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最終章 月下の死闘
第24話 夜明けの刻
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「いけぇぇぇぇぇぇっ!」
地面に激突するのも厭わぬほどの勢いで急降下する天烈の背中の上で僕は嵐龍槍斧を振り上げる。
このままの速度で降下すると、天烈もろとも地面に激突してしまうから、タイミングを見計らって僕は天烈から飛び下りなければならないだろう。
そして天烈が地上に叩きつけられる前に降下速度を緩められるギリギリのタイミングで僕は天烈の頭に手を置いて、その首を下げさせた。
その瞬間に手綱を放すと僕の体は勢いよく前に放り出される。
空中に投げ出された僕は前回りに一回転してその勢いのまま全体重をかけて嵐龍槍斧を振り下ろした。
目の前には今まさに黒狼牙を抜刀するアナリンの姿がある。
僕の振り下ろした嵐龍槍斧がアナリンの振り上げる黒狼牙とぶつかり合った。
すさまじい衝撃が手から腕へと伝い、僕の全身に浸透する。
「ぐぅぅぅぅっ!」
僕は歯を食いしばって全身の力を嵐龍槍斧に伝える。
聖光透析で強化されたこの体の全ての力を今ここで使い果たしていい。
この一撃に全てをかける!
「くああああああっ!」
「シャアアアアアッ!」
だけどアナリンの振り上げた鬼道烈斬の勢いは凄まじく、その衝撃波が僕を一気に吹き飛ばそうとする。
くっ!
こ、ここまでやってもダメなのか!
そう思ったその時、僕のすぐ脇で天烈が地面の上でもがいているのが見えた。
全力で急降下してきたために、勢い余って着地できずに地面に激突してしまったんた。
その苦しげな嘶きが聞こえた時、ほんの一瞬だけど、アナリンの目に以前のような意志の光が宿ったような気がしたんだ。
するとその瞬間……嵐龍槍斧を受け止める黒狼牙の真っ赤な刀身にピシッとひとすじのヒビが入った。
そして黒狼牙から伝わって来る剣圧がわずかに弱まったんだ。
「カッ……」
アナリンがその口から苦しげな声を漏らした。
今だ!
僕はその瞬間に全力以上の力をかけて嵐龍槍斧を押し込む。
「うわあああああああっ!」
するとパキパキッと乾いた音を立てて黒狼牙の刀身に亀裂が走る。
そして……僕が押し込んだ嵐龍槍斧がついに黒狼牙の刀身を真っ二つにへし折ったんだ。
「ガハッ!」
「くあっ!」
僕は勢い余ってそのまま前のめりに床に倒れ込んだ。
痛みを堪えてすぐに起き上がると、アナリンは折れた黒狼牙を構えたまま立ち尽くしていた。
その体が小刻みに震えている。
「ア、アナリン……」
折れた刀身から大量の血が噴き出していく。
そして真紅に染まっていた黒狼牙の刀身は、くすんだ灰色へと変化していく。
それに伴い、異様な姿に変貌していたアナリンの様子が変わった。
長く赤い頭の角は引っ込んでいき、異様に赤かった肌は元の白肌へと戻っていく。
「かはっ……」
アナリンはその口から苦しげな息を漏らし、その場に倒れ込んで動かなくなった。
そのライフは相変わらず0のままだ。
そしてその手から離れた黒狼牙は床の上に乾いた音を立てて転がった。
その刀身からは、先ほどまであれほど強く放たれていた恐ろしい殺気が感じられない。
僕は直感した。
黒狼牙の力が失われたのだと。
「か、勝てた……」
僕は呆然とそう呟くと、すぐ近くにいる天馬・天烈に目を向けた。
天烈は地面に激突したせいで脚を痛めてしまったようで、床の上に腹ばいになったまま苦しげに呻き声を漏らしている。
天烈の協力がなければアナリンに勝つことは出来なかった。
僕は感謝の気持ちを胸に天烈に近寄ろうとした。
「回復してあげないと……」
だけど一歩踏み出そうとした僕は、その場にガックリと膝をついてしまった。
「あ、あれ……」
どうやらすべての力を使い果たしてしまったみたいで、立ち上がろうとしてもまったく足に力が入らない。
聖光透析の反動だ。
僕はそのまま床の上にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
精根尽き果てた。
まさにそんな感じだった。
体が休息を求めて活動停止していく。
遠のいていく意識の中で僕が思い浮かべたのは、意地悪な魔女の顔だった。
ミランダ……僕、がんばったよ。
少しは君に……誉めてもらえるかな。
☆☆☆☆☆
「……ル。アル!」
僕を呼ぶその声にハッとして目を開けると、見慣れた顔が僕を上から覗き込んでいた。
「……ミランダ」
僕がゆっくりと身を起こすと、そこは先ほど倒れた時のまま、バルコニーの上だった。
僕の周りにはミランダの他にジェネット、アリアナ、ヴィクトリア、ノアが座り込んでいる。
皆……僕が気を失っている間に僕の体から抜け出ることが出来たんだね。
全員が傷ついて疲れた顔をしていたけれど、皆、確かにここにいてくれる。
誰ひとりとしてゲームオーバーになってはいない。
そのことが嬉しくて僕は胸にこみ上げる思いを抑えきれずに唇を震わせた。
「みんな……よかった」
そんな僕の手を取り、肩を叩き、頭をクシャクシャにしながら皆が喜んでくれる。
「アル様! よくぞご無事で」
「アル君! よかったぁ!」
「アルフレッド! 死んだかと思ったぞ」
「アルフレッド。ノアの許可なく死ぬなど許さぬぞ」
皆が口々にそう声をかけてくれる中、ミランダだけはいつものように傲然と腕組みをしながらそっぽを向いている。
彼女の胸に刺さっていたはずの脇差し・腹切丸は少し離れた石床の上に落ちていた。
ミランダの胸には血の跡が残されていたけれど、彼女のライフは半分くらいまで回復していた。
「ミランダ……もう大丈夫なの?」
「当たり前でしょ。アル。私より自分の心配をしなさいよ。弱っちいくせにいつもいつもムチャばっかりして」
怒ったような口調でそう言うミランダだけれど、長い付き合いの僕には分かる。
彼女は僕を心配してくれているんだ。
「ごめんね。心配かけて。でも、皆のおかげで勝てたよ」
少し離れた場所には王女様とエマさんが横たわっている。
2人とも無事みたいだ。
「ブレイディーも無事ですよ。アル様」
そう言うジェネットの手にはネズミ姿のブレイディーが乗っている。
眠っているけれど、その無事な姿に僕はホッとした。
その時、後方から馬の嘶きが聞こえてくる。
「ブルルッ!」
天烈だ。
先ほどは石床に激突して脚を負傷していた天烈だけど、今はしっかりとその足で大きな体を支えて立っている。
「暴れたり逃げたりする様子がなかったので、私が回復させておきましたが……」
そう言うとジェネットはそちらにチラリと視線を向けた。
天烈の足元には横たわるアナリンの姿がある。
アナリンは……まだゲームオーバーにはなっていなかった。
だけど横たわる彼女の上にはシステムエラーを示すコマンド・ウインドウが表示されていたんだ。
【システム・エラー:活動停止:原因不明】
原因不明のシステム・エラー……。
我を失い、無差別に刀を振るったアナリン。
とてつもない力にその身を支配された反動が来たんだ。
黒狼牙・極の状態の彼女は明らかに普通じゃなかった。
こうなるのも必然だったと言えるだろう。
だけど、このような状態になることがアナリンの本意だったんだろうか。
彼女の真意までは分からないけれど、僕には到底そうは思えない。
彼女はサムライとしての誇りと尊厳を大事にしていたはずだ。
それを自ら蔑ろにするような姿に変わりたいと、彼女が果たして思うだろうか。
それは疑問だった。
倒れたまま動かないアナリンを心配そうに見下ろしている天烈は、僕らから主人を守るようにそこに立ちはだかっていた。
その忠節ぶりには敵ながら頭が下がる。
天烈のそんな様子を見ながらジェネットが立ち上がった。
「あの天馬には気の毒ですが、アナリンの身柄を確保しなければなりません」
そう言ってジェネットが近寄ろうとすると天烈は警戒して鼻を鳴らす。
「ブルルッ!」
だけどその時、その天烈の背中に……ブスリと一本の槍が突き刺さったんだ。
「なっ……」
頭上から飛んできたその槍は、天烈の背中から腹部までを貫いていた。
そのオナカから大量の血が溢れ出す。
天烈は急所を突かれてしまったようで、あっという間にそのライフが尽きてしまい、断末魔の嘶きを上げながら光の粒子となって消えていく。
ゲ、ゲームオーバーだ。
「い、一体誰が……」
頭上を見上げた僕は、崩れかけたミランダ城の本丸の屋根に1人の人物が立っているのを見たんだ。
昇ってくる朝の太陽を背に受けて立つその人物を、僕は逆光の中で目を細めて見つめた。
あ、あれは……。
「よう。モグラ野郎。久しぶりだな。しばらく見ないうちに随分とお仲間が増えたじゃねえか」
そこに立っていた人物に僕は唖然として一瞬言葉を失った。
それはかつて僕の同僚だった男だ。
「リ、リード……」
地面に激突するのも厭わぬほどの勢いで急降下する天烈の背中の上で僕は嵐龍槍斧を振り上げる。
このままの速度で降下すると、天烈もろとも地面に激突してしまうから、タイミングを見計らって僕は天烈から飛び下りなければならないだろう。
そして天烈が地上に叩きつけられる前に降下速度を緩められるギリギリのタイミングで僕は天烈の頭に手を置いて、その首を下げさせた。
その瞬間に手綱を放すと僕の体は勢いよく前に放り出される。
空中に投げ出された僕は前回りに一回転してその勢いのまま全体重をかけて嵐龍槍斧を振り下ろした。
目の前には今まさに黒狼牙を抜刀するアナリンの姿がある。
僕の振り下ろした嵐龍槍斧がアナリンの振り上げる黒狼牙とぶつかり合った。
すさまじい衝撃が手から腕へと伝い、僕の全身に浸透する。
「ぐぅぅぅぅっ!」
僕は歯を食いしばって全身の力を嵐龍槍斧に伝える。
聖光透析で強化されたこの体の全ての力を今ここで使い果たしていい。
この一撃に全てをかける!
「くああああああっ!」
「シャアアアアアッ!」
だけどアナリンの振り上げた鬼道烈斬の勢いは凄まじく、その衝撃波が僕を一気に吹き飛ばそうとする。
くっ!
こ、ここまでやってもダメなのか!
そう思ったその時、僕のすぐ脇で天烈が地面の上でもがいているのが見えた。
全力で急降下してきたために、勢い余って着地できずに地面に激突してしまったんた。
その苦しげな嘶きが聞こえた時、ほんの一瞬だけど、アナリンの目に以前のような意志の光が宿ったような気がしたんだ。
するとその瞬間……嵐龍槍斧を受け止める黒狼牙の真っ赤な刀身にピシッとひとすじのヒビが入った。
そして黒狼牙から伝わって来る剣圧がわずかに弱まったんだ。
「カッ……」
アナリンがその口から苦しげな声を漏らした。
今だ!
僕はその瞬間に全力以上の力をかけて嵐龍槍斧を押し込む。
「うわあああああああっ!」
するとパキパキッと乾いた音を立てて黒狼牙の刀身に亀裂が走る。
そして……僕が押し込んだ嵐龍槍斧がついに黒狼牙の刀身を真っ二つにへし折ったんだ。
「ガハッ!」
「くあっ!」
僕は勢い余ってそのまま前のめりに床に倒れ込んだ。
痛みを堪えてすぐに起き上がると、アナリンは折れた黒狼牙を構えたまま立ち尽くしていた。
その体が小刻みに震えている。
「ア、アナリン……」
折れた刀身から大量の血が噴き出していく。
そして真紅に染まっていた黒狼牙の刀身は、くすんだ灰色へと変化していく。
それに伴い、異様な姿に変貌していたアナリンの様子が変わった。
長く赤い頭の角は引っ込んでいき、異様に赤かった肌は元の白肌へと戻っていく。
「かはっ……」
アナリンはその口から苦しげな息を漏らし、その場に倒れ込んで動かなくなった。
そのライフは相変わらず0のままだ。
そしてその手から離れた黒狼牙は床の上に乾いた音を立てて転がった。
その刀身からは、先ほどまであれほど強く放たれていた恐ろしい殺気が感じられない。
僕は直感した。
黒狼牙の力が失われたのだと。
「か、勝てた……」
僕は呆然とそう呟くと、すぐ近くにいる天馬・天烈に目を向けた。
天烈は地面に激突したせいで脚を痛めてしまったようで、床の上に腹ばいになったまま苦しげに呻き声を漏らしている。
天烈の協力がなければアナリンに勝つことは出来なかった。
僕は感謝の気持ちを胸に天烈に近寄ろうとした。
「回復してあげないと……」
だけど一歩踏み出そうとした僕は、その場にガックリと膝をついてしまった。
「あ、あれ……」
どうやらすべての力を使い果たしてしまったみたいで、立ち上がろうとしてもまったく足に力が入らない。
聖光透析の反動だ。
僕はそのまま床の上にうつ伏せに倒れ込んでしまった。
精根尽き果てた。
まさにそんな感じだった。
体が休息を求めて活動停止していく。
遠のいていく意識の中で僕が思い浮かべたのは、意地悪な魔女の顔だった。
ミランダ……僕、がんばったよ。
少しは君に……誉めてもらえるかな。
☆☆☆☆☆
「……ル。アル!」
僕を呼ぶその声にハッとして目を開けると、見慣れた顔が僕を上から覗き込んでいた。
「……ミランダ」
僕がゆっくりと身を起こすと、そこは先ほど倒れた時のまま、バルコニーの上だった。
僕の周りにはミランダの他にジェネット、アリアナ、ヴィクトリア、ノアが座り込んでいる。
皆……僕が気を失っている間に僕の体から抜け出ることが出来たんだね。
全員が傷ついて疲れた顔をしていたけれど、皆、確かにここにいてくれる。
誰ひとりとしてゲームオーバーになってはいない。
そのことが嬉しくて僕は胸にこみ上げる思いを抑えきれずに唇を震わせた。
「みんな……よかった」
そんな僕の手を取り、肩を叩き、頭をクシャクシャにしながら皆が喜んでくれる。
「アル様! よくぞご無事で」
「アル君! よかったぁ!」
「アルフレッド! 死んだかと思ったぞ」
「アルフレッド。ノアの許可なく死ぬなど許さぬぞ」
皆が口々にそう声をかけてくれる中、ミランダだけはいつものように傲然と腕組みをしながらそっぽを向いている。
彼女の胸に刺さっていたはずの脇差し・腹切丸は少し離れた石床の上に落ちていた。
ミランダの胸には血の跡が残されていたけれど、彼女のライフは半分くらいまで回復していた。
「ミランダ……もう大丈夫なの?」
「当たり前でしょ。アル。私より自分の心配をしなさいよ。弱っちいくせにいつもいつもムチャばっかりして」
怒ったような口調でそう言うミランダだけれど、長い付き合いの僕には分かる。
彼女は僕を心配してくれているんだ。
「ごめんね。心配かけて。でも、皆のおかげで勝てたよ」
少し離れた場所には王女様とエマさんが横たわっている。
2人とも無事みたいだ。
「ブレイディーも無事ですよ。アル様」
そう言うジェネットの手にはネズミ姿のブレイディーが乗っている。
眠っているけれど、その無事な姿に僕はホッとした。
その時、後方から馬の嘶きが聞こえてくる。
「ブルルッ!」
天烈だ。
先ほどは石床に激突して脚を負傷していた天烈だけど、今はしっかりとその足で大きな体を支えて立っている。
「暴れたり逃げたりする様子がなかったので、私が回復させておきましたが……」
そう言うとジェネットはそちらにチラリと視線を向けた。
天烈の足元には横たわるアナリンの姿がある。
アナリンは……まだゲームオーバーにはなっていなかった。
だけど横たわる彼女の上にはシステムエラーを示すコマンド・ウインドウが表示されていたんだ。
【システム・エラー:活動停止:原因不明】
原因不明のシステム・エラー……。
我を失い、無差別に刀を振るったアナリン。
とてつもない力にその身を支配された反動が来たんだ。
黒狼牙・極の状態の彼女は明らかに普通じゃなかった。
こうなるのも必然だったと言えるだろう。
だけど、このような状態になることがアナリンの本意だったんだろうか。
彼女の真意までは分からないけれど、僕には到底そうは思えない。
彼女はサムライとしての誇りと尊厳を大事にしていたはずだ。
それを自ら蔑ろにするような姿に変わりたいと、彼女が果たして思うだろうか。
それは疑問だった。
倒れたまま動かないアナリンを心配そうに見下ろしている天烈は、僕らから主人を守るようにそこに立ちはだかっていた。
その忠節ぶりには敵ながら頭が下がる。
天烈のそんな様子を見ながらジェネットが立ち上がった。
「あの天馬には気の毒ですが、アナリンの身柄を確保しなければなりません」
そう言ってジェネットが近寄ろうとすると天烈は警戒して鼻を鳴らす。
「ブルルッ!」
だけどその時、その天烈の背中に……ブスリと一本の槍が突き刺さったんだ。
「なっ……」
頭上から飛んできたその槍は、天烈の背中から腹部までを貫いていた。
そのオナカから大量の血が溢れ出す。
天烈は急所を突かれてしまったようで、あっという間にそのライフが尽きてしまい、断末魔の嘶きを上げながら光の粒子となって消えていく。
ゲ、ゲームオーバーだ。
「い、一体誰が……」
頭上を見上げた僕は、崩れかけたミランダ城の本丸の屋根に1人の人物が立っているのを見たんだ。
昇ってくる朝の太陽を背に受けて立つその人物を、僕は逆光の中で目を細めて見つめた。
あ、あれは……。
「よう。モグラ野郎。久しぶりだな。しばらく見ないうちに随分とお仲間が増えたじゃねえか」
そこに立っていた人物に僕は唖然として一瞬言葉を失った。
それはかつて僕の同僚だった男だ。
「リ、リード……」
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