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第三章 迫り来る命の終わり
第4話 恐るべき呪い! 死の刻限
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都内の雑居ビルの一室に四人の妖魔が集まっていた。
その中心にいる銀髪の美しい女性、薬王院ヒミカは手に持った黒く小さな壷をゆっくりとさすりながら昨夜の宴を思い返した。
彼女の背後で一列に並んでいるのはサバド、ヨンス、フリッガーの3人だったが、朝日も昇り3人ともに人間の姿に戻っていた。
「さて、昨夜は色々とあったようだね」
そう言うヒミカの言葉を3人の男たちは直立不動の姿勢で聞いていた。
紆余曲折の末に彼らはヒミカの命令通り、生贄を昨夜中に用意することが出来た。
湾岸地帯の廃倉庫の中に閉じ込められた密航者どもが、ヒミカの手にした悪魔の壺の餌食となって恐怖に泣き叫ぶその様子は、ヒミカの心を享楽で満たしてくれた。
フリッガーは主の命令を果たせたことに心からの安堵を覚えたものだった。
だが昨夜、若い霊能力者の女相手に不覚をとったサバドは視線の端でボスの様子を窺いながら、生きた心地がしないまま立ち尽くしている。
懲罰ものの失態を犯した自分に対してヒミカがどのような罰を与えるのか、考えるのも恐ろしかったのだ。
捜査を受けている客船の偵察に一人向かったサバドと別行動をしたフリッガーとヨンスはほどなくして密航者らの集会現場である廃倉庫に到着した。
そこにはヒミカの部下である人間の女結界士・倫が先に到着しており、すでに密航者らを外に逃がさないための結界を張り巡らせていたのだ。
そのことによって任務がほぼ完遂するであろうことを確信したフリッガーは、急遽ヨンスと倫をサバドの元へと向かわせたのだった。
彼は相棒の単独行動に何やら嫌な予感を覚えていた。
そしてその勘は的中した。
「サバド。不覚をとったらしいね」
そう言うヒミカの顔は無表情であり穏やかな口調だったが、サバドはビクッと身をすくませた。
昨夜、白イタチのサバドは漆黒の大鬼に敗れて倒れた。
仲間の助けがなければ今頃彼は敵に捕獲されていただろう。
相手に気付かれないよう倫の結界に身を隠して接近したカラスの妖魔ヨンスは、自らの能力を駆使して多くの亡者を生み出して敵の目をくらませた。
そしてその隙に倒れているサバドを救出し、その場を脱出することに成功したのだった。
失態を演じたサバドだったが、生贄というヒミカの求めるを結果を用意できたことだけが唯一の幸運だった。
三人を代表したフリッガーの報告を受けたヒミカの目の色が変わったときには、自分の責務を果たしたフリッガーすらも自分の心臓がギュッとつかまれたような冷たい心地を覚えずにはいられなかった。
「ヨンスに渡した呪術刀には私が【死の刻限】の呪いをかけてある」
呪術刀。
ヒミカの言うその刀は呪術師が呪術をこめた刃であり、それに斬りつけられて傷を負うと軽症であっても呪術にかかってしまうという恐ろしい呪法だった。
毒、昏睡、錯乱、忘却など、そこに込められる呪いは多種多様であるが、刃に呪術を込めるには洗練された高い技術が必要であり、半端な者が行っても呪術を刃に乗せることは不可能である。
【死の刻限】。
それは相手の命に突然の終焉カウントダウンを突きつける恐怖の呪いであり、数ある呪術の中でも最も施術が難しい部類に入るものである。
妖狐であるヒミカは比類なきその呪術の腕前で【死の刻限】を刃に込め、その呪術刀を部下である幻術士・ヨンスに持たせていた。
【死の刻限】とは言うものの、霊力の弱い者が斬りつけられれば、ほんの数分で死んでしまうほどの強い呪いがそこにはかけられていた。
「斬りつけられた小僧はその時点で28時間の余命だったな?」
再度確認するヒミカにヨンスは黙って頷いた。
ヒミカはサバドに目を向ける。
その鋭く冷たい視線を受けて、サバドは足が震えないよう深く息を吸った。
「その小僧はどんな使い手だった?」
「せ、戦闘には加わらなかったからよく分からねえんです。ただ、そんなに霊力の強い奴とは思えませんでしたぜ?」
恐る恐るそう告げるサバドの様子をヒミカは鼻で笑った。
「フン。阿呆が。おまえみたいに絶えず妖気を撒き散らしてるような間抜けとは違って、内にしまい込んでおける奴もいる。私の【死の刻限】を受けて丸一日以上も生きていられる奴はそうはいない」
50年ほど前にこの国へ渡ってくるよりも以前、大陸で盗賊稼業に明け暮れていた頃。
ヒミカはこの呪術を駆使して、自分より力の強い者たちを数多く葬ってきた。
「霊力は強いが戦闘能力はない。最高の餌じゃないか」
そう言うとヒミカは手の中の黒く小さな壷に視線を落とし、口の端を釣り上げた。
「次の満月には間に合わないだろうと諦めていたが、ツキが向いてきたようだな」
いまだ目にしたことのないような邪悪な光がヒミカの目に浮かぶのを見て、サバドは背筋に怖気が這い上がってくるのを懸命に堪えた。
「面白い。その小僧を生きたまま捕らえるぞ。【死の刻限】が奴を地獄に落とす前にな。ちょうど明日は満月の夜だ。小僧を生贄として捧げるには絶好の機会じゃないか」
そう言うとヒミカはゾッとするような目つきでサバドを睨み据えた。
「サバド。二度しくじる奴は必要ない。肝に命じることだな」
戦慄に瞬きすらできず、サバドはただ黙って頷いた。
そのとき、ヒミカのケータイがバイブレーションを繰り返し、着信を知らせた。
ヒミカは画面を確認して電話に出る。
「倫か。なに? やるじゃないか。ここにいるカスどもより、よほどおまえのほうが賢いな」
そう言ってヒミカはサバドに視線を送った。
「サバド。おまえに朗報だ。倫が結界に身を隠しながら連中を追跡して奴らの居場所を割り出した。汚名返上のチャンスを作ってくれた倫にせいぜい感謝するんだな」
ヒミカの言葉に頷き、背水のサバドはその目に標的への殺意をみなぎらせるのだった。
その中心にいる銀髪の美しい女性、薬王院ヒミカは手に持った黒く小さな壷をゆっくりとさすりながら昨夜の宴を思い返した。
彼女の背後で一列に並んでいるのはサバド、ヨンス、フリッガーの3人だったが、朝日も昇り3人ともに人間の姿に戻っていた。
「さて、昨夜は色々とあったようだね」
そう言うヒミカの言葉を3人の男たちは直立不動の姿勢で聞いていた。
紆余曲折の末に彼らはヒミカの命令通り、生贄を昨夜中に用意することが出来た。
湾岸地帯の廃倉庫の中に閉じ込められた密航者どもが、ヒミカの手にした悪魔の壺の餌食となって恐怖に泣き叫ぶその様子は、ヒミカの心を享楽で満たしてくれた。
フリッガーは主の命令を果たせたことに心からの安堵を覚えたものだった。
だが昨夜、若い霊能力者の女相手に不覚をとったサバドは視線の端でボスの様子を窺いながら、生きた心地がしないまま立ち尽くしている。
懲罰ものの失態を犯した自分に対してヒミカがどのような罰を与えるのか、考えるのも恐ろしかったのだ。
捜査を受けている客船の偵察に一人向かったサバドと別行動をしたフリッガーとヨンスはほどなくして密航者らの集会現場である廃倉庫に到着した。
そこにはヒミカの部下である人間の女結界士・倫が先に到着しており、すでに密航者らを外に逃がさないための結界を張り巡らせていたのだ。
そのことによって任務がほぼ完遂するであろうことを確信したフリッガーは、急遽ヨンスと倫をサバドの元へと向かわせたのだった。
彼は相棒の単独行動に何やら嫌な予感を覚えていた。
そしてその勘は的中した。
「サバド。不覚をとったらしいね」
そう言うヒミカの顔は無表情であり穏やかな口調だったが、サバドはビクッと身をすくませた。
昨夜、白イタチのサバドは漆黒の大鬼に敗れて倒れた。
仲間の助けがなければ今頃彼は敵に捕獲されていただろう。
相手に気付かれないよう倫の結界に身を隠して接近したカラスの妖魔ヨンスは、自らの能力を駆使して多くの亡者を生み出して敵の目をくらませた。
そしてその隙に倒れているサバドを救出し、その場を脱出することに成功したのだった。
失態を演じたサバドだったが、生贄というヒミカの求めるを結果を用意できたことだけが唯一の幸運だった。
三人を代表したフリッガーの報告を受けたヒミカの目の色が変わったときには、自分の責務を果たしたフリッガーすらも自分の心臓がギュッとつかまれたような冷たい心地を覚えずにはいられなかった。
「ヨンスに渡した呪術刀には私が【死の刻限】の呪いをかけてある」
呪術刀。
ヒミカの言うその刀は呪術師が呪術をこめた刃であり、それに斬りつけられて傷を負うと軽症であっても呪術にかかってしまうという恐ろしい呪法だった。
毒、昏睡、錯乱、忘却など、そこに込められる呪いは多種多様であるが、刃に呪術を込めるには洗練された高い技術が必要であり、半端な者が行っても呪術を刃に乗せることは不可能である。
【死の刻限】。
それは相手の命に突然の終焉カウントダウンを突きつける恐怖の呪いであり、数ある呪術の中でも最も施術が難しい部類に入るものである。
妖狐であるヒミカは比類なきその呪術の腕前で【死の刻限】を刃に込め、その呪術刀を部下である幻術士・ヨンスに持たせていた。
【死の刻限】とは言うものの、霊力の弱い者が斬りつけられれば、ほんの数分で死んでしまうほどの強い呪いがそこにはかけられていた。
「斬りつけられた小僧はその時点で28時間の余命だったな?」
再度確認するヒミカにヨンスは黙って頷いた。
ヒミカはサバドに目を向ける。
その鋭く冷たい視線を受けて、サバドは足が震えないよう深く息を吸った。
「その小僧はどんな使い手だった?」
「せ、戦闘には加わらなかったからよく分からねえんです。ただ、そんなに霊力の強い奴とは思えませんでしたぜ?」
恐る恐るそう告げるサバドの様子をヒミカは鼻で笑った。
「フン。阿呆が。おまえみたいに絶えず妖気を撒き散らしてるような間抜けとは違って、内にしまい込んでおける奴もいる。私の【死の刻限】を受けて丸一日以上も生きていられる奴はそうはいない」
50年ほど前にこの国へ渡ってくるよりも以前、大陸で盗賊稼業に明け暮れていた頃。
ヒミカはこの呪術を駆使して、自分より力の強い者たちを数多く葬ってきた。
「霊力は強いが戦闘能力はない。最高の餌じゃないか」
そう言うとヒミカは手の中の黒く小さな壷に視線を落とし、口の端を釣り上げた。
「次の満月には間に合わないだろうと諦めていたが、ツキが向いてきたようだな」
いまだ目にしたことのないような邪悪な光がヒミカの目に浮かぶのを見て、サバドは背筋に怖気が這い上がってくるのを懸命に堪えた。
「面白い。その小僧を生きたまま捕らえるぞ。【死の刻限】が奴を地獄に落とす前にな。ちょうど明日は満月の夜だ。小僧を生贄として捧げるには絶好の機会じゃないか」
そう言うとヒミカはゾッとするような目つきでサバドを睨み据えた。
「サバド。二度しくじる奴は必要ない。肝に命じることだな」
戦慄に瞬きすらできず、サバドはただ黙って頷いた。
そのとき、ヒミカのケータイがバイブレーションを繰り返し、着信を知らせた。
ヒミカは画面を確認して電話に出る。
「倫か。なに? やるじゃないか。ここにいるカスどもより、よほどおまえのほうが賢いな」
そう言ってヒミカはサバドに視線を送った。
「サバド。おまえに朗報だ。倫が結界に身を隠しながら連中を追跡して奴らの居場所を割り出した。汚名返上のチャンスを作ってくれた倫にせいぜい感謝するんだな」
ヒミカの言葉に頷き、背水のサバドはその目に標的への殺意をみなぎらせるのだった。
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