異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない？ それじゃあ、好き勝手させてもらいます！

第3章・冒険者デビュー

今の私にできること

「ところで今のギルドのギルドマスターたちは、みんなしっかりしていますね。ユリウスは良い方たちとお知り合いになれて良かったです」

　ゴムレスさんもローレンスさんも、しっかりしているっていうのはわかるけれど、アルバトスさんが言うと、どのあたりなのか気になるなぁ。
　どんなところですかと聞いてみると、

「自分たちの力で、街や村、人々を守ろうとしているところですよ。だからこそ、ユリウスも素直に協力しているのだと思いますよ」

「どういうことですか？」

「ほら、黒魔結晶の件もありますが、何かしらの脅威を前にした時、本来なら、国が軍を動かすなどして、中心になって動くものなのです。だけど、このオブルリヒトは他国に比べると何もしていないでしょう」

「確かに、そんな事をゴムレスさんたちが言っていました」

　オブルリヒト王国は、王都オブリール以外の街や村の防衛について、協力的ではないような事を言っていたような気がする。

「オブルリヒトがそんな国であるからこそ、冒険者ギルドや商人ギルドがしっかりした組織になっているのかもしれませんが、今のオブルリヒトは他国から呆れられているでしょうね。黒魔結晶やゴブリンの脅威を前に、ルリアルーク王としての名乗りを上げるなど、他国からすれば、街や村を放って何を遊んでいるのだって思われても仕方がないでしょう」

　要するに、オブルリヒト王国の王子であるジュニアスは、国の防衛もせずに、自分がルリアルーク王であると宣言する事に力を入れ、浮かれているって事なんだろうなぁ。
　ジュニアス、やる事をやってからやればいいのに。
　いや、ルリアルーク王だって宣言をしたら、ちゃんとその勤めを果たすようになるのだろうか。
　だけど、これまでしていなかった事が、宣言をしたからといって、するようになるとも思えなかった。

「まぁ、自分がルリアルーク王だと宣言する事で、民衆に希望を与える、という考え方もできない事はないですが……やはり他国からすると、何をしているんだと思われているでしょうね。オブルリヒトを良く思っていない国は、腹立たしく思っているでしょう」

「他の国は、黒魔結晶をそんなに脅威だと考えているんですか？　私、実はまだピンときていないんですけど」

「確かに、大っぴらに脅威であるとは公言していないでしょうし、オリエさんがそう思っても仕方がないと思います。だけど、各国は――特に黒魔結晶のせいで被害を受けた国は、脅威だと思っているでしょう。とは言っても、どの国がどんな被害を受けたかという事は、情報がなくて知らないんですけどね」

　確かに、私もどの国がどんな被害を受けたのかという事は、聞いていなかった。

「詳しい情報を公開しないのは、それを聞いた人たちが怖がって、みんなが不安になるのを恐れているのかな」

　私がそう聞くと、アルバトスさんは、おそらくそうでしょうと頷いた。
　確かに、ただ街や村の人を不安にさせるだけなら、言わない方がいいよね。
　だけど国の王様やギルドの人たちは、みんなを守るために、密やかにいろんな準備を進めているんだ。
　私も、お手伝いしたいなぁ。
　できるだけの事をしてあげたい。
　そして、今私にできる事は、できるだけたくさんの聖水やポーション類を用意する事なんだよね。

「よし、頑張って作りますね」

　そう言って腕まくりすると、はい、とアルバトスさんが穏やかに笑い、頷いた。