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第四章 追跡! 響詩郎 救出 大作戦!

第24話 戦火の果てに

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 戦いは幕を閉じた。
 悪路王あくろおうはすべての妖貨を消化して姿を消し、その肩に乗っていた雷奈らいなは空中から海面に向かって落下したが、子鬼が宙を舞って彼女を受け止めた。

 雷奈らいなが宙に浮かびながら前方を見つめると、オロチの胴体から上は頭ごと吹き飛んで跡形もなく消え去っていた。
 残された下半分の胴体は海に溶けるように消えていき、こちらも跡形もなくなった。
 後に残されたのは、瀕死の重傷を負った銀髪の妖狐が、波間に漂っている姿だった。
 薬王院ヒミカは両腕をひじの先から、さらに両足を膝の先から失っていた。
 悪路王あくろおうの黒い炎をその身に浴びて四肢は失われたのだろう。
 
「まったく。手を焼かせる相手だったわね」

 子鬼とともに宙を漂いながら雷奈らいなは疲れ切った顔で静かに目を閉じた。
 子鬼は船の甲板に降下すると、雷奈らいなをゆっくりと下ろした。

雷奈らいなさん!」

 弥生やよいとルイランは嬉しそうに雷奈らいなのもとに駆け寄ってきた。

「心配かけたわね」

 そう言って雷奈らいなは甲板の少し離れた場所に目をやると、白雪に肩を貸しながら立っている紫水しすいも無愛想に雷奈らいなに声をかけた。

「ずいぶんと不恰好ぶかっこうな戦いだったが、よく勝ったな」
「フンッ。白雪にもずいぶんと助けられたわね」

 そう言う雷奈らいなに疲れきった表情を見せながら白雪はポツリとつぶやいた。

「……響詩郎きょうしろうさまのかたきを討てましたね」

 悲しみに満ちた白雪の声に雷奈らいなはハッとして、くちびるを噛んで目を伏せた。
 紫水しすいもそんな2人の様子に黙り込む。
 弥生やよいとルイランも悲しみに沈んだ表情でうつむいた。
 皆が悲しそうな顔で黙り込み、口を開く者は1人としていない。
 満月に照らされた船の上に勝利の余韻よいん安堵あんどはなかった。

 響詩郎きょうしろうは命を落とし、もう二度と帰らぬ人となってしまったのだ。
 戦いに勝利しようとも、その事実に変わりはない。
 ただ真夜中の海の上を吹き抜けていく海風の音だけが虚しく響く中、バサッと羽音を響かせて小さな鬼の子が宙を舞った。

「どうしたの?」

 雷奈らいなが不思議そうな顔で子鬼に声をかける。
 しかし子鬼は振り返らずに飛んでいく。
 そんな子鬼を雷奈らいなのみならず白雪ら他の者たちも目で追った。

「あの鬼の子供は雷奈らいなさんの新たな憑物つきものですの?」

 そう尋ねる白雪に雷奈らいなは思わず口ごもった。

「あれは……その、響詩郎きょうしろうの……」

 雷奈らいながそう言いかけたその時だっだ。

「うああああああっ!」

 唐突に女の悲鳴が響き渡ったのだ。
 その場にいた誰もが弾かれたように振り返り、その悲鳴の主が紫水しすいであることを知った。
 そして皆が驚愕に目を見開く。

 紫水の肩口に銀色の髪を振り乱した女が噛み付いていたのだ。
 そして紫水しすいは肩の肉を食いちぎられ、鮮血をほとばしらせながらその場に倒れ伏した。

紫水しすいっ!」
 
 悲鳴混じりの叫び声を上げる白雪の視線の先では、両手両足を無くした状態のヒミカが宙に浮かんだまま雷奈らいなたちを睨みつけていた。

「許さぬ……我が野望が潰えたとて、貴様らだけは生かしてはおかぬ」

 呪術を用いて銀髪の妖狐はもはや怨嗟えんさと憎悪のみをかてに、その場に浮かび上がっていた。

「う、うそ……でしょ」

 もう悪路王を顕現けんげんする力のない雷奈らいなくちびるを噛み締めながら、疲労困憊こんぱいで傷だらけの体にむちを打って立ち上がる。
 その隣で白雪は咄嗟とっさに光の矢を放とうとしたが、ヒミカはその口から黒く澱んだ霧を吐き出してそれを白雪に浴びせかけた。

「きゃあっ!」

 全身に黒い霧を浴びた白雪は激しく咳き込み、その膝がガクリと折れる。
 そしてそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

「白雪! こ、このっ……」

 雷奈らいなは身構えて銀髪の妖狐を迎え撃とうとするが、ヒミカは弾丸のような勢いで宙を舞って雷奈らいなに頭突きを浴びせかけた。

「うぐっ!」

 ヒミカの激しい頭突きを喉元に浴びてしまい、雷奈らいなは仰向けにひっくり返った。
 ヒミカは再び宙に浮かび上がり、目を血走らせて恐ろしい形相ぎょうそうで残った弥生やよいとルイランをにらみつける。
 その恐ろしい視線を受けて弥生やよいとルイランは腰が抜けたようにその場にへたり込んだまま動けなくなっていた。

「皆殺しだ……皆殺しだぁぁぁぁぁっ!」

 ヒミカは動けない弥生やよいとルイランに向かって突進する。
 雷奈らいなと白雪と紫水しすいは各々必死に立ち上がろうとしたが、もはやヒミカを止めるほどの体力が残されていなかった。 
 
弥生やよい、ルイラン。逃げて……逃げてぇぇぇぇぇぇ!」

 雷奈らいなの叫び声が虚空に響き割った。
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