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第3章・冒険者デビュー

無事

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「すまない、遅くなった」

「ユリウスくーんっ! 遅いよ、何してたんだよーう!」

 自分だけが先に戻ってきた事に、罪の意識を感じていたサーチートが、泣きながらユリウスに飛びついた。
 ユリウスはサーチートを受け止め、ごめん、と謝り、サーチートに無事だったかと尋ねる。

「オリエ、本当に遅くなってごめん。伯父上も、申し訳ありませんでした」

 彼の穏やかな声を聞いて、私はほっとした。
 と同時に、ユリウスが心配でずっと張り詰めていた糸のようなものが切れて、涙が溢れてきた。
 泣いているのが恥ずかしくなって、必死に手の甲で拭うんだけど、なかなか止まってくれない。
 これは仕方ないかと、私は開き直って泣く事にした。

「ユリウス、無事で良かったよう~」

 本当に、無事で良かった。
 まだ巨大熊と戦った時の例があるから、油断はできないけれど、目に見える限り、服が破れたりしていないから、大きな怪我はしていないように見える。

「オリエ、泣かないで。本当に心配かけてごめん。でも、俺は大丈夫だから」

「ユリウス……」

 顔を上げると、少し困ったような表情で、ユリウスが私を見つめていた。
 抱きしめようとしたのだろう、中途半端に腕を伸ばしているけれど、その腕は私を引き寄せる事はなかった。
 よく見ると、破れはしていないものの、彼が身につけているジャケットもズボンも、ずいぶん汚れていた。

「あっ……」

 血のような染みを見つけて、私は目を見開いた。
 もしかして、服で見えないところに大きな怪我をしているのだろうか。

「俺は大丈夫だよ。これはほとんど魔物の返り血だから。でも、そのせいでひどく汚れているから、今はまだオリエに触れられない」

「そんなの、構わないよ」

 私はそう言うと、ユリウスの体に抱きついた。
 ユリウスは、こら、と困ったように言ったけれど、長い腕を私の体に回し、抱きしめてくれた。
 ユリウスの腕の中で大きく深呼吸すると、少し落ち着いた。

「ユリウス、オリエさん、二人とも今日は疲れたでしょう。サーチートくんは私に任せて、お風呂に入ってゆっくりしなさい。話は、また明日以降にしましょう」

 アルバトスさんの言葉に、私たちは頷いた。
 どうしてなかなか戻って来てくれなかったのかとか、ユリウスはみんなに話をしなきゃいけないんだろうけど、今の私はユリウスを独り占めしてくっついていたかった。

「ねぇ、ユリウス、怪我とかしていないよね?」

 二人で使っている部屋に戻った私は、ユリウスにくっついたまま聞いた。

「大きなものはしていない。傷があったとしても、かすり傷くらいだよ」

「本当に?」

「本当だよ。そんなに気になるのなら、一緒にお風呂に入って確かめてみる?」

 少しからかうような口調でユリウスは言った。
 多分、私が首を横に振るって思っていたのだろうけど、私は、うん、と深く頷いた。

「本当に?」

 ユリウスは驚いているようだったけれど、嫌なのかと聞くと、嬉しそうな顔で首を横に振った。

「じゃあ、隅から隅まで、確かめてもらおうかな」

 嬉しそうな顔を通り越してニヤケ顔になりながら、ユリウスが言う。
 私は、少し早まったかなと思いながらも、頷き、彼の服に手をかけた。


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