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最終章 決戦! 天樹の塔
第2話 堕天使のワナ
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「やれやれ。連中には気概ってもんがないのかしらね。道連れにしてでも敵をぶっ潰してやろうっていう気概が」
撤退していった堕天使の群れに対してミランダは不満そうにそう言う。
い、いやまあ、危機は脱したことだし、いいんじゃないの?
僕はそう思うけれどミランダよりもさらに不満そうなのがヴィクトリアだ。
「おまえはいいよ。おまえは。アタシなんか堕天使どもに攻められるだけ攻められて、一体も倒していないんだぞ」
一番先頭で盾を持って防御役に徹していたヴィクトリアはフラストレーションを吐き出すようにそう言った。
だけど彼女のおかげで僕らはほとんどノーダメージで堕天使の第一波を撃退することが出来たんだ。
「まだ始まったばかりでしょ。堕天使なんてこれからいくらでもブッ倒せるじゃないの。さあ、ガンガン進むわよ」
ヴィクトリアの不満げな様子を一顧だにせずにミランダが再び先頭を進み出し、僕はヴィクトリアをなだめながら後に続いた。
僕のすぐ隣を歩くノアが平然とした様子で言う。
「今のところ近付いてくる敵はおらぬが、逃げた奴らが仲間を呼んでくることは必至。またすぐに戦闘になるであろうな」
彼女は足音で先ほどの堕天使の接近を知った。
「もし堕天使が空中を飛んで近付いてきても接近が分かるの?」
「こういう建物の中は音が反響するので分かりやすいのだ。たとえ飛んでいても羽音で分かる」
ノアの聴力は僕らにとってのアドバンテージだ。
敵の接近を事前に知ることが出来れば、さっきのように有利な地形を探したりと様々な対処が出来る。
「アル。中央広場にたどり着くまでまだ何度も堕天使らと鉢《はち》合わせするはずよ。だからここみたいに有利に堕天使を迎え撃てる地点に目星をつけておきなさい」
「うん」
それから僕はミランダに言われた通り、地図を見て最も有利に戦える地点を探しながら中央広場への道を進んだ。
ミランダの言った通り、途中で二度ほど堕天使たちとの小規模な戦闘になったけれど、最初の戦闘と同様に僕ら4人は連携してこれを撃退することが出来たんだ。
こうした戦闘によるダメージもほとんどなく、順調だった僕らはほどなくして目的地である中央広場にたどり着いた。
すると……。
「ピィィィィッ!」
5、6階層分の吹き抜けになっている中央広場の中を一羽の小さな鳥が飛び回り、数人の堕天使たちがその鳥を追い回している。
あ、あれってもしかして……。
「ブレイディたちのうちの誰かじゃないの?」
僕がそう言うやいなや、ヴィクトリアが誰よりも早く反応した。
2本の羽蛇斧を腰帯から抜き放つと、自慢の腕力でそれを投げつける。
そして念力によってコントロールされた2本の手斧は堕天使を次々と撃墜した。
それだけでは収まらずヴィクトリアは嵐刃戦斧を構えると、床に落下してなお息のある堕天使らに猛然と襲いかかった。
ここに来るまで壁役として防御に徹してばかりだった彼女は、たまった鬱憤を晴らすかのように堕天使たちを撃退していく。
数人の堕天使が倒されるのに10秒もかからなかったほどだ。
猪突猛進とはこのことだな。
僕の隣でノアが呆れたように顔をしかめた。
「やはりメスゴリラよの」
「よ、よっぽど彼女にはストレスだったんだよ。攻撃せずに守ってるだけってのが」
そう言う僕らの前に、堕天使に追われていた鳥が舞い降りてきて僕の肩に止まる。
『やあ。アルフレッド君。無事に中央広場にたどり着いたようで何より』
「ブレイディ!」
それはブレイディだった。
でもどうして彼女だけがここに……。
疑問に思う僕の目の前でブレイディは一度軽く宙に舞うと、パッと元の少女の姿に戻り、自慢の白衣を翻して床に降り立った。
薬液で変身した姿から自らの意思で元の姿に戻れるという彼女のスキルのひとつ、原点回帰だ。
「ふぅ。実は困ったことになってね」
「困ったこと?」
「シスター・ジェネットとアリアナ嬢の居場所を突き止めたんだが、堕天使たちの警備が異常に厳重なんだ。虫一匹入れないほどにね。ヤモリ姿で牢獄に入ろうとしたんだけれど、見つかってしまってね。慌てて隠れたんだが、侵入は難しそうだ」
それでブレイディはヤモリ姿から小鳥の姿に変身し、僕らに助けを求めにきたってわけだ。
「なるほどね。奴らも当然警戒しているわけか。私たちとジェネットたちが合流されると困ったことになるって」
そう言うとミランダはブレイディに指示を出す。
「なら私たちを牢獄に案内しなさい。堕天使どもを蹴散らしてとっととジェネットたちを引っ張り出すわよ。私たちばっかり働いているから、あの2人にもしっかり肉体労働をさせないと」
「オーケー。だけどワタシは最短ルートで小さな通気口を通ってきたから、鳥にならないと通れないんだ。君たちもワタシの薬液で鳥になって……」
ブレイディの言葉の途中でミランダはハッとして頭上を見上げた。
それにつられて僕らも上を見る。
吹き抜け上の中央広場には多くの回廊と外周廊下に続く扉があるんだけれど、バタンバタンと音を立てて次々と扉が閉められていく。
そして僕らの頭上の空間に大きなシステム・ウインドウが唐突に開いた。
『スキル無効化プログラム発動』
黒枠のウインドウには白字でそう表示されていた。
えっ?
ど、どういうことだ?
眉を潜める僕を一喝するミランダの声が響いた。
「アルッ! 油断しない! 上から来るわよ!」
吹き抜けの天井付近の扉からワラワラと人影が湧き出てくる。
それは堕天使の集団だ。
その数は数十人……い、いや、百人は軽く超えるぞ。
しかもまだまだ増え続けている。
そして彼らは決して僕らに近付いてこようとはせず、弓に矢をつがえると一斉に矢を放ったんだ。
「アルッ!」
「アルフレッド!」
「アイタッ!」
ミランダが即座に僕の襟首を掴んで床に引き倒し、そんな僕の頭上に覆いかぶさるように仁王立ちしたヴィクトリアが氷の盾を頭上に向けた。
無数の矢が雨あられと降り注ぎ、ヴィクトリアがそれを盾で懸命に防ぐ。
ミランダは黒鎖杖を振るって降りかかる矢を次々と払い落とした。
ノアだけは平然と矢の雨の中に立っているけれど、降り注ぐ矢は彼女の鱗の表面を滑って地面に落ち、その体に傷をつけることは出来ない。
先日の宴の時はあれだけあった椅子やテーブルがすっかり片付けられ、矢を遮るものが何もない中央広場の中で、ミランダたちは無数の矢をしのぎ続けている。
それでも堕天使たちは簡単には近付いて来ずに、矢を放ち続けている。
その攻撃は1分、2分と続き、その間、ミランダたちはずっとそれを耐え続けた。
やがて矢ではミランダ達を傷つけられないと悟ったのか、堕天使らは矢を射るのをやめ、僕らに向かって急降下し始めた。
まずいな。
数が多いぞ。
そしてこの中央広場ではどこにも身を隠すことが出来ない。
さっきのT字路のような地形効果を利用できない以上、乱戦は免れないぞ。
そうなれば絶対的にこっちが不利だ。
「ケッ! こざかしいんだよっ!」
苛立ったヴィクトリアが羽蛇斧を頭上から迫り来る堕天使に向けて投げつけた。
それは高速で飛び、寸分違わずに堕天使にヒットして撃墜した。
だけど……。
「な、なにっ?」
いつもはヴィクトリアの念力によって彼女の手元に戻って来るはずの羽蛇斧が床に落ちて転がる。
ヴィクトリアは驚愕に目を見開いた。
「ね、念力が使えねえ」
えっ?
驚く僕だけれど、不安材料はそれだけじゃなかった。
「ノアのブレスも使えぬ」
ノアは忌々しげにそう言うとミランダに視線を転じる。
ミランダは黒炎弾を放とうと指先を宙に向けるけれど、その指からは魔法が発せられることはなかった。
ま、魔法もブレスも使えない。
さ、さっきのシステム・ウインドウに記されていた『スキル無効化』の文字が脳裏に甦る。
あ、あれは本当のことだったんだ。
少なくともこの中央広場では魔法などのスキルは使用不可になっているんだ。
だ、堕天使たちの罠だ。
「チッ! まんまとハメられたわね。連中、ここを勝負どころと見て一気に勝負をかけてきたわ。スキルなしで直接叩くしかないわね」
そう言うと唇を噛みながらミランダは黒鎖杖を振り上げる。
スキルが使えないってことは、彼女たちには飛び道具がないってことだ。
それなら僕がやるしかない。
そう思ってEガトリングを機動しようとした僕だけど、ミランダはそんな僕を手で制した。
「待ちなさいアル。あんたはブレイディと一緒に鳥になってこの場から脱出するのよ。鳥なら通気口から脱出可能でしょ。ここは私ら3人でしのぐから」
「そ、そんな僕も戦うよ! Eガトリングがあれば……」
「いいえ。今ここで4人で戦い続けても勝算は薄いわ。接近戦が出来ないあんたをかばいながら戦うことにもなるし。だからあんたは一刻も早くジェネットたちの牢獄に行って、あの2人を引っ張ってきなさい」
ミランダの言葉に困惑する僕だけど、ヴィクトリアとノアはそんな僕の背を押すように言葉を重ねた。
「行けよアルフレッド。ここはアタシらだけで十分だ」
「ザコが何匹集まろうが、ノアの鱗に傷一つつけられぬわ。案ずるでない」
「2人とも……」
ヴィクトリアもノアも戦意十分な表情で不敵な笑みを浮かべる。
そこには不安や懸念など微塵も感じられなかった。
彼女たちの言葉に僕は不安を振り払って頷いた。
迷って立ち止まっている暇はない。
こうなったら僕は一刻も早くジェネットとアリアナをここに連れて戻らなくちゃ。
僕は決意して3人に声をかける。
「すぐにジェネットとアリアナを連れて戻るから、それまで踏ん張っていて」
「フン。誰に向かって言ってるのよ。あんたが戻って来る頃には堕天使どもは私に滅殺されて全滅してるわよ。余計な心配をしてないで、さっさと行きなさい」
強気にそう言うとミランダは黒鎖杖を握り締めて僕に背を向けた。
僕はその背中に強い決意を感じ取り、覚悟を決める。
彼女を信じよう。
それから僕とブレイディは薬液で再び鳥になり、通気口のダクトを目がけて必死に羽ばたいた。
背後では堕天使の群れが3人に襲いかかっていくのが分かる。
ミランダ、ヴィクトリア、ノア。
すぐに戻るからそれまで必ず無事でいて。
僕はそう祈りながら通気口に向かって全力で飛んだ。
撤退していった堕天使の群れに対してミランダは不満そうにそう言う。
い、いやまあ、危機は脱したことだし、いいんじゃないの?
僕はそう思うけれどミランダよりもさらに不満そうなのがヴィクトリアだ。
「おまえはいいよ。おまえは。アタシなんか堕天使どもに攻められるだけ攻められて、一体も倒していないんだぞ」
一番先頭で盾を持って防御役に徹していたヴィクトリアはフラストレーションを吐き出すようにそう言った。
だけど彼女のおかげで僕らはほとんどノーダメージで堕天使の第一波を撃退することが出来たんだ。
「まだ始まったばかりでしょ。堕天使なんてこれからいくらでもブッ倒せるじゃないの。さあ、ガンガン進むわよ」
ヴィクトリアの不満げな様子を一顧だにせずにミランダが再び先頭を進み出し、僕はヴィクトリアをなだめながら後に続いた。
僕のすぐ隣を歩くノアが平然とした様子で言う。
「今のところ近付いてくる敵はおらぬが、逃げた奴らが仲間を呼んでくることは必至。またすぐに戦闘になるであろうな」
彼女は足音で先ほどの堕天使の接近を知った。
「もし堕天使が空中を飛んで近付いてきても接近が分かるの?」
「こういう建物の中は音が反響するので分かりやすいのだ。たとえ飛んでいても羽音で分かる」
ノアの聴力は僕らにとってのアドバンテージだ。
敵の接近を事前に知ることが出来れば、さっきのように有利な地形を探したりと様々な対処が出来る。
「アル。中央広場にたどり着くまでまだ何度も堕天使らと鉢《はち》合わせするはずよ。だからここみたいに有利に堕天使を迎え撃てる地点に目星をつけておきなさい」
「うん」
それから僕はミランダに言われた通り、地図を見て最も有利に戦える地点を探しながら中央広場への道を進んだ。
ミランダの言った通り、途中で二度ほど堕天使たちとの小規模な戦闘になったけれど、最初の戦闘と同様に僕ら4人は連携してこれを撃退することが出来たんだ。
こうした戦闘によるダメージもほとんどなく、順調だった僕らはほどなくして目的地である中央広場にたどり着いた。
すると……。
「ピィィィィッ!」
5、6階層分の吹き抜けになっている中央広場の中を一羽の小さな鳥が飛び回り、数人の堕天使たちがその鳥を追い回している。
あ、あれってもしかして……。
「ブレイディたちのうちの誰かじゃないの?」
僕がそう言うやいなや、ヴィクトリアが誰よりも早く反応した。
2本の羽蛇斧を腰帯から抜き放つと、自慢の腕力でそれを投げつける。
そして念力によってコントロールされた2本の手斧は堕天使を次々と撃墜した。
それだけでは収まらずヴィクトリアは嵐刃戦斧を構えると、床に落下してなお息のある堕天使らに猛然と襲いかかった。
ここに来るまで壁役として防御に徹してばかりだった彼女は、たまった鬱憤を晴らすかのように堕天使たちを撃退していく。
数人の堕天使が倒されるのに10秒もかからなかったほどだ。
猪突猛進とはこのことだな。
僕の隣でノアが呆れたように顔をしかめた。
「やはりメスゴリラよの」
「よ、よっぽど彼女にはストレスだったんだよ。攻撃せずに守ってるだけってのが」
そう言う僕らの前に、堕天使に追われていた鳥が舞い降りてきて僕の肩に止まる。
『やあ。アルフレッド君。無事に中央広場にたどり着いたようで何より』
「ブレイディ!」
それはブレイディだった。
でもどうして彼女だけがここに……。
疑問に思う僕の目の前でブレイディは一度軽く宙に舞うと、パッと元の少女の姿に戻り、自慢の白衣を翻して床に降り立った。
薬液で変身した姿から自らの意思で元の姿に戻れるという彼女のスキルのひとつ、原点回帰だ。
「ふぅ。実は困ったことになってね」
「困ったこと?」
「シスター・ジェネットとアリアナ嬢の居場所を突き止めたんだが、堕天使たちの警備が異常に厳重なんだ。虫一匹入れないほどにね。ヤモリ姿で牢獄に入ろうとしたんだけれど、見つかってしまってね。慌てて隠れたんだが、侵入は難しそうだ」
それでブレイディはヤモリ姿から小鳥の姿に変身し、僕らに助けを求めにきたってわけだ。
「なるほどね。奴らも当然警戒しているわけか。私たちとジェネットたちが合流されると困ったことになるって」
そう言うとミランダはブレイディに指示を出す。
「なら私たちを牢獄に案内しなさい。堕天使どもを蹴散らしてとっととジェネットたちを引っ張り出すわよ。私たちばっかり働いているから、あの2人にもしっかり肉体労働をさせないと」
「オーケー。だけどワタシは最短ルートで小さな通気口を通ってきたから、鳥にならないと通れないんだ。君たちもワタシの薬液で鳥になって……」
ブレイディの言葉の途中でミランダはハッとして頭上を見上げた。
それにつられて僕らも上を見る。
吹き抜け上の中央広場には多くの回廊と外周廊下に続く扉があるんだけれど、バタンバタンと音を立てて次々と扉が閉められていく。
そして僕らの頭上の空間に大きなシステム・ウインドウが唐突に開いた。
『スキル無効化プログラム発動』
黒枠のウインドウには白字でそう表示されていた。
えっ?
ど、どういうことだ?
眉を潜める僕を一喝するミランダの声が響いた。
「アルッ! 油断しない! 上から来るわよ!」
吹き抜けの天井付近の扉からワラワラと人影が湧き出てくる。
それは堕天使の集団だ。
その数は数十人……い、いや、百人は軽く超えるぞ。
しかもまだまだ増え続けている。
そして彼らは決して僕らに近付いてこようとはせず、弓に矢をつがえると一斉に矢を放ったんだ。
「アルッ!」
「アルフレッド!」
「アイタッ!」
ミランダが即座に僕の襟首を掴んで床に引き倒し、そんな僕の頭上に覆いかぶさるように仁王立ちしたヴィクトリアが氷の盾を頭上に向けた。
無数の矢が雨あられと降り注ぎ、ヴィクトリアがそれを盾で懸命に防ぐ。
ミランダは黒鎖杖を振るって降りかかる矢を次々と払い落とした。
ノアだけは平然と矢の雨の中に立っているけれど、降り注ぐ矢は彼女の鱗の表面を滑って地面に落ち、その体に傷をつけることは出来ない。
先日の宴の時はあれだけあった椅子やテーブルがすっかり片付けられ、矢を遮るものが何もない中央広場の中で、ミランダたちは無数の矢をしのぎ続けている。
それでも堕天使たちは簡単には近付いて来ずに、矢を放ち続けている。
その攻撃は1分、2分と続き、その間、ミランダたちはずっとそれを耐え続けた。
やがて矢ではミランダ達を傷つけられないと悟ったのか、堕天使らは矢を射るのをやめ、僕らに向かって急降下し始めた。
まずいな。
数が多いぞ。
そしてこの中央広場ではどこにも身を隠すことが出来ない。
さっきのT字路のような地形効果を利用できない以上、乱戦は免れないぞ。
そうなれば絶対的にこっちが不利だ。
「ケッ! こざかしいんだよっ!」
苛立ったヴィクトリアが羽蛇斧を頭上から迫り来る堕天使に向けて投げつけた。
それは高速で飛び、寸分違わずに堕天使にヒットして撃墜した。
だけど……。
「な、なにっ?」
いつもはヴィクトリアの念力によって彼女の手元に戻って来るはずの羽蛇斧が床に落ちて転がる。
ヴィクトリアは驚愕に目を見開いた。
「ね、念力が使えねえ」
えっ?
驚く僕だけれど、不安材料はそれだけじゃなかった。
「ノアのブレスも使えぬ」
ノアは忌々しげにそう言うとミランダに視線を転じる。
ミランダは黒炎弾を放とうと指先を宙に向けるけれど、その指からは魔法が発せられることはなかった。
ま、魔法もブレスも使えない。
さ、さっきのシステム・ウインドウに記されていた『スキル無効化』の文字が脳裏に甦る。
あ、あれは本当のことだったんだ。
少なくともこの中央広場では魔法などのスキルは使用不可になっているんだ。
だ、堕天使たちの罠だ。
「チッ! まんまとハメられたわね。連中、ここを勝負どころと見て一気に勝負をかけてきたわ。スキルなしで直接叩くしかないわね」
そう言うと唇を噛みながらミランダは黒鎖杖を振り上げる。
スキルが使えないってことは、彼女たちには飛び道具がないってことだ。
それなら僕がやるしかない。
そう思ってEガトリングを機動しようとした僕だけど、ミランダはそんな僕を手で制した。
「待ちなさいアル。あんたはブレイディと一緒に鳥になってこの場から脱出するのよ。鳥なら通気口から脱出可能でしょ。ここは私ら3人でしのぐから」
「そ、そんな僕も戦うよ! Eガトリングがあれば……」
「いいえ。今ここで4人で戦い続けても勝算は薄いわ。接近戦が出来ないあんたをかばいながら戦うことにもなるし。だからあんたは一刻も早くジェネットたちの牢獄に行って、あの2人を引っ張ってきなさい」
ミランダの言葉に困惑する僕だけど、ヴィクトリアとノアはそんな僕の背を押すように言葉を重ねた。
「行けよアルフレッド。ここはアタシらだけで十分だ」
「ザコが何匹集まろうが、ノアの鱗に傷一つつけられぬわ。案ずるでない」
「2人とも……」
ヴィクトリアもノアも戦意十分な表情で不敵な笑みを浮かべる。
そこには不安や懸念など微塵も感じられなかった。
彼女たちの言葉に僕は不安を振り払って頷いた。
迷って立ち止まっている暇はない。
こうなったら僕は一刻も早くジェネットとアリアナをここに連れて戻らなくちゃ。
僕は決意して3人に声をかける。
「すぐにジェネットとアリアナを連れて戻るから、それまで踏ん張っていて」
「フン。誰に向かって言ってるのよ。あんたが戻って来る頃には堕天使どもは私に滅殺されて全滅してるわよ。余計な心配をしてないで、さっさと行きなさい」
強気にそう言うとミランダは黒鎖杖を握り締めて僕に背を向けた。
僕はその背中に強い決意を感じ取り、覚悟を決める。
彼女を信じよう。
それから僕とブレイディは薬液で再び鳥になり、通気口のダクトを目がけて必死に羽ばたいた。
背後では堕天使の群れが3人に襲いかかっていくのが分かる。
ミランダ、ヴィクトリア、ノア。
すぐに戻るからそれまで必ず無事でいて。
僕はそう祈りながら通気口に向かって全力で飛んだ。
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