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第二章 陰謀のしっぽ
第10話 光の殺人刃
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約束のチャーター1時間を終え、船から出てきたところでふいに弥生が足を止めた。
顔を上げて視線を宙にさ迷わせている弥生の異変に、響詩郎と顔を見合わせた雷奈は彼女に声をかける。
「どうしたの?」
雷奈も響詩郎もまったく気が付かなかったが、弥生だけが迫り来る異変を敏感に感じ取っていた。
彼女の嗅覚ははっきりと嗅ぎ取っていたのだ。
船を出た途端、夜風に混じって異質なニオイが漂ってきたことを。
「な、何かいる! すぐそば!」
突如として弥生が叫び声を上げた。
弾かれたように視線を上げた雷奈の目に、月を背にして舞い降りてくる白い人影が飛び込んできた。
「二人とも下がって!」
そう叫ぶ雷奈の声に響詩郎は反射的に弥生を抱えて背後へと飛び退る。
雷奈はポケットから素早く護符を取り出すと、両足を大股で踏ん張って宙から襲いかかる白い人影を受け止めた。
白い人影の腕と雷奈の腕が交差すると、金属同士がぶつかり合うような硬質な音が辺りに響き渡り、白い火花が舞い散った。
「このっ!」
激しい衝撃だったが、雷奈は腰を落としてこれを力で押し返す。
押し返された白い人影は身軽に宙を舞って、アスファルトの路面に着地した。
雷奈らの前に降り立ったのは、人ではなく白い体毛に覆われたイタチのような姿の妖魔だった。
白イタチは鋭い目つきで雷奈を睨みつける。
そして彼女が手に持っている護符を目にすると牙をむき出しにした。
「へっ。最初の一撃をよく止めたな。大した霊力もないくせに高価な霊具に頼って鉄火場に出てくるクチか。死にたいのか? 女」
そう言って白イタチは下卑た笑い声を上げた。
癪に触る笑い声を立てる白イタチを怒鳴りつけてやりたい衝動をグッとこらえ、雷奈は努めて平静な声を出した。
「何よアンタ。ここで何をしてるのかしら?」
雷奈は相手の一撃を受け止めた拳の中の護符をチラリと見た。
それは見るも無残に擦り切れて、すでに用を成さなくなっていた。
(一撃で護符がズタズタに……)
白イタチは不敵に笑ってみせる。
「あまりコソコソ嗅ぎ回られるのを良しとしない勢力の手駒の一人さ」
自らの立場を隠そうともせずにそう言い放つ白イタチに、雷奈の後方で弥生を守る響詩郎は警戒心を強めた。
(俺たち全員を生かしておくつもりはないってことか)
雷奈は予想通りの答えに鼻を鳴らすと、白イタチを睨みつけた。
「フンッ。ここに現れて私たちを襲うんだから、そうでしょうね。なら話は早い。アンタをボコボコにしてふんじばって色々と喋ってもらうわ」
そう言って目に強い光を浮かべる雷奈に白イタチは心底愉快そうな笑い声を上げた。
「ハッハッハ! 威勢だけは一人前だな。女。一端の口はコイツを受け止めてから叩きな!」
白イタチがそう言うと、その腕が手首から上腕にかけて白い光を帯びていく。
白イタチの妖気の高まりを感じ取り、響詩郎と弥生は息を飲んだ。
「オラァッ!」
気合の声とともに振るわれたその両腕から、三日月状の光の刃が空気を切り裂きながら宙を舞い、雷奈に鋭く襲いかかった。
雷奈は新たな護符を手にすると、両手首を交差させた格好で光刃を受け止める。
だが、勢いのついた光刃をさばききれず、雷奈の両手は彼女の頭の上まで大きく跳ね上げられる。
光の刃は衝突の衝撃で霧散したが、その勢いで雷奈の体はわずかに伸び上がった。
「くっ!」
足をもう一度踏ん張り、腰を落として体勢を立て直した雷奈だったが、想像以上の白イタチの攻撃の威力に思わず顔をしかめた。
そんな彼女の前方で再び白イタチの両腕が光を帯びる。
「たいそうな護符だが、いつまでも俺のスライスカッターを受け止められると思うなよ?」
再び使い物にならなくなった護符を新たなものに取り替え、雷奈は歯を食いしばった。
「守勢に回るな雷奈!」
弥生を連れて少し離れた場所で戦況を窺う響詩郎が思わず声を上げた。
雷奈は黙って頷く。
確かに攻められっぱなしでは状況は悪くなるばかりであるし、何より雷奈の性分がそれを許さなかった。
白イタチは余裕の表情を崩さない。
明らかに白イタチのほうが実戦慣れしていて、それが雷奈の緊張感を高める。
「どうした? お友達に加勢してもらってもいいんだぞ?」
戦いに興じる愉悦の表情でそう言う白イタチに、雷奈は吐き捨てるように言い放った。
「必要ないわね。アンタくらいなら私ひとりで十分よ!」
そう言うと雷奈は地面を蹴って素早く間合いを詰める。
(接近戦に持ち込まなければ勝機はない!)
だが、白イタチは身軽なステップで後退し、簡単には間合いを詰めさせない。
「どうした! 俺をボコボコにするんじゃなかったのか?」
白イタチは愉快そうに声を立てて笑いながら、次々と光刃を繰り出す。
「何度も同じ手は食わない!」
今度はまともに真正面から受け止めるのではなく、手の角度をずらして光刃を斜め後方に受け流す形でこれをいなして雷奈は雄たけびを上げる。
「ナメンなぁ!」
「へぇ。猪突猛進なだけのお嬢ちゃんかと思ったが、学習能力はあるみてえだな。けど、いつまで続くかな!」
軽快な動きで右に左に移動しながら、白イタチは無数の光刃を放ち続けた。
顔を上げて視線を宙にさ迷わせている弥生の異変に、響詩郎と顔を見合わせた雷奈は彼女に声をかける。
「どうしたの?」
雷奈も響詩郎もまったく気が付かなかったが、弥生だけが迫り来る異変を敏感に感じ取っていた。
彼女の嗅覚ははっきりと嗅ぎ取っていたのだ。
船を出た途端、夜風に混じって異質なニオイが漂ってきたことを。
「な、何かいる! すぐそば!」
突如として弥生が叫び声を上げた。
弾かれたように視線を上げた雷奈の目に、月を背にして舞い降りてくる白い人影が飛び込んできた。
「二人とも下がって!」
そう叫ぶ雷奈の声に響詩郎は反射的に弥生を抱えて背後へと飛び退る。
雷奈はポケットから素早く護符を取り出すと、両足を大股で踏ん張って宙から襲いかかる白い人影を受け止めた。
白い人影の腕と雷奈の腕が交差すると、金属同士がぶつかり合うような硬質な音が辺りに響き渡り、白い火花が舞い散った。
「このっ!」
激しい衝撃だったが、雷奈は腰を落としてこれを力で押し返す。
押し返された白い人影は身軽に宙を舞って、アスファルトの路面に着地した。
雷奈らの前に降り立ったのは、人ではなく白い体毛に覆われたイタチのような姿の妖魔だった。
白イタチは鋭い目つきで雷奈を睨みつける。
そして彼女が手に持っている護符を目にすると牙をむき出しにした。
「へっ。最初の一撃をよく止めたな。大した霊力もないくせに高価な霊具に頼って鉄火場に出てくるクチか。死にたいのか? 女」
そう言って白イタチは下卑た笑い声を上げた。
癪に触る笑い声を立てる白イタチを怒鳴りつけてやりたい衝動をグッとこらえ、雷奈は努めて平静な声を出した。
「何よアンタ。ここで何をしてるのかしら?」
雷奈は相手の一撃を受け止めた拳の中の護符をチラリと見た。
それは見るも無残に擦り切れて、すでに用を成さなくなっていた。
(一撃で護符がズタズタに……)
白イタチは不敵に笑ってみせる。
「あまりコソコソ嗅ぎ回られるのを良しとしない勢力の手駒の一人さ」
自らの立場を隠そうともせずにそう言い放つ白イタチに、雷奈の後方で弥生を守る響詩郎は警戒心を強めた。
(俺たち全員を生かしておくつもりはないってことか)
雷奈は予想通りの答えに鼻を鳴らすと、白イタチを睨みつけた。
「フンッ。ここに現れて私たちを襲うんだから、そうでしょうね。なら話は早い。アンタをボコボコにしてふんじばって色々と喋ってもらうわ」
そう言って目に強い光を浮かべる雷奈に白イタチは心底愉快そうな笑い声を上げた。
「ハッハッハ! 威勢だけは一人前だな。女。一端の口はコイツを受け止めてから叩きな!」
白イタチがそう言うと、その腕が手首から上腕にかけて白い光を帯びていく。
白イタチの妖気の高まりを感じ取り、響詩郎と弥生は息を飲んだ。
「オラァッ!」
気合の声とともに振るわれたその両腕から、三日月状の光の刃が空気を切り裂きながら宙を舞い、雷奈に鋭く襲いかかった。
雷奈は新たな護符を手にすると、両手首を交差させた格好で光刃を受け止める。
だが、勢いのついた光刃をさばききれず、雷奈の両手は彼女の頭の上まで大きく跳ね上げられる。
光の刃は衝突の衝撃で霧散したが、その勢いで雷奈の体はわずかに伸び上がった。
「くっ!」
足をもう一度踏ん張り、腰を落として体勢を立て直した雷奈だったが、想像以上の白イタチの攻撃の威力に思わず顔をしかめた。
そんな彼女の前方で再び白イタチの両腕が光を帯びる。
「たいそうな護符だが、いつまでも俺のスライスカッターを受け止められると思うなよ?」
再び使い物にならなくなった護符を新たなものに取り替え、雷奈は歯を食いしばった。
「守勢に回るな雷奈!」
弥生を連れて少し離れた場所で戦況を窺う響詩郎が思わず声を上げた。
雷奈は黙って頷く。
確かに攻められっぱなしでは状況は悪くなるばかりであるし、何より雷奈の性分がそれを許さなかった。
白イタチは余裕の表情を崩さない。
明らかに白イタチのほうが実戦慣れしていて、それが雷奈の緊張感を高める。
「どうした? お友達に加勢してもらってもいいんだぞ?」
戦いに興じる愉悦の表情でそう言う白イタチに、雷奈は吐き捨てるように言い放った。
「必要ないわね。アンタくらいなら私ひとりで十分よ!」
そう言うと雷奈は地面を蹴って素早く間合いを詰める。
(接近戦に持ち込まなければ勝機はない!)
だが、白イタチは身軽なステップで後退し、簡単には間合いを詰めさせない。
「どうした! 俺をボコボコにするんじゃなかったのか?」
白イタチは愉快そうに声を立てて笑いながら、次々と光刃を繰り出す。
「何度も同じ手は食わない!」
今度はまともに真正面から受け止めるのではなく、手の角度をずらして光刃を斜め後方に受け流す形でこれをいなして雷奈は雄たけびを上げる。
「ナメンなぁ!」
「へぇ。猪突猛進なだけのお嬢ちゃんかと思ったが、学習能力はあるみてえだな。けど、いつまで続くかな!」
軽快な動きで右に左に移動しながら、白イタチは無数の光刃を放ち続けた。
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