32 / 89
第二章 天国の丘
第15話 困惑の結末
しおりを挟む
「ノア!」
巨大竜が変化して現れたのは竜人の幼女・ノアだったんだ。
ノアは気を失っているようで、グッタリとしたまま翼を動かすこともなく落下してくる。
な、何でノアが……いや、そんなことを考えている場合じゃない。
あのままじゃ地面に激突する。
僕がそう思ったその時、空中を高速で飛ぶ一体の悪魔がノアを受け止めたんだ。
「あれは……?」
その悪魔は他の悪魔と違って動物的な顔ではなく、人間の女性に近い顔をした女の悪魔だった。
その女の悪魔はノアの顔を確認すると、彼女を抱えたままそこから飛び去って行く。
上空では天使と悪魔の戦いがいよいよ終盤となっていたけど、女の悪魔はそこには目もくれず、遠くへと飛び去って行ってしまった。
「ノア……。やっぱり地獄の谷の方へ出張していたってことかな」
「あの巨大竜がノアでしたとは……彼女にはあのような能力が?」
僕の隣に並び立ってそう言うジェネットに僕は首を横に振った。
「僕が知る限り、あんなスキルはなかったと思う。もしかしたら新実装のスキルかも……いや、それはないか」
自分の口からポツリと出た言葉を僕は否定し、ジェネットもそれに追随する。
「そうですね。あれではあまりにゲームバランスを崩してしまいます。運営本部があのようなスキルの実装を許可するとは思えません」
「アル君。ノアを連れ去ったさっきの悪魔は何なのかな。何だか彼女を保護するみたいな感じだったけど」
そう言うアリアナの言葉に僕とジェネットは顔を見合わせる。
「どうやらノアはアル様のご推察通り、悪魔の陣営についているようですね。もしかしたらあの巨大竜の力は地獄の谷で身に付けたものかもしれません」
「僕のEライフルみたいにこっち限定での能力ってことならいいんだけど」
もしノアがあの力を僕らのゲームに持ち帰ったりしたら、とんでもないことになるぞ。
「彼女のあの力については早急な対策が必要ですね。ノアのことは我が主に報告しておきます。それにしてもあの女悪魔……どこかで見たような気がしますが」
「あ、私もそれ思った。どこで見たのかなぁ」
僕には遠過ぎてそこまでは見えなかったけれど、視力に優れたジェネットとアリアナはそう言って首を捻る。
だけどジェネットはすぐに気を取り直して僕らに言った。
「とにかくこのままでは森林火災に巻き込まれてしまうので、森の中を移動して安全な場所まで退避しましょう。途中でミランダとも合流しないと。おそらく彼女も森の中を移動して天馬の馬車群に向かっているはずでしょうから」
そう言うとジェネットは溶けかかった凍土壁の外側に躍り出る。
彼女の言葉に頷いて僕ら3人は森の中を駆け出した。
森の中にいた地上部隊の天使たちはいち早く離脱していたみたいだけど、上空の天使たちはあの巨大竜のせいで壊滅状態みたいだ。
「こ、こんな大変な作戦になるとは思わなかったね。天界からの物資は無事なのかな?」
「それならば巨大竜が現れる前に森の中に着地して、今ごろ天使たちの護衛部隊に守られて先に進んでいるはず……」
そう言いかけてジェネットは不意に足を止めた。
驚いて同じように足を止めた僕とアリアナを振り返るジェネットは無言で口元に人差し指を当て、それから木陰に隠れるよう手でジェスチャーをする。
僕とアリアナはそれに従い、音を立てないように木陰に身を隠した。
僕らの後ろに隠れたジェネットが静かに指差す方向に目をやると、十数メートル先の木々の間に二つの人影が見える。
それは2人の悪魔だった。
その2人の頭上を見ると、プレイヤーであることを示す赤い逆三角のマークが浮かんでいる。
『地獄の谷』をプレイしてる人達か。
耳を澄ませていると悪魔たちの話し声が聞こえてくる。
「話が違うじゃねえか。あのデカブツは俺らの援護射撃のために参加してるんじゃねえのか?」
「ああ。敵味方構うことなく暴れてやがる。あんなのエラーだろ。本部にクレーム入れるレベルだわ」
「まあでも、天使たちが大勢くたばったことは確かなんだし、俺らはその隙に天使に化けて物資をかすめ取ってやろうぜ。今回は結構おいしいアイテムが積載されてるみたいだからよ」
悪魔たちはそう言って笑い合うと何やらアイテムを取り出し始める。
小さくて詳細までは見えなかったけれど、それは片手で握れるほどの筒状のアイテムだった。
悪魔たちがそれを自分の腕に押し当てると、ほんの数秒の後に彼らの体に信じられないような変化が起きた。
黒い羽は白い翼に変わり、頭部の角は消えて代わりに天使の輪が頭の上に浮かぶ。
そう。
2人の悪魔は瞬く間に天使の姿に変わってしまったんだ。
「さすがに非正規に入手したアイテムだけあって反則的な効き目だな」
「どう見ても天使にしか見えねえだろ。超ウケる」
あ、あんなに簡単に天使に化けられるものなのか?
しかも本物と見分けがつかない。
あれで天使の中に紛れ込まれたら、もう見つけられないぞ。
「これは見過ごせませんね。アリアナ。左の男を頼みます」
小声でそう言うとジェネットはスッと立ち上がり、木陰から飛び出して一気呵成に悪魔たちに襲いかかる。
アリアナも即座に続いた。
天使に化けた悪魔たちは突然の襲撃に慌てて反撃しようとしたけれど、ジェネットとアリアナによってあっという間に組み伏せられ、地面に押さえつけられる。
ジェネットは懲悪杖を閂のように使って悪魔の両腕を背中でロックし、身動きを封じた。
「見事に化けたものですね。そうして天使に紛れるのですか。変身するためのアイテムを出しなさい。命までは奪いませんから」
そう言うジェネットの隣ではアリアナが悪魔の腕を後ろ手に捻り、その体に体重を預けて押さえ込んでいる。
「天使に化けるとこ見てたんだからね。誤魔化してもムダだよ」
僕はすぐにアイテム・ストックから縄を取り出して悪魔たちの捕縛に備える。
だけど悪魔たちは開き直るでも抵抗するでもなく言った。
「い、いきなり何をするんですか? 天使に化ける? わ、私たちは正真正銘の天使です。ちゃんと認識コードも持ってます」
「そうです。こんなことをされる覚えはありませんよ。放して下さい」
押さえ込まれている2人はまるで被害者であるかのように悲痛な表情で言っている。
言い逃れか?
だけどそんなことじゃ当然ジェネットは揺るがない。
「見苦しい嘘はおやめなさい。アリアナの言う通り、あなた方が天使に化けるところは我々3人がこの目で見ましたし、そうして天界からの物資を略奪しようとする悪だくみもこの耳で聞かせていただきました」
そう言うとジェネットは悪魔を押さえ込む手に力を込めた。
だけどその途端に悪魔たちはあろうことか泣き叫び出したんだ。
「い、嫌だぁぁぁぁぁ! 死にたくないぃぃぃぃぃ! 誰かぁぁぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!」
「こ、殺されるぅぅぅぅぅ! 何も悪いことしてないのにぃぃぃぃぃ!」
えええっ?
な、何そのリアクション。
白々しいにも程があるんじゃないの?
そんな悪魔たちの振る舞いにジェネットもアリアナも困惑の表情を浮かべる。
だけど次の瞬間、2人の悪魔はふいにパタリと力なく地面に顔をつけ、それ以上何も言わなくなった。
な、何だ?
動かなくなったぞ?
それを見たアリアナが目をまん丸くして掠れた声で言った。
「し……死んでる」
ええええっ?
う、ウソでしょ?
僕は驚いてジェネットにも視線を向けたけれど、彼女も驚愕の表情で首を横に振った。
「ライフが……ゼロになっています」
な、何で?
ジェネットとアリアナも同じ思いなんだろう。
互いに顔を見合わせたまま言葉を失っている。
2人ともただ相手が動けないように押さえ込んでいただけだ。
ほんのわずかなダメージは与えていたとしても、死なせてしまうほどじゃないはずだ。
ましてや達人である彼女たちが力加減を誤るなんてありえない。
だとしたら……。
僕とジェネットの視線が交錯し、ゆうべのことが思い起こされる。
「そ、その2人……爆発しないよね?」
「……そう願いたいです」
昨夜、僕の部屋に侵入しようとしていた堕天使は、取り押さえて自白させようとしたところで自爆を試みた。
その時のことが今回のこの2人の悪魔に重なり、僕はついビクビクしてしまう。
「妙ですね。自爆こそしないものの、捕まった途端に息絶えてしまうとは」
ジェネットは疑念に眉根を寄せる。
「ゆうべの堕天使といい、まるで何者かに口封じをされているかのように唐突に逝ってしまうのは一体どういうことでしょうか」
ジェネットがそう言ったその時、僕らの背後から短い悲鳴が聞こえた。
「ひっ!」
僕らが振り返るとそこには数人の天使たちがいて、皆一様に青ざめた顔でこちらを見ている。
彼らはジェネットとアリアナが天使に化けた悪魔たちを組み伏せている様子を見つめて唇をワナワナと震わせると、僕らを睨み付けて口々に声を上げた。
「ひ、人殺し!」
「どういうことだ? なぜ我らの同胞に手をかけた!」
ええええっ?
これはマズい。
完全に誤解されてるぞ。
僕はたまらずに声を上げた。
「ち、違いますよ! この2人は悪魔なんです。天使に化けて物資を略奪しようとしていたのを彼女たちが阻止してくれたんです」
必死にそう言う僕に追随して、ジェネットとアリアナも立ち上がる。
「本当ですよ。そうでなければ私達がこんな真似をする理由はありません」
「そ、そうだよ! この人たち悪魔だったんだから。私たちはこの目で見たの!」
それから僕らは集まってきた天使の人たちに事細かに事情を説明した。
だけど僕たちがこの時に懸命に主張したことは全て徒労に終わってしまった。
なぜならこの後、倒れて息絶えているこの2人が認証コードによって本物の天使であることが証明されてしまったからだ。
だとしたら僕らが見たあの変身は何だったのか。
多くの天使たちが僕らを取り囲み、僕らは仲間を裏切った反逆罪で天樹の塔へと連行されることになった。
そして困惑する僕らに追い打ちをかけるように、もっと最悪な報せが飛び込んできたんだ。
天使たちに守られていた天界からの物資は全て破壊され、失われてしまった。
それは天使たちにとって非常に悪いニュースだったけれど、僕らにとってはもっと信じ難い衝撃の報告だった。
なぜなら天使たちが必死に守った物資をことごとく破壊してしまったのは悪魔たちではなく、巨大竜に追い立てられて森の中に不時着していたはずの闇の魔女……ミランダだったからだ。
巨大竜が変化して現れたのは竜人の幼女・ノアだったんだ。
ノアは気を失っているようで、グッタリとしたまま翼を動かすこともなく落下してくる。
な、何でノアが……いや、そんなことを考えている場合じゃない。
あのままじゃ地面に激突する。
僕がそう思ったその時、空中を高速で飛ぶ一体の悪魔がノアを受け止めたんだ。
「あれは……?」
その悪魔は他の悪魔と違って動物的な顔ではなく、人間の女性に近い顔をした女の悪魔だった。
その女の悪魔はノアの顔を確認すると、彼女を抱えたままそこから飛び去って行く。
上空では天使と悪魔の戦いがいよいよ終盤となっていたけど、女の悪魔はそこには目もくれず、遠くへと飛び去って行ってしまった。
「ノア……。やっぱり地獄の谷の方へ出張していたってことかな」
「あの巨大竜がノアでしたとは……彼女にはあのような能力が?」
僕の隣に並び立ってそう言うジェネットに僕は首を横に振った。
「僕が知る限り、あんなスキルはなかったと思う。もしかしたら新実装のスキルかも……いや、それはないか」
自分の口からポツリと出た言葉を僕は否定し、ジェネットもそれに追随する。
「そうですね。あれではあまりにゲームバランスを崩してしまいます。運営本部があのようなスキルの実装を許可するとは思えません」
「アル君。ノアを連れ去ったさっきの悪魔は何なのかな。何だか彼女を保護するみたいな感じだったけど」
そう言うアリアナの言葉に僕とジェネットは顔を見合わせる。
「どうやらノアはアル様のご推察通り、悪魔の陣営についているようですね。もしかしたらあの巨大竜の力は地獄の谷で身に付けたものかもしれません」
「僕のEライフルみたいにこっち限定での能力ってことならいいんだけど」
もしノアがあの力を僕らのゲームに持ち帰ったりしたら、とんでもないことになるぞ。
「彼女のあの力については早急な対策が必要ですね。ノアのことは我が主に報告しておきます。それにしてもあの女悪魔……どこかで見たような気がしますが」
「あ、私もそれ思った。どこで見たのかなぁ」
僕には遠過ぎてそこまでは見えなかったけれど、視力に優れたジェネットとアリアナはそう言って首を捻る。
だけどジェネットはすぐに気を取り直して僕らに言った。
「とにかくこのままでは森林火災に巻き込まれてしまうので、森の中を移動して安全な場所まで退避しましょう。途中でミランダとも合流しないと。おそらく彼女も森の中を移動して天馬の馬車群に向かっているはずでしょうから」
そう言うとジェネットは溶けかかった凍土壁の外側に躍り出る。
彼女の言葉に頷いて僕ら3人は森の中を駆け出した。
森の中にいた地上部隊の天使たちはいち早く離脱していたみたいだけど、上空の天使たちはあの巨大竜のせいで壊滅状態みたいだ。
「こ、こんな大変な作戦になるとは思わなかったね。天界からの物資は無事なのかな?」
「それならば巨大竜が現れる前に森の中に着地して、今ごろ天使たちの護衛部隊に守られて先に進んでいるはず……」
そう言いかけてジェネットは不意に足を止めた。
驚いて同じように足を止めた僕とアリアナを振り返るジェネットは無言で口元に人差し指を当て、それから木陰に隠れるよう手でジェスチャーをする。
僕とアリアナはそれに従い、音を立てないように木陰に身を隠した。
僕らの後ろに隠れたジェネットが静かに指差す方向に目をやると、十数メートル先の木々の間に二つの人影が見える。
それは2人の悪魔だった。
その2人の頭上を見ると、プレイヤーであることを示す赤い逆三角のマークが浮かんでいる。
『地獄の谷』をプレイしてる人達か。
耳を澄ませていると悪魔たちの話し声が聞こえてくる。
「話が違うじゃねえか。あのデカブツは俺らの援護射撃のために参加してるんじゃねえのか?」
「ああ。敵味方構うことなく暴れてやがる。あんなのエラーだろ。本部にクレーム入れるレベルだわ」
「まあでも、天使たちが大勢くたばったことは確かなんだし、俺らはその隙に天使に化けて物資をかすめ取ってやろうぜ。今回は結構おいしいアイテムが積載されてるみたいだからよ」
悪魔たちはそう言って笑い合うと何やらアイテムを取り出し始める。
小さくて詳細までは見えなかったけれど、それは片手で握れるほどの筒状のアイテムだった。
悪魔たちがそれを自分の腕に押し当てると、ほんの数秒の後に彼らの体に信じられないような変化が起きた。
黒い羽は白い翼に変わり、頭部の角は消えて代わりに天使の輪が頭の上に浮かぶ。
そう。
2人の悪魔は瞬く間に天使の姿に変わってしまったんだ。
「さすがに非正規に入手したアイテムだけあって反則的な効き目だな」
「どう見ても天使にしか見えねえだろ。超ウケる」
あ、あんなに簡単に天使に化けられるものなのか?
しかも本物と見分けがつかない。
あれで天使の中に紛れ込まれたら、もう見つけられないぞ。
「これは見過ごせませんね。アリアナ。左の男を頼みます」
小声でそう言うとジェネットはスッと立ち上がり、木陰から飛び出して一気呵成に悪魔たちに襲いかかる。
アリアナも即座に続いた。
天使に化けた悪魔たちは突然の襲撃に慌てて反撃しようとしたけれど、ジェネットとアリアナによってあっという間に組み伏せられ、地面に押さえつけられる。
ジェネットは懲悪杖を閂のように使って悪魔の両腕を背中でロックし、身動きを封じた。
「見事に化けたものですね。そうして天使に紛れるのですか。変身するためのアイテムを出しなさい。命までは奪いませんから」
そう言うジェネットの隣ではアリアナが悪魔の腕を後ろ手に捻り、その体に体重を預けて押さえ込んでいる。
「天使に化けるとこ見てたんだからね。誤魔化してもムダだよ」
僕はすぐにアイテム・ストックから縄を取り出して悪魔たちの捕縛に備える。
だけど悪魔たちは開き直るでも抵抗するでもなく言った。
「い、いきなり何をするんですか? 天使に化ける? わ、私たちは正真正銘の天使です。ちゃんと認識コードも持ってます」
「そうです。こんなことをされる覚えはありませんよ。放して下さい」
押さえ込まれている2人はまるで被害者であるかのように悲痛な表情で言っている。
言い逃れか?
だけどそんなことじゃ当然ジェネットは揺るがない。
「見苦しい嘘はおやめなさい。アリアナの言う通り、あなた方が天使に化けるところは我々3人がこの目で見ましたし、そうして天界からの物資を略奪しようとする悪だくみもこの耳で聞かせていただきました」
そう言うとジェネットは悪魔を押さえ込む手に力を込めた。
だけどその途端に悪魔たちはあろうことか泣き叫び出したんだ。
「い、嫌だぁぁぁぁぁ! 死にたくないぃぃぃぃぃ! 誰かぁぁぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!」
「こ、殺されるぅぅぅぅぅ! 何も悪いことしてないのにぃぃぃぃぃ!」
えええっ?
な、何そのリアクション。
白々しいにも程があるんじゃないの?
そんな悪魔たちの振る舞いにジェネットもアリアナも困惑の表情を浮かべる。
だけど次の瞬間、2人の悪魔はふいにパタリと力なく地面に顔をつけ、それ以上何も言わなくなった。
な、何だ?
動かなくなったぞ?
それを見たアリアナが目をまん丸くして掠れた声で言った。
「し……死んでる」
ええええっ?
う、ウソでしょ?
僕は驚いてジェネットにも視線を向けたけれど、彼女も驚愕の表情で首を横に振った。
「ライフが……ゼロになっています」
な、何で?
ジェネットとアリアナも同じ思いなんだろう。
互いに顔を見合わせたまま言葉を失っている。
2人ともただ相手が動けないように押さえ込んでいただけだ。
ほんのわずかなダメージは与えていたとしても、死なせてしまうほどじゃないはずだ。
ましてや達人である彼女たちが力加減を誤るなんてありえない。
だとしたら……。
僕とジェネットの視線が交錯し、ゆうべのことが思い起こされる。
「そ、その2人……爆発しないよね?」
「……そう願いたいです」
昨夜、僕の部屋に侵入しようとしていた堕天使は、取り押さえて自白させようとしたところで自爆を試みた。
その時のことが今回のこの2人の悪魔に重なり、僕はついビクビクしてしまう。
「妙ですね。自爆こそしないものの、捕まった途端に息絶えてしまうとは」
ジェネットは疑念に眉根を寄せる。
「ゆうべの堕天使といい、まるで何者かに口封じをされているかのように唐突に逝ってしまうのは一体どういうことでしょうか」
ジェネットがそう言ったその時、僕らの背後から短い悲鳴が聞こえた。
「ひっ!」
僕らが振り返るとそこには数人の天使たちがいて、皆一様に青ざめた顔でこちらを見ている。
彼らはジェネットとアリアナが天使に化けた悪魔たちを組み伏せている様子を見つめて唇をワナワナと震わせると、僕らを睨み付けて口々に声を上げた。
「ひ、人殺し!」
「どういうことだ? なぜ我らの同胞に手をかけた!」
ええええっ?
これはマズい。
完全に誤解されてるぞ。
僕はたまらずに声を上げた。
「ち、違いますよ! この2人は悪魔なんです。天使に化けて物資を略奪しようとしていたのを彼女たちが阻止してくれたんです」
必死にそう言う僕に追随して、ジェネットとアリアナも立ち上がる。
「本当ですよ。そうでなければ私達がこんな真似をする理由はありません」
「そ、そうだよ! この人たち悪魔だったんだから。私たちはこの目で見たの!」
それから僕らは集まってきた天使の人たちに事細かに事情を説明した。
だけど僕たちがこの時に懸命に主張したことは全て徒労に終わってしまった。
なぜならこの後、倒れて息絶えているこの2人が認証コードによって本物の天使であることが証明されてしまったからだ。
だとしたら僕らが見たあの変身は何だったのか。
多くの天使たちが僕らを取り囲み、僕らは仲間を裏切った反逆罪で天樹の塔へと連行されることになった。
そして困惑する僕らに追い打ちをかけるように、もっと最悪な報せが飛び込んできたんだ。
天使たちに守られていた天界からの物資は全て破壊され、失われてしまった。
それは天使たちにとって非常に悪いニュースだったけれど、僕らにとってはもっと信じ難い衝撃の報告だった。
なぜなら天使たちが必死に守った物資をことごとく破壊してしまったのは悪魔たちではなく、巨大竜に追い立てられて森の中に不時着していたはずの闇の魔女……ミランダだったからだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
だって僕はNPCだから+プラス 4th 『お引っ越しプレゼンテーション』
枕崎 純之助
ファンタジー
バルバーラ大陸全土を巻き込む大騒動となったイベント【襲来! 破壊獣アニヒレート】が終わってから3日。
闇の魔女ミランダと下級兵士アルフレッドは新居であるミランダ城への引っ越しを終えた。
そんなミランダ城に彼女たちが引っ越してくる。
そしてアルフレッドの隣室を巡る彼女たちは、前代未聞のプレゼンバトルを繰り広げる!
誰がアルフレッドの隣の部屋をゲットするのか?
乞うご期待!
*イラストACより作者「歩夢」様のイラストを使用させていただいております。
だって僕はNPCだから
枕崎 純之助
ファンタジー
『嫌われ者の彼女を分かってあげられるのは僕だけ!?』
美人だけど乱暴で勝ち気な闇の魔女ミランダは誰からも嫌われる恐ろしい女の子。僕だって彼女のことは怖くてたまらないんだ。でも彼女は本当は・・・・・・。
あるゲーム内のNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)である僕は国王様に仕える下級兵士。
そんな僕が任されている仕事は、闇の洞窟の恐ろしいボスにして国民の敵である魔女ミランダを見張る役目だった。
ミランダを退治せんと数々のプレイヤーたちが闇の洞窟に足を踏み入れるけど、魔女の奏でる死を呼ぶ魔法の前にことごとく敗れ去っていく。
ミランダの華麗にして極悪な振る舞いを毎日見せつけられる僕と、ことあるごとに僕を悪の道に引きずり込もうとするミランダ。
僕らは不本意ながら少しずつ仲良くなっていった。
だけどそんなある日……。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
だって僕はNPCだから 2nd GAME
枕崎 純之助
ファンタジー
*前作「だって僕はNPCだから」の続編になります。
NPCが自我を持つという特徴のあるゲーム内で、僕は恐ろしい魔女ミランダを見張る下級兵士として日々を過ごしていた。
魔女ミランダが巻き起こした前回の大騒動から一ヶ月ほどが経過したある日。
魔女ミランダと聖女ジェネットが諸事情によって不在となった洞窟に、一人の少女が訪れた。
僕とその少女の出会い。
それが僕だけじゃなくミランダやジェネットまで巻き込む新たな騒動の幕開けだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる