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第4章:彼と彼女が与える影響

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「充! お前、どうして椿にちゃんと好きって伝えてやんねぇんだ」

 昼休み、深刻な表情で廊下へと呼び出すから何かと思えば、なんて事を言い出すのだと、充は春斗を呆れたように見つめた。

「突然何を言い出すんだ、この幸せボケが」

「何って、今言った通りだ。充、お前ってば、なんで椿に好きって言ってやんねぇんだな!」

「なんでそんな事を言わなきゃいけないんだ」

「そんなの、自分が相手を好きで、相手も自分を好きだって言うんなら、それを伝えたら自分も相手も嬉しいからに決まってるだろ!」

 そう言って春斗は胸を張り、ドヤ顔をする。

「お前はオレの親友だからな。お前が椿を好きな事くらい、とっくの昔から知ってるっての!」

 充は春斗のその言葉に対して否定はしなかったが、面倒くさそうに春斗の顔を見つめた。
 目の前に居る、このリアル充実しまくり男は、先程も本人に向かって言ったが、ぶっちゃけ幸せボケだ。
 自分が恋人と過ごして幸せだから、周りにも幸せになってもらいたいと思っているのだ。
 だけど、自分には自分の都合もあるし、ペースもある。
 充自身、いつかは椿に秘めた想いを告げようとは思っていたが、それは春斗に言われたから、じゃあ告ってきますというものではないのだ。

「余計なお世話だ」

 そう言い放つと、

「なんでだよ!」

 と、幸せボケは食い下がってきた。立ち去ろうとする充の腕を掴んで、邪魔をする。

「言えよ! 一人が恥ずかしいっていうのなら、オレが隣に居て見ててやるからよ!」

 こいつはなんて事を言い出すんだと思いながら、充は春斗の腕を振り払う。

「なんで告白するのにお前についていてもらわなければいけないんだ!」

「だってお前、勇気がないんだろ?」

「は? そんなわけあるか!」

「だったら!」

 告白してくればいいだろう!
 売り言葉に買い言葉……うっかり「わかった」と言いそうになった充は、ふう、と息をついた。冷静にならなければと思う。
 どうもこの幸せボケの単細胞には、自分が言っている事がおかしな事だとわからないらしい。

「この幸せボケが、そんなもの、人に見られてするもんじゃねぇだろ!」

 自分の考えがおかしいと理解しろと思いながら言うと、

「え? オレ、誰かに見られてても平気だけど?」

 と幸せボケは言う。

「は?」

 こいつ、何を言っているんだと、充はいつもより少し間抜けな表情をした。

「だってよ、オレは冬美と正々堂々と付き合ってるからよ!」

 春斗はまた胸をはり、ドヤ顔をする。
 なんなんだこいつはと充は口元を引きつらせた。

「じゃ、じゃあ、お前はここで冬美に好きって言えるっていうのか!」

 昼休みの校舎は、各々が好きなように時間を過ごしているから、全員が教室や廊下に居るわけではないが、決して人数が少ないわけではない。
 大勢のギャラリーの中、普通は恥ずかしがって「好きだ」なんて言う事はできないだろう。
 少しは恥じらえという気持ちで充は言ったのだが、

「もちろんだ!」

 春斗は笑顔で頷くと、周りを見回した。
 春斗の目的の彼女は、椿と里美と共に、こちらへ向かって歩いてくる。
 春斗に気づいたのだろう、彼女はふわりと笑い、嬉しそうに目を細めて春斗を見つめた。
 冬美の隣に居る椿も、充を見て目を細めた。
 充は椿を嫌いなわけではない。むしろ、好きだ。
 だけど、自分には自分のペース、タイミングがあるのだと充は思う。
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