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第5章:ゆっくり、しっかり、成長しよう
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しおりを挟む「父ちゃん、母ちゃん、ついでにじいちゃん、ただいま! なぁ、誰かお客さん来てんの? て、え?」
玄関を抜けてリビングに入ってきた春斗は、キッチン横のテーブルに家族が集っているのに驚いたようだ。
そして、その中心に居る冬美に気づき、さらに驚く。
「冬美? ど、どうしたんだ? え? 何? お前、泣いてんのか? 一体何があったんだ! おい、じいちゃん! まさか冬美を泣かせたのかっ!」
春斗は持っていた鞄をフローリングの床へと落とすように置くと、冬美のそばへと駆け寄ってきた。
冬美の隣に居た幸太郎を睨みつける春斗を見て、
「は、春斗くんっ! 何でもないよ! 何でもないからっ」
冬美は慌てて春斗の腕を掴んだ。だが――。
「あっ……」
春斗は真っ赤になって冬美の腕を振り払った。
その事にショックを受けた冬美は、また涙を零してしまう。
そして、春斗の様子がおかしい原因はわからないが、自分と手を繋ごうとしないのは、春斗の意志なのだと思った。
春斗はきっと自分に触れられたくないのだ。
それは、彼がもう自分と一緒に居たくないという事ではないか。
そう思い込んだ冬美は、自分はこの場に居てはいけないのではないかと思った。
もう帰ろう……そう思い立ち上がろうとした冬美の腕を、幸太郎が掴む。
「こら、冬美。ちゃんと春斗と話をしていかんか」
「で、でもっ……」
春斗は自分に触れられたくないのだと思い込んだ冬美は、それを確かめるのが怖くて首を横に振った。
幸太郎は冬美を見てため息をつくと、今度は春斗へと目を向けた。春斗は、
「じいちゃん! 冬美に何をしたんだ! いくらじいちゃんだからって、冬美に何かをしたら、絶対に許さねぇからなっ!」
と言ってまた幸太郎を睨みつけていた。
「あのな、春斗……」
「なんだな!」
「さっき冬美を泣かせたのは確かにワシじゃが、今冬美が泣いておるのは、お前のせいじゃぞ?」
「なんでオレのせいなんだな!」
「多分、じゃが……お前さっき冬美の手を振り払ったじゃろ? そのせいじゃと思うぞ?」
「へ?」
春斗は幸太郎を見上げたまま少し考え込み、冬美へと目を向けた。
「冬美、あのよ……さっき手を振り払っちまって、ごめんな……」
あっさり謝った春斗に、冬美は驚いた。
「あのよ……さっきは思わず振り払っちまったけど、オレ、別に冬美が嫌いだからとかじゃねぇからな! むしろ……大好きだからな!」
「え? え?」
春斗の告白に、冬美は真っ赤になった。
和真や秋妃、幸太郎の居る前で、春斗は冬美に好きと言ってくれた。
そういえば夏休みに入る前、学校でも他の生徒が居る前で春斗は自分に好きだと言ってくれた。
彼はいつも自分を好きで居てくれるのだ。
だけど、それならどうして手を繋いでくれなくなったのだろう?
冬美は思いきって聞いてみる事にした。
春斗の家族に見られていたり、再び胸の話をするなんてという恥ずかしさもあったが、春斗が大好きだと言ってくれた事が少しだけ冬美に勇気をくれた。
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