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第63話
しおりを挟む先程までデスクワークをしていたのだろうか、委員長は笹木先生のと同じような細身の銀縁フレームメガネをかけていた。かなりレアだ。
そんなレア姿の委員長の登場に、ざわざわと生徒が比較的静かにどよめく。
「何してんのかだって?見ての通りだが?あぁ、そんな事も分からねぇほど目ぇ悪ぃのか。気付かなくてすまねぇな」
委員長の声に、ある意味誰よりも反応したのは会長だった。
一見委員長を気遣っているようにも思える皮肉った返答をし、厭らしく嗤いながらこちらへ近付いてくる。
「見ただけで全てを判断するのは無能のすることだろう。あぁ、俺はあくまで一般論を述べただけなので悪しからず」
対する委員長も、そうとは分かりにくい皮肉で返答する。これは簡単に言うと、遠回しに“見ただけで全て察せと言った会長は無能”と言っているようなものだ。
直接的に悪口を言い合わないところは、ひどく社交界のある名家の御曹司らしいと現実逃避を兼ねて思う。
あぁ、この場に副会長か副委員長がいればな…。唯一この2人を止められるのは、生徒内ではその人達だけだから。
「葵様に神崎様。各家の恥を晒すのは貴方方の勝手ですが、此処は一般生徒も集う食堂。それを夢々お忘れなく」
澄んだアルトの声が聞こえた。一瞬現実逃避のあまり生み出した俺の幻聴かと思ったが、委員長の背後に茶髪の生徒が従うように歩いていたのを思い出した。という事は、あの生徒は─
ハッとして、委員長の背後から出てきた生徒に視線をやる。その人は垂れ目な薄茶色の瞳で射貫くように会長と委員長を見やっており、生徒の模範となるよう規定通りに制服を身に着けていた。右腕には、銀色で刺繍された竜胆の模様がある白の腕章を着けている。
委員長の金色と対になる銀色を着けれるのは、俺が今“この場にいたら…”と思ったあの先輩しかいない。
長月朔夜─学園生のお兄ちゃん又はママ的存在である、風紀副委員長だ。
副委員長はそう言いながらいつも通り、慈悲深さを感じさせるような笑みを浮かべていた。しかし会長と委員長はそれを見て、空飛ぶタイヤを目撃したかのような顔をしている。
毎回あのような反応をしているが、一体何故なのだろうか?
…まぁそれは置いておこう。
「すまない朔夜…。神崎を気に入らないとしても、今この場でやり合うべきではなかった」
「チッ…お前の言う事に同意するのは癪だが、確かにここではやらねぇのがいいな」
「想定していたより早く、御二人に理解していただけて良かったです。…さぁ、もう大丈夫ですから、貴方たちは安心して食事に戻って下さいね」
謝った2人にそう返すと、副委員長は周囲でソワソワと不安そうに窺っていた一般生徒達に食事に戻るよう促す。
「「「「はい、長月様!!!!」」」」
チワワ達がぱぁっと表情を明るくして、元気に返事をすると楽しそうに席へ戻っていった。それ以外の生徒達もホッと安堵した表情を浮かべて食事に戻っている。
これで解決…そう思った途端、場の空気をまるっきり無視した場違い感が半端ない大きな声が響いた。そうだった、今回の本題はこれだったな。会長達のせいで一瞬本気で忘れてた。
「おい、オレを無視するなよ!!!!!!!友達を無視するなんてひどいんだぞ!!!!!!まぁオレは優しいから、謝ったら許してやるよ!!!!!そういえばそこの黒髪と茶髪のお前らは誰だ???!!!!オレは柳瀬春人!!!!!名前教えろよ!!!!!!!いいだろっ!!!!!!」
大きな声を発生させた人物である柳瀬クンのその発言は、折角副委員長のおかげで温まった場の空気を瞬間冷凍させた。
余談だが、多少は緩まったが決して振りほどけないぐらいの力で、彼は未だに俺の手を離さず掴んでいた。痛くないから忘れてた。折れてはないが、ヒビぐらいは入ってそうだな。
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