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第四章 追跡! 響詩郎 救出 大作戦!
第10話 対決! 蛇と鬼
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「観念しなさい。力ずくなら私には勝てないわよ」
雷奈はヒミカに馬乗りになった状態でその身を押さえつけていた。
だがヒミカの顔から余裕の色は失われていない。
「そんな悠長なことを言ってる場合か? もうあと数分であの男は死ぬぞ」
ニヤリと笑ってそう言うと、ヒミカは突然口から青い霧を雷奈に向かって吹き上げた。
超人的な反射神経で頭を右に避け直撃は免れたが、青い霧の強い刺激臭に顔をしかめる。
その隙にヒミカは体を捻って雷奈を振り払うと素早く身を起こした。
「くっ!」
倒れ込んだ雷奈もすぐに身を起こした。
「目潰しなんて姑息な……」
そう言いかけたその時、激しい衝撃とともに船体がガクンと揺れた。
「きゃっ!」
船の揺れは大きく、雷奈は両腕をいっぱいに広げて甲板に張り付き、これに耐えた。
やがて揺れが収まってくると、雷奈は顔を上げて状況を確認した。
初めは何が起きたのか分からなかったが、吹き上がる灰色の煙と目の前の惨状に雷奈もすぐに事態を悟った。
船体の一部が爆発し、雷奈のいる1階部分から下層部分まで見下ろせるほどの大きな穴が開いていたのだ。
なぜこのような爆発が起きたのか分からなかったが、雷奈は甲板の後方をチラリと確認した。
紫水によって倒された結界士の倫という少女が捕縛用の護符によって体の自由を奪われ、意識を失ったまま船体の鉄柱にくくりつけられていた。
そこから少し離れた場所では、ルイランと弥生のそばに紫水がついている。
皆、無事な様子だ。
こちらは大丈夫だというように紫水は雷奈に顔を向けて頷いた。
再び前方に視線を送ると、ヒミカは甲板の上部に立ち、雷奈を見下ろしている。
「真打ち登場の時間だ。よく見るがいい。古の神の力を」
そう言う彼女の背後に巨大な影がせり上がる。
激しい水しぶきを上げながら海の中から悠然と姿を現したのは、一体の巨大な蛇だった。
銀色に輝くその蛇は海面から出ている部分だけでも十数メートルはあろうかという大きさで、泰然と船を見下ろしていた。
ヒミカの顔は悦びに満ち溢れている。
彼女が神と崇めたその存在が、今その姿を現しているのだ。
「貴様の相棒には感謝している」
ヒミカの言葉に不快感を覚え、雷奈は眉間にしわを寄せた。
「なんですって?」
「あの坊やには、このオロチを復活させるための最後の生贄となってもらった」
「い、生贄……?」
愕然とした顔を見せる雷奈を前にして、ヒミカの顔に嗜虐の笑みが広がる。
「そこの穴から見てみろ。おまえの男の変わり果てた姿をな」
ヒミカの言葉に雷奈は心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
おぼつかない足取りで穴の側に駆け寄り、雷奈は大穴から下を覗き込んだ。
そして信じたくない光景を目の当たりにして、その恐ろしさに体を震わせた。
下層では、横たわる男の体にすがりついて白雪が嗚咽を漏らしている。
強い不安と動揺が雷奈の胸を締め付けた。
「嘘……そんな……そんな!」
雷奈は表情を凍りつかせてそう言ったきり、言葉を失って呆然とその光景を見下ろした。
間違いであって欲しかったが、この一ヶ月ほど毎日見ていたその顔を見間違えるはずはなかった。
横たわり動かなくなっているのは間違いなく変わり果てた姿の響詩郎だった。
愕然とその光景を見つめる雷奈の様子に満足したように、ヒミカは雄弁に語ってみせた。
「あの男はかなり多量の霊気を持っていたからな。このオロチ復活のための生贄としては最適の人物だった。奴にかけられた【死の刻限】の時間が来る前に満月の夜が来てくれたのも幸運だった」
そう言ってヒミカは高笑いを響かせた。
だが、そうした話のほとんどは雷奈の耳には入らなかった。
響詩郎が命を落としてしまったという信じ難いこの状況の中で、雷奈は激しく混乱していた。
情報を頭で正しく整理することなど到底出来はしなかった。
だが、そんなことはお構いなしにヒミカは軽佻浮薄な調子で話を続ける。
「己の力で復活させてしまったオロチによって自分の親しい者たちが殺されていく様子を、あの男はあの世からどんな気持ちで見るのだろうな?」
響詩郎をあざ笑うヒミカの言葉に、我を失っていた雷奈の目の前が激しい怒りのあまり赤く染まった。
湧き上がる憎悪に雷奈の唇は震えが止まらない。
「黙れ……黙れっ!」
怒りのままに立ち上がると、爆発の衝撃で消えてしまっていた悪路王を再び顕現させた。
「ご自慢の黒鬼か。いいぞ。オロチの試し斬りの相手として、これほどふさわしい猛者はいない。楽しませてもらおうか」
そう言うとヒミカは大きく飛び上がって、背後にいるオロチの頭の上に着地した。
巨大な蛇の邪神・オロチは、漆黒の大鬼・悪路王を目下の敵であると見なし、その牙を剥いた。
雷奈はヒミカに馬乗りになった状態でその身を押さえつけていた。
だがヒミカの顔から余裕の色は失われていない。
「そんな悠長なことを言ってる場合か? もうあと数分であの男は死ぬぞ」
ニヤリと笑ってそう言うと、ヒミカは突然口から青い霧を雷奈に向かって吹き上げた。
超人的な反射神経で頭を右に避け直撃は免れたが、青い霧の強い刺激臭に顔をしかめる。
その隙にヒミカは体を捻って雷奈を振り払うと素早く身を起こした。
「くっ!」
倒れ込んだ雷奈もすぐに身を起こした。
「目潰しなんて姑息な……」
そう言いかけたその時、激しい衝撃とともに船体がガクンと揺れた。
「きゃっ!」
船の揺れは大きく、雷奈は両腕をいっぱいに広げて甲板に張り付き、これに耐えた。
やがて揺れが収まってくると、雷奈は顔を上げて状況を確認した。
初めは何が起きたのか分からなかったが、吹き上がる灰色の煙と目の前の惨状に雷奈もすぐに事態を悟った。
船体の一部が爆発し、雷奈のいる1階部分から下層部分まで見下ろせるほどの大きな穴が開いていたのだ。
なぜこのような爆発が起きたのか分からなかったが、雷奈は甲板の後方をチラリと確認した。
紫水によって倒された結界士の倫という少女が捕縛用の護符によって体の自由を奪われ、意識を失ったまま船体の鉄柱にくくりつけられていた。
そこから少し離れた場所では、ルイランと弥生のそばに紫水がついている。
皆、無事な様子だ。
こちらは大丈夫だというように紫水は雷奈に顔を向けて頷いた。
再び前方に視線を送ると、ヒミカは甲板の上部に立ち、雷奈を見下ろしている。
「真打ち登場の時間だ。よく見るがいい。古の神の力を」
そう言う彼女の背後に巨大な影がせり上がる。
激しい水しぶきを上げながら海の中から悠然と姿を現したのは、一体の巨大な蛇だった。
銀色に輝くその蛇は海面から出ている部分だけでも十数メートルはあろうかという大きさで、泰然と船を見下ろしていた。
ヒミカの顔は悦びに満ち溢れている。
彼女が神と崇めたその存在が、今その姿を現しているのだ。
「貴様の相棒には感謝している」
ヒミカの言葉に不快感を覚え、雷奈は眉間にしわを寄せた。
「なんですって?」
「あの坊やには、このオロチを復活させるための最後の生贄となってもらった」
「い、生贄……?」
愕然とした顔を見せる雷奈を前にして、ヒミカの顔に嗜虐の笑みが広がる。
「そこの穴から見てみろ。おまえの男の変わり果てた姿をな」
ヒミカの言葉に雷奈は心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
おぼつかない足取りで穴の側に駆け寄り、雷奈は大穴から下を覗き込んだ。
そして信じたくない光景を目の当たりにして、その恐ろしさに体を震わせた。
下層では、横たわる男の体にすがりついて白雪が嗚咽を漏らしている。
強い不安と動揺が雷奈の胸を締め付けた。
「嘘……そんな……そんな!」
雷奈は表情を凍りつかせてそう言ったきり、言葉を失って呆然とその光景を見下ろした。
間違いであって欲しかったが、この一ヶ月ほど毎日見ていたその顔を見間違えるはずはなかった。
横たわり動かなくなっているのは間違いなく変わり果てた姿の響詩郎だった。
愕然とその光景を見つめる雷奈の様子に満足したように、ヒミカは雄弁に語ってみせた。
「あの男はかなり多量の霊気を持っていたからな。このオロチ復活のための生贄としては最適の人物だった。奴にかけられた【死の刻限】の時間が来る前に満月の夜が来てくれたのも幸運だった」
そう言ってヒミカは高笑いを響かせた。
だが、そうした話のほとんどは雷奈の耳には入らなかった。
響詩郎が命を落としてしまったという信じ難いこの状況の中で、雷奈は激しく混乱していた。
情報を頭で正しく整理することなど到底出来はしなかった。
だが、そんなことはお構いなしにヒミカは軽佻浮薄な調子で話を続ける。
「己の力で復活させてしまったオロチによって自分の親しい者たちが殺されていく様子を、あの男はあの世からどんな気持ちで見るのだろうな?」
響詩郎をあざ笑うヒミカの言葉に、我を失っていた雷奈の目の前が激しい怒りのあまり赤く染まった。
湧き上がる憎悪に雷奈の唇は震えが止まらない。
「黙れ……黙れっ!」
怒りのままに立ち上がると、爆発の衝撃で消えてしまっていた悪路王を再び顕現させた。
「ご自慢の黒鬼か。いいぞ。オロチの試し斬りの相手として、これほどふさわしい猛者はいない。楽しませてもらおうか」
そう言うとヒミカは大きく飛び上がって、背後にいるオロチの頭の上に着地した。
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