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第三章 リモート・ミッション・α
第13話 不死暗殺者ザッカリー
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「アビー!」
うつぶせのまま倒れていたのは、さっき司令室へ上がっていったアビーだった。
彼女は気を失っていてピクリとも動かない。
そしてそのライフゲージは大幅に減っている。
くっ!
「アビーに何をした!」
怒りの声を上げる僕にザッカリーは冷淡な声で答える。
「案ずるな。この小娘は殺しはしない。懺悔主党のアビーは貴重な情報源。連れ去って拷問し、知っていることを全て吸い出してやる」
「ふ……ふざけるな!」
僕は頭に血が上り、握っている金の蛇剣の切っ先をザッカリーに突きつける。
だけどザッカリーはまったく臆することなく、素早い動きでターンして背後のアビーの傍にしゃがみ込む。
そしていつの間にか手にしていたメスを倒れているアビーに突きつけた。
「女。なぜ貴様がその剣を持っているのか知らぬが、挙動に注意するがいい。この小娘を殺しはしないと言ったが、喋れさえすれば五体満足で連れ帰る必要はない。指の1本、2本切り取ってやってもいいぞ。何ならこの尾もな」
そう言うとザッカリーはアビーのフワフワの尻尾を左手で握り、その根元に右手のメスを当てた。
「や、やめろ!」
僕の反応を見てザッカリーはその歯をカタカタと鳴らした。
わ、笑っているのか?
僕の反応からアビーが人質として有効であると認識したようだ。
でもアビーを傷つけさせるわけにはいかない。
「こ、これ以上……その子を傷つけるな」
「ならば女。まずは貴様の名を名乗れ。貴様のような女は敵のリストに載っていなかった。新顔か?」
僕は神様と顔を見合わせた。
神様は仕方なく頷く。
「私は……アルフリーダ。懺悔主党の新メンバーだ」
そう言うと僕は神様が用意してくれていた偽のステータスを示す。
ちなみに今は蛇剣を装備しているため、本来は弱い僕の各種ステータスは天地逆転して強くなっている。
ザッカリーは目玉のない不気味な空洞の眼窩をこちらに向けて僕のステータスを眇め見る。
「アルフリーダ。それで貴様はなぜ……下級兵士アルフレッドの装備を手にしている」
「それは……」
う、疑われてる。
ここで僕がアルフレッドだとバレるのは何だかマズイ気がするな。
思わず口ごもる僕だけど、それに神様が答えた。
「その装備はオリジナルから作り出した次世代品のサンプルだ。アルフレッド以外でも効果的に使えるのかテスト中でな。ザッカリーとやら。おまえがその身を持って効果を試してみるか?」
神様は肩を刺されて痛むはずなのに、それでもいつもの人を食ったような口調でそう言った。
「そういうことか。貴様らの話の真偽をここで追及するつもりはない。ただ一つハッキリしたことは、ここで殺すべき相手は貴様だけだということだ。アルフリーダ」
ザッカリーがそう言った瞬間、空洞であるはずのその目の奥に青白い光が宿った。
それを見た途端、僕は全身が硬直するのを覚えたんだ。
「がっ……」
……う、動けない。
この場から足を一歩踏み出すことも、握り締めた剣を振り上げることも出来ない。
僕の体がまったく僕の言うことを聞かなくなってしまった。
まばたきすら出来ずに驚愕する僕の目の前で、ザッカリーがアビーから手を放して立ち上がる。
「眼光縛り」
不気味なザッカリーの頭蓋骨がカタカタと動いてその言葉を紡いだ。
眼光縛り?
も、もしかして僕を動けなくしているのはザッカリーの能力なのか。
「さらばだ。アルフリーダ」
ザッカリーがそう言うと、僕は首すじに何やらチクリと痛みを感じた。
それはほんのわずかな痛みで、すぐに感じなくなる。
な、何だ?
「安らかなる死」
ザッカリーはひび割れた声で呪文を唱えるかのようにそう言った。
な、何かをやられたんだ。
もはや消えてしまった首すじのかすかな痛みを思い返し、僕は自分がザッカリーからの攻撃を受けたのだと悟った。
だけど僕の体は相変わらず動けないだけで、何の痛みもなければ……。
「アルフリーダ! ライフゲージを見ろ!」
ふいに神さまがそう叫んだ。
僕は弾かれたように自分のライフゲージに注目する。
すると僕のライフがすごい勢いでグングン減っているのが分かった。
そ、そんな……痛みも何もないのに。
「至高の暗殺術とは暗殺対象者に死を感じさせることなく唐突なる終わりを与えることだ。痛みを一切感じさせぬ猛毒が今、貴様の体内に浸透しつつある」
ザッカリーがそう語る間にも僕のライフは残り半分を切った。
身動きの取れない状況に相手を追い込み、その状態で相手のライフを速やかにゼロにする。
静寂の中に相手を葬り去る完璧な暗殺術だった。
や、やられた。
さすがにもうダメだ。
僕は自分のライフが尽きていくのを見ている他に何もすることが出来ないまま死を迎えようとしていた。
「おのれっ!」
傷ついた神様は肩に刺さったメスを左手で引き抜いて投げ捨てると、必死に立ち上がってザッカリーに向かって行こうとする。
「そこでおとなしくしていろ」
「ぐっ!」
ザッカリーは再びその目を光らせて神様の動きを止める。
神様は駆け出そうと片足を上げたままの姿勢で、まんまとその場に動けなくなってしまった。
ザッカリーの眼光縛りだ。
くっ!
神様まで僕と同じ目に……あれ?
そこで僕は異変を感じ取った。
神様は確かに動けなくなっている。
だけど動かないのは神様だけじゃなかった。
神様に眼光縛りをかけたはずのザッカリーまでもが、仁王立ちのまま少しも動かなくなっている。
な、何が起きているんだ?
僕は自分も動けない状態で、今見えている視界の中を必死に探った。
すると、あるとんでもない事実に気が付いたんだ。
動かなくなった神様は立ち上がる際に自分の右肩に刺さったメスを左手で抜き捨てていた。
そのメスは床に当たって弾んだ状態で……空中で止まっていたんだ。
そして動きを止めているザッカリーの背後の壁にかけられた時計の秒針が25秒のところで止まったままになっていた。
な、何だこれは。
時計が……いや、時間が止まっている?
奇妙な現象に混乱する僕は自分のライフゲージを確かめた。
今にも尽きそうになっていた僕のライフは、残りわずかのところで止まっていた。
それ以上は減っていかない。
やっぱりそうだ。
時間が止まっているんだ。
でも何で……?
そう思った僕は部屋の天井に奇妙な赤い光の時計マークが浮かび上がっているのに気が付いた。
な、何だアレ?
そう訝しむ僕は、そこでふいに背中に手を当てられて思わずギョッとした。
声も出せない僕は、その誰かの手で背中を押されて前につんのめった。
「うわっ……」
自分の体がいきなり動けるようになったことに驚いた僕は、すぐに後ろを振り返ってさらに驚きに目を見開いた。
そこにはさっきザッカリーの力で動きを止められたままの僕の体があるんだ。
「な、何だこれ? どうして僕が……」
そう言いながら次に自分自身の今の体を見下ろして僕はますます驚いた。
それは僕本来の男性の体だったんだ。
アルフレッドに戻ったのか?
いや……まるで僕は女性であるアルフリーダの体から男性としての意識だけを押し出されたかのような状態だった。
僕がそう思ったのは、今の自分の体が薄く透けているように見えるからだ。
さながら体から抜けだした魂のようだ。
そんなことを思っている僕の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やっぱりアルフレッドおにいちゃんだ」
そう言って動かないアルフリーダの体の後ろから恐る恐る現れた小さな女の子に、僕は思わず声を漏らした。
その小さな女の子は今の僕と同じく薄く透けた体をしているけれど、その姿はよく見知った相手だったからだ。
「マ、マヤちゃん?」
うつぶせのまま倒れていたのは、さっき司令室へ上がっていったアビーだった。
彼女は気を失っていてピクリとも動かない。
そしてそのライフゲージは大幅に減っている。
くっ!
「アビーに何をした!」
怒りの声を上げる僕にザッカリーは冷淡な声で答える。
「案ずるな。この小娘は殺しはしない。懺悔主党のアビーは貴重な情報源。連れ去って拷問し、知っていることを全て吸い出してやる」
「ふ……ふざけるな!」
僕は頭に血が上り、握っている金の蛇剣の切っ先をザッカリーに突きつける。
だけどザッカリーはまったく臆することなく、素早い動きでターンして背後のアビーの傍にしゃがみ込む。
そしていつの間にか手にしていたメスを倒れているアビーに突きつけた。
「女。なぜ貴様がその剣を持っているのか知らぬが、挙動に注意するがいい。この小娘を殺しはしないと言ったが、喋れさえすれば五体満足で連れ帰る必要はない。指の1本、2本切り取ってやってもいいぞ。何ならこの尾もな」
そう言うとザッカリーはアビーのフワフワの尻尾を左手で握り、その根元に右手のメスを当てた。
「や、やめろ!」
僕の反応を見てザッカリーはその歯をカタカタと鳴らした。
わ、笑っているのか?
僕の反応からアビーが人質として有効であると認識したようだ。
でもアビーを傷つけさせるわけにはいかない。
「こ、これ以上……その子を傷つけるな」
「ならば女。まずは貴様の名を名乗れ。貴様のような女は敵のリストに載っていなかった。新顔か?」
僕は神様と顔を見合わせた。
神様は仕方なく頷く。
「私は……アルフリーダ。懺悔主党の新メンバーだ」
そう言うと僕は神様が用意してくれていた偽のステータスを示す。
ちなみに今は蛇剣を装備しているため、本来は弱い僕の各種ステータスは天地逆転して強くなっている。
ザッカリーは目玉のない不気味な空洞の眼窩をこちらに向けて僕のステータスを眇め見る。
「アルフリーダ。それで貴様はなぜ……下級兵士アルフレッドの装備を手にしている」
「それは……」
う、疑われてる。
ここで僕がアルフレッドだとバレるのは何だかマズイ気がするな。
思わず口ごもる僕だけど、それに神様が答えた。
「その装備はオリジナルから作り出した次世代品のサンプルだ。アルフレッド以外でも効果的に使えるのかテスト中でな。ザッカリーとやら。おまえがその身を持って効果を試してみるか?」
神様は肩を刺されて痛むはずなのに、それでもいつもの人を食ったような口調でそう言った。
「そういうことか。貴様らの話の真偽をここで追及するつもりはない。ただ一つハッキリしたことは、ここで殺すべき相手は貴様だけだということだ。アルフリーダ」
ザッカリーがそう言った瞬間、空洞であるはずのその目の奥に青白い光が宿った。
それを見た途端、僕は全身が硬直するのを覚えたんだ。
「がっ……」
……う、動けない。
この場から足を一歩踏み出すことも、握り締めた剣を振り上げることも出来ない。
僕の体がまったく僕の言うことを聞かなくなってしまった。
まばたきすら出来ずに驚愕する僕の目の前で、ザッカリーがアビーから手を放して立ち上がる。
「眼光縛り」
不気味なザッカリーの頭蓋骨がカタカタと動いてその言葉を紡いだ。
眼光縛り?
も、もしかして僕を動けなくしているのはザッカリーの能力なのか。
「さらばだ。アルフリーダ」
ザッカリーがそう言うと、僕は首すじに何やらチクリと痛みを感じた。
それはほんのわずかな痛みで、すぐに感じなくなる。
な、何だ?
「安らかなる死」
ザッカリーはひび割れた声で呪文を唱えるかのようにそう言った。
な、何かをやられたんだ。
もはや消えてしまった首すじのかすかな痛みを思い返し、僕は自分がザッカリーからの攻撃を受けたのだと悟った。
だけど僕の体は相変わらず動けないだけで、何の痛みもなければ……。
「アルフリーダ! ライフゲージを見ろ!」
ふいに神さまがそう叫んだ。
僕は弾かれたように自分のライフゲージに注目する。
すると僕のライフがすごい勢いでグングン減っているのが分かった。
そ、そんな……痛みも何もないのに。
「至高の暗殺術とは暗殺対象者に死を感じさせることなく唐突なる終わりを与えることだ。痛みを一切感じさせぬ猛毒が今、貴様の体内に浸透しつつある」
ザッカリーがそう語る間にも僕のライフは残り半分を切った。
身動きの取れない状況に相手を追い込み、その状態で相手のライフを速やかにゼロにする。
静寂の中に相手を葬り去る完璧な暗殺術だった。
や、やられた。
さすがにもうダメだ。
僕は自分のライフが尽きていくのを見ている他に何もすることが出来ないまま死を迎えようとしていた。
「おのれっ!」
傷ついた神様は肩に刺さったメスを左手で引き抜いて投げ捨てると、必死に立ち上がってザッカリーに向かって行こうとする。
「そこでおとなしくしていろ」
「ぐっ!」
ザッカリーは再びその目を光らせて神様の動きを止める。
神様は駆け出そうと片足を上げたままの姿勢で、まんまとその場に動けなくなってしまった。
ザッカリーの眼光縛りだ。
くっ!
神様まで僕と同じ目に……あれ?
そこで僕は異変を感じ取った。
神様は確かに動けなくなっている。
だけど動かないのは神様だけじゃなかった。
神様に眼光縛りをかけたはずのザッカリーまでもが、仁王立ちのまま少しも動かなくなっている。
な、何が起きているんだ?
僕は自分も動けない状態で、今見えている視界の中を必死に探った。
すると、あるとんでもない事実に気が付いたんだ。
動かなくなった神様は立ち上がる際に自分の右肩に刺さったメスを左手で抜き捨てていた。
そのメスは床に当たって弾んだ状態で……空中で止まっていたんだ。
そして動きを止めているザッカリーの背後の壁にかけられた時計の秒針が25秒のところで止まったままになっていた。
な、何だこれは。
時計が……いや、時間が止まっている?
奇妙な現象に混乱する僕は自分のライフゲージを確かめた。
今にも尽きそうになっていた僕のライフは、残りわずかのところで止まっていた。
それ以上は減っていかない。
やっぱりそうだ。
時間が止まっているんだ。
でも何で……?
そう思った僕は部屋の天井に奇妙な赤い光の時計マークが浮かび上がっているのに気が付いた。
な、何だアレ?
そう訝しむ僕は、そこでふいに背中に手を当てられて思わずギョッとした。
声も出せない僕は、その誰かの手で背中を押されて前につんのめった。
「うわっ……」
自分の体がいきなり動けるようになったことに驚いた僕は、すぐに後ろを振り返ってさらに驚きに目を見開いた。
そこにはさっきザッカリーの力で動きを止められたままの僕の体があるんだ。
「な、何だこれ? どうして僕が……」
そう言いながら次に自分自身の今の体を見下ろして僕はますます驚いた。
それは僕本来の男性の体だったんだ。
アルフレッドに戻ったのか?
いや……まるで僕は女性であるアルフリーダの体から男性としての意識だけを押し出されたかのような状態だった。
僕がそう思ったのは、今の自分の体が薄く透けているように見えるからだ。
さながら体から抜けだした魂のようだ。
そんなことを思っている僕の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やっぱりアルフレッドおにいちゃんだ」
そう言って動かないアルフリーダの体の後ろから恐る恐る現れた小さな女の子に、僕は思わず声を漏らした。
その小さな女の子は今の僕と同じく薄く透けた体をしているけれど、その姿はよく見知った相手だったからだ。
「マ、マヤちゃん?」
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