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29.ヨクナイシラセ

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「おい、馬鹿孫、お前、ファインズ公にはいつ挨拶に行くつもりじゃ?」
「そうですね。近々、アリアを送っていく時に、ご挨拶に行きたいと思っていますが」
「わしは早くアリアを孫にしたいから、急げよ」
「かしこまりました」

 アリアは目の前で繰り広げられる、リカルドと先王とのやり取りをみて、くすくすと笑った。
 仲が良いなあと思う。
 それに、アリアは物心つく前に祖父母を失っていたから、先王に孫にしたいと言われて、嬉しかった。
 そして、親への挨拶の事ーー。
 リカルドに告白され、結婚を申し込まれた事は、昨日の手紙には書かなかったのだが、両親は喜んでくれるだろうか。
 あの手紙はリカルドの部下が直接父親であるエランドに渡して、家族の様子を知らせてくれる事になっていた。
 両親と弟のクリスは元気にしているだろうか、とアリアは思う。

「失礼します、リカルド王子!」

 謁見の間に、一人の兵士が走り込んできた。

「何だ、急用か!」
「はい! 王子の命令でウクブレストへ向かった者から、鷹で報告が届きました!」
「ウクブレストから? 早いな、もうファインズ公にお会いできたのか?」

 リカルドは、兵士から丸められた紙を受け取ると、内容を確認し、険しい表情をした。
 何かあったのだろうかと、アリアが不安な気持ちでリカルドを見つめると、彼はアリアを見つめ、ステファンを見つめ、サリーナを見つめ、もう一度アリアを見つめてから、口を開いた。

「アリア、サリーナ、落ち着いて聞いてほしい。アリアの手紙を託した部下からの報告では、ファインズ公がウクブレスト王から、爵位剥奪と国外追放を言い渡されたらしい」
「えっ……」

 アリアはリカルドの言葉の意味がわからなかった。
 サリーナに目を向けると、彼女も同じようで、わからないというように首を横に降る。

「詳細はわからないらしいが、ファインズ公、奥方、そして弟のクリスの三名は、僅かな荷物だけを持って、すでにウクブレストの屋敷を出られたらしい。ウクブレスト領を出てフレルデント領に入られたら、目立たないように接触し、近くの村にお連れするとの事だ。ステファン、お前はファインズ公たちを迎えに行ってくれ」
「あぁ、わかった」
「待って、ステファン、私もっ!」
「わ、私も行きますっ!」

 どうして爵位を剥奪されて、国外追放にまでなったのかはわからないが、家族が辛い想いをしているなら、そばに行って支えてあげたかった。
 自分が辛い時にも、家族はそばに居てくれたから。
 だが、リカルドもステファンも首を横に振った。

「アリア、サリーナ、君たちはここに居るんだ。ステファンには、今回は部下を連れて馬で向かってもらう。国外追放というくらいだ、ファインズ公たちは見張られている可能性が高い。ステファン、目立たないように、だが最速で向かってくれ」
「あぁ、合流出来たらすぐに連絡する」

 ステファンは頷くと、謁見の間から出て行った。
 ステファンが出て行くと、支えを失ったかのように、サリーナがふらりとよろめく。

「姉様っ!」

 アリアは走り寄って、サリーナの体を支えた。

「ごめんなさい、アリア……」
「ううん、いいの。ちゃんと支えるから、寄りかかって……」
「ありがとう……でも、どうして、こんな事にっ……」

 サリーナはアリアの肩に寄りかかり、泣いていた。
 アリアもサリーナを抱きしめながら、涙を流す。

「アリア、サリーナ、部屋を用意するから、そこで休みなさい。ステファンから連絡があれば、すぐに知らせるから」
「ありがとうございます、リカルド様」

 アリアは頷き、サリーナを支えて、リカルドが用意してくれた部屋へと向かった。

 一体、ウクブレストの家族に何があったのか?
 アリアが知らないところで、何かが起こっていたーー。
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