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第三章 『地底世界エンダルシュア』

第12話 炎獄鬼バレットのケンカ・ショー

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「仕切り直しだ。ラウンド2と行こうぜ!」

 俺は再び噴熱間欠泉ヒート・ガイザーを繰り出すべく右足を振り上げた。
 その瞬間に長槍男ランスマンの繰り出す伸縮自在の深紅の槍が俺を襲う。
 ねらいは正確に俺の心臓だ。
 だが、それを予測していた俺は先ほどよりも早く噴熱間欠泉ヒート・ガイザーをキャンセルし、両腕を刃物に変える。

魔刃脚デビル・ブレード!」

 そしてまっすぐに突き出された槍を左腕の刃でいなす。
 槍の穂先から柄が俺の腕の刃を走り、けたたましい音とともに火花を散らした。
 長槍男ランスマンは即座に槍を引っ込めようとする。
 だが俺は即座に左手で槍の柄をつかんだ。
 逃がしはしない。
 そう思ったその時だった。

「うぐっ!」

 俺は槍をつかんだ左手に強烈な痛みを覚えて思わず顔をしかめた。
 見ると槍の柄から無数の長いとげが全方向に向かって生えていた。
 それは数十センチに及び、俺の手の甲を貫いている。
 途端とたんに手からおびただしい量の血があふれ出した。
 それを見た長槍男ランスマンがぼそりと声をらした。 

「……棘紅の槍ヤマアラシ
「ぐぅっ……くっ! 痛ってぇなぁ……けどな、こんなもんじゃ手を放しはしねえんだよ。ナメんなよ」

 俺は歯を食いしばって痛みをこらえながら、それでも槍を放さなかった。
 ここで引くほどヤワじゃねえんだよ。
 俺は再び全身の魔力を最高まで高める。

焔雷フレア・スパーク!」

 二度目の焔雷フレア・スパークを敢行した俺は左足にピリッとした刺激を感じ、装備した雷足環カネヘキリからパチッと青い火花が散るのを見た。
 途端とたんに俺の焔雷フレア・スパークで発生する雷が激しく周囲へ伝播でんぱする。
 な、何だこりゃ?

 通常はせいぜい俺の半径2メートルほどの範囲内に収まる焔雷フレア・スパークによる雷が、その数十倍の範囲まで広がっていく。
 そしてそれは製鉄所内で放置されたまま眠る各種の装置にまで波及し、機械類から次々と火花が上がる。
 威力も段違いだ。
 雷足環カネヘキリによる何らかの作用か?
 そして発生した雷が深紅の槍を伝って長槍男ランスマンに達した途端、長槍男ランスマン本人のみならず、その近くにいる残りの2人にも伝播でんぱした。

「ぐうっ!」
「ぐわっ!」
「うぎゃっ!」

 雷に打たれて三者三様の悲鳴が上がる。
 俺はこのチャンスを逃さなかった。
 痛む左手に力を込めて深紅の長槍を思い切り引っ張る。
 すると雷によって動きを止められた長槍男ランスマンはあっさりとこちらへ引っ張られた。

「ぬんっ!」

 俺は力を込めて長槍を跳ね上げ、その衝撃で長槍男ランスマンが宙を舞う。
 そこで俺は左手でつかんでいた槍を放した。
 とげによる刺し傷のせいで左手は力が入らないが俺にはまだ右手が残されている。
 先ほどの焔雷フレア・スパークで体内の魔力が充実している勢いそのままに、俺は右拳に魔力を集中させた。

 出し惜しみはしねえ。
 成すすべなくこちらに向かって飛んでくる長槍男ランスマンに照準を定めると俺は必殺の一撃を放った。

噴殺炎獄拳ヴォルカニック・ブラスト!」

 激しく炎を噴き上げる俺の右拳が唸りを上げ、落下してくる長槍男ランスマンの腹を直撃する。

「がふっ……」

 俺はそのまま拳を思い切り突き上げる。
 勢いよく宙を舞い上がり、天井に叩きつけられた長槍男ランスマンの体から炎が噴き上がる。

「ごああああっ!」

 断末魔の悲鳴を上げながら長槍男ランスマンは落下してきて地面に激突した。
 そのライフは0となっている。
 ゲームオーバーだ。

「フンッ。いっちょ上がりだな」

 その時、製鉄所の中でゴトリゴトリという重苦しい起動音が次々と響き渡る。
 見ると青い火花を散らしていた機械類がいきなり動き出しやがったんだ。
 天井のクレーンが作動し、ベルト・コンベアーが流れ出す。
 長い眠りから覚めた装置たちがぎこちなく動き出したせいで、静寂せいじゃくに包まれていた製鉄所内かさわがしく活気付く。
 先ほどの焔雷フレア・スパークの影響で息を吹き返しやがったのか。

「てめええええっ! やりやがったな!」

 長槍男の死体が炎に巻かれるまま光の粒子と化して消えていくのを見た大盾男シールドマンくちびるみ、金弓男アーチマン憤怒ふんぬの声を上げた。
 そして金弓男アーチマンは猛然と俺に矢を放ち続ける。
 左手がまだ使えない俺は、右手一本でそれを次々と弾き飛ばした。

 長槍男ランスマンが繰り出してくる深紅の槍が無くなったことで、前方からかけられる重圧プレッシャーが圧倒的に少なくなった。
 俺は矢を避けながらアイテム・ストックから高アルコールの酒を取り出すと、それを傷ついた左手にぶっかけた。 

「つうっ……」

 アルコールが傷口にしみて鋭い痛みが走り、俺は顔をしかめながその酒を口にふくんだ。
 グッと飲み込むと喉から胃が焼けるように熱くなる。
 そしてもう一杯それを口に含むと酒瓶さかびんを放り投げた。
 キツいアルコールの味が口の中に広がるのを感じながら大盾男シールドマンに向かっていく。

 奴はたてを構えながら一貫して防御の姿勢を取り、その背後から金弓男アーチマンが怒りの形相ぎょうそうで矢を放ちまくる。
 矢は空中を自由自在に舞い、さまざまな方向から俺をねらってくる。
 だが俺はヒルダとの戦いでこうした攻撃にはすっかり慣れていた。
 正面、左右、頭上、背後から迫る矢を全てかわすと、一気に大盾男シールドマンの間合いに入った。
 そして連続で拳と蹴りを繰り出す。

 大盾男シールドマンはこれを着実に防ぐが、俺が攻撃の速度を上げるとついて来られない。 
 左手がまだ使えない俺だが足技を中心に連続攻撃を仕掛け、その合間に噴熱間欠泉ヒート・ガイザーを繰り出す。

「ぐおっ!」

 元々製鉄所だけあって、地面は乾燥していて炎を噴き出しやすい地場ということもあり、足元から噴き出す炎は盛大だ。
 それを完全には防ぎ切れない大盾男シールドマンは足を焼かれてダメージを負う。
 奴の顔にあせりがにじんだ。
 このままライフをけずられ続ければ敗北必至だからだ。 

「調子に乗ってんじゃねえ!」

 だが、そこで金弓男アーチマンが動いた。
 奴は素早く大盾男シールドマンの股の間をすべり抜けると、一気に俺の眼前に出た。
 その手にはすでに弓矢がつがわれ、弓弦ゆんづるは限界まで引きしぼられている。
 
 裏をかかれた。
 俺がそう青ざめたと奴は思っただろう。
 だが、これこそ俺のねらいだった。

「プハアッ!」

 俺は右手の指先に炎をともし、口にふくんでいだ高アルコールの酒を一気に吹きかけた。
 引火した酒が金弓男アーチマンの体中に吹きかかり、奴の体を炎が包み込んで燃え上がる。

「うぎゃあああああっ!」

 金弓男アーチマンが悲鳴を上げてのたうち回る。
 俺は奴のあごを思い切り蹴り上げてやった。

「うげっ!」

 空中に跳ね上がった奴を追って俺も飛び上がる。
 そしてその顔面目掛けて拳を振り抜いた。
 スキルも何もいらねえ。
 顔面を粉々にするつもりで、ただ全力のパンチを奴の鼻面にブチ込んでやった。

「オラアッ!」
「グブォッ……」

 にぶい声をらした金弓男アーチマンは失神し、吹っ飛んだ。
 そして動き出したベルトコンベアーの上に落ちるとそのまま溶鉱炉ようこうろの中へと落ちて行った。
 そして奴が落ちた溶鉱炉ようこうろに鉱石や還元材が次々と落とされていった。
 フン。
 来世は鉄の弓にでも生まれ変わるんだな。

 俺は空中から見下ろして、残された大盾男シールドマンに声をかける。

「最後の1人になっちまったな。俺とてめえならこざかしい駆け引きは無しだ。さっきの勝負をもう一度しようぜ。今度こそてめえの自慢のたてをぶち抜いてやるよ」
「……我が風殺の盾アネモイを貫けるものなどない。弾き返してやろう」

 奴はそう言うとたてを掲げた。
 俺は体中の魔力を高めた状態で体を回転させる。
 最初から全力全開だ。

炎獄螺旋魔刃脚フレイム・スクリュー・デビル・ブレード!」

 俺の全身から炎があふれ出し、燃え盛る竜巻たつまきと化した俺は一気に降下する。
 鋭利なドリルとなった俺の爪先つまさきねらうのは、大盾男シールドマンご自慢のたてだ。
 俺は最初からたての表面に掘られた人相の口をねらった。

 俺の爪先つまさきたてに激突し、その衝撃に大盾男シールドマンは腰を落とし足を踏ん張って耐える。
 そして先ほどと同じくたての表面に描かれた人の口が、俺の爪先つまさきくわえこんで固定しようとする。
 だが俺は体の回転をさらに早めて貫通力を増強していく。
 足がねじ切れても構わねえ。
 絶対に引いてたまるかよ!

「うおおおおおおおっ!」

 体中から巻き起こる炎がさらに激しさを増し、高速回転する俺の爪先つまさきたての口をけずった。
 ギュイイイインとけたたましい音が鳴り響く中、俺は全身全霊を込めて全体重をたてにかけた。
 すると……バキッという音が響き渡り、たての中央部に亀裂きれつが入った。
 亀裂きれつは縦一閃に広がっていき、ついには左右真っ二つに割れた。

「ば、馬鹿な……ぐうっ!」

 たてを割った俺の爪先つまさき大盾男シールドマンの胸に突き刺さる。
 けずられた大盾男シールドマンの胸から鮮血が噴き出し、そしてその全身が炎に巻かれていく。
 そのライフが急低下していき、ついには尽きた。

「がはっ!」

 俺は回転を止めて大盾男シールドマンの体から離れると、地面に降り立った。
 そんな俺の眼前で大盾男シールドマンは口から大量の血を吐き出し、苦悶くもんの表情でその場にひざをつき倒れ込む。

「……お、親方。すまねえ」

 そう言ったきり大盾男シールドマンは動かなくなり、ゲームオーバーを迎えた。
 俺は大きく息を吐き出す。
 さっき飲んだ酒がまだ残っているため、吐息といきが一瞬赤く燃え上がった。
 これで3人片付いたわけだ。

「へっ。ざまあみやがれ」

 そう吐き捨てると俺は周囲を見回す。
 ロドリックの野郎がどこかにいるはずだ。
 また急襲されるかもしれないことを警戒して、俺は臨戦態勢を解かずに体内の魔力を高めたままでいる。
 だが、そこで俺は我が目を疑った。
 
 いきなり製鉄所の天井を突き破って2人の人物が落下してきやがったんだ。
 そのうちの1人は……ロドリックだった。
 そしてそのロドリックが争っていた相手は、くさりつながれたティナを抱えた女堕天使だてんし、ヒルダだったんだ。
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