序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《起》

第92話 炙り出し

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 学園を鮮やかに染めていた紅葉こうようはすっかり見る影もなく消え去っていた。
 カンナとつかさと光希みつきは馬に乗り、御影みかげの部屋に向かっていた。
 すると前方から騎乗した赤いロングヘアーの女の子が槍を携え歩いて来るのが見えた。

綾星あやせ……」

 つかさが呟いた。

「うふふ、つかささーん。授業に出たはずなのに何処に行ったのかと思えば、どうして反逆者と一緒なんですか?」

 赤い髪の女の子は笑顔で言った。
 どうやらつかさの知り合いのようだ。カンナは会ったことはない。

天津風綾星あまつかぜあやせ。序列18位。槍特の生徒で生粋の槍使い。私のルームメイトよ」

 つかさが目の前の少女の説明をしてくれた。綾星はにこりと微笑んだ。
 恐らく綾星はつかさを追ってきただけなのだろう。
 つかさはカンナの耳元で囁いた。

「カンナ、あいつ、やばいからさ。油断しないでね」

「やばい……って?」

 カンナの疑問につかさは答えず、すでに綾星の方を注視していた。

「私つかささんも反逆者だなんて信じたくないです~。もし反逆者じゃないなら今すぐその澄川カンナさんを捕まえて一緒に総帥の所へ連行しましょ~!」

 つかさはまだ反逆者だという事はバレてはいない。おそらく光希も。今つかさと光希がカンナを捕まえて綾星に差し出せば2人は助かる。そう思った時だった。

「私は反逆者よ!!  学園がカンナを捕まえるなら私は学園を潰す!!」

 つかさは馬上で豪天棒ごうてんぼうを振り回し確固たる拒絶を示した。
 カンナはその即答に驚きつかさを見た。つかさは微笑んだ。

「友達だもん」

 綾星の顔色が変わった。失望した顔。そして発する氣も殺気が混じった。

「私も友達ですよね?  つかささん。私達の方がそんな女より付き合い長いですよね?  どうしてそいつの方を選ぶのです?  おかしいじゃないですか?」

 綾星の眼の輝きがなくなった。声色も変わった。

「ヤバいな」

 つかさは豪天棒を構えた。
 つかさがヤバいという意味がカンナにも分かった。光希も身構えている。カンナの乗っている愛馬”響華きょうか”も何かを感じ目の前の女を見た。

「カンナ、先に行って!  私が綾星を足止めする」

「でも……」

「大丈夫。私より下位序列だし、この子の事は私が一番良く知ってるから」

 確かにそうではあるが、万が一という事もある。それに戦闘中に他の生徒が来たら不味い。そう思慮していると綾星は何故か槍を下ろした。

「私がつかささんに勝てない事は知ってます~。だからつかささんとそのツインテールちゃんが仲間だって事を総帥と理事会に報告しますね~」

「理事会……」

 つかさが呟いた。
 その様子を見て綾星は微笑んだ。

「今回の制裁執行人は理事会ですよぉ。理事会の生徒代表は序列2位の美濃口さんになります~。貴女達に勝ち目はありません!  私に優しく殺されるか、美濃口さんにハリネズミにされて殺されるか選ぶのです!  あ、影清かげきよさんに切り刻まれるというのも追加します~!」

 綾星は人差し指を立てケラケラと笑った。
 理事会といえば、今現在残っている生徒はほとんどいないはずだ。
 斑鳩いかるが、リリアの2名はこちら側の人間。舞冬まふゆは死亡しており、まりかはこちらの監視下に置いている。伽灼かやも恐らく学園側ではないような感じだった。つまり、今残っているのは序列4位の影清、序列2位の美濃口鏡子みのぐちきょうこ、そして、序列1位の神髪瞬花かみがみしゅんかの3名のみだ。もちろん、神髪瞬花が動くとは考えにくい。今まで動きを見せた事は一度もないのだ。
生徒以外の師範勢の動きは読めない。下手すれば7人全員が学園側の人間。つまり、学園の最高戦力全員が敵という事になるのだ。

「選ばないなら理事会の方々にお任せしちゃいますね~!  大丈夫!  つかささんだけは私が優しく殺してあげますから。あぁ澄川さん。つかささんを唆した事。絶対に許しませんからね」

 綾星がカンナを凍てついた目で一瞥すると馬首を返し校舎の方へ歩いていった。

「どうします?  始末した方がいいんじゃないですか?あの人。だいぶ頭ヤバそうな人でしたよ」

 光希が腕を組みながら言った。

「戦力は少しずつ削っといた方がいい……か」

 カンナもボソリと呟いた。
 しかし、つかさは何も答えなかった。ただ去りゆく綾星の背中を見つめていただけだった。




 御影の部屋で斑鳩とまりかは2人きりだった。
 御影はいつも通り医務室に行き、いつも通り仕事をする為斑鳩にまりかの監視を任せたのだ。
 まりかはベッドの上で上体を起こし斑鳩を見ていた。顔には鼻のところに包帯が巻かれていて痛々しかった。伽灼に顔を蹴られ鼻を骨折していたようだ。

「なに?」

 斑鳩もまりかがこちらを見ているので何かと思い見ていたらまりかの方が不機嫌そうに言った。

「お前がこっち見てんだろ?  何か用かよ」

 まりかが不敵に笑った。

「斑鳩君さぁ、私の事憎んでないの?  どうして伽灼が私を殺そうとした時止めてくれたの?」

 斑鳩はまりかから目を逸らした。

「殺したところでひいらぎは帰って来ない。それに、復讐は何も生まない。澄川が教えてくれた。確かになと思った。俺は一体、何の為にこの学園で修行してきたのか」

「ふーん、斑鳩君の目的は誰かへの復讐だったのね」

「そうだ。この学園にいる奴らは皆そうだろ。お前は違うのか?」

「私は違うわ。確かに私も孤児よ。身内の人間なんて誰もいない。だけどそれは、戦争で死んだからじゃなくて私が殺したの。一族を皆殺しにね」

 まりかは微笑みながら恐ろしい事を話し始めた。斑鳩は言葉を失いただまりかを見ていた。

「私の親は私に神眼しんがんが宿っている事を知るとその力を恐れて私を捨てようとしたわ。まぁ、神技しんぎを持つ人間は人攫いに狙われたりしてリスクが大き過ぎるものね。私には兄や弟がいたから2人を愛せばいいって感じで私を捨てる事に抵抗はなかったみたい。親戚の連中もそう。私と勘当しろとよく助言しに来ていたわ」

 まりかは終始微笑んでいた。

「だから、殺したのか?」

 斑鳩が聞いた。

「そうよ。そんな酷い家族ならいなくていいもの。親戚の連中も皆殺しにしてやったわ。それが私が15歳の時ね。神眼があれば人を殺す事なんて容易い事だったわ。それから自らこの学園に来たのよ。私の方があなたより入学は遅かったわよね」

「ああ、そうだったな」

 斑鳩は微笑みながら身内を殺した話をしているまりかに軽蔑の目を向けた。

「一緒にいたくても一緒にいられなかった人間もいるのにな」

 斑鳩が皮肉混じりに言った。

「知ってるわ。ここの生徒は殆どがそうじゃない。月希るいちゃんだってそう。でも月希ちゃんはまだ20歳にもなってないのに強く生きていたわ。だから私は月希ちゃんが好きだった。逆に言うと月希ちゃん以外好きじゃなかったわね。私の神眼では心は見えなくても、ちょっとした挙動でその人の弱さが見えてしまうの。月希ちゃんだけは両親を殺された辛さを克服していたのよ」

 確かに、斑鳩の記憶では榊樹月希さかきるいという女は舞冬と同じく強い心を持っていた。愛嬌もあり誰からも好かれていた。

「舞冬ちゃんはね、ムカついたわよ?  あの子が私を嫌っていたからね。嫌いという気持ちはすぐに相手に伝わるものよ。あの子変態だったし。斑鳩君てエロい女好きなの?」

 斑鳩は一瞬だけ脳裏に過ぎった舞冬の事を言い当てられて不快に思った。恐らく神眼で挙動を読み取られたのだろう。

「お前……余計な事を言わない方がいいぞ。俺を怒らせたいのか?  ……黙ってれば可愛いのにな。お前」

 斑鳩は腕を組みながらまりかを睨み付けた。
 するとまりかは急に顔を赤くしだした。

「や、そんな、斑鳩君、私の事可愛いって……嬉しい!  ……どうしよ好きになっちゃうかも」

「冗談はやめろ。殺すぞ」

 まりかはまた微笑んだ。まりかの本心は全く読めない。ただ、今まであった敵意が全くないという事だけは分かった。



 御影は学園の医務室に1人でいた。今は特に怪我した生徒や病の生徒もおらず、やる事はなかった。それよりも気になったのは学園の掲示板に”カンナ、斑鳩、まりか、伽灼”の4人を制裁するという内容が貼り出されていた事だ。日時などの指定はなく、とても不気味だった。その4人は学園側に反逆者と判断されたという事だろう。その他の生徒達はまだバレてはいないようだ。もちろん、自分も含めてだ。しかし、油断は出来ない。
 御影は自分で淹れたコーヒーを飲んだ。
 その時、部屋の外から男と女が言い争う声が聴こえた。御影が扉を開け、外の様子を見た。

「あ!  御影先生!  すいません、騒いじゃって」

 見ると蔦浜祥悟つたはましょうごかかえキナに胸ぐらを掴まれて苦笑いを浮かべていた。隣には冷たい表情で新居千里にいせんりも佇んでいた。

「どうしたの?  喧嘩?  まあ蔦浜君とキナちゃんが喧嘩してるのはいつもの事だけど」

 御影が腕を組んで言った。

「御影先生、こいつ怪しいんです!  どこも悪くないのに医務室にこそこそと歩いていったから捕まえて理由聞いてるんですけど答えなくて!  何か知ってますか?」

「だーかーらー!  腹がいてーから医務室に来たんだよ!  悪いか!?」

 蔦浜は腹を擦りながらキナに言った。

「てめぇが腹壊すわけねーだろ!  まさか反逆者じゃないだろうな!?」

「ざけんな!  違うに決まってんだろ!!」

「蔦浜、お前澄川さんの事好きなんだろ?  あの人が反逆者なんだから、お前があの人の肩を持って反逆者に成り下がるって事があってもおかしくない!!」

 キナがカンナの名前を出したので御影も蔦浜も目を泳がせてしまった。

「怪しい」

 傍で見ていた千里が呟いた。

「もし反逆者だとしても、黙っといてやるから私達と一緒にいろ!  澄川さんなんて忘れろよ」

 キナは責めているというよりは蔦浜を説得しているようだった。
 蔦浜はキナの言葉を聞いても不服そうな顔をして反逆者である事を否定し続けた。

「蔦浜君。キナはね、あなたの事が心配なのよ。今まで一緒にこの学園で過ごして来た仲間であり、最も親しい男友達なんだから。反逆者になってしまったら殺されてしまうかもしれないのよ、あなた。だから止めているの」

 千里は静かに言った。

「千里!  お前なんて事言うんだよ!  私がこいつを心配するわけないだろ!  こんな変態女好きクソ野郎をさ!」

 キナは顔を赤らめ明らかに動揺して蔦浜の胸ぐらを放した。

「ありがとう。抱。逆に俺から言わせてもらう」

 蔦浜は何か決意したような顔でキナに言った。

「お前は学園に不満はないのか?  お前は学園の秘密を知ってもあの総帥の指示に従うのか?」

「学園の秘密?  おい、蔦浜。お前何言ってんだよ……」

 その時、千里は何かを悟ったようで背中に背負っていた短弓を取り出した。そして腰に付けていた矢筒から矢を取り出し弓に番えた。

「なるほど、キナ。残念ながら蔦浜君は反逆者よ。毒矢を射るから捕まえて」

 御影も蔦浜もキナも千里の言葉に戦慄した。

「やめなさい。千里ちゃん。まずは話を聞きなさい」

 御影が咄嗟に言うと千里の目が御影をギロリと睨んだ。

「御影先生……あなたも反逆者の仲間ですか?  そうですか、まぁ私達2人ならあなた達2人を捕まえる事など容易です。序列26位の落ちこぼれ君と医務室の先生ですものね」

 千里は完全に戦闘態勢だった。キナが隣りで状況を飲み込めずあたふたしていた。
 御影も蔦浜もどうするべきか思考を巡らせた。
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