上 下
8 / 118

第2話 

しおりを挟む

 生徒会室を後にして少し経った頃。無駄に広く綺麗な校庭(もはやちょっとした草原)を進んで行くと、まるでどこぞの屋敷のように豪華な建物が見えてきた。
 これは学園生徒が暮らす白薔薇寮。白薔薇とあるように、全体的に白を基調とした美しい建物だ。

 1階には食堂とスーパー、大浴場があり、2、3階には1~3年のC組が、4、5階には同じく1~3年のB組、6、7階には1~3年のA組、8、9階には1~3年のS組、最上階の10階には役持ちが住む。
 
 基本2人一部屋なのだが、最上階に住む役持ちの生徒は広い部屋を1人で使える。どこの部屋にもキッチンやダイニング、リビング、脱衣所や浴室、各寝室…等々がついており、下手なマンションの一室よりも充実している。
 因みに俺は生徒会会計なので、勿論最上階の住人だ。

 また補足だが、白薔薇寮から少し離れた(とはいっても徒歩15分はある)場所には教師達が暮らす黒薔薇寮がある。そこも基本的な構造は白薔薇寮と変わらない、らしい。

 
 閑話休題。


 さっさと寮内に入り、専用エレベータで最上階ヘと向かう。驚くほど静かなエレベーターは、数十秒もしない間に目的地へ到着した。そこから廊下の最奥に位置する自室へと歩く。

 1020室─それが俺に与えられた部屋だ。

 一応部屋番号を確認してから、万能な生徒カードをドアにかざす。ピッと機械的な音が鳴り、ロックが解除された。すみやかにドアを開け、スルリと内側へ入り込む。

 施錠音がした途端、俺は常に浮かべていた笑みを消した。
 外にいると、常に笑顔を貼り付けていないといけない。そのため、本来デフォが無表情な俺としては結構疲れる。

 まぁ、嫌われないためにはしょうが無いがな。そのままの俺を好きになってくれる人なんて、もうこの世に決して存在しないのだから。


 ……さぁてと、仕事するか。
 私用のパソコン(学園用)の電源を入れ、作業に集中し始めた。
 要らぬこの感傷を振り切るために。









 カタカタカタッ



 作業が一段落つき、何気に時計を見るとあれから3時間経っていて、もう8時になっていた。

 まだ夕飯は食べていないが、食堂はもうすぐで閉まる時間だ。仕方ないので、自室にあるキッチンで簡単なものを作ることにした。俺も名家に生まれたが、乳母に仕込まれているので、ある程度の家事は普通の同年代の人よりも出来る方だからだ。

 冷蔵庫を覗くと、卵と鶏肉があった。丁度消費期限が近づいてるので、玉ねぎがないが今日はこれを使って親子丼にしよう。あぁ、カサ増しに豆腐もいれるか。

 そうと決まれば後は簡単だ。鶏肉に火を通し、豆腐と溶き卵をいれて炒め、感覚で味をつける。食べるのは俺だけなので、どんな味になっても、生焼けでも、何なら素材そのままでも構いやしない。食べることさえ出来ればいいのだから。まぁ流石に肉類は危ないので、一応1度火は通すが。


 そういえば、俺がそう言うと乳母は悲しそうな顔をしてたっけ。だからせめて、料理という形はとっている。

 あの人は今頃どうしているだろう。俺のせいで、何か困ってないだろうか。─きっと、大丈夫だよな。だって、あそこには弟がいるのだから。


 おっと、考え込みすぎた。
 俺は慌ててIHのスイッチを切った。良かった、煮込みすぎてあと少しで吹き出すところだった。


 出来上がったのを米の上に載せ、パソコンの置いてある机に持って行く。マナーは悪いが、作業をしながら夕食をとった。

 データ上でもこんなに多いのに、生徒会室にもまだまだ書類があったはずだ。早く片付けないと、更に大変なことになる。今夜は徹夜決定だな…。


 思わず遠い目をし、俺はそっとため息をついた。



しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

偽物アルファは何を想う

緋影 ナヅキ
BL
   多分短編です。  作者の気が向いた時に書くので、一生完結しない可能性があります。それでも良ければ…  共学設定ですが、王道学園味があります。  腐ァンタジーにする予定だったのですがね… PS.オメガバなのに、オメガバ要素が活かせてないです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

会長の親衛隊隊長になったので一生懸命猫を被ろうと思います。

かしあ
BL
「きゃー会長様今日も素敵ですね♪(お前はいつになったら彼氏を作るんだバ会長)」 「あ、副会長様今日もいい笑顔ですね(気持ち悪い笑顔向ける暇あんなら親衛隊の子達とイチャコラしろよ、見に行くから)」 気づいたら会長の親衛隊隊長になっていたので、生徒会に嫌われる為に猫を被りながら生活しているのに非王道な生徒会の中にいる非王道な会長に絡まれる腐男子のお話。 会長×会長の親衛隊隊長のお話です。 ※題名、小説内容も少し変更しております。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

処理中です...