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第1章:それは、とても幸せな日常
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春斗はいつも、登校前に冬美を家まで迎えに行く。
早起きは得意だった。高校でバスケット部に入っている春斗は、いつも一時間ほど走っている。
春斗が通っている高校は、授業に支障が出てはいけないという理由から、どの部でも朝練をしていなかった。だから、朝練の代わりに春斗は毎朝一時間ほど走り込んでから学校へ向かっていた。
走り込みを終えて帰宅すると、母親である秋妃が朝食を用意し始める頃だ。
春斗の家は父親である和真、母親である秋妃と、父方の祖父である幸太郎の四人家族だ。
秋妃に、おはよう、と声をかけて自室から着替えを持って来てバスルームに向かう。シャワーを浴びて出て来る頃には、キッチン横のテーブルには父親と祖父が居て一緒に朝ごはんを食べるのだ。
「おはよう、春斗。今日もいい調子かい?」
「オウ!」
和真の言葉に春斗は頷いた。サラリーマンである父は食事を終えたら出勤するのだ。
和真は日本人とイギリス人のハーフで、薄く黄色味がかった金髪に、青い目をしていた。
上着は着ていないものの、和真はワイシャツを着てきっちりとネクタイまで締めている。
それに対して祖父はまだ寝間着替わりの浴衣姿で、
「子供は毎朝元気でいいのう~」
と、大あくびをしている。どうやら寝不足らしい。
春斗はよくわからないが、小説家らしいこの祖父は、家で仕事をしている。確か締め切りは昨日とか今日とか言っていたはずだ。
「じいちゃん、原稿間に合ったのかよ」
と声をかけると祖父は深く頷き、徹夜だったがの、と言いながらブイサインをした。後から担当の編集者が原稿を取りに来るらしい。
「おお、良かったな。でも、じいちゃんはいい年なんだから、あんまり徹夜とかすんなよ」
春斗は幸太郎の隣の席に座りながら言った。幸太郎はちらりと春斗を見ると腕を伸ばし、
「お前は、優しいやつなのか、ひどいやつなのか、よくわからんのう」
と頬をつねる。
「じいちゃん、イテェな」
孫をいじって遊んでいる祖父の手を振り払うと、前の席の秋妃が焼きたてのトーストを差し出した。それを受け取って、四人で手を合わせて、いただきますをする。
マーガリンを塗って、大口を開けてトーストにかぶりつく。
一九〇センチ以上ある祖父までとはいかずとも、せめて一八〇センチ近くある父親の和真くらいの身長は欲しいので、牛乳はたくさん飲む。
だが、春斗の身長はなかなか伸びてくれない。今は、恋人である冬美よりも少し高い程度だ。
カッコいい男になるためにももう少し身長が欲しいのだが、いつになったら伸びてくれるのだろうと常々春斗は思っている。
「春斗は今日も美味しそうに朝ごはんを食べるね。本当に朝から元気だなぁ」
秋妃の隣で、和真は嬉しそうに幸せそうに笑っている。穏やかな性格の彼は、可愛い一人息子がすくすくと健康に素直に成長したのが嬉しくてたまらないらしく、時々しみじみとそう言うのだ。
そんな彼を夫に持つ秋妃は肝っ玉母さんで、春斗はよく怒られてばかりいる。
だいたい春斗が何かいけない事をした時に怒り、叱るのは秋妃の役目で、自分の両親は実は性別が逆なんじゃないのかと春斗が思っているのは、二人には内緒の話だ。
「癒やしがほしいのう」
隣で幸太郎がぽつりと呟いた。
「癒やしって何だよ……」
幸太郎の呟きを拾った春斗に、そうじゃのう……と幸太郎は自分のスマートフォンを操作する。
「例えば、こんなんかのう……」
その呟きとともに、テーブルの真ん中へと幸太郎はスマートフォンを差し出した。家族一同、差し出されたものを覗き込む。
「うん、確かに癒やしですね」
「間違いないわ」
「おい、じーちゃん、これどうしたんだよ!」
「この間引き出しの奥から出て来たんでの、スマホで写真を撮ったんじゃ」
ドヤァ、と言わんばかりに、幸太郎がニヤリと笑う。
彼のスマートフォンに映し出されていたのは、赤ん坊の頃の春斗の写真だった。
おむついっちょの姿で楽しそうに笑っている。
「天使ですよねぇ~」
そう言った和真に、
「そうじゃのう~。今はこんなんじゃがのう~」
と幸太郎は言う。だが和真は、
「いいえ、今の春斗も天使でしかないですよ」
と幸せそうに笑う。彼の隣では秋妃が頷いていた。
「まぁ、まだまだ馬鹿なガキで、可愛いのは確かじゃのう~」
のんびりと言いながら、幸太郎はまたスマートフォンを操作していた。
次は何を出してくるのだろうとその横顔を見つめていると、視線に気づいた幸太郎は、ニヤリ、と笑う。
早起きは得意だった。高校でバスケット部に入っている春斗は、いつも一時間ほど走っている。
春斗が通っている高校は、授業に支障が出てはいけないという理由から、どの部でも朝練をしていなかった。だから、朝練の代わりに春斗は毎朝一時間ほど走り込んでから学校へ向かっていた。
走り込みを終えて帰宅すると、母親である秋妃が朝食を用意し始める頃だ。
春斗の家は父親である和真、母親である秋妃と、父方の祖父である幸太郎の四人家族だ。
秋妃に、おはよう、と声をかけて自室から着替えを持って来てバスルームに向かう。シャワーを浴びて出て来る頃には、キッチン横のテーブルには父親と祖父が居て一緒に朝ごはんを食べるのだ。
「おはよう、春斗。今日もいい調子かい?」
「オウ!」
和真の言葉に春斗は頷いた。サラリーマンである父は食事を終えたら出勤するのだ。
和真は日本人とイギリス人のハーフで、薄く黄色味がかった金髪に、青い目をしていた。
上着は着ていないものの、和真はワイシャツを着てきっちりとネクタイまで締めている。
それに対して祖父はまだ寝間着替わりの浴衣姿で、
「子供は毎朝元気でいいのう~」
と、大あくびをしている。どうやら寝不足らしい。
春斗はよくわからないが、小説家らしいこの祖父は、家で仕事をしている。確か締め切りは昨日とか今日とか言っていたはずだ。
「じいちゃん、原稿間に合ったのかよ」
と声をかけると祖父は深く頷き、徹夜だったがの、と言いながらブイサインをした。後から担当の編集者が原稿を取りに来るらしい。
「おお、良かったな。でも、じいちゃんはいい年なんだから、あんまり徹夜とかすんなよ」
春斗は幸太郎の隣の席に座りながら言った。幸太郎はちらりと春斗を見ると腕を伸ばし、
「お前は、優しいやつなのか、ひどいやつなのか、よくわからんのう」
と頬をつねる。
「じいちゃん、イテェな」
孫をいじって遊んでいる祖父の手を振り払うと、前の席の秋妃が焼きたてのトーストを差し出した。それを受け取って、四人で手を合わせて、いただきますをする。
マーガリンを塗って、大口を開けてトーストにかぶりつく。
一九〇センチ以上ある祖父までとはいかずとも、せめて一八〇センチ近くある父親の和真くらいの身長は欲しいので、牛乳はたくさん飲む。
だが、春斗の身長はなかなか伸びてくれない。今は、恋人である冬美よりも少し高い程度だ。
カッコいい男になるためにももう少し身長が欲しいのだが、いつになったら伸びてくれるのだろうと常々春斗は思っている。
「春斗は今日も美味しそうに朝ごはんを食べるね。本当に朝から元気だなぁ」
秋妃の隣で、和真は嬉しそうに幸せそうに笑っている。穏やかな性格の彼は、可愛い一人息子がすくすくと健康に素直に成長したのが嬉しくてたまらないらしく、時々しみじみとそう言うのだ。
そんな彼を夫に持つ秋妃は肝っ玉母さんで、春斗はよく怒られてばかりいる。
だいたい春斗が何かいけない事をした時に怒り、叱るのは秋妃の役目で、自分の両親は実は性別が逆なんじゃないのかと春斗が思っているのは、二人には内緒の話だ。
「癒やしがほしいのう」
隣で幸太郎がぽつりと呟いた。
「癒やしって何だよ……」
幸太郎の呟きを拾った春斗に、そうじゃのう……と幸太郎は自分のスマートフォンを操作する。
「例えば、こんなんかのう……」
その呟きとともに、テーブルの真ん中へと幸太郎はスマートフォンを差し出した。家族一同、差し出されたものを覗き込む。
「うん、確かに癒やしですね」
「間違いないわ」
「おい、じーちゃん、これどうしたんだよ!」
「この間引き出しの奥から出て来たんでの、スマホで写真を撮ったんじゃ」
ドヤァ、と言わんばかりに、幸太郎がニヤリと笑う。
彼のスマートフォンに映し出されていたのは、赤ん坊の頃の春斗の写真だった。
おむついっちょの姿で楽しそうに笑っている。
「天使ですよねぇ~」
そう言った和真に、
「そうじゃのう~。今はこんなんじゃがのう~」
と幸太郎は言う。だが和真は、
「いいえ、今の春斗も天使でしかないですよ」
と幸せそうに笑う。彼の隣では秋妃が頷いていた。
「まぁ、まだまだ馬鹿なガキで、可愛いのは確かじゃのう~」
のんびりと言いながら、幸太郎はまたスマートフォンを操作していた。
次は何を出してくるのだろうとその横顔を見つめていると、視線に気づいた幸太郎は、ニヤリ、と笑う。
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