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第四章 追跡! 響詩郎 救出 大作戦!
第15話 生まれ出る新たな息吹
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雷奈が目覚めたのは冷たい海の中ではなく、船上の甲板の上だった。
「うっ……くぅ……」
目を開けると、心配そうに自分を見つめる2人の少女の顔があった。
「弥生……ルイラン……」
雷奈は体を起こそうとして激しい痛みに顔を歪めた。
弥生は雷奈の額に手を置いてそれをそっと押し留めながら言う。
「動いちゃダメです。左の腕が折れてるんですよ」
見ると雷奈の左腕は光の矢を添え木にして固定されていた。
「紫水さんがやってくれたんですよ」
弥生の言葉に雷奈が首を巡らせると、自分と弥生とルイランを守るように背を向けて傍に立っている紫水の姿があった。
「私は……どのくらい倒れていたの?」
そうつぶやく雷奈にルイランは笑って答えた。
「5分も経ってないネ」
「あいつは……妖狐とオロチは」
その問いには紫水が背を向けたまま答えた。
「今、姫さまがおひとりで戦われている。鬼ヶ崎雷奈。あの大蛇の化物に叩き落されて海に落下寸前のおまえを助けたのも姫さまだ。感謝するんだな」
「白雪がひとりで?」
雷奈は驚いて声を上げた。
「そうだ。私は万が一の際に貴様らを守るよう仰せつかっている」
見ると白雪が船の最上階である3階部分を足場にして、光の矢を駆使しながらオロチと戦っている。
だが白雪の攻撃はオロチを傷つけることもヒミカを倒すことも出来ず、彼女は疲弊していた。
拳をきつく握り締めて戦況を見守る紫水を見て、雷奈は申し訳ない気持ちになった。
「紫水……弥生とルイランは私が守るから、白雪に加勢してあげて」
だがそんな雷奈の申し出を紫水はピシャリと拒否した。
「そんな体で何が出来る。自分の体も守れない者に他人は守れない」
紫水は拳を震わせて、白雪の戦いぶりを見つめ続けた。
「……私は姫さまの命令を守っているのだ」
その声音から、彼女の気持ちが雷奈にも手に取るように分かった。
(紫水……本当は白雪を助けに行きたくてたまらないはずなのに)
そんな紫水を見ると雷奈は口を真一文字に結び、身を起こした。
「もう大丈夫よ」
心配そうな弥生にそう声をかけ、雷奈は立ち上がると懐からケータイを取り出した。
そして悪路王使役のための残金が底を尽きかけていることを確認し、落胆した。
「くっ……あんなに必死に戦ったのに」
彼女の必死の戦いも、オロチという絶対的な力の前には無力でしかなかった。
今の雷奈にはもう戦う術が残されていない。
雷奈は1歩2歩と歩み出て、絶望的な気持ちで白雪の戦いを見守るしかなかった。
(何か……何か出来ることはないの?)
追い詰められた気持ちが雷奈の心を苛む。
その時だった。
「痛っ……こ、こんなときに……」
突然、腹部に鈍い痛みが走ったかと思うと雷奈は思わず顔をしかめた。
ここ数日の間に違和感や痛みを感じていた下腹部が再びここにきて痛み始めたのだ。
すぐに痛みは立っていられないほどの激痛に変わり、彼女は膝をついて激しく息を吐いた。
彼女の突然の変調に、弥生とルイランが驚きの声を上げる。
「雷奈さん? どうしたんですか?」
「しっかりするネ!」
彼女らの呼びかけもどこか遠い幻聴のように聞こえるほど、雷奈の意識は激痛に揺らぐ。
雷奈は額に脂汗を浮かべながら必死に痛みをこらえようとするが、腹部が強烈に熱を帯び始め、苦しさのあまり額を床につけて歯を食いしばった。
それでも痛みが和らぐことはなく、雷奈は震える握り拳で床を何度も何度も叩いた。
「くっ……うぅぅぅぅ……あああああ!」
そしてついには顔を天に向け、雷奈は苦悶の叫び声を上げた。
突然のことに紫水も困惑し、雷奈の苦しむ様子を呆然と見守ることしか出来ない。
「一体とうしたというのだ……」
そう呟きを漏らした時、紫水は見た。
雷奈の腹部が白い輝きを放ち始めるのを。
雷奈は自分の体内から何かが生まれ出ようとしているのを感じて、かすれた声で、それでも必死に叫び声を上げた。
「な……何かが来る……くぅ……あああああ!」
彼女がそう叫んだ途端、雷奈の体はまばゆい光に包まれ、弥生ら3人の視界が真っ白な光に包まれて何も見えなくなった。
「うっ……くぅ……」
目を開けると、心配そうに自分を見つめる2人の少女の顔があった。
「弥生……ルイラン……」
雷奈は体を起こそうとして激しい痛みに顔を歪めた。
弥生は雷奈の額に手を置いてそれをそっと押し留めながら言う。
「動いちゃダメです。左の腕が折れてるんですよ」
見ると雷奈の左腕は光の矢を添え木にして固定されていた。
「紫水さんがやってくれたんですよ」
弥生の言葉に雷奈が首を巡らせると、自分と弥生とルイランを守るように背を向けて傍に立っている紫水の姿があった。
「私は……どのくらい倒れていたの?」
そうつぶやく雷奈にルイランは笑って答えた。
「5分も経ってないネ」
「あいつは……妖狐とオロチは」
その問いには紫水が背を向けたまま答えた。
「今、姫さまがおひとりで戦われている。鬼ヶ崎雷奈。あの大蛇の化物に叩き落されて海に落下寸前のおまえを助けたのも姫さまだ。感謝するんだな」
「白雪がひとりで?」
雷奈は驚いて声を上げた。
「そうだ。私は万が一の際に貴様らを守るよう仰せつかっている」
見ると白雪が船の最上階である3階部分を足場にして、光の矢を駆使しながらオロチと戦っている。
だが白雪の攻撃はオロチを傷つけることもヒミカを倒すことも出来ず、彼女は疲弊していた。
拳をきつく握り締めて戦況を見守る紫水を見て、雷奈は申し訳ない気持ちになった。
「紫水……弥生とルイランは私が守るから、白雪に加勢してあげて」
だがそんな雷奈の申し出を紫水はピシャリと拒否した。
「そんな体で何が出来る。自分の体も守れない者に他人は守れない」
紫水は拳を震わせて、白雪の戦いぶりを見つめ続けた。
「……私は姫さまの命令を守っているのだ」
その声音から、彼女の気持ちが雷奈にも手に取るように分かった。
(紫水……本当は白雪を助けに行きたくてたまらないはずなのに)
そんな紫水を見ると雷奈は口を真一文字に結び、身を起こした。
「もう大丈夫よ」
心配そうな弥生にそう声をかけ、雷奈は立ち上がると懐からケータイを取り出した。
そして悪路王使役のための残金が底を尽きかけていることを確認し、落胆した。
「くっ……あんなに必死に戦ったのに」
彼女の必死の戦いも、オロチという絶対的な力の前には無力でしかなかった。
今の雷奈にはもう戦う術が残されていない。
雷奈は1歩2歩と歩み出て、絶望的な気持ちで白雪の戦いを見守るしかなかった。
(何か……何か出来ることはないの?)
追い詰められた気持ちが雷奈の心を苛む。
その時だった。
「痛っ……こ、こんなときに……」
突然、腹部に鈍い痛みが走ったかと思うと雷奈は思わず顔をしかめた。
ここ数日の間に違和感や痛みを感じていた下腹部が再びここにきて痛み始めたのだ。
すぐに痛みは立っていられないほどの激痛に変わり、彼女は膝をついて激しく息を吐いた。
彼女の突然の変調に、弥生とルイランが驚きの声を上げる。
「雷奈さん? どうしたんですか?」
「しっかりするネ!」
彼女らの呼びかけもどこか遠い幻聴のように聞こえるほど、雷奈の意識は激痛に揺らぐ。
雷奈は額に脂汗を浮かべながら必死に痛みをこらえようとするが、腹部が強烈に熱を帯び始め、苦しさのあまり額を床につけて歯を食いしばった。
それでも痛みが和らぐことはなく、雷奈は震える握り拳で床を何度も何度も叩いた。
「くっ……うぅぅぅぅ……あああああ!」
そしてついには顔を天に向け、雷奈は苦悶の叫び声を上げた。
突然のことに紫水も困惑し、雷奈の苦しむ様子を呆然と見守ることしか出来ない。
「一体とうしたというのだ……」
そう呟きを漏らした時、紫水は見た。
雷奈の腹部が白い輝きを放ち始めるのを。
雷奈は自分の体内から何かが生まれ出ようとしているのを感じて、かすれた声で、それでも必死に叫び声を上げた。
「な……何かが来る……くぅ……あああああ!」
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