けるが裏付けはあるのか気になるところだ。皆も知っての通り、ベラとソニアはブリジットとは幼少の頃からの友だ。ソニアがボルドに有利な発言をする可能性は……」
「いい加減にしろよアンタ! じゃあ誰の証言なら信じるってんだよ! アタシらはあの現場で実際にその場面を見てきたんだ。アタシら以外に証言できる奴がいるってのかよ!」
とうとう我慢できずにユーフェミアの言葉を遮り、ベラが立ち上がって叫ぶ。
ブリジットはそんなベラの肩に手を置いて宥めた。
「よせベラ」
議長がすかさずベラを叱責する。
「ベラ。裁判の流儀を守れ。挙手なき者の発言は許されぬ。それと口を慎め。ここは裁きの場だ。戦場ではない」
それを受けたベラは悔しそうに歯を食いしばり、拳を震わせながら座った。
そんな彼女の肩をポンと叩きブリジットは覚悟を決めた。
切り札を使う。
ソニアの無理を押しての発言を無駄にするわけにはいかない。
ブリジットは議長に顔を向け、手を挙げる。
「議長。ソニアの発言を裏付けるための証人を今ここに呼びたい。許可を」
突然の話に議長は驚いたが、首を縦に振る。
ユーフェミアを初めとする十刃会の面々は眉を潜め、表情を曇らせた。
「入ってこい」
ブリジットが入口に向かってそう声をかけると、議場の扉が開き、ナタリーとナタリアの双子が1人の人物を連れて入ってきた。
双子の間に挟まれたその人物は両手を背後で縄に縛られ、顔には麻袋が被せられていた。
捕虜だ。
突然の闖入者に議場がさわつく。
双子はブリジットへその捕虜を預け、一礼して近くの椅子に腰を下ろす。
「こいつが証人だ」
そう言うとブリジットはその人物の顔に被せられた麻袋を脱がせた。
現れたのは華隊の女だ。
ソニアに蹴られて折れ曲がった鼻は治療が施され、包帯が巻かれている。
「手を挙げて名を名乗れ」
ブリジットにそう促され、女は震える手を挙げると緊張の面持ちで名乗った。
「タビサと申します。分家の……は、華隊に所属しておりました」
周囲が敵だらけの針の筵のような状況にタビサは怯えていたが、ブリジットから裁判での証言と引き換えに命の保証を受けている。
今はそれに縋って必死に証言するしかない。
タビサは自分がバーサから受けた命令でボルドとは交わらなかったことを話した。
そして急な命令変更でボルドと交わろうとしたところをソニアに蹴られて気を失ったところまでを話すと、議場は静かなざわめきに包まれる。
十刃会の面々は戸惑いの表情を浮かべつつ、証言に聞き入っていた。
タビサが事前にブリジットから指示されていた証言を終えると、ブリジットは手を挙げて言う。
「以上が真実だ。これでソニアの証言も裏が取れるな」
ブリジットの言葉に少しずつ議場から拍手が湧き起こり始めた。
だが、それを鎮めるようにユーフェミアが挙手をする。
「なるほど。よく分かりました。タビサとやらにいくつか聞きたいことがありますが、よろしいですか?」
その言葉にベラとソニアは顔をしかめるが、ブリジットは冷静に頷いた。
あらかじめブリジットはどのようなことを聞かれても自分の知っている事実をそのまま話す様にタビサに伝えてある。
下手に嘘をつかせても鋭いユーフェミアは見抜いてあの手この手で追及をしてくるだろう。
怯えて憔悴し切った状態のタビサにそれをかわせるはずもない。
ボロが出るくらいなら知っていることをそのまま話させたほうがマシだ、というブリジットの判断だったが、それは賭けでもあった。
ボルドの印象を悪くすることになるのが濃厚だからだ。
ブリジットの懸念をすでに読み取っているようで、ユーフェミアは涼しい顔で立ち上がると、タビサに質問をぶつけていった。
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