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第13話 

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 あれから約1時間経った今、生徒会室はキーボードを叩く音と、ペンが紙の上をすべる音だけが響いていた。

 時々、書類承認の為会長に印鑑を押して貰いに席を立ったり、受け渡しをしたりをする以外は誰も席から離れない。

 多分、今日はもう終わるまでずっとこうだろう。
 



「ん~~…」

 更に時間が経ち、強張ってしまった身体をほぐす為に、腕を上に思いっきり伸ばす。

 ついでに室内の大時計をチラッと横目に見ると、もうすぐで20時になるところだった。


「副会長~」

「……何ですか?」

「もうすぐで8時だよぉ~」

 言外に校舎があと少しで閉まるという事を伝える。


「あぁ…もうそんな時間ですか」

 副会長は立ち上がると、パンパンっと手を軽く叩き俺達の注意を引き付けた。

「はい、あと少しで校舎が閉まります。なので本日はこのぐらいで終了にしましょう。切りのいいところまで済ませたら、早く寮に戻って下さい。生徒会室の戸締まりは会長、貴方がして下さいね」

「あぁ、分かった」

「「はーい」」

「お、けー…」

「分かったぁ~」


 丁度切りが良かったので、データを保存してからパソコンの電源を落とした。

 それからこっそりとUSBをカバンの中に滑り込ませ、寮に帰ってからも片付けられるようにする。


「じゃあ、僕らはもう帰るねー!」

「また明日ねー」

「「バイバーイ」」

 元気に手を振りながら、双子が最初に出ていった。

「…おれ、も…かえ、る…さよ、な、ら…」

「あ、俺も一緒に帰る~!じゃあねぇ~、会長と副会長~」

 その次に慶が帰ろうとしたので、俺も一緒に寮へ帰る事にした。まぁ、会長と最後まで2人きりになるのは気まずいだろうと思ったのもあるが。




 薄暗く静まり返った廊下を慶と2人、並んで歩く。

 この校舎は何時いつでも静かだが、今は特に静かだ。
 隣の校舎から微かに聞こえてくるざわめきや、森に住む鳥の鳴き声すら無い。

 ただ、コツコツと俺達の歩く音が虚しく響くのみ。


 キャラ的にこのままではいけないだろうな。
 何か、何か喋らなくては。

「…静かだねぇ~」

 少し焦った末に出てきたのは、そんな言葉だった。

「ん…そ、だね…」

 それで会話が終了した。

 ヤバいヤバいヤバい。
 落ち着け俺、普段のチャラ会計様になりきれ。

 今日は既に(意図せずにだが)、いくつかボロを出してしまったんだ。これ以上、疑われる様な失態を侵すな。


「もうすぐで春季休暇だけどぉ~、慶は何するのぉ~?」

「お、れ…?」

「そ、何するの~?」

「…家…か、える…」

「そっかぁ~」

 家、か…。

 そういえば、乳母と弟はどうしているのだろうか。
 元気にしているといいけど。

 まぁどうせもう俺は会えないし、契約があるから、きっとあの人達は大丈夫だよ、な………



「──、は?」

「ん~?」

「まこ、と…は?」

「俺かぁ~…俺はまぁ~、街にぃ買い物にでも行こうかなぁ~」

「そ、か…。ね、え…」

「あ、寮に着いたよぉ~」


 慶は何か言いたそうにしてたが、俺はあえてそれを無視した。多分、今年も家に帰らないのか、とでも言いたかったのだろうな。


 俺は、俺の事を誰にも話すつもりは無い。
 これまでも、勿論これから先も。






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