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第61話

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 意味が、分からなかった。
 普段の会長なら、例え柳瀬クンを気に入ったのだとしても、決してしなかったであろう発言だったから。

 一瞬が空いたのちに、今日で1番うるさくなった周囲が気にならないぐらい。それほど、俺にとっては衝撃的で有り得ないことだった。

「え~っと…会長ぉ~?急に何言って─」

 先程の発言を否定して欲しくて飛び出た言葉は、どこか上擦うわずっていて、いつもより弱々しい気がした。何故かいつも通りに笑みが浮かべられなくて、少し引きつったものになっているのを自覚する。

「おー!かいちょーやるねー!!」

「へえー。会長いい事言うねー」

「「その考え、僕らも乗ったー!!!」」

 運がいいのか悪いのか。
 飛び出た言葉は最後まで出ることなく、片手をはい!っと挙げながら歓喜した様子の双子の声にすっかりかき消されてしまった。─というか、さっきも似たようなことがあった気がする。


「おれ、も…そ、する…!」

 ある意味最後の頼みの綱だった慶までもが、焦げ茶の瞳を輝かせて、楽しそうに、嬉しそうに、声を弾ませて賛同する。

 たまに2人揃って1階席で食べている双子は、まぁいい。(因みにそれをしているのは、人気ひとけが少ないときのみ)

 しかし、うるさいのが苦手な慶が、このまま1階席に留まると言う─。それは、苦手なものを無視我慢してでも一緒にいたいと思える程、柳瀬クンが特別だということと同義だ。

 だからだろう、更に増したざわめきの中に「花ヶ崎様…?」と、絶望したような、悲しそうな、耳を澄まさなければ分からないぐらい小さな声がいくつか紛れていた。

 
「やったあ!!!!!!!あ、このままだと席が足りないな!!!!!よし玲夏、空いてる机とイスを持ってくるぞ!!!!!!!!!!」 

「わ、わァったからッ…ちょッ、手ェ引っぱんなっ!!」

 チッ、なんでオレがコイツらのために…。

 そんなことをブツブツとボヤきながらも、どこか嬉しそうに繋がれた手をじっと見ている。

「うわぁ、奈津種なつぐさが照れてるなんて気持ち悪…すごくレアだね。そう思わないかい、輝所てどころくん」

「え、気持ち悪…?あ、な、なんでもないよ!そ、そういえば、甘衣あまい君は菜津種君とどういう関係なの?」

 そんな不良っぽいイケメン─菜津種クンを横目に見ながら、爽やかっぽいイケメン─甘衣クンは恋春輝所クンに同意を求める。輝所クンが失言しかけると、甘衣クンはニッコリ・・・・と謎の威圧感を出して笑いかけた。

 それに慌てて言いかけたことを撤回し、やや強引に話を変える。何となく輝所クンは気が弱そうなので、腹黒の笑みを当てられて可哀想だと思った。

 
 黙って1年である2人の会話を聞いている間に、柳瀬クンと奈津種クンはどこからか机とイスを引っ張ってきて、今は2人だけがついている席にくっつけていた。

「使われてないのがあって良かったな!!!!!!あ、そうだ!!!!真琴もオレたちと一緒に食べようぜ!!!!!!!な、いいだろ!!!!!友だちの言うことは聞かないといけないんだからな!!!!」

 それが終わると柳瀬クンは会話の矛先を俺へと向け、意味不明なことを言い始めた。

 昼食に誘ってくるのはまだいい。今までも何回か誘われた経験があったし、至って穏便に断れば済む話だからだ。
 しかし、友達の言う事を聞かなくてはいけない、という柳瀬クン独特のルールに従う必要はないし、そもそも俺は彼と友達になった覚えが全くない。

「ん~…俺にはぁ、柳瀬クンと友達になったっていう記憶はないよぉ~。だからぁっていうことではないけどぉ~、俺は2階席で食べるから~。折角誘ってくれたのにごめんねぇ」

 髪と同じく金色に染めた眉を八の字にし、軽薄さを残しつつも、どこか申し訳なさそうにした笑みを顔に貼り付ける。

 誘いを断るときの、表情や仕草のバリエーションは他にもいくつかあった。普段から、その中で場面ごとに合ったものを瞬時に選択し、かつそれを演じてきた。

 経験の積み重ねもあってか、始めの頃よりスムーズにそれができるようになっていた。だからこそ、少し油断していた。

 今回はあまりにも、スムーズに出来すぎてしまった・・・・・・・のだ。


 
 
 
 
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