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第72話 慎重な追跡
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黒い頭巾の集団が夕暮れ時の山道を登っていた。
その先頭を行くのは銀髪をやはり黒い頭巾で覆い隠した若い女だった。
その若さと、このような時刻にこのような山道を登る彼女を見て、誰が王国軍の将軍だと思うだろうか。
そんなことを考えながら副官のシジマは上官のチェルシー将軍の後をついていく。
チェルシーが率いる総勢20名の部隊は彼女自身とショーナ、そしてその部下の黒髪術者の男2人を除けば残りは全員、ココノエからやって来た白髪の者たちだ。
この人員構成は全てチェルシーが選んだものだった。
シジマがチェルシーの副官としての彼女に好感を覚えていることがある。
それはチェルシーがココノエの民に対して差別的な気持ちを見せないことだった。
ココノエからやって来た白き髪の一族を不気味がる者や疎む者は王国内にも少なくない。
老若男女皆、子供の頃から真っ白な頭髪の彼らを、西方の呪われた民などど陰口を叩く者の多いことも知っている。
ジャイルズ王の弟であるウェズリーなどは、明らかに侮蔑の目でシジマたちを見るのだ。
そのくせシジマの兄にしてココノエの総裁であるヤゲンをいいように使っている。
王国はココノエの民を受け入れ、ココノエの特異な技術の恩恵を受けているが、同時に王国民たちはココノエを恐れ、蔑んでもいるのだ。
そんな中、チェルシーは違った。
有能な者であれば人種に関係なく重用する。
彼女がこの部隊の自身とショーナ以外の20名をすべてココノエの民で固めたのは、任務の性質を考えてのことだった。
そんなチェルシーだからこそ、シジマは若干16歳の彼女に付き従うことに不満は微塵もない。
「まだ近付ける?」
「もう少し近付けますが、この辺りで休息にすべきかと」
チェルシーの問いにショーナはそう答えた。
現時点で王国最高の黒髪術者であるショーナは今、相手の黒髪術者に気付かれないギリギリの線を見極めながら慎重に部隊を進めていた。
黒髪術者同士は離れた場所にいても互いを感じ合うことが出来るが、その力も距離的な限界がある。
黒帯隊の隊長であるショーナでもせいぜい1~2キロ程度の距離までしか感じ取ることは出来ない。
だから今、彼女はわずかずつ黒髪術者の力を開放し、敵との距離を測っているのだ。
少しでも相手の力を感じ取れそうな気配がしたら、すぐさま自分の力を閉じて相手に気付かれることを避ける。
その方法で少しずつ相手との距離を詰めていた。
「おそらくですが、相手は移動を止めましたね。山中で一泊するのでしょう」
「そう。シジマ。夜が明けてからの攻撃に移るわよ」
そう指示を受けたシジマは進言する。
「恐れながら申し上げます。ご存知の通り、我らココノエの一族は夜目が利きます。夜襲にすべきです」
「夜目が利くといっても、あなたたちは暗順応に優れているだけで、闇の中でも何でも見えるというわけではないでしょう?」
「それは……」
ココノエの一族は総じて視力に秀でており、暗闇に目を慣らす訓練をしている。
しかし昼間と同じように見えるわけではなく、常人よりは闇に目が慣れやすいという程度だ。
「襲撃して敵を殲滅するなら夜襲でいいと思う。だけどワタシたちはプリシラとエミルを生かしたまま捕らえなければならない。特にプリシラはあのブリジットの娘よ。ワタシ以外に彼女を取り押さえられる者はいない。それならこちらもきちんと視界を確保できる条件のほうがいいわ」
きっぱりそう言うとチェルシーは兵たちを休ませるようにシジマに指示を出した。
「ここからは長い道のりになるわ。兵の損耗は極力抑えたい。プリシラとの対峙はワタシに任せて、他の兵たちを近寄らせないようにして。それからもう1人のダニアの女戦士の相手はオニユリに専念させて。彼女ならそうそう負けないから。シジマ。現場の指示はあなたに任せるわ」
そう言うチェルシーにシジマは膝をついて頭を垂れるのだった。
☆☆☆☆☆☆
日が暮れ落ちた。
山小屋の前では焚き火を囲み、プリシラたち4人が夕飯を摂っている。
目的地であるビバルデに近付いているためか、プリシラやエミルの表情は明るく、特にプリシラは今まで以上に饒舌だった。
「ビバルデに到着したらジャスティーナとジュードはどうするの?」
「そうだな。公国があんな感じだし、当面は共和国内を東に進もうと思う。出来れば東側諸国を目指すかな」
「もしよければ2人ともダニアの都に来ない?」
そう言うプリシラにジュードは少々驚いた顔でジャスティーナに目を向ける。
ジャスティーナは肩をすくめて首を横に振った。
「面倒だから御免こうむるよ。どこの赤毛の女かと、ジロジロ見られるのは気分良くないしね」
「そう。残念だわ」
プリシラは昨日、風呂でジャスティーナと話したことを思い返す。
ダニアの都にはジャスティーナの師匠であるグラディスの墓がある。
だが彼女の口ぶりだと、墓参りなどという感傷的なことは望んでいないだろう。
それ以上、無理強いする話ではないのでプリシラは口をつぐむ。
だが、それでもこの夜の食事は話が尽きることはなかった。
その先頭を行くのは銀髪をやはり黒い頭巾で覆い隠した若い女だった。
その若さと、このような時刻にこのような山道を登る彼女を見て、誰が王国軍の将軍だと思うだろうか。
そんなことを考えながら副官のシジマは上官のチェルシー将軍の後をついていく。
チェルシーが率いる総勢20名の部隊は彼女自身とショーナ、そしてその部下の黒髪術者の男2人を除けば残りは全員、ココノエからやって来た白髪の者たちだ。
この人員構成は全てチェルシーが選んだものだった。
シジマがチェルシーの副官としての彼女に好感を覚えていることがある。
それはチェルシーがココノエの民に対して差別的な気持ちを見せないことだった。
ココノエからやって来た白き髪の一族を不気味がる者や疎む者は王国内にも少なくない。
老若男女皆、子供の頃から真っ白な頭髪の彼らを、西方の呪われた民などど陰口を叩く者の多いことも知っている。
ジャイルズ王の弟であるウェズリーなどは、明らかに侮蔑の目でシジマたちを見るのだ。
そのくせシジマの兄にしてココノエの総裁であるヤゲンをいいように使っている。
王国はココノエの民を受け入れ、ココノエの特異な技術の恩恵を受けているが、同時に王国民たちはココノエを恐れ、蔑んでもいるのだ。
そんな中、チェルシーは違った。
有能な者であれば人種に関係なく重用する。
彼女がこの部隊の自身とショーナ以外の20名をすべてココノエの民で固めたのは、任務の性質を考えてのことだった。
そんなチェルシーだからこそ、シジマは若干16歳の彼女に付き従うことに不満は微塵もない。
「まだ近付ける?」
「もう少し近付けますが、この辺りで休息にすべきかと」
チェルシーの問いにショーナはそう答えた。
現時点で王国最高の黒髪術者であるショーナは今、相手の黒髪術者に気付かれないギリギリの線を見極めながら慎重に部隊を進めていた。
黒髪術者同士は離れた場所にいても互いを感じ合うことが出来るが、その力も距離的な限界がある。
黒帯隊の隊長であるショーナでもせいぜい1~2キロ程度の距離までしか感じ取ることは出来ない。
だから今、彼女はわずかずつ黒髪術者の力を開放し、敵との距離を測っているのだ。
少しでも相手の力を感じ取れそうな気配がしたら、すぐさま自分の力を閉じて相手に気付かれることを避ける。
その方法で少しずつ相手との距離を詰めていた。
「おそらくですが、相手は移動を止めましたね。山中で一泊するのでしょう」
「そう。シジマ。夜が明けてからの攻撃に移るわよ」
そう指示を受けたシジマは進言する。
「恐れながら申し上げます。ご存知の通り、我らココノエの一族は夜目が利きます。夜襲にすべきです」
「夜目が利くといっても、あなたたちは暗順応に優れているだけで、闇の中でも何でも見えるというわけではないでしょう?」
「それは……」
ココノエの一族は総じて視力に秀でており、暗闇に目を慣らす訓練をしている。
しかし昼間と同じように見えるわけではなく、常人よりは闇に目が慣れやすいという程度だ。
「襲撃して敵を殲滅するなら夜襲でいいと思う。だけどワタシたちはプリシラとエミルを生かしたまま捕らえなければならない。特にプリシラはあのブリジットの娘よ。ワタシ以外に彼女を取り押さえられる者はいない。それならこちらもきちんと視界を確保できる条件のほうがいいわ」
きっぱりそう言うとチェルシーは兵たちを休ませるようにシジマに指示を出した。
「ここからは長い道のりになるわ。兵の損耗は極力抑えたい。プリシラとの対峙はワタシに任せて、他の兵たちを近寄らせないようにして。それからもう1人のダニアの女戦士の相手はオニユリに専念させて。彼女ならそうそう負けないから。シジマ。現場の指示はあなたに任せるわ」
そう言うチェルシーにシジマは膝をついて頭を垂れるのだった。
☆☆☆☆☆☆
日が暮れ落ちた。
山小屋の前では焚き火を囲み、プリシラたち4人が夕飯を摂っている。
目的地であるビバルデに近付いているためか、プリシラやエミルの表情は明るく、特にプリシラは今まで以上に饒舌だった。
「ビバルデに到着したらジャスティーナとジュードはどうするの?」
「そうだな。公国があんな感じだし、当面は共和国内を東に進もうと思う。出来れば東側諸国を目指すかな」
「もしよければ2人ともダニアの都に来ない?」
そう言うプリシラにジュードは少々驚いた顔でジャスティーナに目を向ける。
ジャスティーナは肩をすくめて首を横に振った。
「面倒だから御免こうむるよ。どこの赤毛の女かと、ジロジロ見られるのは気分良くないしね」
「そう。残念だわ」
プリシラは昨日、風呂でジャスティーナと話したことを思い返す。
ダニアの都にはジャスティーナの師匠であるグラディスの墓がある。
だが彼女の口ぶりだと、墓参りなどという感傷的なことは望んでいないだろう。
それ以上、無理強いする話ではないのでプリシラは口をつぐむ。
だが、それでもこの夜の食事は話が尽きることはなかった。
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