上 下
314 / 325
第4章:ゴブリン・スタンピード

本当の黒幕

しおりを挟む


「ぐ、ぐあっ、うげっ」

 聖水を飲まされたエミリオは、吐いた。
 そして彼が吐き出したものの中には、とても気持ち悪いものがあった。

「ぎゃっ、何っ!」

 どりゅん、とエミリオが吐き出したものは、五センチくらいの蛭だった。
 吐き出した蛭は聖水の効果か、しばらくびちびちと動いていたけれど、やがて溶けてなくなった。
 あんな気持ち悪いものが体の中に入っていたなんて、すごく気持ち悪かっただろうな。思い出しただけでも吐きそうになる。

「はあっ、はぁ、あっ……」

「エミリオ、大丈夫ですか?」

 倒れて荒い呼吸を繰り返すエミリオに近づき、ソフィーさんが背中をさすってあげている。
 戒めを解かれたエミリオはゆっくりと体を起こすとソフィーさんを見つめ、まだ荒い呼吸のまま、ごめんなさい、と謝った。

『おそらく、エミリオ様が吐き出した蛭に、エミリオ様の自由を奪うための術式がかけられていたのでしょう。例えば……黒幕の名前を聞かれたときに、私の名前しか言えないようにするとか、ね』

「はい、その通り、です」

 頷いたエミリオは立ち上がると、スマホ画面のアルバトスさん、そしてこの場に居る人みんなに、頭を下げて謝った。

「このたびはご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。でも……言い訳にしかならないですが、母様を人質に取られて、従うしかなかったんです」

 さっきまでとは全く態度が違う。エミリオって、本当はとても優しくていい子みたいだ。
 本当の黒幕のことを言いたかったけれど、あの気持ち悪い蛭のせいで、言えなかったんだね。
 ただ、彼自身も被害者とはいえ、行ったことの罪は消えない。
 エミリオのばら撒いた黒魔結晶のせいで、被害にあった人たちが居るのだから。

「じゃあ、さっさと本当の黒幕の名前を白状してもらおうか」

 そう言ったのはアントニオさんで……エミリオはアントニオさんを見ると、頷いた。

「黒幕は、ジュニアス兄上と、ノートンです。僕はジュニアス兄上に母様を人質に取られ……ノートンに無理矢理あの蛭を飲まされたんです……」

「え? なんだって?」

 やっぱり、本当の黒幕はジュニアスとノートンだったんだ。
 ソフィーさんを人質にして、エミリオを従わせられる人間なんて、限られている。
 だからもしかしてとは思っていたけれど、一国の王子ともあろう人間が何やってるんだよって話だよ!
 それに……今エミリオの口から名前は出なかったけれど、今回の一件には、ジュンも絡んでいるんじゃないかと思う。
 あいつらの目的って一体何なの?
 自国民を危険に晒すようなことを、どうしてするんだろう?

「おい、ちょっと待て。なんで一国の王子が、そんなことをしているんだ! 信じられない!」

 よほど驚いたんだろうね、さっきまで腕組みをして大人しくしてくれていたアントニオさんが、また机を乱暴に叩いた。
 アントニオさんは机を叩かずにはいられない人なんだろうな。
 私は机の上でころんとひっくり返っているサーチートを救出した。そうだ、抱っこして画面をみんなの方に向けてあげたらいいんだよね。

「エミリオ、お前、ジュニアスから目的は聞いているのか? 何でもいい、お前が知っていることを全て話せ」

「は、はい、かしこまりました」

 ユリウスの言葉に頷いたエミリオは、黒魔結晶のことについて話を始めた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

何度も死に戻りで助けてあげたのに、全く気付かない姉にパーティーを追い出された 〜いろいろ勘違いしていますけど、後悔した時にはもう手遅れです〜

超高校級の小説家
ファンタジー
武門で名を馳せるシリウス男爵家の四女クロエ・シリウスは妾腹の子としてプロキオン公国で生まれました。 クロエが生まれた時にクロエの母はシリウス男爵家を追い出され、シリウス男爵のわずかな支援と母の稼ぎを頼りに母子二人で静かに暮らしていました。 しかし、クロエが12歳の時に母が亡くなり、生前の母の頼みでクロエはシリウス男爵家に引き取られることになりました。 クロエは正妻と三人の姉から酷い嫌がらせを受けますが、行き場のないクロエは使用人同然の生活を受け入れます。 クロエが15歳になった時、転機が訪れます。 プロキオン大公国で最近見つかった地下迷宮から降りかかった呪いで、公子が深い眠りに落ちて目覚めなくなってしまいました。 焦ったプロキオン大公は領地の貴族にお触れを出したのです。 『迷宮の謎を解き明かし公子を救った者には、莫大な謝礼と令嬢に公子との婚約を約束する』 そこそこの戦闘の素質があるクロエの三人の姉もクロエを巻き込んで手探りで迷宮の探索を始めました。 最初はなかなか上手くいきませんでしたが、根気よく探索を続けるうちにクロエ達は次第に頭角を現し始め、迷宮の到達階層1位のパーティーにまで上り詰めました。 しかし、三人の姉はその日のうちにクロエをパーティーから追い出したのです。 自分達の成功が、クロエに発現したとんでもないユニークスキルのおかげだとは知りもせずに。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...