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第一幕 鬼ヶ崎雷奈
鬼ヶ崎雷奈の事情(中編)
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「もし鬼巫女だったら、鬼巫女になれたら……全てをこの腕で片付けられるのに!」
彼女の言う鬼巫女とは悪路王を封印から解いてその身に背負い、鬼の力をもって妖魔の調伏にあたるこの鬼留神社特有の霊能力者のことだった。
100年の間に一度だけ訪れる悪路王の10年間の活動期が近付いている。
鬼巫女はこの期間、悪路王をその身に背負い続けなければならない。
17歳の雷奈はその鬼巫女の候補として神社から指名されていた。
候補者は他に2名。
彼女の姉と従姉妹である。
100年前の先代も200年前の先々代も類い希なる才気を持った非常に有能な巫女だったと記録に残されている。
雷奈の姉や従姉妹もその点においては有能だった。
だが雷奈だけがほとんど霊力を持たなかった。
どんなに訓練をしてもその点だけは向上することはなかったからだ。
それこそが彼女が努力で超えることの出来ない才能の壁だった。
「ゴァァァァッ!」
男は野太い声で喚き散らしながら再び雷奈に襲いかかる。
騒ぎを聞きつけたようで、少し離れた母屋にパッと灯りが灯った。
雷奈の家族が目を覚ましたようだった。
両親や姉が駆けつければ化け物をすぐに調伏して事態を収集してくれるだろう。
雷奈に出来ることは、男をこの場に足止めしておくことだけだった。
(別に私が出来なくても他の誰かがやってくれる)
雷奈の頭の中には鬱屈とした思考が渦巻いていた。
そのことが彼女の動きと判断力を鈍らせてしまった。
避けたと思った男の腕が雷奈の片腕に引っかかる。
「あうっ!」
雷奈は思わずバランスを崩しかけて立ち止まった。
するとそれを見た男が力の限りに彼女に体当たりを浴びせかけたのだ。
「うぐっ!」
雷奈はそれをまともに受けてしまい、勢いよく後方に飛ばされた。
そしてそのまま背後の大岩に背中から叩きつけられてしまった。
「かはっ!」
あまりの衝撃に雷奈は息が詰まり、一瞬にして意識が飛びそうになる。
だが雷奈の腹の底で燃え盛る感情によって、遠のいていく意識が引き戻された。
(この手で、自分の手で、目の前の現実を……腐った全てを……ぶち壊したいっ!)
悔しさ、歯がゆさ、己への怒り、そうした感情が彼女の体を震わせたその時、痛みは唐突に消え去った。
入れ替わるようにして、背中に感じる岩肌から強く、そして恐ろしいほどに破壊的な波動が伝わってきた。
【我ヲ欲スル者。ソノ憤怒コソガ我ガ至福。破壊ノ欲望ヲ孕ミシ汝コソ共ニ歩ムニ能ウ者】
それは雷奈が今まで聞いた事のない、地の底から涌き上がるような深くて重い言葉だった。
彼女の言う鬼巫女とは悪路王を封印から解いてその身に背負い、鬼の力をもって妖魔の調伏にあたるこの鬼留神社特有の霊能力者のことだった。
100年の間に一度だけ訪れる悪路王の10年間の活動期が近付いている。
鬼巫女はこの期間、悪路王をその身に背負い続けなければならない。
17歳の雷奈はその鬼巫女の候補として神社から指名されていた。
候補者は他に2名。
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だが雷奈だけがほとんど霊力を持たなかった。
どんなに訓練をしてもその点だけは向上することはなかったからだ。
それこそが彼女が努力で超えることの出来ない才能の壁だった。
「ゴァァァァッ!」
男は野太い声で喚き散らしながら再び雷奈に襲いかかる。
騒ぎを聞きつけたようで、少し離れた母屋にパッと灯りが灯った。
雷奈の家族が目を覚ましたようだった。
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雷奈に出来ることは、男をこの場に足止めしておくことだけだった。
(別に私が出来なくても他の誰かがやってくれる)
雷奈の頭の中には鬱屈とした思考が渦巻いていた。
そのことが彼女の動きと判断力を鈍らせてしまった。
避けたと思った男の腕が雷奈の片腕に引っかかる。
「あうっ!」
雷奈は思わずバランスを崩しかけて立ち止まった。
するとそれを見た男が力の限りに彼女に体当たりを浴びせかけたのだ。
「うぐっ!」
雷奈はそれをまともに受けてしまい、勢いよく後方に飛ばされた。
そしてそのまま背後の大岩に背中から叩きつけられてしまった。
「かはっ!」
あまりの衝撃に雷奈は息が詰まり、一瞬にして意識が飛びそうになる。
だが雷奈の腹の底で燃え盛る感情によって、遠のいていく意識が引き戻された。
(この手で、自分の手で、目の前の現実を……腐った全てを……ぶち壊したいっ!)
悔しさ、歯がゆさ、己への怒り、そうした感情が彼女の体を震わせたその時、痛みは唐突に消え去った。
入れ替わるようにして、背中に感じる岩肌から強く、そして恐ろしいほどに破壊的な波動が伝わってきた。
【我ヲ欲スル者。ソノ憤怒コソガ我ガ至福。破壊ノ欲望ヲ孕ミシ汝コソ共ニ歩ムニ能ウ者】
それは雷奈が今まで聞いた事のない、地の底から涌き上がるような深くて重い言葉だった。
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