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第1章:それは、とても幸せな日常
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「こういうのも可愛かったのう~」
再び差し出されたスマートフォンには、見事な地図を描いてしまった布団の上で、泣きべそをかいている子供の頃の春斗が映し出されていた。そばには和真と秋妃が寄り添っている。
「うわっ」
なんてものを出してくるのだと、春斗は祖父を睨みつけた。だが両親は、
「あぁ、可愛いですね」
「しばらくしていなかったのに、やっちゃって泣いちゃった時のやつね。も
う、春斗ったらショックだったみたいで、泣いちゃって泣いちゃって、でもお義父さん、ニヤニヤ笑いながら写真を撮って、春斗、それで怒っちゃって……うわぁ、すごく懐かしいわ~」
と、ほのぼのと笑っている。
「可愛いのう~。癒やしじゃのう~」
「確かに癒やしですね~」
「本当に、可愛かったわよね~。まぁ、今も可愛いけど」
春斗は唇を尖らせた。可愛いと言われても、今の自分は男子高校生なのだ。
確かに背丈的には他に比べて可愛らしい部類に入るかもしれないが、あまりにも可愛いと連発されればちょっと傷つくお年頃なのだ。
「そんなに可愛い子供が欲しかったら、父ちゃんと母ちゃんでオレに弟か妹を作ってくれたらいいんじゃねぇの?」
春斗がそう言うと、幸太郎のスマートフォンを見ながらキャッキャと喜んでいたほのぼの夫婦は、互いに見つめ合い顔を赤くさせた。
和真と秋妃の結婚は早く、まだ四十代前半だ。その気になれば春斗に弟か妹をつくるのも可能なはずだ。
「まぁ、僕らも女の子が欲しいって思ってた時もあったし、春斗に兄弟をって考えていた頃もあったけどねぇ」
「じゃあ、今からでもいけんじゃねぇの? かなり年の離れた兄弟になるかもだけど……」
そう言った春斗を、和真と秋妃は優しい目で見つめた。ちらりと隣に座る幸太郎を見ると、彼も優しい目をして春斗を見つめている。
「まぁ、子供は授かりものだし」
「それに、私たちのそばには常に可愛い女の子が居てくれたからね」
「え? あ……」
それがすぐに冬美の事だとわかるくらい、自分たちのそばには常に彼女の存在があった。
そうだなと頷くと、ニヤリと笑い、
「ワシとしては、曾孫でもいいんじゃがのう」
なんて幸太郎が言う。ぶほ、と吹き出したのは幸太郎以外の三人同時で、春斗たちは揃って爆弾発言をした幸太郎を見つめた。
「でも、やっぱりまだ早いのう。お前ら、まだ高校一年生じゃからのう。最低でも高校は……いや、大学まで卒業してからになるのう……」
「まぁ、そうかもなぁ」
確かに自分と冬美はまだ高校一年生だから、幸太郎の言う通り、大学卒業まではまだ五年以上かかってしまうだろう。
「でもよ、じいちゃん。オレは絶対に冬美と結婚するからな!」
春斗と冬美は幼馴染で、五歳の時に春斗がこの町を訪れてからの付き合いだ。
「オレと冬美の子供なら、絶対に可愛いに決まってる! だから、曾孫を抱きてぇなら、じいちゃんは長生きしてくれよな!」
冬美と出会ったその日から、春斗はずっと冬美をお嫁さんにすると言い続けていた。
そしてそれは、成長した今も気持ちは変わらないらしい。
冬美はオレの嫁さんになるというのは、もはや彼の口癖のようなものだ。
純粋で真っ直ぐな恋をする孫を、幸太郎は優しく目を細めて見つめ、笑った。和真と秋妃も同じように目を細める。
「な、じいちゃん! 長生きしろよっ」
「そうじゃな、長生きしなければならんなぁ」
春斗の言葉に、真面目な顔をして幸太郎は頷いた。
「でも、やっぱり癒やしはほしいのう……。春斗、最近冬美はどうしておるんじゃ? あんまり遊びに来なくなったのう。お前、もしかして実は振られとるんじゃないかの?」
「な、何言ってんだ、そんなはずないだろ!」
もちろんそんなはずはないのはわかっているのだが、幸太郎は春斗をからかった。単純でお馬鹿な孫が、可愛くて仕方がないのだ。和真と秋妃はそんな二人のやりとりを、楽しそうに見守っている。
春斗が冬美に昔からベタ惚れのように、冬美の方も春斗にベタ惚れなのだ。
「本当かのう? じゃあ、なんでこの頃遊びに来ないのかのう?」
「そりゃあ、平日はオレが部活とかあるし……オレが居ないのに、冬美だけがうちに遊びに来るのも変だからじゃねぇかな……」
「確かのそうじゃのう。でも、ワシは冬美だけが遊びに来ても、別に構わんがのう~」
春斗と冬美は子供の頃からいつも一緒で、小学生の頃はいつも春斗の家で遊んでいた。当然、二人して幸太郎に思いきり構ってもらっている。幸太郎にとっては冬美も孫のようなものなのだ。
「こういうの、また食べたいのう」
そう言った幸太郎がまたスマートフォンを操作する。そして見せられた画像に、春斗は笑顔で頷いた。
「オウ、じゃあまた作ってくれって言っておいてやるな」
幸太郎が見せた最後の画像は、冬美が作ったクッキーの画像だった。幸太郎の誕生日に冬美が作って持ってきたもので、一つ一つに丁寧に幸太郎や春斗、和真に秋妃の似顔絵が描かれていた。
再び差し出されたスマートフォンには、見事な地図を描いてしまった布団の上で、泣きべそをかいている子供の頃の春斗が映し出されていた。そばには和真と秋妃が寄り添っている。
「うわっ」
なんてものを出してくるのだと、春斗は祖父を睨みつけた。だが両親は、
「あぁ、可愛いですね」
「しばらくしていなかったのに、やっちゃって泣いちゃった時のやつね。も
う、春斗ったらショックだったみたいで、泣いちゃって泣いちゃって、でもお義父さん、ニヤニヤ笑いながら写真を撮って、春斗、それで怒っちゃって……うわぁ、すごく懐かしいわ~」
と、ほのぼのと笑っている。
「可愛いのう~。癒やしじゃのう~」
「確かに癒やしですね~」
「本当に、可愛かったわよね~。まぁ、今も可愛いけど」
春斗は唇を尖らせた。可愛いと言われても、今の自分は男子高校生なのだ。
確かに背丈的には他に比べて可愛らしい部類に入るかもしれないが、あまりにも可愛いと連発されればちょっと傷つくお年頃なのだ。
「そんなに可愛い子供が欲しかったら、父ちゃんと母ちゃんでオレに弟か妹を作ってくれたらいいんじゃねぇの?」
春斗がそう言うと、幸太郎のスマートフォンを見ながらキャッキャと喜んでいたほのぼの夫婦は、互いに見つめ合い顔を赤くさせた。
和真と秋妃の結婚は早く、まだ四十代前半だ。その気になれば春斗に弟か妹をつくるのも可能なはずだ。
「まぁ、僕らも女の子が欲しいって思ってた時もあったし、春斗に兄弟をって考えていた頃もあったけどねぇ」
「じゃあ、今からでもいけんじゃねぇの? かなり年の離れた兄弟になるかもだけど……」
そう言った春斗を、和真と秋妃は優しい目で見つめた。ちらりと隣に座る幸太郎を見ると、彼も優しい目をして春斗を見つめている。
「まぁ、子供は授かりものだし」
「それに、私たちのそばには常に可愛い女の子が居てくれたからね」
「え? あ……」
それがすぐに冬美の事だとわかるくらい、自分たちのそばには常に彼女の存在があった。
そうだなと頷くと、ニヤリと笑い、
「ワシとしては、曾孫でもいいんじゃがのう」
なんて幸太郎が言う。ぶほ、と吹き出したのは幸太郎以外の三人同時で、春斗たちは揃って爆弾発言をした幸太郎を見つめた。
「でも、やっぱりまだ早いのう。お前ら、まだ高校一年生じゃからのう。最低でも高校は……いや、大学まで卒業してからになるのう……」
「まぁ、そうかもなぁ」
確かに自分と冬美はまだ高校一年生だから、幸太郎の言う通り、大学卒業まではまだ五年以上かかってしまうだろう。
「でもよ、じいちゃん。オレは絶対に冬美と結婚するからな!」
春斗と冬美は幼馴染で、五歳の時に春斗がこの町を訪れてからの付き合いだ。
「オレと冬美の子供なら、絶対に可愛いに決まってる! だから、曾孫を抱きてぇなら、じいちゃんは長生きしてくれよな!」
冬美と出会ったその日から、春斗はずっと冬美をお嫁さんにすると言い続けていた。
そしてそれは、成長した今も気持ちは変わらないらしい。
冬美はオレの嫁さんになるというのは、もはや彼の口癖のようなものだ。
純粋で真っ直ぐな恋をする孫を、幸太郎は優しく目を細めて見つめ、笑った。和真と秋妃も同じように目を細める。
「な、じいちゃん! 長生きしろよっ」
「そうじゃな、長生きしなければならんなぁ」
春斗の言葉に、真面目な顔をして幸太郎は頷いた。
「でも、やっぱり癒やしはほしいのう……。春斗、最近冬美はどうしておるんじゃ? あんまり遊びに来なくなったのう。お前、もしかして実は振られとるんじゃないかの?」
「な、何言ってんだ、そんなはずないだろ!」
もちろんそんなはずはないのはわかっているのだが、幸太郎は春斗をからかった。単純でお馬鹿な孫が、可愛くて仕方がないのだ。和真と秋妃はそんな二人のやりとりを、楽しそうに見守っている。
春斗が冬美に昔からベタ惚れのように、冬美の方も春斗にベタ惚れなのだ。
「本当かのう? じゃあ、なんでこの頃遊びに来ないのかのう?」
「そりゃあ、平日はオレが部活とかあるし……オレが居ないのに、冬美だけがうちに遊びに来るのも変だからじゃねぇかな……」
「確かのそうじゃのう。でも、ワシは冬美だけが遊びに来ても、別に構わんがのう~」
春斗と冬美は子供の頃からいつも一緒で、小学生の頃はいつも春斗の家で遊んでいた。当然、二人して幸太郎に思いきり構ってもらっている。幸太郎にとっては冬美も孫のようなものなのだ。
「こういうの、また食べたいのう」
そう言った幸太郎がまたスマートフォンを操作する。そして見せられた画像に、春斗は笑顔で頷いた。
「オウ、じゃあまた作ってくれって言っておいてやるな」
幸太郎が見せた最後の画像は、冬美が作ったクッキーの画像だった。幸太郎の誕生日に冬美が作って持ってきたもので、一つ一つに丁寧に幸太郎や春斗、和真に秋妃の似顔絵が描かれていた。
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