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第40話
しおりを挟む荒ぶる会長は、慶が責任を持って(力づくで)止めた。
今はソファーで静かに眠っている。
多分、あと30分は目が覚めないだろう。
「慶、龍雅を止めていただき有難う御座います…。またお願いしますね…」
力なく笑いながらそう言う。
その顔には疲労が見え隠れしていた。
「「………」」
俺と慶は無言で顔を見合わせる。どうやら、考えていることは同じみたいだ。お互いにそっと頷きあう。
「ねぇねぇ副会長、今日はもう解散にしな~い?ダブルどころかトリプルでぇ、流石に俺も精神的な疲労がすごいしさぁ」
「おれ、も…つか…た…。副かぃちょ、も…むり、めっ…!」
「それにぃ、副会長は明日の朝、転入生の出迎えをしないとでしょ~?今日は早く休まないと、倒れちゃうかもよ~」
責任感が強い副会長のことだ。
こんな風に言えば、十中八九提案を受け入れるだろう。
「そうですね…いやしかし、今は龍雅が気絶…いえ眠っていますし…」
なるほど、今の懸念は会長か。
全く、なんで会長は呑気に気絶しているんだか←
一応【soleil】の総長だろうが。それでいいのか、会長よ。
「それなら大丈夫だよぉ~。俺が会長を背負って行ってぇ、部屋に放り込むからぁ」
「…あぁそれならば…。では、お願いしてもいいですか?」
「もっちろん!言い出しっぺは俺だからねぇ。責任を持って会長を置きに行くよ~」
「双子…おれ…連絡、する…。だか、ら…副会ちょ…部屋、ゆっ…り……休、で…」
慶も副会長を出来るだけ休ませる為に、双子への連絡を受け持つようだ。
遅れて俺らの意図に気づいた副会長は、僅かに切れ長な青色の目を見開いたかと思うと、柔らかな苦笑を浮かべた。
「…ありがとうございます、慶、水無月」
「ん~?なんのこと~??俺は副会長にぃ、お礼言われるようなこと何もしてないよぉ?」
「ん…おれ、も…してな…」
しかし、あくまで自分がしたかったからだと、副会長のためではないと態度で示す。それに、某ラノベ小説の主人公ではないけれど、誰かのためって、言い換えれば、誰かのせいってことだからな。
貴方のためなのだと、頼んでもない独りよがりのエゴを善意と称して勝手に押し付けて、それで何かあれば全てその人のせいにする。そんなの胸糞悪いこと、俺は絶対にしたくない。…アイツらと同等の人間になりたくない。
少しだけ零れ落ちそうになった重く暗い感情の1滴と、思い出しかけた忌々しい記憶の一破片を、そっと胸奥へと閉じ込める。
それと同時に、再び人間を信じかけてきていた、愚かで弱い自分も一緒に閉じ込めた。幾重にも鍵をかけた、厳重な扉の向こう側に。
俺が誰かのために、何かをすることはない。
ただ自分がしたいことをするだけだ。これまでも、これからも。
だから副会長、お礼を言うだなんて、そんなこと俺にする必要はないんだよ。
その言葉の代わりに、ただ微笑んでみせた。
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