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第2章 陽光の喧騒
第3話 可憐のポテンシャル 3
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なんだかよくわからない雰囲気の中、橡と国貞が前を歩き、花園と雪平が後ろからその二人を不思議な様子で眺めながら帰路を歩いていた。
「藤堂さん、学年上なら先に言ってくださいよ~。勘違いしてたじゃないですか」
相変わらず先ほどと様子が違う雰囲気で国貞が橡に話しかける。
「そもそも学年喋ったことないけど」
そして冷めた様子で橡はその問いかけに答える。
「だって歳聞いたら同い年だったじゃないっすか。ほら、月神町で不良をボコボコに――」
「ああああああ~!!?」
国貞が軽快に何かを喋り始めると、橡が大声を出しながら慌てて国貞の口を鷲掴みにする。
「みグゥ!?」
国貞が変な声を上げると、橡は国貞の耳元で囁くように冷たく言う。
「お前過去の余計な事喋んなよ……二人にバレたら……覚悟しとけよ?」
出来るだけ低い声で静かに言い聞かせる。
「す、すんません……」
国貞も小さな声でやってしまったといった顔で答える。
「く、くぬぎくん……怖い…」
その橡の様子に、隣にいた可憐が少し怯えた様子で言うと、橡はハッと我に返り誤魔化す。
「そ、それにしても国貞! 何でお前花園の事知ってんだ?」
わざとらしく話題を変える橡。
「えっと……まぁそれはいいじゃないっすか~」
喋りにくいのか、国貞はヘラヘラと笑って質問に答えようとしない。
「いいわけあるか。理由もわからんのに友達の事知られてたら怖いわ」
国貞の曖昧な答えに真面目な表情で橡は言い切る。
「うっ…………」
真剣な橡の表情国貞は少したじろぎ、ちらっと後ろを振り返ると、雪平と話していた花園がその視線に気が付いたのか、国貞と目が合う。
「あ…………」
しかし、国貞は花園と目が合うと、思わず目をそらしてしまう。
「挨拶ぐらいしろよ」
そんな国貞の様子を見て、橡はそういうと、当然の正論に国貞は少し躊躇いを見せた後、後ろを振り返り立ち止まる。
すると、後ろを歩いていた二人も止まり、国貞を見る。
「……い、一年の……く、国貞修一です」
どこか緊張した様子で自己紹介をする国貞。
「私は花園星空です。私を知ってるってことはどこかで会ったんだよね? う~ん……ごめんね、覚えてなくて……」
顎に手を当てて考えるが思い出せず、申し訳なさそうにいう花園。
だが、国貞はむしろ申し訳なさそうに、慌てた様子で
「いえそんな! お、覚えてないと思います。会ったのはもう1年前ですから……」
そう小さく答えた。
「……え? 1年前……」
一年前と聞き、花園はそのあたりに絞って再び過去の記憶を思い出そうとする。
「す、すみません! キモいですよね! 1年も前の事覚えてるなんて!」
しかし国貞は何を想ったと、慌てた様子で国貞は言い訳をする。
「ううん、そんなことはないけど……1年前かぁ……」
引き続き思い出そうとする花園に、国貞は何も思ったのか、段々と焦りをみせていく。
「まじすいません! ほんと、もう思い出さなくていいんで!」
「いや、でも――」
「ほんとすいません! ……や、やっぱこんな奴とかかわりたくないっすよね……」国貞は花園の反応にかなり敏感な様子で、緊張の表情が不安で自信のない表情に変わっていく。
「すみません……失礼します!!」
そして、これ以上何も言われたくないのか、花園の言葉を聞くこともなく、国貞は大量の冷や汗をかき、顔を真っ青にして走って立ち去った。
「……なんなんだあいつ」
危ない人を見る目で立ち去った国貞を見ながら雪平が呟いた。
「……思い出してほしくないのかな?」
花園は純粋に疑問を抱きながら雪平の顔を見るが、
「……さぁ」
その問いに答えられる人はここにはいなかった。
誰も国貞の行動の真相にはたどり着くことが出来ないので、3人は一端彼の事を忘れることにして、いつも様に各々家に帰った。
橡宅、自宅にて寝る準備を終えた頃、
「ねぇねぇ、しゅーいちくんとはどういう関係なの?」
自室のベットでスマホを眺めながら寝転ぶ橡に、可憐が徐に問いかけた。
「国貞か? 中学の頃色々あったんだよ。それより……あいつの反応どう考えても普通じゃないよな。あれって……花園の事好きなのかな」
「さぁ?」
恋愛に興味などないのか、まだまだ理解出来ない精神年齢なのか、可憐は一言であっさりと答えた。
「……お前に聞いてもしょうがないな。はぁ~、次会うまでに色々話つけときたかったのになぁ」
スマホを持った手を胸辺りに卸、ため息交じりに呟く。
「しゅーいちくんにスマホしてみたら?」
と、可憐がそんな提案をしてきた。
「スマホするって……電話か? 連絡先知らないとできないよ」
橡は視線を可憐に合わせてそう答えると、
「きの~聞いたよ!」
自信満々に可憐は答えた。
「……マジで?」
まさかの情報を聞くと、スマホの画面を見て連絡先一覧を見てみる。そこには確かに国貞修一と書かれている覧があった。
それともう一つ、見たことない名前、森成琴音と書いてある連絡先が増えていた。
「……誰だ?」
見知らぬ名前に首をかしげると、
「しゅういちくんの幼なじみだって!」
横からスマホをのぞき込んでいた可憐がそう答える。
「ふ~ん……そっちは知らんな。まぁ丁度いい。電話するか」
橡は遠慮した様子もなくベットから体を起こすと国貞に着信を掛ける。
『……もしもし』
しばらくコールが続くと、警戒した様な国貞の声が聞こえる。
「説明してくれるんだろうな」
電話に出た国貞に返事もせず、橡は単刀直入聞いた。
『…………』
少しの沈黙が流れる。そして、落胆したような国貞の声が聞こえる
『……あああああ~! 失敗したああああぁぁ! なんで藤堂さん花園先輩と知り合いなんすか!?』
吹っ切れたように国貞は勢い任せで橡に尋ねた。
「同じクラスで席が隣同士だから」
それに淡々と返す橡。
『なんすかそれ! 最高の条件じゃないっすか!』
「急に敬語使い始めたな」
『そりゃそうでしょ。ずっと同じ学年だと思ってたんすから……そんなことはどうでもいいんですよ! 先輩……ぜっったい俺の過去の事花園先輩に喋らないでくださいよ!』
「いや、お前が言おうとしてたろ」
『それは慌ててたからつい言いそうになっただけっすよ! とにかくやめて下さいね!』
「なんで?」
『そりゃ……俺が不良だったなんて知られたくないんすよ』
静かに、まじめな様子で国貞は答えた。
「だから、なんで」
『…………』
沈黙が返ってくる。なので橡は聞いてみる。
「好きだからか?」
『! …………』
問いかけるがやはり返答がない。しかしそれはある意味で答えだった。
「図星か」
『……ああそうっすよ! 1年前見た時から好きっすよ! 悪いっすか!』
「そ、そんなこといってない。落ち着けって」
『くそ……あんたには絶対知られたく無かったのに……』
「まぁまぁ。いい感じに挙動不審で第一印象最悪だったぞ」
淡々と言い放つ橡。
スマホの向こうからはため息とあああああ~と言う声が聞こえてくる。
『あれは心の準備が出来てなかっただけっす! 今度は普通に振る舞って見せますよ!』
そして言い訳のように国貞が心情を伝えてきた。
「俺達に関わるつもりか?」
『当たり前じゃないっすか。だからあんな小芝居打ったんすよ』
「通りでわざとらしかったのか。結局逃げてったけど」
『今は冷静になったから大丈夫ですよ。俺はもう切り替えたんです。過去の事は水に流して、これからを生きる。藤堂さんにも後輩いないからちょうどいいじゃないっすか』
「なんで俺に後輩がいないってことになってんだ」
『え、だって部活してないっすよね』
「何故わかる」
『あんな時間に帰ってたら丸わかりっすよ』
「……なんかうぜぇ」
見透かされた感が癪に障った。
『な、なにがっすか?』
「……まぁいい。そうだな。俺も過去の事は水に流そう。別にお前のことは元々どうとも思ってなかったし」
『それは褒めてんすか?』
「じゃなきゃ電話なんてしない。根っからの悪いやつだったら許してないだろうし」
『それもそうっすね……ありがとうございます! って訳で、絶対言わないでくださいよ!』
「ああ。俺も過去の事は喋ってないから出来るだけ知られたくないんだ。だから、俺からも頼む」
『じゃあ、互いに秘密っすね』
「ああ。あの頃の自分は痛すぎてみてられん……」
『たしかに、随分雰囲気変わりましたね』
「お前の方が変わったけど。金髪どうした」
『……それも花園先輩と出会って――って、これ以上はいわないっすよ! じゃ、いい加減男と長電話しててもつまんないんで切りますね』
「超失礼だなお前」
『藤堂さんもそうじゃないですか?』
「ああ。今度会うときは普通でいろよ。せっかくなら穏便な学校生活にしよう」
『はい。じゃ、またっす』
話に区切りがつくと、通話を終える。
「どうだった?」
大人しく橡の電話を聞いていた可憐が橡に問いかける。
「一件落着ってとこだ。ありがとな。連絡先聞いてくれて」
国貞の行動に釘を刺せたことに一安心したのか、橡は自然に微笑みながら、可憐にお礼を告げていた。
「ほめられた……? 私ほめられた!?」
橡の褒め言葉に、可憐は過剰に嬉しそうに目を輝かせた。
「ほ、ほめたけど……」
「えへへ~! もっとほめて~!」
最近叱られたりすることが多かったせいか、よほど褒められたのがうれしかったのか、橡の腕に飛びついてそう言いながら可憐はすり寄ってくる。
「お、おい……ったく」
橡は照れてそっぽ向きながら優しく頭を撫でた。
「けっきょく……二人はなにかくしてるの?」
ひとしきり撫でられて満足したのか、可憐は疑問に思っていたことを再び聞き返す。
「え? いや……言うわけないだろ」
困ったようにそっぽを向いてそういう橡。
「え~! 気になる~!!」
その後も何度か可憐に聞かれたが、橡は答えることなく、可憐の質問攻めを振り切り眠りについた。
…………翌日。学校の昼休みになると、国貞が橡のクラスに遠慮した様子もなくはいってくる。
「昨日はすみませんでした!」
そして第一声に、謝罪を述べると、花園に向かって深々と頭を下げた。
「……いや急すぎるって」
あまりにも唐突な国貞の行動に、食べかけのパンを片手に雪平が引き気味に言った。
「いえ、先輩方に対して随分失礼な態度をとっていたので!」
後輩が直々に先輩に頭を上げるその姿をみて、クラスの人達がざわつきはじめる。
「いいから! みんな見てるから! そういうのやめてぇ!」
クラスの人達がざわざわとするのが嫌だったのか、雪平は国貞の頭を物理的に無理やり上げさせる。
「……わざわざそれだけを言いにきたのか?」
頭を上げた国貞に、呆れたように橡が国貞に聞くと、
「いえ、藤堂さんと親しくなるなら、たまには会いに来ないとと思いまして」
「昼休み他クラスにくるか普通……学年も違うのに」
国貞の謎の行動力に呆れながらもある意味で関心しながらそう言うと、
「既に他クラスに入り浸ってる人ならいるけどね」
雪平を横目で見ながら花園がいう。
「俺は友達のいないお前らの為に賑やかしに来てやってんだろ。ありがたく思えよ?」
当然の事のように上から言う雪平に橡はイラっとする。
そして、いつもの橡と雪平の2人のやり取りが始まる。
「うざっ。お前こそクラスに友達いないんだろ」
「いるわ! みんな友達じゃい! よく遊びにいってるから! 逆にお前がクラスの誰かと遊びに行ってるの聞いたことないぞ!」
「俺だってたまにはあるわ! 態々お前に連絡しないだけだ!」
「ホントか~? おい倉敷!」
雪平が近くにいた男子生徒に声をかける。
「橡と遊んだことあるか!?」
ぶしつけに質問を投げると、
「そりゃたまにはあるけど……最近はお前がいるから誘ってねぇ」
クラスの倉敷が、半笑いでそう答える。
「むしろお前のせいでクラスに友達がいない」
わざと目元に手を当てやれやれと言った様子で橡が言った。
「お前の努力次第だろ」
そんな橡にしれっと雪平は言い切る。
「んだと!? てめぇが騒がしくするから俺が変な奴みたいに見えるんだろ!」
「しるかそんなの! お前がクラスの輪に入れるように努力しないのが悪いんだろ! 大体なぁ―――」
橡と雪平の漫才のような掛け合いはその後もしばらく続く。そのやり取りを、国貞は呆れたように見ていた。
「……後輩来てんのになんでそっちで盛り上がってんすか」
「いつもこんな感じだよ」
国貞が呟くように状況を言葉にすると、いつものほほえましい光景の様に花園が笑って国貞の呟きに答えた。
「あ……そ、そうなんすね」
国貞は思わずドキッとし、当たり障りのない返答をする。
そして、息を整えると、意気込んで花園の方を向く。
「あの……昨日はすみませんでした。変な感じにしてしまって……」
「ううん、気にしてないよ。なんか色々事情があるみたいだし。橡くんとはどういう関係なの?」
「えっと……なんて言ったらいいんすかね。中学の頃、色々あって意気投合したって感じっす」
「友達じゃないの?」
「はい。顔を合わせたのは2、3回しかないですから。…けど、これから友達になろうと思ってるんで!」
「そうなんだ。頑張ってね」
興味がないのか遠慮してるのか、深く聞こうとはしない花園。
「は、はい!」
そのせいもあってか、会話はすぐに会話が終わってしまい、花園は弁当を食べ進める。
「…………」
国貞は緊張しているのか、何をしゃべったらいいのかわからず頭で言葉を探すが、
無言が続く。引き続き橡と雪平はまだ言い合いを続けている。
どうしようと頭の中で慌てていると、咀嚼を終えた花園が国貞に言葉をかける。
「そういえば私とどこかで会ったんだよね? どこで会ったんだっけ」
「いえ! 覚えてなくて当然っす! 少しの時間しかいなかったんで……」
「……どこで会ったかは教えてくれないの?」
質問に答えてくれない国貞に、花園は少し寂しげにもう一度聞きなおす。
「い、いえ……そういうわけじゃないですけど……」
「別に気にしないよ。むしろ覚えてないことの方がもやもやするから教えてくれない?」
気にしない、という言葉に国貞は躊躇しながらも答えた。
「……去年の春、駅前の商店街の本屋で悩んでた時……です」
「駅前の本屋……春……あ! あの金髪の?」
花園は本屋という一言でピンと来たのか、そう国貞に聞き返した。
「……はい」
「えぇ~! あ、そっか! 全然髪色が違うから気付かなかった!」
花園の驚いた声に、橡と雪平が反応する。
「そっか~。無事合格出来たんだね。おめでとう」
花園は嬉しそうに笑いながら国貞の合格を喜んだ。
「あ、ありがとうございます!」
花園のその言葉に国貞は胸が大きく高鳴るのを感じた。
そんな国貞と花園のやり取りに、橡と雪平は言い合いを終え、橡が席に座りなおして国貞に話しかける。
「お前、この学校入りたかったのか? あの時はそんな風に見えなかったけど」
橡そう言葉を投げかけると、何事もなかったかのように各々昼食を食べ始める。
「俺だって色々悩んでたんすよ。そんで、必死に1年間勉強しましたよ」
「へぇ~。やっぱお前、根は真面目なやつだったんだな」
「あ、あざす……」
橡にほめられるのが以外で、国貞は少し照れていた。
「つか、結局何処で知り合ったんだお前ら。すっげぇ気になるんだけど」
雪平がパンを食べながら改めて橡と国貞の出会いについて聞いてくる。
「皆色々あるんだよ。それぐらいでいいでしょ」
しかし、言いたくなさそうなことを察した花園が雪平の言葉を静止する。
「そうっすよ! 過去の詮索なんてよくないっすよ!」
花園の言葉に乗るように国貞も拒否する。
「お前だって聞かれたくないことあるだろ。わかれよ」
さらに乗るように橡も否定の言葉をかぶせる。
「わ、わかったよ……。んじゃ、せっかく知り合ったんだし放課後遊びに行くか?」
雪平は分が悪いと察したのか、話を切り替えて親睦も含めてそう提案した。
「ぜひ行きましょ! 皆さん今日お暇ですか!?」
雪平の提案に、国貞は乗り気で答える。
「そりゃ用事はないが」
「私も大丈夫だよ」
橡と花園も特に否定をすることなくそう答えると、
「それじゃあ決まりだ! 放課後は遊びにいくぜ!!」
雪平は指をパチンと鳴らすとそう宣言した。
「藤堂さん、学年上なら先に言ってくださいよ~。勘違いしてたじゃないですか」
相変わらず先ほどと様子が違う雰囲気で国貞が橡に話しかける。
「そもそも学年喋ったことないけど」
そして冷めた様子で橡はその問いかけに答える。
「だって歳聞いたら同い年だったじゃないっすか。ほら、月神町で不良をボコボコに――」
「ああああああ~!!?」
国貞が軽快に何かを喋り始めると、橡が大声を出しながら慌てて国貞の口を鷲掴みにする。
「みグゥ!?」
国貞が変な声を上げると、橡は国貞の耳元で囁くように冷たく言う。
「お前過去の余計な事喋んなよ……二人にバレたら……覚悟しとけよ?」
出来るだけ低い声で静かに言い聞かせる。
「す、すんません……」
国貞も小さな声でやってしまったといった顔で答える。
「く、くぬぎくん……怖い…」
その橡の様子に、隣にいた可憐が少し怯えた様子で言うと、橡はハッと我に返り誤魔化す。
「そ、それにしても国貞! 何でお前花園の事知ってんだ?」
わざとらしく話題を変える橡。
「えっと……まぁそれはいいじゃないっすか~」
喋りにくいのか、国貞はヘラヘラと笑って質問に答えようとしない。
「いいわけあるか。理由もわからんのに友達の事知られてたら怖いわ」
国貞の曖昧な答えに真面目な表情で橡は言い切る。
「うっ…………」
真剣な橡の表情国貞は少したじろぎ、ちらっと後ろを振り返ると、雪平と話していた花園がその視線に気が付いたのか、国貞と目が合う。
「あ…………」
しかし、国貞は花園と目が合うと、思わず目をそらしてしまう。
「挨拶ぐらいしろよ」
そんな国貞の様子を見て、橡はそういうと、当然の正論に国貞は少し躊躇いを見せた後、後ろを振り返り立ち止まる。
すると、後ろを歩いていた二人も止まり、国貞を見る。
「……い、一年の……く、国貞修一です」
どこか緊張した様子で自己紹介をする国貞。
「私は花園星空です。私を知ってるってことはどこかで会ったんだよね? う~ん……ごめんね、覚えてなくて……」
顎に手を当てて考えるが思い出せず、申し訳なさそうにいう花園。
だが、国貞はむしろ申し訳なさそうに、慌てた様子で
「いえそんな! お、覚えてないと思います。会ったのはもう1年前ですから……」
そう小さく答えた。
「……え? 1年前……」
一年前と聞き、花園はそのあたりに絞って再び過去の記憶を思い出そうとする。
「す、すみません! キモいですよね! 1年も前の事覚えてるなんて!」
しかし国貞は何を想ったと、慌てた様子で国貞は言い訳をする。
「ううん、そんなことはないけど……1年前かぁ……」
引き続き思い出そうとする花園に、国貞は何も思ったのか、段々と焦りをみせていく。
「まじすいません! ほんと、もう思い出さなくていいんで!」
「いや、でも――」
「ほんとすいません! ……や、やっぱこんな奴とかかわりたくないっすよね……」国貞は花園の反応にかなり敏感な様子で、緊張の表情が不安で自信のない表情に変わっていく。
「すみません……失礼します!!」
そして、これ以上何も言われたくないのか、花園の言葉を聞くこともなく、国貞は大量の冷や汗をかき、顔を真っ青にして走って立ち去った。
「……なんなんだあいつ」
危ない人を見る目で立ち去った国貞を見ながら雪平が呟いた。
「……思い出してほしくないのかな?」
花園は純粋に疑問を抱きながら雪平の顔を見るが、
「……さぁ」
その問いに答えられる人はここにはいなかった。
誰も国貞の行動の真相にはたどり着くことが出来ないので、3人は一端彼の事を忘れることにして、いつも様に各々家に帰った。
橡宅、自宅にて寝る準備を終えた頃、
「ねぇねぇ、しゅーいちくんとはどういう関係なの?」
自室のベットでスマホを眺めながら寝転ぶ橡に、可憐が徐に問いかけた。
「国貞か? 中学の頃色々あったんだよ。それより……あいつの反応どう考えても普通じゃないよな。あれって……花園の事好きなのかな」
「さぁ?」
恋愛に興味などないのか、まだまだ理解出来ない精神年齢なのか、可憐は一言であっさりと答えた。
「……お前に聞いてもしょうがないな。はぁ~、次会うまでに色々話つけときたかったのになぁ」
スマホを持った手を胸辺りに卸、ため息交じりに呟く。
「しゅーいちくんにスマホしてみたら?」
と、可憐がそんな提案をしてきた。
「スマホするって……電話か? 連絡先知らないとできないよ」
橡は視線を可憐に合わせてそう答えると、
「きの~聞いたよ!」
自信満々に可憐は答えた。
「……マジで?」
まさかの情報を聞くと、スマホの画面を見て連絡先一覧を見てみる。そこには確かに国貞修一と書かれている覧があった。
それともう一つ、見たことない名前、森成琴音と書いてある連絡先が増えていた。
「……誰だ?」
見知らぬ名前に首をかしげると、
「しゅういちくんの幼なじみだって!」
横からスマホをのぞき込んでいた可憐がそう答える。
「ふ~ん……そっちは知らんな。まぁ丁度いい。電話するか」
橡は遠慮した様子もなくベットから体を起こすと国貞に着信を掛ける。
『……もしもし』
しばらくコールが続くと、警戒した様な国貞の声が聞こえる。
「説明してくれるんだろうな」
電話に出た国貞に返事もせず、橡は単刀直入聞いた。
『…………』
少しの沈黙が流れる。そして、落胆したような国貞の声が聞こえる
『……あああああ~! 失敗したああああぁぁ! なんで藤堂さん花園先輩と知り合いなんすか!?』
吹っ切れたように国貞は勢い任せで橡に尋ねた。
「同じクラスで席が隣同士だから」
それに淡々と返す橡。
『なんすかそれ! 最高の条件じゃないっすか!』
「急に敬語使い始めたな」
『そりゃそうでしょ。ずっと同じ学年だと思ってたんすから……そんなことはどうでもいいんですよ! 先輩……ぜっったい俺の過去の事花園先輩に喋らないでくださいよ!』
「いや、お前が言おうとしてたろ」
『それは慌ててたからつい言いそうになっただけっすよ! とにかくやめて下さいね!』
「なんで?」
『そりゃ……俺が不良だったなんて知られたくないんすよ』
静かに、まじめな様子で国貞は答えた。
「だから、なんで」
『…………』
沈黙が返ってくる。なので橡は聞いてみる。
「好きだからか?」
『! …………』
問いかけるがやはり返答がない。しかしそれはある意味で答えだった。
「図星か」
『……ああそうっすよ! 1年前見た時から好きっすよ! 悪いっすか!』
「そ、そんなこといってない。落ち着けって」
『くそ……あんたには絶対知られたく無かったのに……』
「まぁまぁ。いい感じに挙動不審で第一印象最悪だったぞ」
淡々と言い放つ橡。
スマホの向こうからはため息とあああああ~と言う声が聞こえてくる。
『あれは心の準備が出来てなかっただけっす! 今度は普通に振る舞って見せますよ!』
そして言い訳のように国貞が心情を伝えてきた。
「俺達に関わるつもりか?」
『当たり前じゃないっすか。だからあんな小芝居打ったんすよ』
「通りでわざとらしかったのか。結局逃げてったけど」
『今は冷静になったから大丈夫ですよ。俺はもう切り替えたんです。過去の事は水に流して、これからを生きる。藤堂さんにも後輩いないからちょうどいいじゃないっすか』
「なんで俺に後輩がいないってことになってんだ」
『え、だって部活してないっすよね』
「何故わかる」
『あんな時間に帰ってたら丸わかりっすよ』
「……なんかうぜぇ」
見透かされた感が癪に障った。
『な、なにがっすか?』
「……まぁいい。そうだな。俺も過去の事は水に流そう。別にお前のことは元々どうとも思ってなかったし」
『それは褒めてんすか?』
「じゃなきゃ電話なんてしない。根っからの悪いやつだったら許してないだろうし」
『それもそうっすね……ありがとうございます! って訳で、絶対言わないでくださいよ!』
「ああ。俺も過去の事は喋ってないから出来るだけ知られたくないんだ。だから、俺からも頼む」
『じゃあ、互いに秘密っすね』
「ああ。あの頃の自分は痛すぎてみてられん……」
『たしかに、随分雰囲気変わりましたね』
「お前の方が変わったけど。金髪どうした」
『……それも花園先輩と出会って――って、これ以上はいわないっすよ! じゃ、いい加減男と長電話しててもつまんないんで切りますね』
「超失礼だなお前」
『藤堂さんもそうじゃないですか?』
「ああ。今度会うときは普通でいろよ。せっかくなら穏便な学校生活にしよう」
『はい。じゃ、またっす』
話に区切りがつくと、通話を終える。
「どうだった?」
大人しく橡の電話を聞いていた可憐が橡に問いかける。
「一件落着ってとこだ。ありがとな。連絡先聞いてくれて」
国貞の行動に釘を刺せたことに一安心したのか、橡は自然に微笑みながら、可憐にお礼を告げていた。
「ほめられた……? 私ほめられた!?」
橡の褒め言葉に、可憐は過剰に嬉しそうに目を輝かせた。
「ほ、ほめたけど……」
「えへへ~! もっとほめて~!」
最近叱られたりすることが多かったせいか、よほど褒められたのがうれしかったのか、橡の腕に飛びついてそう言いながら可憐はすり寄ってくる。
「お、おい……ったく」
橡は照れてそっぽ向きながら優しく頭を撫でた。
「けっきょく……二人はなにかくしてるの?」
ひとしきり撫でられて満足したのか、可憐は疑問に思っていたことを再び聞き返す。
「え? いや……言うわけないだろ」
困ったようにそっぽを向いてそういう橡。
「え~! 気になる~!!」
その後も何度か可憐に聞かれたが、橡は答えることなく、可憐の質問攻めを振り切り眠りについた。
…………翌日。学校の昼休みになると、国貞が橡のクラスに遠慮した様子もなくはいってくる。
「昨日はすみませんでした!」
そして第一声に、謝罪を述べると、花園に向かって深々と頭を下げた。
「……いや急すぎるって」
あまりにも唐突な国貞の行動に、食べかけのパンを片手に雪平が引き気味に言った。
「いえ、先輩方に対して随分失礼な態度をとっていたので!」
後輩が直々に先輩に頭を上げるその姿をみて、クラスの人達がざわつきはじめる。
「いいから! みんな見てるから! そういうのやめてぇ!」
クラスの人達がざわざわとするのが嫌だったのか、雪平は国貞の頭を物理的に無理やり上げさせる。
「……わざわざそれだけを言いにきたのか?」
頭を上げた国貞に、呆れたように橡が国貞に聞くと、
「いえ、藤堂さんと親しくなるなら、たまには会いに来ないとと思いまして」
「昼休み他クラスにくるか普通……学年も違うのに」
国貞の謎の行動力に呆れながらもある意味で関心しながらそう言うと、
「既に他クラスに入り浸ってる人ならいるけどね」
雪平を横目で見ながら花園がいう。
「俺は友達のいないお前らの為に賑やかしに来てやってんだろ。ありがたく思えよ?」
当然の事のように上から言う雪平に橡はイラっとする。
そして、いつもの橡と雪平の2人のやり取りが始まる。
「うざっ。お前こそクラスに友達いないんだろ」
「いるわ! みんな友達じゃい! よく遊びにいってるから! 逆にお前がクラスの誰かと遊びに行ってるの聞いたことないぞ!」
「俺だってたまにはあるわ! 態々お前に連絡しないだけだ!」
「ホントか~? おい倉敷!」
雪平が近くにいた男子生徒に声をかける。
「橡と遊んだことあるか!?」
ぶしつけに質問を投げると、
「そりゃたまにはあるけど……最近はお前がいるから誘ってねぇ」
クラスの倉敷が、半笑いでそう答える。
「むしろお前のせいでクラスに友達がいない」
わざと目元に手を当てやれやれと言った様子で橡が言った。
「お前の努力次第だろ」
そんな橡にしれっと雪平は言い切る。
「んだと!? てめぇが騒がしくするから俺が変な奴みたいに見えるんだろ!」
「しるかそんなの! お前がクラスの輪に入れるように努力しないのが悪いんだろ! 大体なぁ―――」
橡と雪平の漫才のような掛け合いはその後もしばらく続く。そのやり取りを、国貞は呆れたように見ていた。
「……後輩来てんのになんでそっちで盛り上がってんすか」
「いつもこんな感じだよ」
国貞が呟くように状況を言葉にすると、いつものほほえましい光景の様に花園が笑って国貞の呟きに答えた。
「あ……そ、そうなんすね」
国貞は思わずドキッとし、当たり障りのない返答をする。
そして、息を整えると、意気込んで花園の方を向く。
「あの……昨日はすみませんでした。変な感じにしてしまって……」
「ううん、気にしてないよ。なんか色々事情があるみたいだし。橡くんとはどういう関係なの?」
「えっと……なんて言ったらいいんすかね。中学の頃、色々あって意気投合したって感じっす」
「友達じゃないの?」
「はい。顔を合わせたのは2、3回しかないですから。…けど、これから友達になろうと思ってるんで!」
「そうなんだ。頑張ってね」
興味がないのか遠慮してるのか、深く聞こうとはしない花園。
「は、はい!」
そのせいもあってか、会話はすぐに会話が終わってしまい、花園は弁当を食べ進める。
「…………」
国貞は緊張しているのか、何をしゃべったらいいのかわからず頭で言葉を探すが、
無言が続く。引き続き橡と雪平はまだ言い合いを続けている。
どうしようと頭の中で慌てていると、咀嚼を終えた花園が国貞に言葉をかける。
「そういえば私とどこかで会ったんだよね? どこで会ったんだっけ」
「いえ! 覚えてなくて当然っす! 少しの時間しかいなかったんで……」
「……どこで会ったかは教えてくれないの?」
質問に答えてくれない国貞に、花園は少し寂しげにもう一度聞きなおす。
「い、いえ……そういうわけじゃないですけど……」
「別に気にしないよ。むしろ覚えてないことの方がもやもやするから教えてくれない?」
気にしない、という言葉に国貞は躊躇しながらも答えた。
「……去年の春、駅前の商店街の本屋で悩んでた時……です」
「駅前の本屋……春……あ! あの金髪の?」
花園は本屋という一言でピンと来たのか、そう国貞に聞き返した。
「……はい」
「えぇ~! あ、そっか! 全然髪色が違うから気付かなかった!」
花園の驚いた声に、橡と雪平が反応する。
「そっか~。無事合格出来たんだね。おめでとう」
花園は嬉しそうに笑いながら国貞の合格を喜んだ。
「あ、ありがとうございます!」
花園のその言葉に国貞は胸が大きく高鳴るのを感じた。
そんな国貞と花園のやり取りに、橡と雪平は言い合いを終え、橡が席に座りなおして国貞に話しかける。
「お前、この学校入りたかったのか? あの時はそんな風に見えなかったけど」
橡そう言葉を投げかけると、何事もなかったかのように各々昼食を食べ始める。
「俺だって色々悩んでたんすよ。そんで、必死に1年間勉強しましたよ」
「へぇ~。やっぱお前、根は真面目なやつだったんだな」
「あ、あざす……」
橡にほめられるのが以外で、国貞は少し照れていた。
「つか、結局何処で知り合ったんだお前ら。すっげぇ気になるんだけど」
雪平がパンを食べながら改めて橡と国貞の出会いについて聞いてくる。
「皆色々あるんだよ。それぐらいでいいでしょ」
しかし、言いたくなさそうなことを察した花園が雪平の言葉を静止する。
「そうっすよ! 過去の詮索なんてよくないっすよ!」
花園の言葉に乗るように国貞も拒否する。
「お前だって聞かれたくないことあるだろ。わかれよ」
さらに乗るように橡も否定の言葉をかぶせる。
「わ、わかったよ……。んじゃ、せっかく知り合ったんだし放課後遊びに行くか?」
雪平は分が悪いと察したのか、話を切り替えて親睦も含めてそう提案した。
「ぜひ行きましょ! 皆さん今日お暇ですか!?」
雪平の提案に、国貞は乗り気で答える。
「そりゃ用事はないが」
「私も大丈夫だよ」
橡と花園も特に否定をすることなくそう答えると、
「それじゃあ決まりだ! 放課後は遊びにいくぜ!!」
雪平は指をパチンと鳴らすとそう宣言した。
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