序列学園

あくがりたる

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神眼の女の章

第83話 リリアと伽灼

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  カンナ達が帰還した翌日。
  雨の音で目が覚めさた。
  今日からはいつも通り授業を受けなければならない。
  光希みつきはまだ寝ていたので先にシャワーを浴びることにした。
  斑鳩いかるがは無事なのか。怪我などさせられていないか。シャワーを浴びながらカンナは斑鳩の事をずっと考えていた。もう一度会いたい。

 昨日聞いた御影みかげのまりかを拘束してしまう作戦を整理した。その作戦とはまず、まりかが寮へ1人で帰る時を狙い複数で襲う。いくらまりかが序列5位で”神眼しんがん”を持っているからといって序列15位以上の生徒達数人に襲われたら太刀打ち出来ないはずだ。これが御影が考えた作戦だ。序列15位以上とは、リリア、カンナ、つかさ、茉里まつりあかりの5人である。茉里は少し離れた所から弓でまりかの脚を射るという役割が与えられている。恐らく実行は放課後で日が沈みかける時間の可能性が高い。しかし、茉里なら視界が悪くても標的を外す心配はほぼゼロだと予想していた。4人の接近捕獲チームと狙撃チーム。たった1人を捕まえるには大掛かりかもしれないが、相手は”神技しんぎ・神眼”の使い手だ。それでも足りないかもしれない。詩歩しほ蔦浜つたはま、光希は全員が捕まってしまってはまずいという理由でその作戦からは外された。まりかは刀を使う。最も頼りになるのは同じ剣士のリリアだった。

  カンナはシャワーを浴び終わると脱衣所で身体を拭き着替えて部屋に戻った。
  カンナがシャワーを浴び終わった時、ようやく光希は起きてきて欠伸をしながら自慢の長い髪を靡かせて浴室に向かった。

「おはようございます……」

「おはよう、光希」

  カンナは眠そうな光希に挨拶をすると、ドライヤーで髪を乾かし始めた。この島には電気はないので電池式のドライヤーを特別に作ってもらいそれで髪を乾かしている。カンナは髪が肩より少し長いくらいなのでまだ良いが、光希などは腰の辺りまでの長いロングヘアーなので乾かすのが大変そうである。
  カンナは髪を乾かし終わるといつもの青いリボンで髪を結った。
  またいつも通りの授業が始まる。
  カンナは光希がシャワーを浴び終わり出発の準備が整うまで部屋の隅で膝を抱えてじっとしていた。
  斑鳩の事が頭から離れないのだ。
  カンナは大きな溜息をついた。





  午後になっても雨はまだ降り続いていた。
  剣術特待クラスでは「級別剣術」という授業の時間だった。
  この授業は序列10位以上の生徒は「A級」、20位以上の生徒は「B級」、そしてそれ以外の生徒は「C級」に分けられてその実力に応じた授業を行う。
  「A級」の担当師範は袖岡そでおかが、「B級」「C級」は太刀川たちかわが担当する。
  この学園の師範は、例え雨が降っていようとも屋外でいつも通りの授業を行う。それは実戦を想定してどのような天候でも本来の力を引き出せるようにする事が目的だ。
  この日も雨が降っていたがいつも通り剣特の訓練場に剣特の生徒達は集まり刀を振っていた。
  しかし、そこに序列4位の影清かげきよと序列5位の畦地あぜちまりかの姿はない。
  傘をさした師範の袖岡は休憩と告げると校舎の方へ歩いて行ってしまった。外園伽灼ほかぞのかやは黒い刀を手に持ちリリアの前に立っていた。リリアもいつも背負っている色付きの名刀”睡臥蒼剣すいがそうけん”を抜いていた。お互い真剣での打ち合いをしていたのだ。

「ねぇリリア。まりかの奴最近調子乗ってるわよね」

  A級剣術の授業を受けているのは今リリアと伽灼の2人しかいない。師範の袖岡が席を外したのを見て伽灼は話し掛けてきたようだ。

「どういう事ですか?  伽灼さん」

  察しはついたが敢えてリリアは惚けてみた。

響音ことねさんがいなくなってから、まりかは急に実権を握った。お前の総帥側近の任を無理やり奪ってさらに調子に乗ってる。今や影清さんよりこの学園での力は上に感じる。あいつ、一体何が目的なのかしらね?」

「確かに、そう言われてみればそうかもしれないですね」

  まりかが変わったのは榊樹月希さかきるい青幻せいげんに殺されてからだ。それ以来、当時序列5位だった響音の序列を仕合で奪い、そしてリリアの側近の任を特権で奪った。
  リリアが考えるにまりかは間違いなく学園側の人間である。

「お前はあいつと仲良かったわよね?  それなのに側近の仕事を理不尽に奪われて、憎くないの?」

  伽灼は口元だけ笑いながら言った。
  雨が伽灼の髪や顔を濡らしている。なにか不気味な魅力を感じる。

「私は、別に憎むとかそういう気持ちはありません。出来るなら昔のような関係に戻りたいとも思っています」

「お人好しだな、お前も、カンナも」

「え?」

  突然伽灼はカンナの名を出した。

「私はどうして憎しみを抑えることが出来るのか、それが分からない。私ならすぐに殺そうと思う。憎しみを持たない人間など、人間ではない」

  伽灼は冷たい目をして言った。
  雨で濡れているからなのか伽灼は泣いているように見えた。

「伽灼さん……」

  リリアが次の言葉に困っていると伽灼がリリアに近付き耳元で囁いた。

「お前達、まりかを捕まえようとしているだろ?」

  その言葉にリリアは目を見開いた。何故バレたのか?”お前達”という事はほかのメンバーも割れている?  何故!?
  リリアが言葉を失っていると伽灼はそのまま続けた。

「安心しろ。誰かが情報を漏らしたんじゃないし、お前から面白そうな匂いがしたから少し調べさせてもらったのよ。そんな怖い顔するなって。誰にも言わないわよ」

  リリアが青ざめたような顔をしていたので伽灼は笑っていた。

「ただし、条件がある」

「条件……?」

「まりかを捕まえたら私にあいつを引き渡してくれない?」

「引き渡して……どうするんですか?」

  リリアが恐る恐る伽灼の目を見て訊いた。
  すると伽灼は言葉を溜めてそしてまた口を開いた。

「知らない方がいい」

  伽灼は不敵に笑った。
  リリアは伽灼のその表情を見て恐怖に襲われた。
  伽灼はリリアから離れ背を向けた。

「引き渡してくれるなら、まりかを捕まえるのにも協力してやってもいい。ま、お仲間と相談してくれ」

「伽灼さん、あなた、どこまで知っているんですか?」

  リリアが問いかけた時、傘をさした袖岡が戻って来た。

「儂が目を離すとすぐにさぼりよる。まったく、お前ら剣特のエリートじゃろ?  さっさと打ち合え。腕が上がらなくなるくらいまでな」

  袖岡は大きな声で笑っていた。
  伽灼はまたリリアの方を向き、刀を構えた。
  リリアもまた刀を構えるしかなかった。
 
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