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第4章:ゴブリン・スタンピード
スタンピードに備えて
しおりを挟むその日の夜の話し合いは、
「オリエちゃん……ぼく、そろそろ限界だよう~」
とサーチートが泣きそうな声で言ったことで、終わりを迎えた。
ずっとひっくり返ってお腹のスマホを見せてくれていたサーチートが、疲れちゃったんだよね。
『あぁ、長くなってしまってごめんなさいね、サーチートくん。ではみなさん、それぞれ備えましょう。私はこれで失礼しますね。サーチートくんのことは、もう休ませてあげてくださいね』
「お、おい、アルバトス!」
スマホの画面が真っ暗になる。アルバトスさんがサーチートを気遣って、通信を切ったのだ。
「もう一度アルバトスに繋げ!」
アントニオさんが怒鳴って机を叩いたけれど、疲れ切って寝ちゃったサーチートを抱きしめて、私は首を横に振った。
今日はもうサーチートを休ませてあげたいから、絶対に駄目だ。
「とりあえず、引き続き街や村の防衛の強化と、冒険者の配備だな。伯父上の予想が当たっているかどうかは別として、それは必要なことだろう。いつスタンピードが起こっても対応できるように、備えなければならない」
アルバトスさんとの通信手段としてサーチートを手に入れたいんだろう、私に向かって手を伸ばしたアントニオさんの腕を掴み、ユリウスが言った。
「おい、お前! いきなり偉そうに仕切ってんじゃねぇよ」
「あぁ、悪いな。アンタの仕事だったか。じゃあ、さっさと仕切ってくれよ、ガエールの冒険者ギルドマスターさん」
睨みつけるアントニオさんに、にやりと笑って言うユリウス。
「アントニオ、先ほどのハリネズミくんのように映像までは出せませんが、通信手段は私の方で用意しています。ユリウス様、それをアルバトス殿に渡していただけますか?」
ガエールの商業ギルドマスターであり、エリザベス様の旦那さんであるレイリーさんが言った。
ユリウスが頷くと、レイリーさんは持っていた鞄の中から通信機を取り出し、三つをユリウスへ、一つをアントニオさん、もう一つをゴムレスさん、そして残りの一つはエリザベスさんへと渡す。
「すまねぇな、レイリーさん。ビジードの分まで用意してくれて……助かったよ」
「いえいえ、貴重な聖水やポーションをガエールに回してもらっていますからね、これくらいさせてください」
優しく笑うレイリーさん。なんか素敵な紳士だなぁ。
旦那さんのことが自慢なのかな、エリザベス様がちょっとドヤ顔しているのが可愛らしい。
「あの、渡すのはいいですけど……どうして一つは伯母上が持っているんですか?」
「そりゃあ、妻がいろいろとアルバトス殿に聞きたいことがあるでしょうからね」
「あぁ、そうだねぇ。アルバトスにはいろいろと聞きたいことがあるんだ。ちゃんとアルバトスに渡すんだよ!」
エリザベス様はアルバトスさんにいろいろと聞く気満々だ。
ユリウスは呆れたように息をついたけど、わかったと頷いた。
まぁ、何を聞かれても、アルバトスさんなら上手く対処するだろう。
「ところでエミリオのことなんだが……どうするつもりだ?」
あ、そうだよね。エミリオとソフィーさんはどうなっちゃうんだろう?
いくらソフィーさんを人質に取られていたとはいえ、黒魔結晶を各地へばら撒いたエミリオの罪は重い。
アントニオさんは光の翼のメンバーちらりと見た後、まだ完全に信用したわけではないから、監視をつけてこき使うと言った。
いろいろと思うところもあるだろうけど、ゴブリンスタンピードが終わってから考えるってことにしたらしい。
殺されても文句は言えない状況でこの決断を下したアントニオさんに、ありがとうございますってソフィーさんが何度も頭を下げていた。
そんなソフィーさんを見て、アントニオさんは少し顔を赤くさせていたんだけど、多分気のせいじゃないと思う。
光の翼のメンバーにそれを指摘されると、アントニオさんはからかうなと怒鳴りながら机を叩いた。
「で、お前の方は、これからどうするつもりなんだ? 」
まだ少し顔がアントニオさんに聞かれたユリウスは、少し考えて言った。
「そうだな……街や村の防衛に関することで手伝うことがあうなら、荷物運びでも馬車替わりでも、何でも手伝おう。こき使ってもらって構わない。オリエは、引き続きポーションを作ってあげてもらえるかな」
「うん、わかったよ。任せて!」
今の状況下で私が手伝えることで一番役に立てるのは、ポーション作りだもんね。
頑張って作るよ!
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