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第68話

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 あの食堂での騒動から1週間が経過した。

 現在時刻は16時過ぎ。
 7限目も終了し、放課後を迎えた校舎内には、さっさと寮の部屋に帰ろうと足を進めている者や、教室内で友人とお喋りに興じている者、部活動へ向かっている者……などなど、いつものように様々な生徒で溢れかえっていることだろう。


 “だろう”と推定の形になっているのは、今日の俺は登校してから1日中、ほぼ特別校舎きゅうでん─というか、生徒会室の外へと一歩も出ていないからだ。

 しかもそれは今日だけでなく、ここ3、4日ずっとこのような調子だった。
 
 いくら忙しかったといえども、普段ならば少し外へ出て休憩するぐらいの時間的余裕がある。一学期で1番忙しいと言われている昨年の新歓準備の頃すら、一応ゆっくりと昼食を摂る時間がしっかりと確保できていた。

 しかし、1日中籠もっているということから察せるだろうが、今はそのどの時よりも度を越して忙しい。生徒会室に籠もりでもしないと、納期期限に到底間に合わないぐらい大変な切羽詰まった状況なのだ。


 そもそも何故、そのような事態に陥ってしまっているのか。
 ─原因なら分かりきっている。

 各机の上に出来た書類の山。
 電源が落とされたままにされた5つのパソコン。
 カーテンが閉じられて薄暗い室内。
 部屋の隅に溜まりつつあるハウスダスト。

 そして、俺の他には誰一人としていない生徒会室。


 それだけで、火を見るよりも明らかだった。



 あぁ、何故こんなことに─。なんて、呑気に嘆いている暇など全く無い。
 他の生徒会メンバーが仕事をストライキしている現状、この学園を通常通りに回せるのは俺しかいないからだ。


 笑えるだろ?
 真っ先に仕事放棄しそうなチャラ男以外のメンバーが仕事をストライキして、残ったチャラ男が1人で全ての仕事を片付けているんだ。傍から見ればこんなに可笑しなことはないだろう。

 本当、最近は俺のキャラから外れたことをする機会が多い。


 
 そんなことを漠然と考えながら、黙々と手を動かす。
 今やっと、庶務と書記の分のを終わらせた。今日の残る仕事は、あと会長と副会長の分だけだ。

 このペースだと、今日は数日ぶりに22時までには帰れるかもしれない。

「んっ…あと少し…」

 ちょっとした気分転換に、手を組んで腕をぐっと上に伸ばす。デスクワークで強張こわばった身体がいい具合に伸ばされ、余分に入っていた肩の力が少しだけ抜けた。

「大丈夫、大丈夫…」

 仕事放棄しているのは、ちょっと疲れたからに違いない。きっとすぐに、会長達は戻ってくる。
 だからそれまで、俺1人でこの学園を維持しないといけない。会長達が一切仕事をしていないだなんて、教師や一般生徒に絶対バレないように細工をして。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫だから…」 

 そう何度も何度も自分に言い聞かせる。

 彼らは俺を捨てたわけではないと。
 あの日常はまた戻ってくると。

 胸に往来する漠然とした不安を掻き消すように、何度も何度も繰り返し、自分に言い聞かせる特別な呪文を唱える


「…よし、やるか」

 ここ数日のルーティンを終え、無理矢理気分を変える。そうして、残る仕事に手を伸ばした。





 

 その週が終わる金曜日になっても、会長達が以前のように生徒会室へ来ることは無かった。



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